第六話 強欲の風人と憤怒の雷神
「クソッ‼ 目が痛ぇ‼」
「私のギルドの前で落雷とはいい度胸だな」
一分くらい経つと舞っていた砂も地面に舞い降り、外が見えるようになった。そして、フウさんは腕を組み仁王立ちでそう言った。
「この‼」
「・・・おっ」
そう言って雷を落とす。フウさんはそれを前に一歩下がってそれをかわすが、
「掛かったな‼」
「・・・・なっ‼」
フウさんのかわした場所には、その場所にだけ雷雲があった。そして、
「雷雲トラップ‼」
「ぐわぁぁぁ‼」
そうゴルド・ナズマと名乗った男は指を下に下ろし、雷を落とした。
「目が覚めたか?」
「あぁ、しっかりとな‼」
そう言ってフウさんは拳を握り締め、駆けて行く。そして、男も
「来い‼」
と身構える。そして、フウは拳を振り上げ右ストレートをお見舞いしようとしたその時だった。
「・・・双方、そこまで‼」
そう言って、いつの間にかマスターが二人の間に入り、フウさんの拳を受け止めていた。
「・・・ッ‼」
「マスター‼ 放して下さい‼」
「落ち着け、フウ。みなの見本となるお前さんが冷静さを失ったら、おしまいじゃろうが」
「・・・・ッ‼」
そう言ってフウは拳を下ろし、ギルドの中に戻る。そして、マスターは男の顔を見る。
「貴様、荒波のとこの雷神だな。わしがいたらよかったものの、もしいなかったら、どう落とし前をつけるつもりだったんだ?」
「あぁ、別に? 軍がなんとかしてくれ・・・」
「違うぞ、小僧」
そう言って、マスターは男を睨みつけて言った。
「うちのギルドの仲間を傷つけて、わしが黙ってると思っているのか?」
「・・・‼」
マスターがそういつもの違う声色で言った。
「お前さんのギルドのマスターに伝えておけ、『今回は見逃す、だが次はない』とな」
そう言って、マスターはギルドの中に入っていった。
「マスターすごい怖かったな」
「・・・あの人はこのギルドを大切にしているからな」
あの後フウさんは依頼に向かったのか、ギルドを出て行った。そして、僕たちも依頼を選んでいた。
「マスターってなんのSCってなんだっけ?」
「『読心』っていうSCで人の事を知りたいっていう感情がもとになったSCだ」
「それって普通に強くね?」
「あぁ、体術、剣術、銃の腕前がとんでもないくらいすごい。そして、元七鬼の一人だった」
「元?」
「『七鬼』ってのはギルドのマスターを含まない最強候補だ。だから、ギルドのマスターになればそれを誰かに継承もしくは軍に返還しないといけない。前者の場合はその継承者は本当にふさわしいのかテストを受け、後者の場合、各ギルドのマスターが代表選手を選び、ギルド戦を行う。そして、勝ち残った一人が七鬼となる」
「え? んじゃ、マスターはフウさんに継承したの?」
「いや、マスターは『各ギルド全員に平等のチャンスを与える』って軍に返還した。つまり、姉貴は自分の力でなって、称号を得たんだ」
「すご」
そう言って、僕は驚いて、感嘆の声をあげた。すると、
「あぁ、すげぇよ。俺と違ってな」
ラットは苦笑して、そう言った。
依頼『街中で落とした指輪を探して』
という依頼だった。
「確か店で買い物中に落としたって書いてたよな」
「あぁ、そんで青い指輪だったよな」
依頼主の家で依頼の詳細を聞いた後、ここら辺で落としたと言っていた店の近くの路上を隅々まで捜索した。しかし、見つからなかったため、
「僕、念のためここより少し離れた路地裏を探すよ」
「なら私も」
「いいよ、カレン。カレンは皆とここで探してて。すぐ戻るから」
僕はそう言って、路地裏に向かった。
路地裏を数分歩いていると、家などの建物に囲まれた行き止まり地点に行き当たった。
(う~ん。ここはこれ以上行かないほうがいいかな・・・)
僕はそう思い、来た道を引き返そうと、振り返ったその時、
「おい、兄さん」
と不良が三人くらい絡んできた。
「・・・僕は女だ」
僕はそう言うと、一瞬の沈黙が起き、そして、
「おいおい、兄さん。そりゃ冗談だろ‼」
と笑われた。僕は無視して、通過しようとすると
「待ちな‼」
と不良三人が前に立ちはだかった。
「なんだよ」
「いやなに。昨日俺ら酒場で金使っちまってよ。ちょっと財布の中の金をくれないかな?」
「は? なんでだよ」
「いいだろ、ちょっとくらい」
「グミ。ほんとにいるんだな、こんな奴」
「うん」
そう返事したグミにその不良は驚きつつ、
「なら、そのリスと交換でどうだ?」
僕はため息をして、
「このリスは家族なんだ。なぜ君らに渡さないといけないのかな?」
そう言って、不良たちを睨むと、さっきまでしゃべっていた不良ではない方の脇にいた不良が、
「もう力づくで奪いやしょうぜ、ボス」
「はぁ、仕方ないか・・・」
そう言われ、僕は三人に囲まれた。僕は、
(やるしかないのか・・・)
とナイフの柄に手をかけたその時、
「待て、お前ら」
そう止める声が、上から聞こえた。僕は上を見上げると、人が落ちてきて、綺麗に着地した。
「お、お前は・・・」
「フウさん」
リンゴをむしゃむしゃ食べながら不良を見るフウさんを見て、不良たちは
「フウの姉御‼ すみません‼ まさかあなたがいるとは・・・」
「いなければやっているのか?」
フウさんがそう言うと、さっき僕から力ずくで財布を奪おうと提案した奴が、
「なぁ、ボス? 本当にこの人強いんですか?」
と聞いていた。それに、
「馬鹿野郎、お前、フウさんだぞ。空地の申し子で団長が昔挑んで瞬殺されたんだよ。ほら、目に傷あんだろ? あれがその時で来た傷跡だよ」
「え? 本当ですか?」
そう言って、前を向き、ニヤリと笑った。そして、
「なら、証明してみやんす‼」
と建物の壁を蹴って前に進み、そして、拳を振り上げて飛び掛かった。しかし、
「・・・‼」
パンチを左足裏で受け止め、右足で顔面を蹴り飛ばした。そして、そんな人間業じゃない技にばたりと不良は倒れ、気絶した。
「おい、今私は気が立ってる。今回は見逃してやるから、さっさと私の目の前から失せろ」
そう言って不良を睨みつけた。すると、不良たちは怯えて、気絶していた男を抱えて、走り去って行った。
「さて・・・」
そう言ったフウさんは僕を見て、
「君がこんなところに来るなんて何か用事かな?」
僕がそう聞いてきたフウさんにここに来た理由を話した。
「なるほどな。青い指輪か。それは、もしかして・・・・」
そう言ってポケットに手を入れ、
「これか?」
と青く輝くダイヤの石がついた指輪を出した。
「それです‼」
「そうか」
そう言って、僕の方に来て指輪を渡す。
「ありがとうございます!」
「敬語で話さんでもいい。普通に話してもいいぞ」
「そうですか?」
「あぁ」
そう言って頷いた。そして、
「よし、んじゃ、とっとこんな所から出てけ」
「フウさんは?」
「もうひと眠りする」
そう言ってあくびをして、じゃあな、と手を振り家の壁を蹴って屋根まで上って行った。
「おぉ、エマちんあったかいな」
「あぁ、これだろ?」
そう言って僕はポケットから指輪を出した。
「おお‼ まさかそんな路地の裏にあるとは思わんかった」
「いや、なんかさっきフウさんに会ってな」
「姉貴が?」
「あぁ」
「・・・へぇ」
そう言ってラットは頷いた。しかし、その顔はなぜかどこか訝しげで、
「どうかしたの?」
と聞くと、僕の顔をいつもの表情で見て、
「いや、別に」
と首を横に振った。
そして、依頼は終了し、今日は解散と皆各々の家に帰宅した。
そして、翌日。
ある事件が僕達のギルド『山吹きミノタロス』に襲い掛かるのだった。




