第四十三話 決意と裏切り
私は洞窟を無我夢中で走った。奥へ奥へと向かってと、最深部に向かって走った。そして、
「・・・・やぁ、君が来たのか。たしか、ギルドで戦ったよな?」
そう言って私を見たのは、一人で三ギルド代表者を全滅させた女『クラウン』だった。私は深呼吸をして、息を整えて言った。
「一応聞いておきますが・・・・あなたはここへ何をしに来たんですか?」
「ん? あぁ、そうね。というか、言わなくてもわかるんだろ? ここにわからないで来るはずもないしなぁ」
「四神なんて、そんな伝説信じているんですか」
クラウンはため息をついて言った。
「なぁ、君はなぜ伝説を嘘だと、迷信だと証明できる」
「いるわけがないからですが。あなたこそ、証明できるんですか?」
「いや、できないさ。やってみないとわからない。だから、やるんだよ」
「やれると思ってるんですか?」
「あぁ、そりゃな。解放する方法もわかったか・・・・」
「違います」
私はクラウンの言葉を遮って言った。
「私がいるんですよ。ここより奥へ行くのを見逃すと思いますか?」
私は睨みつけてそう言うと、一瞬驚いた顔をして、その後、
「おいおい、マジで言ってるのか、君は」
そう額を抑えて笑って言った。
「何が可笑しいんですか⁉」
私がそう聞くと、右手の指を指して言った。
「あれ見てお前言ってんのか?」
私は指さした方を見ると、東の洞窟管理モンスター、ヤマタ・オロチと、同じく管理モンスター黒龍ムートが気絶していた。
ちなみに洞窟の管理者とは、その洞窟内で発見されている現時点での最強モンスターで、東だけでなくどの方角にも必ずいる。
東の管理者モンスター、ヤマタ・オロチは八つの頭を持つドラゴン、つまり大型のトカゲで『八心同体』という身体強化系SCを使って、見事な協力技で相手をかみ殺す。そして、黒龍ムートは二足歩行で歩くドラゴンで、『怒りの強化』という感情系SCを使って、とんでもない力で相手をひねり潰したり、叩き潰したりする。
その管理者を未だに倒したものがいないため、その奥、最深部に辿り着いた者はいない。私はクラウンをもう一度見ると、クラウンは険しい目で言った。
「ここまで、お前はモンスターに会っていないはずだ。それは、私はモンスターを手あたり次第殺したからだ。逃げた奴もいたが、当分戻ってこないだろう。こいつら二体も私がやった」
「・・・一人で、ですか?」
「当たり前だろ」
そう言われ、私の決意が揺らぐ。
「・・・どうした? 怯えているのか? そりゃそうだよな。君は私に一度負けているし、洗脳されて、仲間にまで刃を向けたもんなぁ。そんなお前が私に勝てるなんて、ありえないよな」
「・・・っ‼」
私は一歩引き下がる。
クラウンは鼻で笑ってニヤリと口角を上げ、
「引き返すなら、今だぞ」
私は歯を食いしばる。再び身体が震える。決意を固めたはずなのに。
(・・・なんで、私は・・・)
そう言って、また一歩引き下がりかけたその時、
ヒュ~‼
突然、背後から突風が吹く。そして、私の足を止めた。フウさんの『頼む』という言葉を思い出したのだ。
(・・・・何、ビビってるんだ、私は)
今まで私の敵はこんな感じの怪物ばかりだったじゃないか。王国戦の時も、海賊船での戦いも、ギルド間での戦いも全部。それにそのほとんどは裏の私が戦って倒してきた。そうだ、私は任せてばかりだ。何もしていない。そうだ。だから・・・
「・・・私はまだ・・・・負けてません‼」
そう言って、私は再びクラウンを見た。クラウンは鼻で笑い、
「負けたろ、ギルドで・・・」
「負けたのは、私の裏で人格です。そいつは私がピンチの時に助けてくれた。次は私が助ける番だ。それに、あなたを倒さないとエマに・・・仲間に見せる顔がない‼」
そう言って、目からあふれ出しそうになった涙を腕で擦って吹き飛ばす。そして、二本のナイフを抜く。すると、口笛を吹いて、
「いいね、決意の眼差しって感じ、背筋がぞくぞくする。気に入った。それに君は二十人格だったのか。ということは私と勝負するのは初めてか。面白い・・・・‼ 面白い‼」
そう言って黒いナイフを二本抜いた。
「私さ、得物を使って戦うのが嫌いなんだ。だって、私のSCを使ったら簡単に殺してしまうから。つまんない。けど・・・」
「・・・・‼」
クラウンが再び私の事を見た瞬間、一気に洞窟内の雰囲気が変わった。すごい不気味で奇妙で、気持ちが悪い、異様な雰囲気になった。だけど、
「君の決意は決まってるんだろ? なら死ぬ気で来い‼」
そう言って私は深呼吸をして、一気にクラウンの所まで駆け抜けた。
☆
貧民街でコルが話す情報を戦いながら聞こうとはしてみたが、無理やった。原因は目の前のこいつや。
キンッ‼ カンッ‼ ジッ‼
貧民街には、クナイと刀がぶつかり合ってできる金属音が鳴り響いた。
「いつまでやる気なのですか、あなたは?」
「お前が倒れるまでや‼」
「・・・苦笑」
そう言うシイの顔にうちは一歩下がり、顔面に向かって回し蹴りするが、一回転して、そのままバク転をして綺麗に着地しよった。そして、
「一つ提案なのですが、このまま騙し合いをしながら、クナイと刀をぶつけあっても仕方いと思います。なので、あなた、私の組織に入る気はありませんか?」
「は?」
騙し合い。というか、お前しかやってないんよな、そんな行為。砂をかけてきたり、煙球を使ったりして。私が使ったのは刀とシュリケンというシノビの頃の武器と身代わりの術くらいや。
「裏切れと言っているのです。仮にここで私に勝てても、ロードは倒せませんよ」
「そんな事、やってみなきゃわからんやろ」
「無理ですよ。私だって暗殺を二、三度やって負けているんですからね。あの人は天才です」
「・・・・そんなに強いんか」
「はい、私なんか足元にも及びません」
そう言って、眼鏡のふちを右手でくいっと上げて言った。
「そうか、わかった。裏切ってもいい。ただ、一つ条件がある」
そう言ってうちはシイの顔を見て言った。




