第三十三話 昔と今
昔、僕はカレンと ケンカしたことがある。
始めは些細な事だった。子供がよくやるような、ようは口喧嘩だ。今思えば実にどうでもいい、馬鹿らしいケンカだった。
僕達はいろんな世の中の基本知識を学ぶために、学所〈ラジクホルン〉という場所で五歳の頃から、十一歳になるまで、いろいろなことを学ぶ。
そして、そのケンカは八歳の時だ。当時はみんな微弱だが身体強化を中心としたSCが覚醒し始めている時だった。そんな頃のお昼時。各自家で作ったもしくは、作ってもらった弁当を出して各々ご飯を食べている時の話だった。
僕は当時から仲の良かったカレンと二人で机並べてご飯を食べていると、
「エマも災難だよね~」
「え?」
カレンが急にそんなことを言ってきた。
「何が?」
「だってさ、皆、SCが使えるのに、まだ使えないなんて。災難だなって」
「いや、まぁ、僕は普通だから・・・・本読むことくらいしか好きな事ないし・・・」
「地味だね」
僕はたぶん、この一言に少しイラッと来たのだろう。
「・・・別にいいじゃん」
ちょっと拗ねて答えると、カレンはえ~と言って、
「もうちょっと趣味とか、好きな物とか増やそうよ‼ 私も一緒に・・・」
「うるさいな‼ ほっといてよ‼」
僕はついついそんな怒鳴り声を上げてしまった。すると、
「は⁉ エマのために一緒に考えてあげてるんじゃない‼」
「誰が頼んだんだよ‼ そんな事‼」
「・・・・っ~‼」
とそんな声にならない声を上げたカレンは僕の頬をひっぱたいた。だから、僕もひっぱたいた。そして、ついに殴り合いに発展していき、さすがに見ていた周りの奴らが止めに入る形でケンカは終わった。ただ、僕が攻撃出来たのは始めのビンタと殴り合いを始めた直前の二発だけ。その後はカレンがSCで僕の事をボコスカと殴って終わった。
まぁ、要は僕の惨敗で終わった。
そして、
「どうしたの? エマ・・・・もう終わり⁉」
「・・・っ‼」
また昔のように負けそうになっていった。右膝をつき倒れる僕を見下ろして、カレンは
「もういいよ、エマ。ここに何の用があるのさ。退きなよ」
と言った。そして、仲直りをしよう、と手を伸ばしても来た。そんなカレンに僕は、
「・・・・そうだな」
と呟き、
「それが本当のカレンの言葉ならな‼」
と言って、僕は手をはたいて後ろにおもいっきり下がった。
「・・・本当の私?」
「あぁ、君は本当のカレンじゃない。本当のカレンなら、そんな迷ったような表情を浮かべないし、そんな曇ったような目はしていない」
「迷っている・・・ですって・・・」
「あぁ、君は迷ってる。僕を殺してもいいのかとな」
「何を言ってるの? エマ」
声を震わせて言うカレンに僕はニヤリと笑って言った。
「なら、殺す気で来い‼」
そう言うと、カレンはため息をつき、
「エマ・・・・これがあなたの考えだって言うのなら、策だと言うのなら、いいでしょう。・・・・殺す気で行きます‼」
そう言って、両手にナイフを持って駆けて来た。
そして、僕の目の前まで来て、右手ナイフを勢いよく横に振った。僕はそれをかわし、カレンのナイフが握られた右腕を右手で受け止め、右足でお腹を蹴ろうとするが、それを左腕でガードし、左足を軸にして、回し蹴り。僕の背中を蹴り飛ばした。
「・・・くっ‼」
僕はカレンの追撃を防ぐため、側転をして、後ろに退いた。しかし、
シュンッ‼
そんな音が聞えたかと思うと、目の前にはカレンがいた。そして、
「・・・遅いですよ。エマ‼」
と僕のお腹を思いっきり殴った。
「・・・・がっ・・・・‼」
僕は仰向けで倒れると、カレンは馬乗りになった。
「何か言い残すことはありますか?」
「・・・・くっ」
僕はそんなカレンを睨みつけることしかできなかった。




