第五十話 仲間と昔話
僕はひたすら前に進んでいった。敵が現れても蹴ったり、ナイフで切ったり、パンチしたりして、倒して前に進んでいった。
そうして、何十分走っただろうか。大広間についた。すると、さっきまでずっと黙っていたグミが急に、
「いるよ、ここに」
と言い出した。僕は足を止めると、
「『熱増力強化』のタイラント。奴は戦えば戦っていくほど体が温まっていき、力が上がっていく変わったSCを持っていた。きっと高め合っていくのが好きだったんだろうな。『的外れの強化』という思ったことが外れるSCを持ったアンオラクル。『予測強化』のシューターも、『気合強化』のコラップサーも、元々は東洋出身だった『影薄強化』のプリテンダーも、そして、さっき『勇気強化』の発明家クエスタントも倒された。残りは俺とクラウンだけだ」
と茶髪で長身な男が現れた。
「もう二人なら、いいだろ。いい加減降参しろよ。終わりでいいじゃないか」
そう言うと、男はため息をして、壁に寄りかかり、
「少し話をしてやる。なに、単なる昔話だ」
と煙草に火をつけた。
「昔、ある一人の少年がいた。その少年は王国の王族で幸せに暮らしていた。しかし、ある日、その少年の親は途方もない借金を抱え、子どもを置いて夜逃げし、その後死んでしまった。そして、少年は親戚引き取られたが、結局売られた。その後、金持ちに買い取られた少年は、それはもうひどい暮らしを強いられた。奴隷ってやつだ。だからある日、少年は賭けに出た。口車にうまく乗せて騙し、ここから脱走をすることができるのではないかと。そして、そんな少年にも仲間がいた。その仲間と一緒に計画を立て、見事脱走に成功し、隣の島へ移動した。そして、不思議な力に目覚めたことに気が付き、島の洞窟に生息すると言われる伝説の話を聞いた少年はある事を考えた。それは王国に対する仕返しだった。しかし、そんな洞窟の治安を守る組織があった。だから、それを除外しようと考えた少年は長年の月日を得て、準備を整え、封印を解こうと考えたんだ。なのに・・・」
そう言って、男は僕を睨みつけて言った。
「・・・なんでお前らは邪魔をするんだ」
僕は言った。
「その少年にどんな不幸なことがあったかは分からない。知る気もないけど、もし開放に失敗した時、君らはどう対処する気なんだ」
「失敗するはずがない。計画は完璧だ」
「そう言う奴は大抵失敗するんだ」
「・・・・やっぱりわかり合えそうにないな」
「そっか、わかった」
「・・・もういい、戻れ」
「・・・え?」
そう言われた途端、僕は回れ右をして歩き始めた。
「エマ、どうしたの?」
「どうしたのって何が?」
「え?」
僕は内心焦っていた。
(・・・・どういうことだ?)
全然足が止まりそうになかった。そういえばさっき『口車に乗せて騙した』って話もしていた。あの少年ってのが、もし、こいつだったなら。
「ねぇ、エマ‼」
(わかってるってグミ‼)
僕は必死に足を止めようとした。しかし、足が止まらない。
(これはカレンも受けた技だ。SCの能力か。・・・しまった。かかってしまった。どうしよう、このままじゃ・・・・)
そう焦っていると、
「目を覚ませ‼ エマ‼」
そんな声が耳元で聞こえた。グミの叫び声だ。その瞬間、キィィィン‼ と耳鳴りがして、
「・・・・うわぁ」
僕は我に返った。
「お前・・・これは・・・」
そう振りむいて男に言うと、男は驚いて、
「まさか、俺のSCを解くとはな・・・」
と言っていた。
「SC『語力強化』。これを使えばさっきみたいに口車に乗せて敵すら欺くことができるが、まさか解ける奴がいるとはな」
「二度は使えない技だろ? それ」
「・・・・よく理解しているじゃないか。そうだ、この技は一度使用されると、仕組みを理解され、騙されまいとする心が反射的に出来上がるから二度は使えない。けど・・・」
男は笑って言った。
「洗脳、催眠能力を使う人ってさ、こういう事をよくするんだよね」
「まさか‼」
僕はナイフを抜いて、急いで男の所へ駆けて行くが、
「・・・もう遅い」
という呟きと供に、爆発が起きる。そして、
「ふふふふ、ははははは‼」
そんな機械のような二重になった声を出し笑った男は、さっきとはまるで違った。ゴリゴリのマッチョな姿で、身長もさっきよりも高くなっていたのだった。
「自己洗脳。これが俺のSCの真骨頂だぁ‼」
そう言って、僕を見降ろして腕を組んだ。




