第二十五話 IKNOWとギルド襲撃
(・・・ここは?)
そこには何もなかった。無の空間が広がっていた。真っ暗だった。ただ、なんとなくここがどこなのかは察した。
「あ、来ましたね」
そう言って、俺に横から声をかけて来たのは、表の俺だった。
「この感じは久しぶりだな」
「そうですね。最近、私ぐらいですからね。負けてここに来るの」
「こうやって俺がお前と交代することってそう無いもんな」
そう言うと、俺の表はニコッと笑って、近づいてきて、
「よく頑張りました」
と頭を撫でてきた。
「後は、私に任せてください」
そういう表の俺に、
「あいつは強いぞ」
と視線を逸らして、鼻で笑って言うと、
「でも、やるしかないでしょ」
と少し引きつりながらも、俺を心配させまいと笑う彼女の笑顔があった。俺はそれを見て、
「そか、わかった」
と言って、彼女の後ろに回り込み、
「行ってこい‼ 俺は休みながらここから見てるから‼」
と背中を押してやった。すると、
「勿論です‼」
そう言って、表の俺は遠くに走って行った。
W
「ふっ‼」
「おっと、危ないなぁ」
私は自分の新たな感情系SC『逆境打破』を使い、戦っていた。
「お前は一体誰なんだ?」
「さぁ誰でしょう?」
そう言った男は私を蹴り飛ばした。
(・・・・なんなんだ、こいつ?)
今日は寝坊したため、いつもより遅めにギルドに来た私は、ギルドに入った瞬間、マスターも含めた全員が倒れていたため、驚き、周りを見渡すと、ケイが依頼用紙の貼られているボードの下に倒れていた。状況確認のため、話しかけると、ケイはいつもかけている眼鏡がバキバキに壊れた姿で、真上を指さした。
私は指さす方向を見ると、
『あらら、ばれちゃった?』
と黄色い縦長の帽子をはき、全体的に黄色い服装の小柄な男が、空を飛んでいた。私は、
「何したの?」
と聞くと、ニヤリと笑って、
『あ~、単純に僕が倒した』
と言った。
だから私は、男に殴りかかった。
そして、今に至る。
「・・・くっ!」
「・・・よっと」
私が、蹴ったり、パンチしたりするが、男は回避し続けた。そして、男は、
「そろそろ、この勝負終わらせていいかな?」
と聞いてきた。私は、
「やってみたら?」
と笑いながら、そう言って飛び蹴り。すると、男も笑って、
「うん、そうさせてもらうよ」
とスライディングして私が飛んだことで出来たわずかな隙間を潜り抜け、後ろに回った。私が驚き後ろを振りむいた頃には、もうお腹に凄まじい威力の拳が当たっていて、向こうの壁まで吹き飛ばされた。
「やれやれ、英雄と噂されるくらいのギルドだからどれくらいの強さかと思ったら、噂は噂だな。期待外れだ」
そう言って、鼻で笑った。私は、口の中が切れて金属をなめた時と同じような血の味を感じながら、
「お前は・・・何者・・・なんだ・・・」
とやっと出せた声で聞くと、男はにやりと笑い、
「ん? 俺は、アウトローの『IKNOW』って組織の者だ。ネームはクエスタント」
男は私にそう返すと、振り返り、後ろにあった出入り口に向かって歩いて行った。
私はこの男との戦いを楽しめなかった(・・・・・・・)。
理由は、このギルドの状況を見て、怒り、笑えない状況だったのもそうだが、それ以前に勝てないと途中で思ったからだ。圧倒的な何かを感じたのだった。
私はふと、昔師匠に聞いた質問を思い出した。なぜかは知らないが思い出したのだ。
『ねぇ、師匠。覚悟を決めた奴が強いのはわかる。戦いを楽しんでいる奴が強いってのも、なんとなくわかる。けど、なんで『勇気』を持っている奴は強いの?』
と。すると、師匠は、
『勇気は、前に話した通り、始めの一歩を踏み出す力がある。つまりそれは、挑戦する、何かに立ち向かう力でもある。つまり、『覚悟』の芽みたいなもんだよ。だから、勇気は強い』
そう言った。そして、私は
「SCは・・・空を飛ぶ能力・・・」
と呟くと、鼻で笑って、
「なわけないだろ」
と言って、男は立ち止まった。
「俺の感情系SCは『勇気』・・・」
そう聞いたのを最後に私は気絶した。




