第四十二話 シノビの戦いと解放
うちは少し距離を取り、睨みつけて言った。
「シノビの戦い・・・ね。あんたに会うまで忘れとったわ。そんな戦い方」
シノビの戦い。例えば剣闘士や騎士の戦いは大抵、正々堂々、真正面からぶつかり合う戦い方や。そんで、強い者は勝つ。
しかし、シノビの戦いは死んだふり、降参するふり、人質だってとる奴もおる。さっきみたいな敵を油断させ背後から殺す姑息な手段も、暗殺もあり。卑怯やずるいはシノビにとって誉め言葉。それがシノビの戦いや。騎士がする真正面での勝負ではなく、騙し合い、探り合いの戦い。強者が勝つんではなく、演技や口が達者なものが勝つ。現に実力のあったシノビが格下のシノビに負けたちゅうことをよく耳にしていた。
「うちやて、腐っても元シノビや。あんなはったり簡単にわかる」
「少しなめてましたが、いいでしょう。本気で行きます」
そう言って、シイは懐から赤い眼鏡をかけ、クナイを手のひらでくるくる回して握り直す。そして、
「IKNOW幹部プリテンダー。敵を速やかに排除します」
そう言って、うちの所まですごい勢いで向かって来た。
△
(・・・・あぁ、私何してるんだろ・・・)
裏の私が負け、変わった私は奇襲作戦で失敗し、それだけでなく敵に捕まって、洗脳されて、利用されて。愛する親友エマにまで刃を向けて。
(・・・・エマに合わせる顔がないです)
私がそんなことを考えながら、ベンチに座っていた時だった。
(・・・・こちら、ギルド黄金の大蛇所属のコル。今から知らせる情報は同盟を組んでくれたギルドのメンバー全員の頭の中に僕のSCを使って送っているんだけど、大量の一斉送信で体力も大量に消費するから、今から話すことの質疑応答は今後無理かな。だからこの話も一度しか言わないから良く聞いてね)
とコルは少し長め前置きをして話し始めた。
(えっとね。とりあえず戦況から。敵のコラップサー、タイラント、そして、さっきもう一人幹部だと思われる一人をフウさん、アメさん、サキさんがそれぞれ討伐。残りは貧民街の残党と五人の幹部です)
さすがフウさんだなと、まだ何も活躍出来ていない私は歯ぎしりをして聞いた。
(そして、アメさんの活躍で、驚きの情報を手に入れたんだ。それは・・・)
そうコルは一呼吸おいて言った。
(組織IKNOWの目的。奴らはあの四つ洞窟で四神の封印を解こうとしている。今それぞれ各方角の洞窟に向かって、最深部に向かって進行しているらしいんだよ。アメさんが戦った幹部は曰く、もう各々洞窟についたという報告が来ていて、今からじゃ間に合うわけがないと思って話したんだって。だからお願い。力を貸して欲しんだ。洞窟に近いギルド、もしくは人がいたら、向かって各自討伐して欲しい。さっきは、質疑応答は無理だって言ったけど、誰がどの洞窟に行くか言ってくれるかな?)
真剣な口調で頭の中に送ってきたコルの内容に一瞬だけ沈黙が訪れる。そして、
(私が行きます‼)
聞き覚えのある声が頭の中に送られてきた。
(君は?)
(ギルド山吹ミノタロス、チーム『リベリオン』のミイ・カーメラ。私達リベリオンが、西の洞窟に向かいます)
(わかった。ありがとう)
私は考えた。現在地から東の洞窟はすぐそこだ。だが、自分が行って何になる。この戦いは負けたらダメなんだ。そう考えると緊張や恐れで頭がおかしくなる。身体が震え、頭痛がする。もう私は戦えそうになかった。戦う勇気がなかった。さっきの事がフラッシュバックし、思い出す。
(ダメだ・・・私はもう・・・)
そう思った時だった。
(・・・・おい、すまないがこれを使わせてもらうが、聞こえてるか? 七鬼のフウだ。今、私達は敵の残党と戦っている。中には幹部と死闘を繰りひろげている者もいるだろ。傷ついた者もいる。だが、ここでSCを持たず、無能力者の女が必死に戦っている事を知って欲しい。そいつは自分の実力をよく知り、にもかかわらず組織のボスの所へ進行している。これを聞いて何とも思わない奴がいたら、何も言わない。ただ、何かを感じたのなら、協力してほしい。七鬼としてではなく、一人のギルドメンバーのフウ・カルムからのお願いだ。どうかよろしく頼む)
そう言ってフウさんの言葉は終わった。そして、
(・・・別に~、面倒くさいならやらなくてもいいんじゃないかな~。自由だよ、こんなの。僕だって正直任務じゃなきゃこんなことしないと思うしね~。損するだけだし、勇者や英雄になって目立つのなんてまっぴらごめんだね。そんなのどっかのかっこいい、お人好しに任せりゃいいと思う。けど、きっと後悔するよ。まぁ、どうでもいいんだけどね~)
とアメさんが。そしてまた、
(ふん。おい、コル。そんなの誰か近い奴がきっとやるに決まっているだろ。こんなのに時間を潰すな。近い奴が向かって敵を撃て。それだけだ。まぁ、強いて私から言う事があるなら、実力があるのに示すことができないのは、そのSCや周りの人、そして何よりそいつ自身が可哀そうだなと思う。それだけだ。まぁ、せいぜい頑張りな)
とマキさんが言った。そして、とうとう、
(・・・ごめん・・・そろ・・・ろ・・・たいりょ・・・が・・・・ごめ・・・・あ・・・・お願い)
そう言って通信が途切れた。
フウさんの言葉。アメさんの言葉。マキさんの言葉。それぞれのその一言一言がまるで弓矢の矢ようになって私の心に突き刺さった。
そして、さっきまで緊張でがくがく震えていた身体も、頭痛も止んでいた。そして、
(・・・・ほんとに・・・・ほんとに‼)
私は歯ぎしりをして立ち上がる。そして、
「・・・何してんだ、私は‼」
と叫び急いで東の洞窟に向かった。




