第十八話 現役マスターと元七鬼
「・・・よう、ラット」
「・・・え」
俺は目を疑った。俺の目の前にはマスターがいたからだ。
「どうして、マスターがここに?」
俺がそう聞くと、マスターはそれには答えず、
「七鬼のそいつを倒したのはお前か?」
と聞き返された。俺は頭を掻きつつ、
「あぁ、そうだ」
と言った。すると、ニヤリと笑い、
「そうか、そうか」
と頷いて、とことことギルドの奥へ歩いて行った。
「じゃあわしも頑張らなくてはな」
と言い残して。
Ⓢ
「来たぞ、マスターウェル・ボトム」
「ほぉ、そちらの大将から攻め込んでくるとは」
「バカ言ってんじゃねぇ。わしは単なる老兵じゃ」
わしはそう椅子に座っていたウェルに言った。その後ろでは、フウがと十字架の板に拘束されていた。
「いい加減やめよう。こんな無意味な戦い」
「無意味だと?」
ウェルは立ち上がった。
「そもそもの発端はお前にあるのだぞ、元七鬼『強欲の読心者』ログ・ソウル!」
「わしか?」
そう言って、何の事なのかわからず、首を傾げた。
「お前さんがこの戦いを仕掛けたのは、うちへの逆恨みではないのか?」
「逆恨みだと?」
わしは頷いて答えた。
「だってそうじゃろ? お前さんはわしらの『ギルドが気に食わない』のじゃろ? 『たまたま王国が攻めて来た街にギルドが近かっただけで、島の英雄的存在になってイラつく』とかそんなことも言っていた。それが逆恨みではなく何と呼ぶ」
「そんなわけ・・・」
「馬鹿言ってじゃねぇよ。あの戦い、この戦いもそうだ。お前さん、どれくらいの奴が傷ついたか知ってんのか?」
わしはウェルを睨みつける。ウェルは歯ぎしりをして、
「それだけじゃない‼ そもそもお前が、全ギルドに、みな平等にチャンスを与えるとか言って、『強欲』の称号を返還したのが始まりだ‼ なぜ、返還した‼ 私達にチャンスなどを与えず、フウ・カルムに継承すれば良かっただろうが‼」
わしはなんだ、そんな事か、と鼻で笑い、
「なぜ返還したか? そんなの簡単な話じゃ。信じていたからに決まっておろう」
わしはそう言って、ウェルをじっと見て言った。
「別に継承してもよかった。だが、どうせそんなことをしなくても、お前の後ろで拘束されてるそいつが、七鬼になると、そう思った。だから、いっそのこと返還して、その力を全ギルドの奴へ見せ、認めて欲しかった。そんなわしの単なる強欲な気持ちじゃよ。そこで負けたら単にそれまでだったってことだ」
「・・・くっ」
ウェルは歯を食いしばってわしを見た。わしはにやりと笑って、
「んで、お前さんはどうなんだ?」
と聞いた。
「お前さんもたしか元七鬼『傲慢な冷酷者』とか呼ばれておったよな? その『傲慢』の称号をお前さんは返還したのではなく、継承したものの、お前さんのギルドの奴はたしか試験には受からなかった。そう聞いたのじゃが、違うかの?」
「それは、あいつの実力不足で・・・・」
「は? 違うじゃろ」
わしはため息をして言った。
「お前さんはギルドの奴をあまり信じていない。お前さんが選んだ奴は・・・ほう『マグ・ドミル』というのか」
「・・・なぜそれを」
「わしのSCじゃ。そやつの能力は『直感強化』か。そういえば、さっきここに来る前にエマの心の中を少し覗いてきたが、なるほど、エマが倒したのか、マグ・ドミルを」
「な、あいつはあんな小娘に負けたのか・・・」
「知らなかったのか? マスターなのに」
わしは苦笑して言った。
「そいつだけではない。ゴルドも、海から攻めて来たやつも、絵描きの奴も、みな倒した。うちのギルドの奴らがな」
「・・・・なっ」
ウェルは驚き、目を見開いた。そして、
「どいつも、こいつも役立たずしかいないのか‼ ふざけるな‼」
と大声でそんなことを言ったウェルに、
「ほらな、今『役立たず』って言ったろ? つまり、お前さんはギルドの仲間を道具くらいにしか思っていないんじゃよ。そんなのに信頼も、くそも、あるか」
と鼻で笑って言ってやった。すると、ウェルは立ちあがり、
「もういい。どうせ、お前をここで倒せば、おしまい。俺らの勝ちなんだ。おら、出番だぞ。お前ら‼」
そう言って、ウェルは手招きをする。が、
「どうした?」
「・・・‼」
そこに誰かが入って来ることはなかった。
「どうしてだ・・・早く・・・‼」
ウェルは焦りながら、手を来い‼ 来い‼ とひらひらとさせるが誰も来なかった。
わしはそこでわざとらしく、
「あぁ、そういえば、ここに来る前に路地裏の親切な若者たちが助けてくれてな。お前さんのギルドの奴っぽいのをここでたくさん倒したとか言ってたのう」
と言った。すると、ウェルは歯ぎしりをして、
「もういいです。私が直接倒します!」
と言って、わしへ飛び掛かって来た。
わしは素早く読心を使って心を読む。そして、
「感情系SC、『冷酷』か・・・」
心が冷たかったこの男ウェルは、ついに身体までもが徐々に冷たくなっていったということか。
(なるほどのぅ)
わしはウェルを見た。ウェルは空中で拳を握って、振り上げた。
「これで終わりだ、マスターログ‼」
そう言って、冷気をまとった拳をわしにぶつけようとしてきた。それに対してわしは、
「・・・あぁ、終わりだ」
とそう呟いて、読心を使い、そのパンチを避けた。そして、
「・・・・くたばれ‼」
と全力で床を蹴って、顎にパンチ。ウェルはその場にばたりと倒れた。
「二度とわしの仲間に手を出すな‼」
と指を指し大声で叫んだ。
そして、わしはフウの拘束を解き、
「お前さん少し重いな」
とおんぶをして、ギルドに戻って行った。




