第七話 山吹きと荒波
「いいか、よく聞け‼ 山吹きの牛共‼ 今から行うゲーム内容を‼」
朝起きて、ギルドに行くと、ギルドの全員が大きな水晶を囲って、そんなことを言っている男を見ていた。遅れてそれを見た僕は、
「え? 今どういう状況なのこれ?」
と近くでその大きな水晶を見ていたカレンに聞くと、
「あぁ、エマ‼ さっき、サキさんがあの荒波から通信が来て勝負を挑まれたって」
「勝負? いいのそれって・・・」
「いや、ギルド間の決闘は原則禁止だ。大会でもない限りな」
とラットが僕の方に来てそう言った。
「大会?」
「あぁ、島の全ギルドが集まって行う闘技大会だ。だが、その行われる時期はまだだ。だから、ギルド間の決戦、決闘は島の中央にある軍基地が監視しているからすぐばれるし、原則禁止だ」
「つまり、これは・・・」
「違反だな」
僕はそう言って、水晶を見た。すると、
「これは、お前らは気付いている通り、これは原則違反だ‼ だから、受けるも、拒むもお前ら次第‼ ただし、これを見ても拒めるかな⁉」
そう言って、見せたものにざわめきが一瞬で起こる。そして、その中ラットは目を見開いて驚いていた。なぜなら、
「姉貴・・・」
なんと、フウさんが、十字架の板に磔にされ、人質となっていたのだった。
「これが見えるか? 牛共‼ お前らが拒めば、こいつはどうなってもいいってことだからな?」
「・・・おい、小僧。マスターを呼べ」
そう、水晶の通信機に言ったのはマスターだった。
「はいはい? なんでしょうか?」
そう言って紫色の唇でシルクハットをかぶり、黒い服を着た、背の高い男が出てきた。
「今すぐやめろ。こんなことをしたって意味が無かろう。いったい、何が目的だ?」
「はぁ、目的ですか。そうね、単純にあんたらが気に食わないんですよ。王国がたまたま島を占領しようと街に攻め込んで、たまたま街が近かったあんたらのギルドが対処しただけで、それでだけで、島の英雄的ギルドに成り上がるなんて、イラつくんですよ。私達だって、街のために魚を日々漁をして、恵んでいるというのに」
「それで?」
「それで・・・だと? あんた、私のこの気持ちを『それで』というのですか?」
「あぁ、そうだ。たかがそんな事のために、その恨みのためにお前さんはうちの仲間を傷つけたのか?」
「仲間? あぁ、この小娘ですか。そうですが?」
そう言って、鼻で笑った荒波のギルドマスターにマスターは、
「お主、名前を何という?」
「ウェル・ボトムですよ、マスターログ・ソウル」
そうマスターに名乗る。ちなみにマスターの名前を僕は初めて聞いた。
「そうか、んじゃ、マスターウェルよ。お前さんに三つ言う事がある。一つ、勝負は受ける。二つ、フウに通信をかわれ」
そう言うと、ちっと舌打ちをしつつ、
「まぁいいでしょう」
と水晶にフウさんを映し出す。
「すみません、マスター。負けてしまいました」
「そうか」
「ギルドの看板に泥塗ってしまいました」
「そうか」
「ギルドの奴らに顔合わせができません」
「そうか」
「七鬼失格です」
「そうか」
「勝負は・・・受けないでください」
「・・・おかしなこと言うな、フウ」
マスターは水晶を見て言った。
「確かにお前さんはへまをやらかした。ギルドの看板にこれから起こる決戦で泥を塗るかもしれない。七鬼失格だと言って、皆の手本となるお前さんが負けて顔を合わせることができないと言って、恥をかき、悔しがる気持ちもわかるし、それはお前さんの自由だ。じゃがな、お前さんは七鬼とか、みなの手本となる人である前に、この島のこのギルドのエースである前に、お前さんはこのギルドの仲間じゃ。なら、助けに行くのは当たり前じゃろ」
「・・・やめてくださいよ。私のためにみんな傷つかないでくだ・・・」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ‼ 仲間傷つけられて、黙ってるほど、わしも人間できてねぇんだよ‼」
「・・・マスター」
マスターの怒鳴り声にフウさんは涙を流す。
「ほら、いつものお前さん見たいに言ってみろ‼ どうして欲しんだ! 『強欲の風神』さんよ‼」
そうマスターが言うと、フウさんは、
「助けて・・・・助けてくれ、みんな‼ この負けてしまった、情けない私だが、助けに来てくれ‼」
そう叫ぶフウさんを見て、マスターは頷き、
「だそうだが、お前さんらは力になってくれるか?」
そう聞くと、みんな、
「当然だろ‼」
「情けない? らしくねぇこと言ってんじゃねぇぞ、フウ」
「荒波の奴らなんてぶっ飛ばしてやろうぜ‼」
など、各々叫んだ。そして、
「まったく、手のかかる姉だ」
とため息をつき、ラットは水晶に向かって言った。
「シャキッとしやがれ、姉貴‼」
と。すると、
「・・・黙れ、出来損ないが・・・」
と呟く声が聞こえ、皆笑った。そして、
「話は終わりましたか?」
とまた荒波のマスターが出てくる。すると、僕達のギルドマスターログは指を指し、言った。
「あぁ、最後にお前さんに一つ。首洗って待っておれ」
と。
勝負内容は、攻城戦。お互いのギルドのマスターを先に倒したほうが勝ちだ。
「ところで、たしか僕らのギルドと荒波って王国攻め込んでくる前から仲悪かったって話を聞いたんだが、なんでだ?」
「うちのギルドとあのギルドは商売敵みたいなものなんですよ」
「商売敵?」
僕がラットに聞いた質問に近くで聞いていたサキさんはそう答え、頷いた。
「はい、商売敵です。私達のギルドは、この山で手に入れた山菜や木の実、そして、動物の毛皮なんかも売っているんです。ギルドショップっていう所で。それは他のギルドも同じで荒波なんかは魚なんかを売って商売しているんですが、なかなか売れないんですよね。高級魚で高値なためか。その分、安価で多くの物を売っている私達は結構儲かってるんですよ。それが気に食わないんですかね。いつもケンカを売ってくるんですよ。まぁ、逆恨みって奴ですよ」
「えぇ、それって・・・」
「まぁ、迷惑ですよね」
そう言って、サキさんは苦笑した。
「さて、準備はできましたか、皆さん‼」
サキさんが皆にそう聞くと、皆頷き合って、
「勿論だ‼」
「当然だ‼」
と各々叫んだ。みんなやる気十分だ。そして、サキさんが
「皆さん、まずこの戦いで優先すべきはフウさんの救出です。それさえ完了したのなら、負けても別に構いません」
「まじか」
「はい、まじです」
そう言って、誰かの言った呟きにサキさんは頷いて同意した。
「ただ、きっとフウさんは敵のマスターの近くにいるはずです。ですよね? ケイさん」
「うん。そのはずだよ」
そう言って、頷いたのはこの前一緒の依頼を受け対戦した、たしか『リベリオン』というチームのケイ・トールスだった。
(たしか、能力は推理強化だったよな)
サキさんは島の地図を出した。
「まず、このことに島の軍は反応していないことから、気付いていない、もしくは荒波がなにかしたのでしょう。だから、軍は機能していないのだと思います。そして、予想では・・・」
そうサキさんが行ったとき、
ドーン‼
と大きな音が近くで鳴り、少し揺れた。
「なんだ・・・?」
「予想より早かったですね・・・」
サキさんがそう言って、ギルドの窓を見た。そして、まさかとラットが外に出たため、僕もつられて外を出る。
すると、ギルドの裏に広がる海に大きな船が浮かんでいたのだった。




