第四十四話 勝敗と妖刀
「条件・・・ですか?」
「当たり前やろ。まさか自分、無条件でうちに裏切れと? それはちょっとアカンな」
そうニヤリと笑うと、少し不満な顔を浮かべつつ、
「・・・いいでしょう。わかりました」
そう言って頷いた。そして、
「それで条件ってなんですか?」
「あぁ、簡単な話やで」
そう言って、うちは二コリと笑い、
「・・・・自分、コルに謝って、はよ、自首することや」
と睨みつけて言った。思いもよらない言葉にシイは首を傾げて、
「はい?」
と返す。うちはため息をつき言った。
「だいたい、いい度胸よな、あんた。うちの仲間をボコボコにして、あんたんところのボスはカレンちんを洗脳し、エマちんと対決させたとも聞いとる。そんで、何? さっき小耳にはさんだ話だと四神を解放させる? そんな悪い組織の仲間になんでうちが入らんといけへんの? 片腹痛いわ」
「・・・っ‼」
シイは険しい顔をして、舌打ちをして言った。
「仲間をボコボコに? それはあなたの仲間が弱かっただけでしょ? それに、先ほども言いましたが、あなたがボスに勝つことなんて・・・・」
「知らんわ、やかましい‼ うちは別強いか、弱いかとか、勝つ、負けるの話をしてるわけやない。ただうちはうちの仲間を傷つけるようなそんな組織に入る気はない言うとるんや。それに・・・」
うちはニヤリと笑って、言った。
「うちは勝てへんのかもしれんけど、うちのチームリーダーがあんたのリーダーを倒す」
「あの無能力者がですか?」
「あぁ、自分聞いてたらしいな。そうや、うちのリーダーのエマちんは無能力者や。せやけど、エマちんの強さは能力じゃない。心の強さや。これだけはたぶん勝てる奴はおらへんな」
「心が強くても、ロードには勝てないと思いますが。だいたい、心がいくら強くても、強大な力にはかなわないかと」
うちはその言葉に鼻で笑って言った。
「あまりなめないほうがええで。そういう強さを」
そう言うとため息をつき、シイは言った。
「もういいです。わかりました。なら、なおさらここを通すわけにはいきませんね。それに私には役割がありますから」
「役割?」
「さっきあなたも言っていたでしょう。四神の解放をしに行くのですよ。東西は向かっていますが、南北はまだですからね。私が遅れて向かおうとしたらあなたに会ってしまったので。速攻終わらせて向かいます。本当はもう一人、行く予定だったのですが、残念ながらまだ向かっているという連絡は来ていませんね。どこで何しているんだか」
それを聞いてうちは、
「三人だ」
と言った。たしか、それが倒された数だったはず。それを察したらしいシイは、眼鏡のふちを指で持ち上げ、
「・・・・そうですか。三人も。まったく仕方がないですね。なら、なおさら・・・・」
そう言って、クナイをシイは持ち、
「早く倒さなければ行けませんね‼」
と言ってクナイを投げた。うちはそれをかわすが、その隙にいつの間にか後ろに回っていたらしいシイはうちの背中を思いっきり蹴り飛ばす。うちは前に倒れそうになるが、むしろその勢いで倒立前転を行い、着地してからシュリケンを三つ投げる。対してシイはクナイを三つ投げ、シュリケンにうまく当て、地面に落とした。そして、
ボンッ‼
という音ともに白い煙が発生、
「煙球かいな。姿隠しても無駄やぞ‼」
と叫ぶと、
「・・・少し違います」
という声とともに何人ものシイが現れる。分身の術かと思った時、
「私がさっき地面にぶつけたのは煙球ではなく、霧球。辺り一面に霧を発生させる特殊な球だとクエスタント言っていましたね。そしてこの霧で私は幻を見せる忍術を習得した。単純言えば辺り一面の霧の蒸気に私の姿を映し、私に変える。そんな術です。勿論、分身の術と同じで本物が攻撃しないと相手にダメージを与えることはできませんが、さて、本物は誰でしょうね」
そう言って、周りのシイは不気味な笑顔で笑った。
こんなピンチな時なのに、なぜかうちはこの刀との出会いを思い出していた。
それは数年前、まだうちが故郷でシノビの仕事をしていた時に遡る。
「お前、そんな刀持ってたか?」
武器の整備をしに、闇鍛冶屋に行ったうちはおっちゃんにそう聞かれ、ふと腰にさしていた刀を見た。
ちなみに闇鍛冶屋というのは、公には公表されていない特別な鍛冶屋のことで、おもに利用者はシノビや暗殺者みたいな隠密行動をする者ばかりやった。公の鍛冶屋に行くと顔がばれる恐れがあり、ばれた場合、敵に情報が行き、顔が知られたら困るからである。一応、闇鍛冶屋を利用する時も顔は隠すが、ばれても別に通報されたりしない。そんな特別な鍛冶屋やった。
うちにそう聞いてきたおっちゃんはうちがシノビになった時から利用している鍛冶屋のおっちゃんで顔見知りだった。
うちはその質問に、
「これか? これはなんか依頼先で盗んだ、まぁ、盗品やな。売れば金になるんか?」
そう言って鍛冶屋のおっちゃんに刀を渡そうとすると、冷や汗をかきながら、刀を私の所に押し戻し、
「鍛冶屋に、なんて物を渡そうとしてるんだよ‼ それ『妖刀』だぞ‼」
と怒鳴られた。うちはよくわからなく首を傾げると、
「いいか。それは妖刀って言って、言ってしまえば、昔のその刀の使用者の怨念とか、妖怪や幽霊が憑りつているって言われている刀だ‼ 俺達、鍛冶屋はそういう刀が苦手というか嫌いなんだよ。なんか変な雰囲気をかもし出してるじゃねぇか」
「そうか? うちにはそうには見えへんけど・・・」
「・・・それは君の力がまだ刀に追いついていないからだろ」
そう言って突然、男が話しかけて来た。
「・・・なんや、自分いきなり話かけてきて」
「これは失敬。私は刀の事を専門に研究している者だ。君の持っているのは『夏狐』という妖刀だね」
うちはよくわからん話をする男にイライラしていると、
「妖刀、夏狐・・・・だと・・・・実在したのか」
とおっちゃんが反応した。
「なんなんや、その狐」
というと、しばらくぼーとしていたおっちゃんが我に返り、たばこに火をつけ口に銜える。そして、
「妖刀、夏狐。真実を明らかにし、相手には幻影を見せると言われている妖刀で昔、武士とともに戦っていたという『小夏』という狐が使用していた刀だと言われている。その狐は通常の狐とは違い、人間の言葉を話し、その上、正直な狐だったらしい。また、狐本来の本能で騙すことも出来た。しかし、ある日。そんな狐と共に戦う主を妬んだ武士が、主と離れた隙を狙って狐を殺した。その怨念がその刀に詰まっていると言われている」
とおっちゃんが説明した後、頷いていた研究者と名乗る男は、
「刀とは人を選ぶと言われています。そして、適任者の手にその刀が渡った時、本来の力を発揮すると言われています。気配、雰囲気が見えないあなたはその刀にまだ認めてもらっていないのでしょう」
「なら、あんたやおっちゃんは使えるんかいな」
「とんでもない。私やたぶんそこの鍛冶屋の人もきっとその刀の禍々しさを感じているだけです。実際の使用者が感じるのは禍々しさではなく、刀自体の気迫や重さでしょうね」
そう言って、男は隣の鍛冶師に自分の武器を見せた。
(・・・・重さ、気迫か・・・)
それがどの程度のものかは知らんけど、そんな話を唐突に思い出した私はふと刀の柄を握った瞬間、いつもと感覚というか、雰囲気が違うことに気が付いた。一瞬、刀を抜くのが恐ろしくなったほどやった。そして、視界がぶれ始め、シイが歪んで見え始めた。
(なんやのこれ・・・・)
冷や汗、吐き気までして気持ちが悪い。ただ、
(・・・・刀に負けてたまるかっての‼)
そう思って、刀を抜いた。その瞬間、
ブワァァン‼
とそんな重い音が刀から放たれ、その瞬間霧が一気に晴れた。
「・・・ど、どういうこと・・・何をしたの⁉」
さっきまで冷静に話していたシイは突然の事に驚き、焦っていた。うちはうちで、キィィィという耳鳴りがし始めた。しかし、その音はまるでうちに何かを話しているようだった。
『・・・・準備は・・・・良いか・・・・』
そんな感じの声が聞えたような感じもした。幻聴かもしれん。せやけど、考えれば考えるほど訳が分からなくなり、耳鳴りもどんどん大きくなっていき、頭が混乱していったうちは頷いた。頷けば止むと思ったんや。すると、案の定、耳鳴りが止んだが、同時に何かが肩にのしかかるような重さを感じた。うちは深呼吸をした。そして、
「・・・・行くぞ、シイ」
と尻をつき倒れるシイを睨むと、シイは怯えて、
「な、何なの、その後ろの・・・・獣は・・・・‼」
とがくがく震えてそう言った。うちはそんなシイに一歩、また一歩と近づいていき、そして、頭に手を当てた。その瞬間、シイは泡を吹き気絶し、それと同時に身体が一気に軽くなったのだった。




