第二話 夢と望み
「どうしたの、エマ? 最近ちょっと変だよ?」
「ん? あ、ごめんな。少し考え事してて・・・」
「いったい、何があったんだよ」
僕は彼、ラットの言った、
『命かけれるか?』
という一言になぜ迷わず頷くことができなかったのかを考えていた。
いや、少し戸惑った。
『・・・・そんな覚悟でこの世の中変えることができると思うな』
その一言で少し無理なのかもしれないと思った僕は情けなく思い、その場を立ち去った。
そして翌日、グミを肩に乗せて街を歩いていた。
「なぁ、グミはこの島と王国が手を結ぶってとこ想像できるか?」
「いや、全然」
グミは首を振り答える。僕は俯いて、
「だよな・・・」
「・・・・いや、ほんとにどうしたの?」
グミは少し引いていた。僕はそんなグミに
「いや、この島の人達って、王国の人達と本当は仲良くしたいんじゃないかなって・・・・それは単なる僕の思い込みなのかな・・・・」
「う~ん。エマがどんな気持ちで、昨日何があったのか、そんなこと僕にはわからないけど・・・・・少なからず、僕やカレンは王国の人と仲良くなりたいって思うよ。前みたいな戦争になるよりだったら」
「でも、それは思うだけ。そんなの『夢』と同じで、形にはできない」
「そりゃ、そうでしょ。どんなに歩み寄っても、結局、王国側が僕らを拒絶するじゃないか」
「だよな・・・・やっぱり、夢とか、望みを叶えたいとかいう気持ちは理想論なのかな?」
「それをどうにかするのが君ら島ギルドの仕事だろ?」
グミは僕を見てそう言った。
「らしくないよ。エマ」
「そんなこと言われたって・・・・」
僕はまた腕を組み考えていると、昨日試験後に無料配布された通信機が鳴った。どうやらカレンからのようだ。
「もしもし? どうしたの?」
「あ、エマ‼ 今依頼受けようと思うんだけど、一緒に行かない?」
「ん~、そうだな。行こうかな。いいぞ。今からそっち行く」
「うん」
僕はカレンからの連絡を絶ち、ギルドに向かった。
(まぁ、少しは気分転換になるだろ)
◇
『君はなんで笑わないの?』
『あの子、不気味よね』
『睨まれた。うわぁ寒気が・・・・』
俺は昔、そんな事をたくさん言われて生きてきた。
父さんは俺が五歳の頃他界し、その五年後には母さんが他界して、母方の祖父母に引き取られた。
ただ、その頃からだったか、その前からだったかは忘れたが、気が付けば、俺はあまり笑えなくなっていた。
別に嬉しければ喜ぶし、面白かったり、楽しければ笑う。ただ、物事を冷静に考えるようになってしまって、いろいろ考えてしまって、その内に思いっきり声を出して笑えなくなった。
そんなある日、通りすがりのとある老人に、
『ギルドに入ってみなさい。きっと探しているものが見つかる』
と言われた。
まぁ、その老人は俺のギルドのマスターなのだが、とにかくそう言われた。
そして、俺はいつの間にか目標ができていった。
いつか、俺を含めたこの島の人達や、王国の奴らも笑って暮らせたらと。
そう思っていたある日、たまたまマスターと酒場で二人きりになって、目標を聞かれた。俺はそう答えると。
『それに命をかけられるか?』
と聞かれた。俺は頷きながらも少し戸惑った。それはマスターにも見られていたのかもしれない。しかし、マスターは笑って、
『その言葉は忘れないぞ』
と言ってその場を立ち去った。
そして、現在。俺はいろいろ現実を知って思う。それは無理なのではないかと。
タクトにその目標を言うと、笑って、
『なんとかなるでしょ』
と返された。
しかし、何ともならなかった。それを俺はあの神聖剣使いの男との戦いで気付いた。だからこそ、あのアホのようなタクトと同じように安易にエマの考えに頷くことができなった。
その目標の大きさを知って欲しかった。
願望でなくなるほど戦争は単純な問題じゃない。『無理でした。チームやめます。解散します』なんて言われたら、本気でやってるこっちはたまったもんじゃない。だから、確かめる意味で聞いたのだった。
『命をかけれるか?』
と。エマは頷くこともできず、固まっていた。俺はその瞬間、『あ、これは無理だな』ってそう思った。
(な~んて、そんな事。エマはわかるわけがないよな)
そりゃそうだ。というか、俺も昨日は、少し神聖剣の野郎に負けて、むしゃくしゃしていたのかもしれない。八つ当たりだったのかもしれない。いや、八つ当たりだった。
今はただ、
(言い過ぎた・・・)
と思いながらギルドの酒場で酒を飲んでいた。ちなみにお酒は一応、強いほうである。
「それで、ラット君はその子に言い過ぎたから反省してると・・・・」
「・・・そりゃな」
酒場の黒髪を看板娘のコノエちゃん。時たまここでよく話を聞いてくれる、良き相談相手である。
「まぁ、そうね。ラットは自分に厳しく、人にも厳しくってタイプだから、たくさんぶつかるのよね、いろんな事に。けど、ちゃんと自分に非がある場合は謝らないとね。それが人としての当然の事よ」
「そうだな」
俺は立ち上がり、エマに謝って、『一緒に依頼に行こうと』と誘いに行こうとすると、
「あ、お代。八百ゲルね」
と笑って引き止められた。俺は自分の座っていた席の机の上を見ると酒を五杯飲んでいた。一杯百ゲルだから割に合わない。俺はコノエちゃんの顔を見ると、
「あ、相談料三百ゲルになったの・・・最近、相談だけして帰る人がいるからお金を取るようにしたの」
そう言って笑う彼女に、俺はため息をついて八百ゲル置いて行った。全く、そういうところはちゃっかりしてる。それがコノエちゃんこと、コノエ・ノースなのだった。
「え? 依頼に行った?」
「はい。先程、エマさんはカレンさんと一緒に島の南にある洞窟のモンスターを退治されに行かれましたよ」
少し焦り気味の俺に、ギルドの受付担当のサキさんはきょとんとした顔で答えた。
この島には各方角に洞窟がある。南は玄武という伝説級の大ボスの縄張りで、たくさんの独自に進化した爬虫類や両生類系統のモンスターが時々、村に食べ物を求めてやってくる。
そして今は食物がたくさん収穫される時期。各方角の洞窟からのモンスターがたくさん出てくる。
そのモンスターを倒すのがこの時期の俺達各ギルドの主な仕事だった。
「大丈夫なのか? あの二人・・・」
俺は、新人で入ったばかりの二人を心配し、さっきよりも焦り気味に聞いた。すると、茶色い髪の毛をくるくるといじりながら、
「大丈夫だと思いますよ」
と答えた。そして、俺の方を見て、
「だって、今回の試験。ギルドで噂されていた合格候補者を三人くらい倒しましたし、その二人」
「・・・・え?」
その一言に俺の頭がついていけなかった。
「あれ、聞いてませんか? 『今回の試験に死神と悪魔が出た』っていう噂。なんでも今回の試験を受けた人達が口を揃えてそう言っていたらしいんですよ」
「まさか、その死神と悪魔って・・・・」
「まぁ、おそらく・・・・いったい、どんな能力のSCなんでしょうかね」
「・・・・」
俺はそう言って笑うサキさんの前で俺は数分間立ち止まり、頭の中を整理して、とりあえず心配なことは変わりないので南の洞窟に向かった。
◆
『南の洞窟・フレイムリーザ討伐依頼』
南の洞窟についた僕はそう書かれた依頼書を見てカレンとグミに、
「ついに着いたな」
と言った。するとグミが、
「依頼の敵の『フレイムリーザ』は人型のトカゲで、集団で行動する。口から火を吐き、火炎の剣を使い、火炎の槍を使い、火炎の弓矢を使う。さらにこれは全モンスター共通だけどSCも使える。でも、一体一体はあまり強くはないよ」
この島は独自に進化したモンスター達が洞窟に住んでいた。毒を吐く鳥とか、力が異常なほどおかしい獣とか、固いうろこを持ったトカゲとか、童話の世界でよく見るゴブリンやら、ドラゴンなんかもいたりする。
また、今回の敵であるリーザのように集団で行動するような敵もいれば、単独で行動する敵もいる。
僕はSCが無いため携帯していた小剣〈コモイナイフ〉を握った。
「コモイナイフか。エマ、本当にそれでよかったの? 普通に片手剣とか、両手剣とか買ったほうが良かったんじゃないの?」
「いや、いいよ。僕だって、SCいつか使えるようになるだろうし」
「そっか。まぁ、たしかに基本武器はほとんどの人が護身用に持っているだけだしね」
「うん。・・・・というか、いろいろよく知ってるな。モンスターの事とか、人間のこととか」
「僕のSCは『好奇心強化』。他のどの生物よりも好奇心旺盛で、だから人の言葉も辞書で調べたりして学んだし、洞窟の中に入って探検なんかもした。だから、わかるんだ」
「へ~、好奇心強化ね・・・」
と僕は苦笑してそう言った。なぜなら、
(今知ったんだけど・・・・僕も・・・・)
グミのSCなんて実のところ知らなかったのだった。
「フレイムリーザは洞窟の少し奧にいるはずだよ。それこそ昔の人と似たような生活をしているはずだけど」
「昔?」
「狩りとか、釣りとか、果実の採取とか、そんな生活して暮らしている時代のことだよ」
「それは、かなり昔だな」
僕はそう言ってまた苦笑した。
そして、洞窟の中を歩く事、数分。
僕らは明るみ、もとい大広間に出た。そこには赤い二足歩行で歩くトカゲのフレイムリーザが火を囲い、円を描いて踊っていた。様子から見て宴をしているようだ。
「なんで宴をしているんだ?」
「きっと、食物に感謝でもしてるんじゃないかな?」
「自分たちが作ったわけでもないのに?」
「・・・・う~ん、でも他に理由があるかい?」
そう言って三人で近くの岩場まで近づいて覗いて見ると小さな生まれたての赤ん坊がいた。およそ、三十体くらい。
「あぁ、そっか。フレイムリーザって最大で子どもを十五体くらい一気に産むんだよね。だから、何体かが同時に産まれて、きっとその無事に産まれてきてくれた感謝祭みたいな感じじゃないかな」
「・・・なるほど。んじゃ、狩らないほうが良くない?」
「まぁ、そうしたいのは山々なんですが・・・」
そう言って、さっきからずっと黙っていたカレンが後ろを指さし言った。
「もう、ばれてます」
と。
「ちょっと、カレンさん‼ もう少し早く言って欲しかったのだけど⁉」
「いやだって、エマ反応しなかったじゃん‼ 自分のペットと戯れててさ‼」
「お二人さん‼ 口喧嘩してる暇があったら、手を動かしてくれないかな? このままじゃ食われるよ‼」
場所がばれた僕たちはそのまま壁際まで追い込まれ、囲まれてしまった。
「おいおい。どうすんだよ、これ・・・」
「まずいな・・・」
とりあえず、僕達は前衛の僕と、後衛のカレンにわかれて迎撃していた。
僕は飛び掛かって来た一匹を斬り飛ばす。しかし、別の一匹がまた飛び掛かって来たため、かわして蹴り飛ばす。すると今度は二体同時にかかってくる。だけど、負けずにカレンは持っていた弓で応戦した。そんな、倒しても、倒しても減る様子のないフレイムリーザの軍隊との攻防を繰り返して三十分くらい経っただろうか。しかし、フレイムリーザの軍勢は未だ衰える様子を見せず、僕とカレンの体力とスタミナが減る一方だった。
「どうやら、リーザ達は治療班と戦闘班にわかれて戦ってるようだよ」
小さい体でフレイムリーザの足元を走って敵陣の様子を伺ってきたグミがそう言った。
「まぁ、そう予想はしてたよ。敵の本拠地だもんな、ここ。けど、こんな強いの?」
「強さは予想してなかったね」
そう言ってグミは僕の肩の上に乗った。
一応、後衛にいるカレンのSCで回復はしてもらっている。しかし、これはどのSCにも共通することらしいが、それぞれに欠点がある。
カレンの能力は体力と精神力が必要である。感情を維持しないといけないからだ。カレンの場合、『喜』で体力回復、『楽』で運を上げる。だから、感情を維持しないといけないため、かなりきつい。
「・・・・ダメだ、一回ここを出よう」
僕はそうカレンに伝えると、納得したのかカレンは頷いた。
ただ、僕はここでミスをした。逃げることしか考えられなくなり、周囲が見えていなかった。その結果・・・・
グチュッ
そんな気持ちの悪い音と痛さが同時に襲い、ふと自分の腹を見ると火のついた矢が刺さっていた。
◇
「いやぁぁぁ‼」
俺はそんな叫び声が洞窟から聞こえて、慌てて走った。
すると、明るい所に出た。どうやら、リーザが生活している拠点のようだ。そして、
「⁉」
俺は入ってすぐ周囲を見ると、リーザの群衆が一か所に集まっていた。
(・・・どうなってるんだ?)
俺はとりあえずその群衆へ向かおうとした瞬間だった。
「・・・・コロス」
その一言が聞こえた次の瞬間、
グシャッ、バキャッ、バチャバチャバチャッ‼
と次々と何かを斬る音が聞えた。そして、それと同時にリーザもどんどん倒れていった。どうやら、あの場所で誰かがリーザを斬り殺しているようだった。そして、
「・・・・コロスコロスコロスコロスコロス・・・・・ブチコロスッ‼」
と斬り殺している少女が現れた。それは二つの小剣を持ったツインテールの少女だった。そして、後ろでは、
「なっ‼」
そこにはエマが気絶して、壁に寄りかかっていた。よく見ればお腹から血を流していた。
「シネ、シネ、ミナゴロシダ‼」
そう叫んで、身体にリーザの返り血を浴びながら、両手のナイフを振ったり、足で蹴り飛ばしたりして、リーザを倒していた。しかも、動きが早く、リーザの反応では反撃どころか、動く事すらできていなかった。そして、その立ち回りは一見、適当に敵を斬りきざんでいるかのようだが、その斬りきざまれているリーザは負傷し壁に寄りかかるエマに近寄って来た敵ばかりだった。
しかし、だんだんその少女の動きは鈍くなっていった。たぶん、原因はスタミナの消費だろう。
(・・・・このままじゃ、まずいな)
そう思い、リーザの群衆を睨みつけて凍らせた。
「・・・‼」
それに気づいた少女は俺を見て、
「・・・・チッ」
と舌打ちをして、睨んできたが、俺は気付かないふりをした。
そして、ひたすら周囲のリーザを凍らせた。しかし、きりがない。
(これはリミッターを解除した方がいいか・・・・)
俺は少し考えた。しかし、リミッターを解除すると身体にとてつもない負担がかかる。というか、意識が飛び、無心の集中状態になって、下手すればエマや両手ナイフの少女にまで当たってしまうかもしれない。そんなリスクがあるため、その考えは消した。
しかし、このままでは状況が悪化するばかりだった。
それに相手はよりによってフレイムリーザだったようで、相性が悪かった。俺がせっかく凍らせても火で溶かし、無効化した。
一方、両手ナイフの少女はスタミナ切れが近いのか息が荒かった。
そんな中、大きな岩で作られたハンマーを持った大型のフレイムリーザが現れた。そのリーザは高く跳び、ハンマーを俺のいた地面に叩きつけた。
俺は凍らせようとするが、なかなか凍らない。皮膚の温度が基本高いのはフレイムリーザの特徴だ。だから、きっとそれがSCでパワーアップされているのだろう。
俺は凍らせるのを諦めて攻撃をかわす。しかし、もしかしたら、それが狙いだったのかもしれない。強く地面に叩きつけたことによって、砂が舞い、目に入った。
(・・・クソ、目くらましか)
そう思って、目を擦り、前を見ると、さっきのハンマーを持ったフレイムリーザに吹き飛ばされる。一瞬、意識が飛ぶが、なんとか立ち上がり、前を見る。すると、エマにリーザ達が集っていた。
(・・・やばい‼)
俺は心の中でそう叫び、走り出す。しかし、間に合いそうになかった。
(・・・・ダメか・・・)
ふと、両手ナイフの少女見る。しかし、その少女は膝に手をつき、ついに限界を迎えていた。
(万事休すか・・・・)
俺はそう諦めた瞬間だった。
ボンッ
そう鈍い音をたて、爆発し、俺もそれに巻き込まれた。そして、しばらく辺り一面が真っ暗になった。
そして、時間が経つにつれ、徐々に明るくなっていった。俺は周囲を確認する。
すると、ほとんどのリーザは気絶していたものの、俺と両手ナイフの少女は無傷だった。
ただ、それはなぜなのか考える前に目の前にいた者の存在に驚く。
そいつは黒いローブを羽織り、大きな鎌を片手に持った者だった。そして、その時エマの姿はやはりなかった。
俺はその時、今回の試験の話をしていたサキさんの言葉を思い出す。
『今回の試験に悪魔と死神が出た』
まさかと思った。しかし、辻褄はその考えと一致した。
悪魔。それはきっと両手ナイフの少女の事だと。死神はエマのことだろうと。
(しかし、エマの仕組みが未だにわからない)
その後、死神によってフレイムリーザの軍勢は一掃され、死神はどこかへ消え、エマがさっき気絶していた場所に突然現れた。
◆
「・・・・」
「・・・おう、目が覚めたか」
僕が目を開けると、目の前にラットが座っていた。僕は驚いて起き上がる。
(あれ? たしか僕、お腹を刺されたはずだよな・・・・)
そう思い、お腹を見ると傷口がなぜか治っていた。ラットの顔を見ると、首を振って、
「俺が見た時には治ってた」
と言った。周囲を確認するとフレイムリーザの死体が転がっていた。そして、ラットの横ではカレンが寝ていた。しかし、カレンの顔は返り血で汚れていた。
「・・・何があったの?」
僕はラットにそう聞くと、ラットは、
「本当に覚えてないのか?」
と聞いてきた。僕はラットの言っている意味がよく分からなくて、首を傾げた。するとラットは、そっか、と言って
「この子と俺が協力して倒した」
と答えた。そして、ラットが僕を見つめて言った。
「二つくらい聞いていいか?」
「・・・なんでしょう」
「この子、えっと・・・」
「カレン」
「そう、カレンさん。この子ってどんなSCだっけ?」
「・・・前にも言ったけど、感情系のSCだ。喜怒哀楽の四つの感情に能力が付与している。僕が知ってるのは喜と楽だけ」
「・・・・哀と怒は・・・」
「・・・わからないよ。そんなの・・・」
僕は瞬きしてそう答えた。ラットは、そうかと頷いて、
「・・・んじゃ、次の質問だけど、エマは『雪女』とか、『死神』とか、それに関連した物語を見たことあるか?」
「・・・昔ね。それが何?」
「・・・いや、大丈夫。ありがとう」
ラットの二つの質問が終わり、少し沈黙が起こった。僕は耐えきれなくなり、つい、
「なんで来たの?」
と聞いた。すると、ラットは
「・・・そうだな。理由はいろいろあるが・・・とりあえず依頼書ちゃんと見たか?」
「・・・見たけど」
「読んでみ」
僕はため息をついて、バックから依頼書を出し、依頼内容を読む。
「『洞窟に住むフレイムリーザの討伐』だけど・・・・それが?」
「最後まで読んだか?」
「え?」
僕は依頼書をもう一度見る。すると、小さい文字で『但し、ランク上位者でない者の場合に限り、洞窟に生息するフレイムリーザを狩らなくてもよい』と書いていた。
「・・・これって」
僕はそう言ってラットの顔を見るとラットは頷いて、
「上位者はSランクからの事だ。そういうミスをしてたくさんの新人が死んだ」
「・・・・」
ラットは僕を見て、真面目な顔で言う。
「いいか。この依頼書の内容を正確に説明すると、フレイムリーザは少数で狩りをするために外に出る。初心者は大概それを狩る。洞窟に生息するのは量が多すぎるからな」
ラットはため息をついて遠くを眺め、
「・・・俺もさ。夢がある」
僕はその突然の一言に反射的に、
「・・・それはどんな夢なんだ?」
と聞いた。すると、僕の方を向き、
「この世界で生きる奴らが笑っていける世界を作るっていう夢」
ラットは一呼吸おいて話す。
「・・・昔さ。俺は自分のSCが嫌いだった」
「・・・なんで?」
「だって、この目で睨めば凍ってしまうんだもん。人も物も。そのせいで怖がられて、いじめにもあった。そして、このSCを制御できるようになるまで時間もかかった」
ラットは壁に寄りかかった。
「・・・それで?」
「死のうって思った」
「え?」
ラットはまた遠くを眺めてそう答えた。
僕はその一言に驚いて、ラットの顔を見つめる。ラットは視線を変えず、無表情なまま話を続けた。
「けど、そんな時、母さんがさ。『いつかお前みたいな奴でも、思いっきり笑っていけるような。そんな世の中を作れたらいいな』って。だから、俺はそんな世界を作る(・・)んだ。作りたい(・・・・)じゃなくてな」
「・・・⁉」
「気付いたか?」
ラットは僕の目を見てそう言った
「お前はあの日、俺に『したい』って言った。別に個人でそうしたいなら自由に目指せばいいさ。けど、俺はそんな曖昧な気持ちの夢に付き合えない。俺は『したい』じゃなくて、『する』からさ」
「・・・っ‼」
「まぁ、でも・・・・」
そう言ってラットは立ち上がり、
「すまん、あの時は言い過ぎた。俺も神聖剣の野郎に負けたて、苛立ってたんだ。ほんと、すみませんでした」
そう言って、頭を下げた。僕は座ったまま、安座をして、顔で膝を隠して、
「・・・もういい。大丈夫だ。たくさんの人から似たようなこと言われてきたから。心配してくれてたんだね。ありがとう。あと、助けに来てくれてありがとう」
そう言って手を差し出す。すると、ラットもその手を握った。そして、
「でもやっぱり、正直、俺は君らが心配だ。だからさ、エマ。手伝わせてよ。その夢と願い」
「・・・え?」
僕は驚いて、思わず聞き返す。すると、
「エマのチームに加入したいってこと」
その目はいつも冷たく感じるのに、今は妙に温かった。
しかし、僕の頭は嬉しさと『本当にいいのかな?』って気持ちと、そして、未だにさっきの驚きが残り混乱していた。だから、やっぱり次に言った言葉は、
「・・・・いいの?」
という質問だった。すると、ラットは笑って、
「その夢に命をかけれるのならな」
と言った。その質問に今度はすぐ答えられた。
「僕は考えが甘かった。『たい』じゃダメなんだよな。うん、わかってる。少し自分でもできるかわからなくて、心配だった。けど、皆がいるなら。カレンやグミ、そしてラットがいてくれるなら、一緒に頑張ってくれるのなら、こんな命いくらでもかけてやる」
僕はそう言って、ラットに言った。
「だから、僕に力を貸してくれるか? ラット」
そう言うと、ラットは頷いて、
「いいだろう。貸してやるよ俺の力」
「そか、んじゃ。改めてよろしくな」
とそう言って僕とラットはハイタッチをした。
「えっと、では僕から。僕の名前はエマ。本を読むのも、書くのも好きだ。どうかよろしく‼」
今回のフレイムリーザ討伐依頼の報酬を受け取り、ラットと山分けした後、僕、ラット、カレンは席につき、グミは僕の肩に乗った。そして、ラットの隣にはラットと初めて会った時のティーショップでぺこぺこ必死に謝っていた赤髪の男がいた。
なぜ集まってもらったかというと、チームを作るため、各々に自己紹介をしてもらい、このチームの人がどんな人なのかを知ってもらうためだった。
チームとは二人以上で組むグループの事で、パーティーとは違い、ギルドに公開される。なお、チームに所属している人は、他のチームの人とパーティーを組むことはできるが、チームを組むことは不可能である。
「んで、こっちはカレン」
「・・・・よろしくお願いします」
「カレンは洞窟の中でも話してけど、感情系の能力者だよ。それと、こっちは・・・」
「エマの相棒のグミ。僕のSCは『好奇心強化』。以上」
「って感じのメンバーなんだけど・・・」
「そか、わかった」
そう言ってラットは頷いた。
「俺はラット・カルム。SCは身体強化系で標的を睨んで凍らせる能力。そんで、俺の隣に座ってるこいつが・・・」
「タクト・フリーアースだ。ラットとは元々チーム組んでいたから、その流れでこのチームへの加入をすることになった。SCは『強声』。声を強化して、岩を砕けるほどの強い衝撃波を口から出し、相手を攻撃する。そんな能力だ。以上、よろしく」
と言ってタクトと名乗る男は席に着いた。
「まぁ、そんな感じでこれがチームメンバーになります」
僕がそう言うと、ラットは頬杖をつき、
「エマ。チーム名はどうする?」
「チーム名?」
ラットはため息をついた。カレンがそんなラットを睨むが、僕がなだめる。
「チームに作成に必要な条件は、リーダーとサブリーダーの任命、あとはチーム名だ。というか、常識だぞ。それ」
「わかった。・・・・えっと、ラット? 性格と態度が変わってない?」
ラットは、別にと首を振って、
「・・・・仕事モードだ。俺ってこんなもんだよな、タクト?」
「・・・まぁ、そうだね。ただ、もう少し優しくしてやったら? その、女の子なんだし・・・」
「くだらん」
唸り続けるカレンをよそに、今度はラットとタクトが睨み合う。というか、この二人に関しては『元々チーム組んでいた』って言ってたよな? 仲が悪いのだろうか。
「なんか、すごいチームだね」
とグミが苦笑い。僕はため息ながら、机をバンッと叩き、
「はい、注目‼」
僕がそう言うと、机に座っているラット達以外のギルドの人達もみんな注目したため、とりあえず、何でもありませんと小声で謝り、頭を下げた。
そして、咳払いをして、
「えっと、これから僕らは同じチームなんだから、ケンカしちゃだめだろ?」
「・・・初対面の奴に言われましても・・・」
「うるさいなぁ、黙って聞きなよ」
タクトの発言にため息をついたグミがそう言うと、タクトは睨んで、
「なんだよ、文句あんのか? チビ助」
「君さっきから態度がでかいね。肝っ玉は小さいくせに」
「あ? いい度胸だ。相手なってやるよ」
「やだね、やだね。こういう血の気の多い奴は・・・・戦う事しか脳にないのかな?」
「それな」
とカレンとグミがクスクス笑い煽った。それにイラついたタクトが
「あ? なんだ・・・・」
パンッ‼
そこで僕は両手を叩いた。再び僕に視線が向く。僕はそれを確認すると、
「・・・・話してもいいかな?」
とみんなに聞くと、みんな黙ってうなずいた。
「それで、チーム名だよね。これは西洋の言葉を使ったんだけど『WISH and DREAM』って名前はどうかな? 『夢と願い』って意味なんだけど」
「なんで、その言葉を選んだ?」
「うん。僕とか、ラットとか、まぁ、他の人もなんだろうけどさ。『夢』ってあるよね。それと『願い』も。でもさ、『夢』も、『願い』も思うだけ。だから、叶えたい『願い』も、結局それは形に出来ない『夢』と化す。それは僕らだけじゃない。他の人も、思うだけじゃ意味がない。形にしないと。だから、『夢と願い』を形に出来るように。そんな意味を込めてこのチーム名にしたんだ。まぁ、チーム名って言うよりは、チームテーマかな」
「なるほど、わかった」
チーム名の由来を聞いてきたラットはそう言って頷き、納得した。そして、
「んじゃ、エマ。リーダーよろしく」
「・・・・え?」
僕は突然のラットの言葉にぽかんと口を開けて、動揺した。しかし、そんな僕に構わず、
「あ、それは賛成」
「チーム名は少し痛々しいけど。まぁ、良いんじゃないか? 俺も別に思いつかないし、その名前決めたのもエマだし」
と話が進んだため、僕は慌てて、
「ちょっと、待って‼ 僕だよ? つい最近入った僕だよ? いいの? しかも、無能力者だよ?」
「え? ちょっと待って。無能力?」
「うん、僕無能力者だよ? あれ、言ってなかったけ?」
カレンやグミやタクトさえも首を傾げて一斉に僕を見て、何か言おうとしたが、それをラットが大きい咳払いでかき消した。
「エマの能力の有無はおいといて、それを差し引いてもエマがリーダーにふさわしいだろうと俺は思う」
「その心は?」
「お前がこのチームを作り、まとめた」
「・・・・『まとめた』って・・・・僕そんな大層な事してないよ」
ラットはいやいやと手を仰ぎ、
「このチームをまとめただろ。さっき」
「それは、僕の話を聞いてほしかったから・・・」
「んじゃ、エマがリーダーになることに反対な奴はいるか?」
僕はみんなを見るが誰も手を上げることなかった。それを確認したラットは僕を再び見て、
「な?」
と誇らしげな表情を浮かべた。僕は頬を膨らませて、
「んじゃ、ラットがサブリーダーでいいと思う人」
そう聞くと、それには僕を含め、ラット以外の全員が手を上げた。
「まぁ、この中で言ったらそうですかね」
とカレン。
「まぁ、この中だったら、ラットだろ」
とタクト。うんうんとグミは黙って頷いていた。それに対してラットは反論しようとしたが、僕は、
「な?」
と言った。ラットは額を抑え、
「・・・わかったよ」
と引き受けた。
こうして、僕たちのチーム『WISH and DREAM』が結成された。




