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WISH and DREAM  作者: 樋夜 柊
犬猿のギルド編
7/55

第五話 東洋少女とうす緑髪の先輩

お待たせしました‼ 新章スタートです‼️

「おはよう、エマ」

「おはよ~」

「ずいぶん、眠そうね」

「まぁね」

 ギルドについた僕はあくびをしながらあいさつをしてきたカレンに返した。

 それもそのはず、王国が攻めてきたあの騒動から二週間経った今、今後王国軍が攻めてきた時に備えてどうやって防衛するのか島の全ギルドの全メンバーに、用紙でアンケート方式に聞いた。

 そして、僕らのギルドメンバー全員と被害にあった近辺のギルドには直接島の騎士団の人が事情聴取と今後の貴族が攻めてきた時の対策についての意見を念入りに聞いていた。それが僕は昨日の夜遅くまであったためあまりよく眠れなかった。ちなみに僕達のギルドの向かいの山にあるギルド『エルフの森』はあの騒動で大きな被害にあい、総員百二十人の内、負傷者が百名を超え、そのうち重傷者は六十名強、死んだ人なんかもいたという。そんな騒動だった。その一方、カレンが倒したあの『疾風』の異名が付いていたジンという男は軍に身柄を拘束され、牢獄に入れられたが、『舌を噛んで自殺した』と後からカレンは軍の騎士から告げられたのだという。

 そんな死者がたくさん出たあの戦いだったが、終わって二週間も経てば、またいつもの活気にあふれた街に戻り、島の軍やボランティア精神の強いギルドなんかは家や建物の修復を手伝っていた。

 そして、僕らはというといつも通りギルドの依頼を受けようといつものメンバーが・・・

「あれ? ラットとタクトは?」

 僕はカレンにそう聞くと、さぁと首を傾げた。すると、

「きっと寝坊やろ。依頼でも選んで待っとこうや」

 とアカネが僕らの方に来てそう言ったため、僕は

「それもそうだな」

 と頷いて、依頼ボードの方に向かって歩いて行った。


「さて、どれを受けようかな?」

「これは?」

 そう言ってカレンが見せてきたのは依頼書には『月光ウルフの狩猟』と書かれていた。

「これ、目標討伐数三体だけだし、フレイムリーザの時と同じで洞窟にさえ入らなきゃなんとかなるから、この依頼にしない?」

 僕はそう言われ、別にやりたい依頼もなかったし、カレンの言う事も納得できたため、頷いて肯定しかけたその時、

「それは君達にはおすすめできないな」

 と言われ、僕は声の主を確認するために振り向くと、そこにはうす緑色の髪で片目が隠れている女の人がいた。

「誰や、あんた」

 アカネがそう聞くと、

「君、というか、君達こそ見慣れない顔なのだが、人に名を訪ねる時は自分からまず名乗るべきではないか?」

「・・・なんやとっ」

 そう言って、アカネは前に出て首近くの襟を掴もうとしていたので一旦落ち着かせ、

「すみませんでした。僕の名前はエマ・ドリームです。先輩は・・・・」

 そう聞くと、

「あー、君が・・・」

 と呟く声が聞こえ、そして、

「突然すまない。ちょっと、ギルドの外に出て私と勝負してくれないか?」

 といきなり勝負を挑まれた。突然の事にただ茫然としていると、

「なぜ、エマがあなたと戦わないといけないのですか? 意味が分かりません」

 そう返すカレンに、

「君には言ってない。それともなんだ? この子と勝負したければ私を倒してからにしろとか、そういうお決まりパターンかな?」

「・・・なっ‼」

 ニヤリと笑うその女の人にカレンは言い返そうとした時、

「ちょい待ち。まずうちと勝負してからにしといて。いい加減我慢の限界や」

「ちょ、アカネ・・・」

 僕がアカネを止めようとした時、

「お? ケンカか?」

「やれやれ‼」

「今注目のチーム『WISH and DREAM』の一人、アカネとフウの戦いか‼」

 といがみ合う二人を見て周りの奴らが言葉を大声で投げかけ始め、僕の言葉がかき消された。そして、

「へぇ、今注目のチームか・・・」

 と言って、ニヤリと笑うフウと呼ばれていた女の顔を僕は見逃さなかった。

 

「準備はいいか? やめるなら今だぞ」

「あんたこそ、やめるなら今のうちやぞ」

 そんなの言葉が両者睨み合いの中かわされた。そして、

「両者、準備が整たようなので、戦いを始めます。では、勝負始め‼」

 その合図とともに、素早いスピードでアカネは自分の攻撃範囲内に入れた。すると、

「・・・なるほど」

 そう呟き、ラットにもやった抜刀をかわし、それだけでなくバク転して、顎を蹴り飛ばそうとした。

「・・・っ‼」

 それを素早く『身代わりの術』でかわし、背後にまわる。そして、再び抜刀し、これは勝負着いたと僕は思ったその時、

「・・・遅い」

 と呟き、刀を握っていた手を掴み背負い投げした。

「・・・っ‼」

 強く地面に身体を打ち付け、アカネは悶絶した。

「まだやるか?」

 アカネを見下ろしてそう言ったその時、

「そこらでやめとけ、姉貴(・・)

 そう言って勝負を観戦していたギルドの野次馬をかき分けてラットが現れた。


                 ◇


「こいつはフウ・カルム。俺の姉貴だ」

 ギルドに戻った俺たちは席に座って、俺はとりあえず姉貴の紹介をした。すると姉貴は笑って、

「改めて自己紹介すると、私の名はフウ・カルム。この出来損ないの姉貴だ。みんなの事はよくこいつから聞いているよ。敬語とかどうでもいいから、気軽に話しかけてくれ」

「出来損ないか・・・」

 そう言って笑うフウに俺はため息をついた。

「そんで? あんた、なんでエマに勝負を挑んだん?」

「ん? えっと・・・・」

「やめろ」

 俺はそう言って、話を止めた。

「それ以上口にするな」

「なぜだ?」

 そう聞いてきた姉貴に俺は、

「なんとなくだ」

 嘘だ。俺は単に他の奴にもエマ自身にもSC(スキルチャージ)についてあまり知ってほしくなかった。

 あの騒動でのエマから察するに、エマのSCは気絶しないと発動しないのだ。つまり、SCを使うためだけに気絶しないといけない。そんなのあんまりだ。これがもし島中に広まったら、それでエマが軍事利用でもされたら・・・・そう考えるだけで恐ろしく思うのだった。

 姉貴は口が軽い。だから、俺は『そんなことを平気でペラペラ話す、こいつだけには話したくない』と思い、話さなかった。しかし、どこかで情報を得て、それを自分なりの考察をたて、姉貴は俺の考えている所まで、勘の鋭い姉貴はもしかしたらそれ以上の事に気付いているかもしれない。

だから俺は止めた。すると、姉貴は

「・・・まぁ、別にいいか」

 と言って、正面にいたアカネを見た。

「な、なんや」

「それにしても、君の武器は珍しい。刀だったか? たしか、東洋の武器と聞いたが・・・」

「それがなんや?」

「妙なオーラを放っていたのだが、それは?」

 そう聞いた姉貴に、アカネは目を見開いて驚いた様子で、

「きっと、それはこの刀が妖刀だからやと思う」

 と答えた。

「妖刀?」

 エマがそう聞くと、アカネは頷いて、

「妖刀・夏狐(なつぎつね)。それがこの武器の、刀の名で、狐の霊が宿ってるらしい」

「へぇ、でも僕には見えなかったよ、そんなオーラ」

「そりゃそうやろ。大抵そんなん見える奴はおらん。この人が異常すぎるだけやろ」

 そう悔しそうにアカネは言った。それを聞いた姉貴は、笑って

「異常って、まぁでも、妖刀か・・・噂には聞いたことあったけど、実物見るのは初めてだ。想像とは少し違ったがな」

「それはきっと使用者の実力が刀に認めて貰えとらんからや。残念ながらな」

「なるほど」

 そう言って、姉貴は頷いた。すると、カレンが

「あの、フウさんのSCを聞いても?」

「ん? なんだと思う?」

「身体強化系のSCであるとは思うのですが。う~ん」

「やめておけ、カレン。お前は姉貴の能力はわからない」

「え、どういうことですか?」

 俺はその質問に

「こいつは、さっきの戦いでSCを使ってないんだよ」

と答えた。

      

                  ◆


「どういうこと?」

 僕はそう聞くと、

「姉貴は子どもの頃から、森の中、ジャングル、海底、遺跡。そんな所で自分を鍛え上げ、自分のSCを使わなくても老若男女、人、獣関わらずあらゆる敵を倒せるようになった。そして、『(しち)()』に選ばれたんだよ」

「七鬼?」

 僕はそう聞くと、グミが、

「『七鬼』っていうのはこの島での上位七人の事なんだけど。そっか、ラット、君の姉さんは・・・」

 そうグミが言った時、


 ゴゴゴゴ・・・・


 と近くで雷の落ちるような音が聞えた。

「なんで、雷? 今晴れているよな?」

 僕はそう言って、ギルドの外に出ると、一人の金髪の男が立っていた。そして、

「フウはいるか⁉」

 と叫んだ。すると、フウさんがギルドから出て、

「なんだ? 騒がしいぞ」

 と頭を掻いてフウさんが現れた。

「出やがったな、脳筋牛野郎が」

「はて、君は誰かな?」

 フウさんが首を傾げると、男は怒り、

「俺は憤怒の雷神、ゴルド・ナズマだ‼」

 そう言って、フウさん目掛けて雷を当てた。感情系SC喜怒哀楽の『怒』が凄まじいくらい特化している。さすがのフウさんも吹っ飛ばされ、ギルドの壁に当たる。しかし、

「痛いな。冗談の通じない奴だ・・・」

 そう言って、思いっきり息を吸い、それを見たギルドの奴らが一斉にギルドの中に入った。それを見て、僕やカレンもギルドに戻る。すると、ラットが

「さっきの続きだが、俺の姉貴には称号がある。見た所、あの男ゴルドは俺らと犬猿のギルド『荒波リヴァイア』の一人のようだ。あいつも『七鬼』の一人だからわかる。だが、姉貴も『七鬼』の一人。人はこう呼ぶ」

 そう言い終わると、ものすごい突風が起き、同時に少しの時間、外で砂が舞っているのか、よく見えなかった。そんな景色を見ながらラットは言った。

「・・・・強欲の風神ってな」


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