第二十八話 想定と実力
「やっぱ来たか、お前ら」
準備が終わり、僕たちはさっき決めた、正面突破の前衛、船で裏へまわって奇襲を行う奇襲班、そして、前衛サポートとギルド防衛の後衛に分かれ、行動を開始した。
それで、ギルドからこの島の東の洞窟に住み、比較的安全で大人しいことで知られる『グロッピー』と呼ばれる竜が引く乗り物『竜車』に乗る事、三十分。
貧民街につき、早速想定外の出来事が起きた。
奴ら、IKNOWが待っていたのだった。貧民街の前で。およそ三人くらいだ。その中の一人、さっきシルフィンを攻撃してきた女が僕達にそう言った。
すると、フウさんは、
「お前ら、そこで何してんだ?」
と聞いた。すると、鼻で笑って、
「私らか? 何ってここを根城にして、縄張りとして、暮らしているだけだが」
「やっぱり、ここがアジトだったのか。他の奴らは逃げたのか?」
「さぁ、それをなぜ君らに言わなきゃいけないんだ?」
フウさんが舌打ちをして何か言おうとすると、
「・・・・めんど」
という呟きが聞こえ、気付けば、アメさんがその中の一人の顎を蹴り飛ばしていた。
「・・・・っ‼」
ため息をついたアメさんは、
「あいつ、俺やるから、他は任せる」
「・・・・この‼」
そう言って、別の黒いマリンキャップをはいた男が蹴り飛ばすが、
「おっと・・・」
そう言って、背中をのけぞった。というか、
「・・・・は⁉」
その場にいた全員が同じ反応をした。敵味方関係なく全員がだ。いや、よく見れば、フウさん以外全員だ。背骨、というか腰は絶対に九十度も曲がるわけがない。曲げたら絶対に折れる。しかし、アメさんは曲げたのだ。九十度も。
フウさんは
「相変わらずあいつのSCはすごいな。幼少期かだらけにだらけすぎて、気持ちとかまで緩くなって、結果それがSCになったんだっけ。柔軟っていうSCに」
と苦笑しながらフウさんはそう言った。そして、
「まぁ、確かにアメの言う通りだな。面倒だ。こっからは実力行使で行くがいいな?」
「さっきのような醜態をさらしといてよく言うな」
「さっきの突然だったからだ‼」
そう言って、フウさんは女の所に駆けて行き、僕らも後に続いた。
そんな中、僕はある事を思った。
(・・・・対応が速すぎないか)
と。
△
「エマと一緒が良かった」
「仕方ないだろ? 俺らなりに考えて、この班わけが一番ちょうどいいことがわかったたんだから」
「そうですけど・・・」
そう話しかけて来たタクトにため息をつき、海を見た。船で櫂を漕ぎながら。
「というか、なんで小舟なんですか?」
「大船で言ったら、ばれて奇襲にならんだろうが」
「帆船とかなかったんですか?」
「急に言われて出せる帆船は一つしかなかったんだ。じゃんけんに負けちまったし、贅沢も言えんだろ」
「私、SCで運上げたのに・・・」
「七鬼のSCを弱体化させる能力をもった奴がいるんだぞ? SCでお前の運上げても、弱体化されておしまいだ」
そう言って、ひたすら船を漕いだ。
(あ~、なんていうか、暇です)
とぼんやりとしていた。その時だった。
ドンッ‼
とそんな爆発が急に起き、気が付けば海の中にいた。
Φ
『・・・前衛の正面突破で集中させといての、後ろからの奇襲とは・・・考えましたね、あなた達』
(お前、いつからいたんだ‼)
急に上から落ちて来た、黒い一本結びの髪と灰色のマフラーを付けた女がそんな感じの事を話したのだろうと想像して、僕はそう心の中で叫んだ。
(いつから・・・か。その質問に対して私はこう答えよう。あなた達が気絶したのは見た、と)
(始めからってことか)
(まぁ、そういうことになりますかね)
(・・・っ‼)
女の頭の中に言葉を送って、僕は目の前の女と会話しているため、その言葉が聞こえない周りの皆はただ唖然とそんな僕達を見ていた。正直、僕もまだ心の中が整理できていない。当然だ。この状況は極めてまずい。敵に作戦がばれているのだ。
そして、女は無表情のまま鼻で笑うと、
(まぁ、どの道、奇襲は失敗だったろう。私達の領地に近づく者をすべて破壊する兵器を私達の組織のクエスタントは開発した。勿論、顔認識機能付きで私達の仲間は攻撃されない)
(そんな・・・)
そして、女は周りをみて、くないを出し何かを言った。そして、私の方を見て、
(すまない。君は声が聞えないのだったな。よく覚えておけ。私はIKNOWの幹部一人、『プリテンダー』だ。そして覚えておけ。これが今からあなた達が敵に回す、組織の実力です)
そう言って、僕の所にもの凄いスピードで駆けてきた。




