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WISH and DREAM  作者: 樋夜 柊
チーム結成編
4/55

第三話 新規チームと初依頼

「はい、確かに受け取りました。これからのご活躍を期待しています。『WISH and DREAM』のメンバーの皆さん」

 そう言って、ギルドの受付のサキさんが頭を下げた。

 チーム名とチームリーダーが決まったその翌日、僕らはギルドにチームを作成するための書類を提出し、ついに公式チームとして承認されたのだった。僕はみんなの方を見ると、

「結成祝いに何か依頼でも行くか?」

「いや、そこはパーティーとかじゃないか?」

 ラットの言葉にそう突っ込むと、ラットがギルドの外を見て、

「まだそんな時間じゃないだろ。それにあんまし金もない」

 と言った。確かに外は明るいし、パーティーをするような金がないのは僕も同じだった。

「だから、チームとしての初依頼を受けて、それをクリアして、その報酬でパーティーやろう」

「なるほど」

 僕はラットの意見に頷き、カレン達を見ると、

「いいね、行こうよ‼」

 と笑ってカレンが、

「まぁ、いいんじゃないか? 俺も予定無いし」

 とタクトがそう言った。グミも頷いて同意していた。

「よし、んじゃ行こうか」

 そう言って、依頼ボードの前へ向かった。


『巨大ガニの討伐』

 そうか書かれた依頼書を僕は手に取った。

「これなんかどうかな?」

「甲羅にお前のナイフは相性悪いぞ」

「んじゃ、これは?」

 僕は『通り魔の捕縛』と書かれた依頼書を指した。

「ランクA向けだ。たぶん、返り討ちにあうな。下手すれば・・・・」

 僕はそんな文句ばかり言うラットに(ほお)を膨らませて、

「・・・・んじゃ、ラット選んでよ」

「俺か? んじゃ、これは?」

 とラットが依頼書を指さした。


                    ◇


 エマのSC(スキルチャージ)について仮説を立ててみた。

 エマが身体強化系のSCだった場合。これは単純に神話や伝説などの物語に登場する者をピンチ時、反射的に身体に宿すというSC。ただ、その時に宿す力がランダムで決まるのか、もしくはエマ自身が選んでいるのかが不明だった。可能性としては前者の方が高かった。なぜなら、SCの能力が発動する時、必ずエマは気絶するからである。後者の場合、力を無意識に選んでいる時に偶然、敵に攻撃され、気絶して、力を使っていることになる。それが一回だけならまだしも、三回連続、神聖剣野郎、試験、そして、リーザの時に起こっている。そう考えれば後者の可能性は低い。

 次は感情系の場合。俺的にはこの可能性は低い。『想像力』のSCというだけで規格外なのに、感情を力に変えて、戦闘を行う感情系の可能性は低い。

 最後は知識系のSCだった場合。これに関しては俺もわからない。もしそうだったとしても、あまり見たことがないため、可能性が高くも、低くもある。

(・・・いずれにせよ、強いことには変わりない)

「ラット?」

「・・・・」

「ね?」

「・・・ん? おわっ⁉ どした?」

 エマのSCについて考えていた俺の視界に突然、エマが映ったため少し驚いた。

「いや、なんか、ぼーとしてたから。大丈夫?」

「お、おう。大丈夫だ」

「しっかりしてよ。このチームで一番ランク高いのはラットなんだからさ」

「あぁ、わかってる」

 俺は選んだ依頼書を改めて見た。

『迷惑海賊の捕縛依頼』

この依頼はΦからB向けの軽めの依頼だ。ただ、報酬金は高めで、チーム作成祝いのパーティーくらいはできる。

 この時、俺は大丈夫だろうと思っていた。自分の実力なら問題ないと、そう思っていたのだった。


「ラット、まだ?」

「・・・どこにあんだ?」

 俺たちはギルドで手配された七人用手漕ぎボートに乗って、海賊船を探す。

 ただ、さすが広い海だ。貿易船がたくさんあり、目的の海賊船が見つからない。

「たしか、海賊船は旗に『ドクロ』が書いてあるはずだ」

「あのな、ラット。ドクロマークの海賊船っていうのはいっぱいある。それを全部潰していったら、日が暮れるぞ。俺らは別に海兵じゃあるまいし」

 船をこぎながらタクトはそんな悪態をつく。

「・・・だが、仕方ないだろ。こうやって地道に一つ一つ探していかなきゃ。ここで下手に暴れると他の船にまで被害が及ぶだろ」

 俺は望遠鏡をのぞきながらそう言った。

「というか、なんだ、この役割分担。なんで、お前が見張りなんだよ」

 タクトがそう文句を言うと、

「それ、私も激しく同意です」

 そう言って俺を睨むのはカレンだった。

「仕方ないだろ。お前ら二人、じゃんけんで負けたんだから」

「普通、女性にやらせますかね?」

 海で船に乗る前に四人でじゃんけんをして、勝った俺は周辺の監視を。負けたタクトは確定で船を漕ぐことに決まったのだった。そして、エマとカレンはというと、

「エマが変わるって言ったけど、断ってなかったか?」

「だって、エマは女子ですし・・・・」

「君も女子だけどね」

 じゃんけんに負けたエマは潔く船を漕ごうとしていたため、俺も女子に漕がせるのは悪いなと思い、声をかけようとしたら、私が漕ぐから大丈夫、と言ってエマの代わりに張り切って漕ぎ始めたのだ。なんか、止めたら悪いなと思い、代わってやることができなかったのだった。                

「それに君が俺に言ったんだろ? じゃんけんで決めようって」

「・・・そ、それは・・・」

 とカレンは黙った。そもそもの提案者が自分だったことを思い出したのだろう。

 そんな中、さっきまで悪態をついていたタクトが、

「おい、エマ&グミ班。目標の海賊船見つかったか?」

「いや、全然。他の海賊船ならあるんだけど・・・・」

 『ガマ口海賊団』

 最近ここらで金品を盗み、迷惑行為を行っている海賊である。『エスカレートしないうちに捕縛または討伐してくれ』との依頼だ。旗にはドクロを見るカエルが描かれているらしい。

(やっぱり、全部潰していくしか・・・)

 そう考えていると、

「あ、いた」

 エマがそう呟く。俺はそれを聞いてエマの方を見る。すると、確かにあった。ドクロをじっと見つめる『ガマ口海賊団』の旗が。

「どうする? ラット?」

 エマは俺にそう聞いてきた。俺は、

「質問を質問で返すが、お前ならどうする?」

「僕なら?」

 エマは考え始めた。

「海賊船の船員に変装して、騙し倒す?」

「それは不可能だ」

 俺は首を振って否定した。

「どうして?」

「ああいう船には必ずと言っていいほど、嘘か本当か見破るSCを持った奴がいるからだ」

 しかし、エマはまだ首を傾げていた。俺は座って、

「『警戒心強化』のSCだ。その能力は大きく分けて三つある。そいつが本当の事を言っているのかを見破る力のSCと、敵の戦力や攻撃パターンを見破る力SCと、相手をサーチし見つける力SCだ。しかも、警戒心が強ければ強い奴ほど強い力を持ち、中には二つ備わっている者もいれば、全部備わっている者もいる。そんな感情系のSCは必ずこういった盗人軍団の中にいるんだよ」

 かつて、俺とタクトが行った依頼で山賊退治の時があったが、盗賊に変装した俺らをすぐ見破り、危うく死ぬところだったことを今でも忘れない。

「つまり、まぁ俺らの位置はもうばれている可能性があるってことだ」

「え? じゃあどうするの?」

 俺はにやりと笑って言った。

「こうするんだよ」

そう言って俺はタクトにアイコンタクトを送る。そして、タクトはやればいいんだろと呟き、大きく息を吸った。そして、

「あああああああぁぁーーーーー‼」

 と大声で叫んだ。


                    ◆


 それは、それは鼓膜が破れる勢いの大声だった。タクトが大声叫んだのだった。

 その瞬間、海賊船が大破した。僕はただ茫然とその一連の出来事を見ていると、

「まぁ、こんなとこ?」

 と腕を組みタクトはそう言った。これがタクトのSCは『強声』である。たしかに、すごい衝撃だ。未だにキーンという耳鳴りが止まない。

「まぁ、ナイスだが、もう少し抑えて打とうか」

 よく見ると、近くを偶然通った船の前の部分に(かす)って色が消えていた。持っていた望遠鏡でその船を(のぞ)くと少しゆれたのか乗船客が驚いていた。

「ちょっとやり過ぎたな」

 そう言って、あははと笑っていたタクトはラットに頭を叩かれた。

 そんな中、カレンをちらっと見ると、カレンはまだ固まっていた。

「大丈夫?」

 僕は声をかけると、カレンはゆっくり僕の顔を見て言った。

「・・・海賊船がこっちに向かって来ている」

 と怯えながら。

 そんな馬鹿らしい話があるわけがない。そう思い、僕は前を見た。しかし、僕はびっくりして腰を抜かす。

なぜなら、目の前にさっきタクトが大破させたはずの船がこちらに向かって来ていたからだ。

「なんで・・・」

「建築強化か・・・」

 そう呟いたのはグミだった。後ろを振りむくとラットとタクトは口を開けて驚いていた。二人にとっても想定外だったのだろう。僕はグミに聞いた。

「建築強化って何?」

(まれ)に見るSCさ。そもそも知識系SCの一種だからね。対象の物を瞬時に直したり、組み立てたりすることができる」

「え? んじゃ、きりがないじゃないか」

「ただし、そう何度も使えないさ。すごい集中力が必要だからね。せいぜい一、二回さ」

「ってことは・・・」

 僕が振り返る前にもう二人は切り替えて、タクトが叫んでいた。しかし、

「っ‼」

 壊せなかった。何か巨大なバリアのようなものが船を覆い、守っていたからである。そして、


 ドンッ‼


 そんな巨大な音と共に大砲の弾が飛んできた。そして、僕らが乗っていた小船に直撃したのだった。 


「・・・おい! ・・・・エマ・・・・・大丈夫か・・・・・おい‼」

 僕はラットに起こされて目が覚めた。

「・・・・ここは?」

「海賊船の中だ。大砲飛ばしてきやがった。おかげで小舟は木っ端みじんさ」

周辺を見渡すと、階段とドアと小窓があった。だから、海賊船の地下室または、道具を入れる倉庫のようなところに侵入したのだと推測した。それこそ、ラットや、カレンのSCを利用すればそれは可能だろう。そして、脇にある階段とドアの近くにはタクトが、その向かいにある小窓の近くにはカレンがいた。

「あいつらは何してんの?」

「監視だ。ここの場所がもしばれて攻め込まれたら袋の鼠だからな。ここに入ることができるドアと小窓に誰かいれば迎撃することができる」

 しかし、そう言うラットの顔は少し強張っていた。それ程、今テンパっているのだろう。

「ここで籠城してるのか?」

「それしかないだろ、今は」

「そっか、わかった」

 僕はそう言って、起き上がって、階段に向かう。

「おい、どこ行く気だ‼」

「自分は自分らしく・・・・」

「は?」

 僕は振り返ってラットに答える。

「攻め込むんだよ」


                    ◇


 俺はエマの一言に額に手を当て、ため息をつき言った。

「死ぬ気か?」

「いや、全然」

 そう言って、エマはタクトを通り越して、階段を上り、最上段まで行って座る。

「なら、どうして攻め込む?」

「ここで籠城したって、時間の問題でしょ?」

「とりあえず、一呼吸置いて、状況を把握し、作戦を立て直す」 

「無理だよ」

「なぜだ?」

 俺がそう聞くと、エマは後ろのドアを親指でさした。俺が近くまで行くと、

耳澄()ましてみん?」

 と言われドアに手を当て、耳を澄ますと、

「・・・おい、突入準備はまだか?」

「すみません、キャプテンまだ整っていません」

「早くしろって言っているだろ⁉ 急げ‼ 奴らが逃げるぞ‼」

「サー、イエッサー‼」

「・・・・」

 俺は黙ってエマの方を見た。エマはニヤリと笑って、

「ね? そうだろ?」

 と言ってきた。

「なぜ攻め込む準備をしてるってわかった? というか、そもそも場所ばれしていたことじたい想定外なんだが・・・」

「そうだね。とりあえず、タクトのとこ通り過ぎた時は、まだ推測でしかなかった。けど、ここに来た瞬間、攻め込む準備をしていた事がわかった」

「俺が目を覚まして、耳を澄ました時はそんなこと話していなかったぞ」

「きっと、僕らの行方がまだ(さだ)かではなかったんじゃないかな? 少なからず、ラットが耳を澄ました頃にはまだ気付かれていなかったって事だね」

「警戒心強化の奴は? ここに来た瞬間サーチされてわかるはずだろ」

「それは、敵のサーチに引っ掛からなかったか、そもそもいなかったって事じゃないか?」

「そ、そうか・・・・」

「まぁ、飽くまで推測、可能性でしかないんだけどな」

 俺は頷いた。間違えなくその推測通りだろう。

「人数差では負けるかもだけど、個々の戦力を見ればまだ可能性はある」

「策はるのか?」

 俺がそう聞くとエマはコクリと頷いた。


 エマが俺に伝えた作戦はこうだ。まずグミが敵陣の海賊の所へ行く。

「おい、準備はできたか?」

「バッチリです、キャプテン‼」

「何の準備?」

「⁉」

 俺はその様子をエマに指示された所で見ていた。

 グミは(あお)っていた。海賊船員の肩に乗ったり、ちょろちょろと逃げながら『こっちだよ』とか、『どこ狙ってるんだよ』とか、『下手くそか』とかそんなことを言って煽っていた。俺は正直、ここまでグミが煽る事がうまいとは思わなかった。

「くそ、このクソネズミが‼」

 そう言って、海賊達はグミを踏もうと足踏みをする。しかし、グミはそれをうまく回避し、

「こっち、こっち‼」

 と挑発。そして、逃げる。海賊たちも勿論、追って来た。

 そして、さっきの部屋まで逃げ込む。海賊たちは頷き合い、

「これで終わりだ‼」

 そう笑って、部屋に入った海賊たち。しかし、ここである事に気付く。

「・・・あいつらがいない」

 そう海賊たちの誰かが呟いた通り、推測していたのであろう部屋に、誰一人としていない。

 なぜなら俺らは、部屋の外の天井にうまい具合に張り付いていたからである。ナイフや鎖鎌をうまく使って。

 そして、グミも海賊たちの足の間を走り抜け、部屋の外へ。

「バイバイ」

 そう笑って部屋の外で手を振るグミに海賊たちは

「しまった‼」

「もう遅い」

 そう言って焦る海賊たちを見て、俺は扉を閉め、凍らせ、出入り口を塞いだ。

 そして、

「おらぁぁぁぁ‼」

 とタクトの強声でさっきまでいた部屋をぶち壊す。これで船員をわずかだが減らしたはずである。これがエマの作戦である。そして、


 カーン‼ カーン‼


 そんな警報が船内に鳴り響く。俺たちの作戦はここまでだ。敵を誘い出し、一箇所の部屋に集めて、そこにタクトの強声を放てば少しでも兵の数が減らすという考えである。ただ、そうすれば、このように警報が鳴るというのも考えていた。それはこの作戦が失敗しようが、成功しようが、どうしても避けられないことだった。ここで逃げるというという考えもあった。しかし、俺は、

『俺らのせいでギルドの顔が汚れるのは嫌だ』

 そう言うとみんな、そうだなと頷いて一つの考えに至った。

「みんな、準備はいいかい?」

「あぁ」

「まぁ、なんとかなるでしょ」

「いっちょ、やるか」

 作戦を成功させ、次の部屋へ行く扉の横でエマが言った一言に各々がそう反応した。

「行くよ」

 そのエマの合図で近くにあった扉を開けた。俺らと海賊団の総力戦が始まったのだった。


                    〇


 扉を開けるとそこには、大きな盾と剣を持った男と二丁拳銃の男がいた。

「ここは通さんぞ」

「つまりは・・・ここを通りたきゃ、俺らを倒していけってことだよ」

 そう言って二丁拳銃を持った茶髪の眼鏡をかけた男は、持っていた拳銃をくるくる回してそう言った。

「悪いけど、君らに構ってる暇はないんだ。通して・・・・」

 僕がそう言いかけると、いきなり銃を僕に撃ってきた。手の甲で拭うと血がついていたことから顔をかすめたのだろう。

(・・・・いったい、いつ撃ったんだ・・・・)

 二丁拳銃の男は未だに拳銃をくるくる指で回していたため、僕はそう思った。

「つまり・・・・次は外さんぞって警告だ」

 そう言って銃を構えた。

(・・・・戦うのしかないのか)

 僕はそう思い、リーザ戦の素材で新しく作った短剣『フレイムダガー』の鞘と柄を触れた、その時、

「・・・・やってくれたな・・・・・」

 そんな憎悪に満ちた声が聞こえ、後ろを振り返るとカレンが両手にナイフ持って、

「・・・・よくも・・・・私の親友の顔に傷付けてくれたな・・・・殺してやる・・・」

 そう言うと、大盾を構えた男が、

「やれるものなら・・・・」

 『やってみろ』とでも言いたかったのかは知らないが、そう言い終わる前に僕たちでも気が付かないようなスピードで駆けて行ったカレンに蹴り飛ばされた。

「・・・・くっ‼」 

 二丁拳銃の男も拳銃を構えるが、

「・・・・ダメダメだね」

 と回し蹴りをする。

「・・・・君は感情系SCか・・・」

「・・・・ご名答。そして、今の感情は親友の顔に傷を付けたあなたへの怒りの感情だよ」

 とカレンは尻もちをつく二丁拳銃の男を指さしそう言った。二丁拳銃の男はニヤリと笑って、

「いいだろう。相手になってやる。つまり・・・・一騎打ちをしようということだ」

 僕は大盾を持った男を見ると、気絶していた。

「・・・・カレン?」

 心配になり、声をかけるとエマは振り返って、

「大丈夫。なんとかするよ」

 そう微笑んでそう言った。だから僕はそんなカレンを信じて先へ進んだ。


 扉を開けると眩しい光が僕らを照らした。どうやら船のデッキに辿り着いたようだ。

「・・・・な、んだとっ・・・」

 あの二人の男が倒されたと思ったのか、海賊たちは驚いた表情で俺らを見ていた。

「タクト、あと何回叫べる」

「いけて五、六回だ」

「んじゃ、念のため一回だけ打てる余裕は残しとけ」

「あぁ、そうするつもりだ」

 僕はそんな会話を聞いて、

「何回?」

 とラットに聞く。するとラットは、

「あぁ、ちょうどいい。エマ、君にもこの策を教える」

 そう言って、我に返った海賊の相手をしながら、ラットの話を聞いた。


                    △

 

(いったい、なんなんだ。こいつの能力・・・・)

 私は二丁拳銃を構えた男を睨みつけてそう思った。銃の弾を回避しているのにも関わらず、私の方へ向かって来るのだった。私はその弾をナイフでガードしつつ、その男の方へ駆けて行くが、その男は逃げまわりつつ、私を攻撃してくる。

(・・・体力が・・・)

 私は息を整えるために一度止まり深呼吸をする。

 そして、目を瞑る。男の足音、銃の音、風向き・・・・それらすべてを集中して、感じわける。


 バンッ‼ バンッ‼ バンッ‼


 そんな銃の乱射する音が聞えた。私は目を開け、その銃弾を回避し、そして、

「・・・・そこだ‼」

 とナイフを投げる。しかし、

「・・・っ‼」

 ナイフが壁に刺さっていた。そして、さっきのかわしたはずの銃弾が一発だけ腕にかすり、血が出ていた。

(・・・・なんなんだ、いったい・・・・)

 ただ、さっき私がナイフを投げた時、急に風向きが変わったのがわかった。比喩とかではなく、本当の意味で風の動きが変わったのだった。

「・・・いったい、そのSCはどんな能力なんですか?」

「教えるわけがなかろう。つまり、敵に塩を送るわけがないだろってことだ」

「そうですか‼」

 私は男の方へ駆けて行く。男は横に跳び銃を乱射。私はナイフで銃弾を受け止め、男を蹴り飛ばす。しかし、男はそれをかわして右脇の下で銃を構え撃つ。頬をかすめた。

「・・・・くっ‼」

 私は息を切らしながら両手ナイフを構える。

「どうした、そろそろ体力切れか?」

「あなたはよく体力が切れませんね。そういうSCなんですか?」

「まぁ、半分的を()てはいるが、そういうずるい(たぐい)のものではないな」

「そうですか・・・・わかりました」

 私は男の方を向き、

「・・・・特別に見せましょう。私の親友でさえ見たことがない、感情SC『喜怒哀楽』の内の『哀しみ』を・・・」

 私はそう言って、深く息を吐く。そして、目を瞑る。ナイフも鞘に納めた。

「どうでもいいが、武器を持ってないと、俺の弾を受け止められないぞ‼」

 そう言う男の声がかすかに聞こえた後、銃を撃つ音が聞えた。横腹をかすめる。

(・・・・まだだ)

 再び銃の音が聞えた。右肩、左腿(もも)右脛(すね)に直撃した。私は膝をつく。

「・・・・どうして、動かない? 諦めたのか? ・・・・まぁいい。つまり・・・・」

 男が私の所へ駆けてくる音が聞えた。

「これで終わりってことだ‼」

 その声を聞いた瞬間、私はあるものが出た事に気付く。そして、

「・・・・なっ⁉」

 男のそんな声が近くから聞こえた。それは急に霧が発生したからである。なぜか。それは私の感情SCの『哀しみの霧』の力である。

「・・・・前が見えない」

 そんな呟きが聞こえた。こいつのSCはわからない。けど、どの銃を扱う者も共通点がある。見えれば撃って、当てることができる。しかし、見えなきゃそんなことはできない。当てたら奇跡である。そして、相手は勿論、他の人も見えない中、私はこの霧の中でもはっきり見ることができる。自分で出した霧だからである。だから、

「・・・・これで終わりだ‼」

 そう言って私は男を斬りつける。が、


ガキン‼


「・・・‼」

 私はそんな鈍い音が鳴り、一回後ろに下がった。そして、また攻め込もうとした瞬間、

「・・・・‼」

 霧が一瞬にして晴れたのだった。

 そして、目の前にはさっき気絶させたはずの大盾を持った男とその(えり)をつかんでいる二丁拳銃の男がいて、両者睨み合っていた。

「・・・・邪魔するなよ」

「僕は君を助けたんだ。むしろ感謝してほしい」

「頼んでない。そもそもこれは一騎討ちだ」

「それこそ、僕は知らない」

 私はそんな二人をしばらく茫然と見ていたが、すぐ我に返り、

「敵を前に余裕だね」

 と斬りかかる。すると大盾を持った男は私のナイフを受け止める。しかし、

「・・・邪魔だ。どけ」

 と二丁拳銃の男に蹴り飛ばされる。

「・・・・これは一騎打ちだと言ってるだろうが」

「そんな、意地こんなところではるな」

「いや、張り巡らさせてもらおう」

「・・・!」

 大盾を持った男は二丁拳銃の男と再び睨み合うと、ため息をつき、そして、

「・・・わかったよ。でも、必ず勝てよ」

「あぁ、勝つよ。つまり、当然ってことだ」

「・・・大丈夫かね。まぁいいや。僕は他の援護にまわるよ」

「行かせるか‼」

 私は大盾を持った男を蹴り飛ばそうとした。が、

「・・・・お前こそ行かせないよ」

 と私の後ろで銃を乱射。私はそれを受け止める。そして、大盾の男は扉を開け先に行ってしまった。そこでやっと私は

「・・・・やっぱりですか」

 と呟く。

「どうした? なんだ? 能力にでも気付いたか?」

「まぁ、そんなところです」

「そうか。んじゃ、答え合わせといこうか」

 私は二丁拳銃の男の目を見て答える。

「知識系SCの能力。風の向きをよみ、操る。そういうSC能力でしょ。後ろから突風並みの追い風を吹かせて自分のスピードを上げたり、銃弾や私の投げたナイフの軌道を変えたりすることができる」

「たとえ、そうだとしてなぜそう思った?」

「一瞬で霧が晴れた時、風向きが急に変わったんだ。それでなんとなく」

 男は眼鏡をくいっと上げ、

「君、名前は?」

「カレン・デュアル」

「そうか。覚えとこう。君が俺の能力をノーヒントで解明した初めての者だからな。つまり、正解ってことだよ」

 そして、銃を構えて、

「だが、俺の能力を知ったところで、別に攻略法があるわけじゃない。つまり、意味がないってことだよ!」

 そう言って、乱射。私はそれをナイフで受け止めた。

「確かに、私じゃあなたを倒せない。喜怒哀楽すべて使い尽くし、攻略された。そうなれば私じゃ勝てない。手に負えない。そう、()じゃね」

 私は外でよくわからない大きい音が聞えたのと同時に、その場に倒れた。


                    ◇


 多勢に無勢。今の状況を一言で表すとすればこの一言が最適だった。

 海賊たちは一人一人がSCを持ち、集団で襲い掛かってくる。対して俺らは使用限界数があるタクトと、無能力と言ってナイフで戦うエマ、そして、俺である。しかし、俺とて条件くらいはある。

俺は最大で凍らせることができるのは五人程度。しかも、凍らせるといっても永遠ではない。なぜなら、自分自身が凍らせた敵から発する冷気に耐えることができないからである。一人凍らせるとマイナス二度くらい下がる。つまり十人凍らすと約二十度も下がる。

 だから、この技は一度に何人も凍らせることはできない。五人くらい凍らせては解除し、また凍らせての繰り返しである。また解除すると温度が二度上がり、元に戻る。それが俺の能力である。前回のリーザ戦の際、リミッターを解除しなかったのは自分の身体への負担もだが、その理由もあった。

神聖剣の奴と戦った時もそうだった。しかし、その時とは違うのは戦力である。一人一人がSC持ちであるということだ。そして、リーザ戦の時とは違うのは、知識系のSC能力者が多いことである。これにより、一度倒しても医療知識を特化させたSCが素早く傷を治療し、体力も回復させ、再び襲い掛かってくる。その海賊たちの回復スピードはあの時のリーザ達の回復速度より遥かに上だった。だから、何度倒しても、後ろにいる者が回復させ、きりがなかった。

(せめて、エマの能力の使用条件がわかれば・・・)

 しかし、わからないのだから仕方ない。当本人でさえ知らないのだから、それ以外の奴が知るわけがない。ただ、確かなのはエマが気絶することと仲間がピンチになることである。

(後者なら今の現状に当てはまるが、前者なら今の現状には当てはまらない)

 俺は舌を鳴らし、やるしかないと決意して、

「エマ、さっきの策を覚えているな」

「やるのか?」

「・・・・あぁ」

 俺は頷いて、敵と向き合った。

「・・・・完全零度、限界突破・・・・」

 俺はそう言って、大きく息を吐いた。そして、

「・・・極寒、豪雪嵐の視界(アイズ・リア・ブリザード)・・・‼」

 俺はそう叫んで、周囲を凍らせた。


                    ◆


『エマ、君にもこの策を伝えよう』

 僕はラットの策を再度思い出す。

『・・・策?』

『あぁ、策。と言っても最後の手段だ』

 そう言って、ラットは敵の相手をしつつ、その策を伝えた。

 振り返りラットを見ようとした。しかし、ラットの周辺が大きな氷の壁に囲われ、どんどんその壁は船全体へ広がっていった。気温もどんどん下がっていくのもわかる。

 ラットには力がある。それもとんでもない力である。それは視界に入った物を全て氷漬けにするという力である。ただ、それは極度の集中力がある状態でないとできないし、そもそも滅多に使用しない。なぜなら、彼自身がその寒さに耐えることができないからだ。

強力な力にはそれなりの代償が伴う。ラットの場合、それは極寒の中、どれだけ集中力を切らさず、寒さに耐え抜きながらSCを使用できるかということだ。集中が切れた途端、敵は解放され、全てがおじゃんになる。

 僕が指示されたのは、急いで船を出ること。この船はタクトによってまた壊される。その際、また船を直されたら面倒だから、いち早くそのSCの所持者を見つけ倒す。これが僕の役割である。

 凍らせたのは少しでも邪魔する敵の動きを止め、時間を稼ぐためである。

「エマ、行くぞ!」

「うん!」

 僕とタクトは海に飛び込む。海の中はラットの能力のせいか、少し冷たかった。僕とタクトは急いで上昇し、海の中から顔を出した。そして、


「これでも、くらいやがれぇぇぇ‼」


 そう叫び、船を壊した。

僕は周りを見渡した。

(・・・どこだ‼ いったい‼)

 船の修理をする知識系SCの能力者を探すためだ。

(どこだ・・・‼ どこにいるんだ‼)

 そうしている間も、修復されていく。それはもう恐ろしい速さで、船の残骸(ざんがい)と残骸が次々と組み合わさっていき、大体もう半分は完成した状態で、なぜか浮いていた。

ちなみに、海賊船の船員達は船の残骸に乗っかっていた船員のみ、壊す前のその時いた場所に戻る。つまり、みんな船の上だ。だがラットのおかげでほとんどの奴が戦闘不能になっていた。それはありがたいことなのだが、

(やばい‼ やばい‼)

 僕は焦る気持ちが抑えられなかった。だから、僕は落ち着くために一度大きく息を吐く。そして、耳を澄ませた。すると、微かに、本当に微かだけど、聞こえた。あの聞きなれた、

「・・・エマ、ここだよ‼」

 僕の相棒の声が。

 僕は急いでその呼ぶ声のほうに向かった。すると、

「あと、もう少し・・・」

 と笑いながら、壊された船の残骸の一部分に乗り、修復している男がいた。僕はその男の背後から迫って、

「させるか‼」

 と拳を叩きつけた。

「・・・なっ・・・・ぐ・・・・」

 しかし、僕のパンチの威力は足りなかったみたいで、男はよろめきながらも、

「・・・邪魔をするな‼」

 と拳を握り締め、こっちに向かって来た。僕は反射的に腕を前に出し、防御態勢に入った。すると、

「・・・・お前こそ・・・・邪魔してんじゃねぇ・・・・っ‼」

「・・・うがっ⁉」

 そう言って急に現れ、男を殴り飛ばしたのはタクトだった。その声は枯れていて、無理に出しているような感じだった。

「大丈夫?」

「ん? ・・・あぁ、なんとかな。寝りゃ治るから・・・心配するな・・・・」

 と笑って僕を見た時だった。

「・・・たくっ、騒がしいな・・・せっかく寝ていたのに・・・・」

 僕はそんな声が前から聞こえ、その方を見るとさっき男が直していた半壊状態でなぜか浮いている船から、大型でソフトモヒカンの男がのしのしと頭を()きながら姿を現した。

 その男を見て、グミは怯えながら、

「エマ、こいつかなり強い」

「・・・・うん」

 グミ同様、僕にも、とてつもない殺気が伝わった。

「あぁ、そうそう、これ、お前らの?」

 そう言って、ポイッとこちら側に人を捨てた。それを見て僕とタクトは絶句した。その人物はラットだったからである。

「ラットに何をした‼」

「・・・・いや別に。そこに倒れてたから、持ってきただけだよ」

 どうやら本当のようだ。嘘をついているような顔もしてないし、

「・・・体力が切れたのか」

 とタクトの呟きも聞こえた。

「勝てるかな?」

「どうだろう?」

「俺と一戦やろうとしているのならお勧めしないぞ。死ぬぞ、普通に」

 その絶対的自信と殺意が直に伝わって来て、僕は吐き気がした。

「・・・だが、無理でも・・・やるしかないだろ・・・・」

 僕がそう答えるとタクトは頷いた。その様子をみて、男はため息をつき、

「やっぱり来るのか~、面倒だな~」

 と頭を掻いた。そして、その男は海とこっちの残骸まで一メートルくらいある幅を飛び越えて渡ってきた。

 それを見て、僕とタクトは身構えた。そして、僕はナイフを抜いて、男の元へ()けて行った。


                   △


「・・・・う~ん、良く寝た」

「・・・・⁉」

 目の前の男は驚いていた。当然である。急に気絶したやつが数秒で立ち上がり、あくびして、意味わからないことを言っているからだろう。えっと、状況を確認。

 まず始めに()の名前はカレン・デュアル。んで、えっと今俺がいるのは半壊した状態でなぜか浮いてる船の上で。目の前には二丁拳銃を持った男が一人こっちを見て驚いている。

(うん、意味が分からん)

 えっと、俺はさっきも言った通りカレン・デュアル。ただ、普段は表に出ない。表の俺は野蛮だって言って滅多に出さない。まぁ、わかりやすく言うなら俺、カレン・デュアルは二重人格ってことだ。これを知ってるのは、エマとグミくらいだ。あ、あとこの二丁拳銃の男か。いや、ワンチャン知らないか?

「・・・・おい、お前は誰だ」

「俺か? 俺はカレン・デュアルだよ」

「嘘つけ、さっきまでそんな口調でも、話し方でもなかったぞ?」

「ごちゃごちゃうるせぇな」

 俺はそう言って首を回す。

「それより、久しぶりの解放なんだ。せいぜい楽しませてくれよ」

「・・・・解放? 意味が分からん」

「そうか、わから・・・」


 バンッ‼


「おいおい、いきなりなんだ」

「意味は分からんが、倒せば問題はないと思ってな」

 俺はため息をつき、その男を見る。俺に切り替える時は二つの理由がある。

一つは、単なる俺のための解放。その時は、ちゃんと打ち合わせをするから、今回は違う。となると、二つ目の理由。全力で戦っても勝てなかった時である。『癒しの喜び』、『哀しみの霧』、『悪魔の怒り』、『奇跡の楽しさ』の感情SC『喜怒哀楽』どれを使っても勝てないと思った時、一度気絶し、俺に切り替える。つまり、こいつは表の俺を倒した。

「さて、ちょっと、本気で行こうかな」

「口調を変えただけで俺に勝てると思われるとは・・・・俺も落ちたものだ」

「風向きを読み、操る。知識系のSCか」

「・・・‼」

(お、勘で言ったら、当たっているようだ)

 と俺は男が驚く様子から推測すると、

「なんで再度それを言ったんだ?」

 と聞いてきた。なるほど、つまり表の時の俺はそれがわかったと。

(・・・・・なるほど、なるほど)

俺がそう頷いていると、男は額に手をあて、ため息をつき、

「よくわからんが、さっきも言った通り、殺してしまえば問題ない!」

 そう言って、二丁拳銃の男は横に跳んで銃を乱射。そして、俺の頬をかすらせる。避けようとしたが、脚部に痛みが走った。

「痛っ! あ? 怪我してんのか? なるほど、そうやって俺を追い込んでいった・・・と・・・」

 俺はしゃがんで両手を床につけ、前を向く。そして、

「・・・・よーい、ドン‼」

 と呟いて、走った。勿論、二丁拳銃の男の所に向かってである。

 男は銃を乱射した。しかし、

「・・・・当たらないだと・・・」

「変わってるのは口調だけかな?」

「まさか・・・!」

 そのまさかである。SC『スキルチャージ』の特徴は、個性が武器になることである。つまり、性格が変われば、能力も変わる。

 この男が思っているように口調だけが変わるだけで、性格もちょっと合わせてみたというだけではSCは変化しない。しかし、俺のような二重人格者だったなら、話が違う。性格がガラッと変わるからである。

「良く見て当てろよ」

 そう言って俺は男の周りをぐるぐる回った。

その時、男は自分の目を疑ったのか、目を擦った。しかし、たぶん見ている光景は依然として変わらないだろう。

俺のSCは身体強化系の『迅速ダッシュ』。そして、この能力で走ることにより、残像を作り出すことができる。それにより、男は俺が何人もいるように見えているはずだ。これが他の足の速さを強化するSCとは違う点だ。だから、

「目を擦っても無駄だ。これが俺のSCを利用した応用技、〈残像・(びゃく)(ろう)〉だ」

「・・・・それなら・・・」

 と男は乱射しながら、一回転した。

「・・・・つまり、全滅させればいいってことだ」

 とニヤリと笑った。まぁ、確かに俺の残像は飽くまで目の錯覚。だから、この技も俺が一人で走り回ることでできる残像効果を利用した技だ。残像を使って攻撃なんかできないし、さっき男がやったように、残像全部に攻撃したら普通に本体の俺に当たる。

 子どもの頃、俺は何度もそうやって、ケンカで負けた。無能力者のエマをいじめる能力者とケンカして、俺もそのケンカに参加したこともあったが、その能力者がパンチを周囲に拡散させて攻撃する能力でボコボコにされた。その度に俺は心配するエマに大丈夫だからと苦笑した。

けどそれは、

「・・・・飽くまで、昔の話だ」

「・・・!」

 俺は天井にナイフを刺して攻撃を避けたのだった。

 俺はそれに対抗する力を身に付けた。反射神経を鍛えたり、跳躍力を鍛えたり、そんな努力をした。そして、やっとエマをいじめる能力者を倒した。そうやって、エマを守り続けた。もう二度とエマにあんな顔させたくない。

 その思いは、表の時も、裏の時も同じだった。

 だから、

「これが俺の力だ‼ うらぁぁぁ‼」

「・・・・おあぁぁぁ‼」

 男は天井を蹴り飛ばし向かってきた俺に銃を乱射する。頬を擦り、肩にもあたる。しかし、俺は耐えて、後ろの腰に刺していた俺用のククリナイフ〈フェンリル〉を握る。そして、

「・・・・終わりだ‼ (じん)(ろう)狩猟刃(ハンターナイフ)‼」

 と居合切り。俺は振り返る。男は片手で俺が切って出血させた胸の傷を抑え、口から血を吐きながら、なおも俺に銃を構えてきた。

「・・・・まだやんのかよ」

「・・・つまり、これが俺の信念って奴だ」

「・・・そうか」

 俺はナイフを鞘に納める。

「どういうつもりだ」

「いや、なんだろうな。勝負しようや。俺は抵抗はしねぇ。ガードもしねぇ。回避もな。なんもしないでここから動かないから。俺に当ててみろよ」

「・・・・なめてんのか?」

「いや、まさか。お前で言うところの、つまり、真剣勝負ってやつだ」

「・・・くっ‼」

「その代わり、よく見て撃てよ」

 男は銃を構え、俺を見た。よく狙っていたが、その銃を持つ手は震えていた。そして、


 バンッ‼


 男はトリガーを引いた。天井に向かって。

「・・・撃てるわけがないだろ。そんな無抵抗な相手に・・・・」

 と膝をついて、倒れた。

「・・・まぁ、だろうな」

 俺は男の所へ向かった。男は仰向けになって俺を見た。

「・・・こうなることを予測していたのか?」

「まぁな。というか、試したんだよ。お前の言う『信念』ってやつをさ」

「・・・・その結果は?」

「想像通りだった」

 俺は男に微笑んだ。

「・・・・まったく・・・・最低な奴だ」

「まぁ、銃弾もあんな乱射してたら、もう弾数の残りが少ないだろうなって予想はしてたし、知識系のSCって集中力が切れると使えなくなることは知っていたから。撃たれても致命傷になることはないって予測していたんだ」

「・・・・そこまで予測されてたなら、もうすがすがしいくらいだな。・・・・つまり、完敗ってことだ」

 そう言って男は自分の胸を指さす。

「さぁ、さっさとトドメを刺せよ」

「は?」

「つまり、俺を殺せってことだ」

「・・・・ヤダ」

 俺はしゃがんで男の目を見た。

「・・・なぜだ。なぜ見逃す」

「殺したくないから」

「・・・・情けか?」

「いや、単に面倒なだけ」

「・・・・」

 俺は立ち上がって、こう言った。

「俺だって、無抵抗な奴を攻撃したくない」

 男はただ茫然と俺を見て、

「まったく勝てないわけだ・・・」

 と笑って、気絶した。

 と同時に俺も気絶した。


                    ▼


(・・・・勝てない) 

 エマは目の前の男に吹き飛ばされ気絶。俺はのどが枯れて強声が使えなく、一応、背負っていた鎖鎌で応戦するが、刃がたたなかった。

 その原因は、こいつの能力である。知識系の天候を操るSC。

 じりじりと熱い日を俺の上に出したり、雷を落としたり、突風を吹かせたり。とんでもない能力だ。

「ここは、知識系SCを他より豊富に集めた海賊船だ。まぁ、勿論、他の系統のSCの方が多いが、それでも他の海賊船よりはいるぞ。その中で俺は天候を操るSCだ。あ、そうだ。知識系って、稀に・・・」

「・・・・・⁉」

 俺は腹を殴られた。鈍い音が鳴った。

「・・・と他の系統のSCを持つ奴がいるんだよな。まぁ、知識なんて努力して身に着けえるものだからな。元々SCがあったのなら、それが使えなくなるってことはまず無い」

 俺はさっき男が修理しかけた船の壁に激突した。ちなみにエマも突風で壁に激突して、気絶したのだった。

「・・・・SC二個持ちかよ・・・」

「そういうことだ。諦めて・・・・死ねよ」

 と俺の元へおそらく身体強化系のSCであろう能力利用してこっちに向かって来た。

(・・・やばい、死んだ・・・・)

 俺はそう思い、諦めた瞬間だった。


ピリィ~♪ ピリリィ~♪


 そんな軽快な笛の音が聞えた。

 前を見ると、カラフルな服を着て、カラフルなトンガリ帽子をかぶった人がいた。その人は手に横笛を持ち、軽快で、しかしどこか不気味な音を奏でていた。

「・・・・なんだ?」

 男は頭を傾げ、不思議そうにその光景を見ていたが、俺はもしかしてと、さっきまでエマが気絶していた場所を見た。そこにエマの姿はなかった。

(・・・ラットから話は聞いていたけど、まさか本当にこれがエマなのか?) 

 俺は笛を吹く人をじっと見ていると、

「・・・・な、なんだ‼ この音楽は・・・・・‼」

 と目の前にいた男が急に(もだ)え始めた。そして、頭を抱えて、倒れ込み、やがて動かなくなった。

すると、急にさっきまで軽快だった曲調が変わった。イメージ的にさっきよりも、ものすごく重く、それはまるで憎しみや恨みなどのマイナスな気持ちがこもっていた。

 すると、さっきまで悶えて倒れていた男が急に立ち上がり、船の外へ歩き出した。そして、自分から海に落ち、最初はブクブクと息をしていたようだったが、やがて、その泡も無くなったのだった。



「え~、では‼ チーム『WISH and DREAM』結成を祝しまして‼ 乾杯‼」

「「「「乾杯‼」」」」

 俺はギルドの酒場で酒の入ったジョッキを上に掲げた。

「いや~、今回のクエスト。一時はどうなるかと思ったよ」

 俺が目を覚ますと、そこは手漕ぎボートの上で、エマが俺に膝枕をしていた。

 クエストは成功し、偶然海賊船で見つけた手漕ぎボートで島に向かい、着いた後、一応、ギルドの医療室で精密検査を行って数時間、やっと今に至る。もう時刻は七時をまわっており、外は太陽が沈んで、暗くなっていた。

 俺が気絶した後の事をタクトに聞くと、タクトは皆には『最後の声を振り絞ってなんとか倒した』と言っていた。しかし、島についた後、俺にこっそり、『エマが例のよくわからん能力で倒した』と言った。俺はその話を詳しく聞くと、何でもいきなり笛を吹く奴が現れて、そいつが半壊した船の外、つまり海にまるで男を操っているかのように追い出して溺死(できし)させたと言った。

 俺は、

「お前さ、笛を吹く人が出てくる話とか、昔本で見たことないか?」

 とエマに聞くと、エマは笑って、

「急にどうしたのさ。そんな本いっぱいあるよ」

 と言った。だから、俺は

「例えば、海とか、川とか、そんなの所まで敵を笛で誘い出して、溺死させたみたいな話だ」

「笛の音で誘い出して・・・・溺死ね・・・いや、待って。あった」

「本当か?」

 そう聞くと、うんと頷いて、

「『ハーメルンの笛吹き男』って話」

「ハ、ハーメルン?」

 俺は聞いたことのない話に首を傾げた。

「東洋で起きた、まぁ、事件みたいなもので、そこではネズミが大量発生して、町の人達は困り果てていた時、笛を持ち、色とりどりの衣装を着た一人の男の人が現れたんだよ。んで、その男は『報酬でお金をもらえるのなら』っていう条件で、ネズミを笛の力を使って、近くの川まで一匹残らず溺死させたんだ」

「へー、んじゃ、ネズミがいなくなって平和になったのか?」

「いや、それがひどい話でさ。この町の人達はあまりの報酬のお金の高さに払わなかったんだよ。だから、男はそれに怒った。結果、一度その男は街から姿を消したんだけど、住民が昼間に教会で祈ってる時、男は再び街に現れて、笛を吹きながら歩いたんだって。そしたら、住民の百三十人くらいの子供たちが家から出て行き、その男に続いて歩き出して、町の外へ出て行った。そして、その町の市外にある山腹のほら穴にその男も、子ども入って行き、その後、二度と戻ってこなかったんだって。ちなみに、その穴は内側から岩で塞がれてたって話。一応、耳の悪い子とか、盲目、足にケガを負っていた子なんかは助かったらしいよ」

「・・・・なんだよ、その最後」

 エマはジュースを一口飲み、

「まぁ、飽くまで童話だけどな」

「・・・・ビビらすなよ」

「実話をもと作ったって話らしいんだけど」

 と言って俺を見て、

「それで、この話が何だってんだよ」

 と首を傾げた。俺は、そんなエマに、

「大丈夫。なんでもない」

 と笑って見せた。エマは肉を頬張り、

「・・・・変なラット」

 と呟いた。


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