第一話 夢見る少女と冷静な少年
俺は今、とあるアクシデントが起こり、茶髪の彼女と洗濯屋に行くことになったのだが、これまたとあるアクシデントで一度一緒に服屋へ行き、服を買い、再度洗濯屋に向かっていた。
そんな中、俺は少し混乱していた。
なぜなら、隣でさっきから一緒に歩く『彼女』は、どう見ても『彼』にしか見えないからである。
格好は勿論、さっきの服屋でも、下着の方はさすがに見てはいないが、服は男性向けの服だった。口調も男のようなしゃべり方をしている。俺は改めて聞く。
「なぁ、本当に女なのか?」
すると、クスッと笑い、
「うん」
と頷いた。俺は頭を掻き、
「・・・・そうか・・・・・すまない」
と謝った。すると、再び笑って、
「何回目だよ。いいよ、もう。よく勘違いされるし」
と返された。俺は頬を掻き、
「そか・・・・わかった」
と答えた。
「・・・・そう言えば、良ければそろそろ名前を教えて欲しいのだが?」
「ん? 僕?」
「他に誰かいるか?」
「そっか、確かにまだ名乗ってなかったな。僕の名前はエマ。エマ・ドリームだよ」
「エマ・ドリームか・・・」
俺は彼女の顔をまじまじ見る。
「なんだよ。まだ女だってこと疑ってるわけ?」
「いや・・・その・・・・すまん」
俺が謝ると、
「冗談だよ。君、真面目に受け止め過ぎだ」
と笑う。少し腹が立ち、俺はスタスタと早めに歩き、
「・・・・早く行くぞ」
と言った。すると、彼女は俺の袖を引っ張り、
「待って、まだ君の名前を聞いてない」
そう言われ、振り返って俺は、自分の首に手を当て、
「ラット・カルム。この街には依頼で来た」
と説明した。すると、彼女は喉を唸らせ、
「へ~、ギルドに入ってるのか」
「まぁな」
俺は頭を掻く。
「どこにあるギルドなんだ?」
「この町の隣のそのまた隣の街にある山の頂上にあるギルドだ」
と返した。すると、彼女は、
「えっと、大丈夫なのか? 依頼・・・・」
と心配した。
「・・・・まぁ、あの馬鹿が一人で何とかするだろ」
「馬鹿?」
「大丈夫、こっちの話だ」
そう言いながらも俺も少し心配になった。あの馬鹿がヘマをやらかし、ギルドの看板を汚していないかを。
「ちなみにどんな依頼なんだ?」
「確か・・・・『畑を荒らす巨大モグラ〈ランドラ〉の討伐』だったはずだ」
「・・・・へぇ~、本当に大丈夫?」
「・・・・うん、たぶん」
俺は無理やりそう思う事にした。
◆
「ところで・・・・えっと・・・・」
「『エマ』でいいぞ」
「そか、んじゃ、エマ。お前はどこかのギルドに所属してるのか?」
彼、ラットが僕にそんな事を聞いてきたため、慌てて手を振り、
「そんなの、僕が入れるわけないよ」
と否定する。すると、ラットは首を傾げ、
「・・・・なぜだ?」
と聞いてきた。僕は頭を掻き、
「・・・・だって、僕、無能力者だし・・・・」
「・・・・え、本当か?」
僕は頷く。するとラットは表情を変えず、
「何か好きなことはないのか?」
「好きな事・・・か・・・」
僕は少し考える。そして、
「本を読んだり、書いたりするのが好きかな」
頭を掻き、そう答えると、彼はさらに首を傾げ、
「う、う~ん」
「・・・・な、なんだよ・・・」
僕は目を細めてラットを見ると、ラットは咳払いをして、
「えっと・・・・・そうだな・・・・本を書いたりするのが好きって事は、想像するのが得意って事だろ? その『想像力』こそが『SC』のヒントなんじゃないのか? まぁ、例えばだが」
「な、なるほど・・・」
と言いつつ、実際のところあまり理解はできてなく、
(想像力をいかしたSCってどうやって使うんだよ)
僕はそう思った。
◇
(しかし、不思議なSCもあるものだな)
俺がそう思う理由はエマの『想像力』を使ったSCなんて想像もできないからである。
というのも、この島では確かに数々の『SC』があるものの、今、あきらかになっているのは大きく分けて三つに分類することができる。
一つは身体強化系。足を速くしたり、腕の筋力を伸縮自在にしたり、皮膚に棘を生やしたりする能力である。ちなみに俺はその上位、五感系の能力で目、耳、鼻、肌、舌の五つの部位に備わるSCで、俺はその内の目、つまり視覚に付与するSCである。
二つ目は感情系。これは主に喜怒哀楽のSCが多く、例えば、笑うと眩しく輝いたり、悲しいと洪水が起こるほどの雨を降らしたり、怒ったら雷雲を作り、雷を落としたりするSCである。ちなみに喜怒哀楽の『楽』は運が向上する珍しいSCである。そして、『喜怒哀楽』の能力のうち、一つが平均以上に特化された奴もいれば、平均並みだが全部もっている奴もいる。そんな個人差があるのも特徴である。あとは自分の気持ち、例えば『勇気』とか、『守りたい』という気持ちとかがSCになっているタイプもある。ただ、感情系SCは身体強化系のSCより少なく、俺のギルドにいるのは一人だけである。
最後は知識系。これはものすごい頭の良い物だけが使えるSCである。だけどそんな奴は大抵、ギルドではなく島の騎士団に所属する。だから俺は出会ったことがなかった。
ちなみに、SCは物心がついた時にはもう備わっている。まぁ、未だ解明されていない現象なのだからいつ備わろうと不思議ではない。
だが、想像力を利用したSCは一体どんなSCなのだろうか。
(まぁ、たぶん身体ではない。あるとしたら、感情か知識だが・・・・)
俺はしばらく考えるが、結局考えはまとまらず、諦めて、
「・・・きっといつかわかる日が来るよ。だから焦らず・・・・」
そう目の前の彼女に言いかけたその時、
ブオーン‼ ブオーン‼
そんな警告サイレンが街中に響いた。
(・・・・なんだ?)
俺がサイレンの意味を考えていると、ポケットに入れていた俺の携帯通信機が鳴った。
俺は通信機を見ると、タクトからだった。
「もしもし、ラットだが」
『ラットか? ようやく出たか‼』
「ようやく? まぁ、いい。依頼はどうなった?」
『「どうなった?」じゃねぇよ⁉ 今どこいんだよ‼ 急にどっか行きやがって‼ 連絡してもでねぇし‼』
「えっと、それは・・・」
『まぁいい‼』
タクトは俺の言い分を聞いてくれなかった。それにどうやら焦っているようで口調が早口だった。
『お前の所からでもサイレンの音は聞えるよな?』
「まぁな」
そのサイレンは未だ鳴りやんでいなかった。
『このサイレンは全ギルドメンバーへの緊急要請のサイレンなんだ』
「ん? そんなの初めて聞いたぞ」
『当たり前だ。そんな状況今までなかったからな。俺もさっきこのサイレンの意味を通達された』
「俺には来てないが・・・」
『単に気付かなかっただけだろ? 後で通信機の受信ボックス見とけ』
そして、タクトは一呼吸置き、
『とりあえず、ギルドの招集がかかった‼ 今すぐ来い‼』
「わかった。んじゃ、ギルドで・・・」
俺が最後まで言い終わる前にタクトは連絡を絶った。
「すまん。招集がかかった。今からギルドに行かなきゃならん」
「え? あぁ、ごめんな。僕なんかのために・・・・」
と頬を掻き言う彼女に俺は、
「いやいや、俺が悪かったし、こっちこそ、すまん」
と頭を下げる。そして、俺は名刺を出し、
「これ俺の連絡先だ。何か困ったことがあったら連絡してくれ。相談に乗る」
「あ、ありがと」
そう言って彼女は名刺を受け取った。
「んじゃ、またどっかで」
「うん」
そう言って、拳を合わせた。
◆
「んで? 今までどこに?」
「だから、服屋と洗濯屋だって」
「へ~、僕をおいてかい?」
「・・・・いや、だって・・・」
「だって、何?」
耳障りなサイレンが街中に響く中、僕はグミと再び出会った。
「・・・・それにしても、よくわかったな、僕の居場所」
「話を逸らさないでよ」
そう言って、グミは僕を睨むが、やがて、ため息をつき、
「気付けばいなくなってるし、探すのが大変だったんだよ? カレンにも手伝ってもらったし」
そう言っているグミの横で手を振っていたのは、友人のカレン・デュアルだった。
「ごめんね、カレン」
「仕方ないよ。まぁ、エマが急にいなくなるってことはないだろうし・・・どうせ、グミが他の事に集中して、目を離していただけなんじゃないの?」
「・・・・うっ」
図星をつかれたグミは、僕達から目を逸らした。カレンは、はぁ、とため息をつき、僕の方を見て、
「まぁでも、無事でなによりだよ」
と笑った。僕は頭を掻き、
「ところで、このサイレンはなんなんだ?」
とさっきからうるさいサイレンの事を聞いた。すると、少しカレンは深刻な顔になって、
「王国の貴族が攻めてきた」
と一言、そう言った。
◇
「すまん、遅れた」
俺は一度深呼吸をし、息を整えていると、目の前にいたタクトは鼻で笑い、
「依頼放棄に、集合時間に遅刻とは・・・・いいご身分ですこと・・・」
と皮肉を言った。俺はお前が言うかと思いながらも、今回はこっちに非があるためそれを言わず、
「集合時間もなにも、お前切っただろ。連絡・・・」
「まぁ、こっちは忙しかったもので・・・・」
こいつめちゃくちゃ言ってないかと思いながらも、とりあえず落ち着かせるため、
「まぁまぁ。そんなキレんなって・・・」
「別に、キレていませんが・・・」
間違いなくキレているが、面倒なのでこれ以上は突っ込むのはやめた。
「んで、どんな現状なんだ?」
俺はそう聞くと、ちらっと俺の顔を見て、大きくため息をつき、
「・・・・王国の貴族が攻めて来たんだよ」
俺はその一言に動揺したが、タクトは話を続けた。
「貴族っていうか、正しくは『貴族が雇った軍』って言うべきなのか。マスターの話によれば、王国の中でも上位クラスの軍でその中の一人は『神聖剣』っていう、神から恩恵を貰った武器の使い手らしい。こっちの島ギルドや騎士団も全総力を注いでいるが・・・・」
そこまで言って首を振った。
ちなみに島ギルドとは、個性を使い、悪事を働く者や洞窟に住む怪物を倒すために結成された組織である。俺達が入っているギルド以外にも数多くのギルドが存在し、個人で戦うものもいれば、俺らのように二人以上のチームを組むものもいる。
「戦っているのは? どのくらいの階級だ? まさか・・・『SG』クラスの奴も?」
「さぁな。俺もそこまでは把握はしてねぇ」
ギルドの依頼には難易度がある。それは上から『SSG』、『SG』、『G』、『S』、『A』、『B』、そして、『Φ(ファイ)』があり、始めはみんな『Φ』から始まる。噂によれば『SSG』の上が存在するらしい。
ちなみに昇格するにはかなりの努力が必要で、『SSG』クラスはギルドに一人くらいしかいない。
ちなみに俺は『A』、タクトは『B』である。
「一体何が狙いなんだよ」
「知らん。だが、きっと王国のクソ貴族が考える事だ。くだらん事だろうな」
「神聖剣か・・・」
「あぁ、白く星のように輝く剣でもともと、滅多に手に入れることのできない素材でできた聖剣に神の恩恵がついた剣だ。その硬さはダイヤの如く、切れ味はおちることを知らない」
「まるで化け物みたいな武器だな」
「あぁ」
俺は苦戦しそうだなと思った。けど、仕方ないと腹をくくって、
「とりあえず、行くか」
と言うと、タクトは頷いて、
「足引っ張るなよ」
と笑って言ってきたため、
「お前もな」
と返した。
そして、数分後。
「うぐ・・・」
タクトは敵兵にボコボコにされた。
タクトのSCは『強声』と言い、声の大きさを強化するSCだった。これにより、大きな岩を破壊するほどの超音波を起こし、敵を攻撃するのだが、王国兵が持っている頑丈な盾でガードされた。
必死に立ち上がろうとするタクトに俺は、
「もう休んどけよ、相棒」
と俺は首を手刀で叩き、気絶させた。
◆
「今、港の方で殺気を感じた」
「え?」
僕とグミとカレンは街を歩いていると、グミはそう言って、止まった。
「きっと、カレンが言っていた貴族軍だよ。エマ」
そう僕に言って、グミはカレンを見ると、カレンは頷いて、
「行こ!」
と僕の手を引き、港に向かった。
僕たちは港についた。
しかし、そこにはたくさんの死体やケガで苦しむ兵隊達がいて、地獄のような光景が広がっていた。
(彼は大丈夫だろうか・・・・)
僕は少し不安になった。彼はその場にいなかったからである。きっと、まだ戦っているんだ。
(なんで・・・・)
僕は心が乱れた。怒りの気持ちと悲しみの気持ちで心が乱れた。
(なんで・・・・)
訳が分からなかった。
(なんで・・・・)
そんな不快な気持ちが積もり積もって、
「ちょっと‼ エマどこ行くの⁉」
そんなカレンの声さえ聞こえていても、届いていても、無視してしまうほど僕は頭が痛かった。僕はずっと思っていたのだ。そして、この場でようやく確信した。この世の中は間違っていると。狂っているのだと。
小さな頃、僕は母さんからこの島の近くに大きな王国があると言われ、気になってしまった。だから、
『んじゃ、なんでその王国に住まないの?』
そう聞くと母さんは無理やり笑って、
『さぁ、なんでかしら』
と答えた。
母さんにその話を聞いて、僕は本を読んで調べた。そして、歴史を知った。
ただ僕にはわからなかった。身分とか、差別とか、戦争とか、そんなことが。同じ人間、同じ生きている者同士なのに、なぜ互いに分かり合う事が出来ないのかと。『貴族』だからなんなのだと。いったい、僕たちと何が違うのかと。そんな事をして何の意味があるのかと。
そして、今回の戦争も。
(なぜ・・・・なぜ、あんなに人が傷ついているのにやめないんだ。いったいなんなんだ。本当に・・・・気持ち悪い、気持ち悪い、気色悪い、気色悪い・・・・・本当に、本当に・・・)
僕は叫んだ。
「もう、いい加減にしろ‼」
◇
劣勢だった。
島中のギルドと騎士団が総出で戦っているのに、王国の軍が強すぎるのだ。
「おい、しっかりしろよ‼」
「お前らが倒さなくちゃ誰が倒すんだよ」
「全くダメだな。島ギルドも・・・・」
そんな、うるさいヤジが飛び交うのを他所に、俺は周りを見渡した。
(・・・敵が多すぎる)
俺のSC『冷たい目』は目で睨んだ者を凍らせるという能力。だから、
「油断大敵だぜ‼ 雑魚が‼」
と言って後ろから攻撃を仕掛けてこようが、一睨みすれば、
「な、さむ・・・・手が・・・・」
この通り、一瞬で凍る。また、
「囲め、囲め‼ 集団でやるぞ‼」
と言って囲まれても、全員睨めば、
「な、ば、化物が・・・・」
と凍ってしまう。しかし、欠点も勿論ある。その内の一つが自分にこの能力を付与することができないことだ。
例えば、手を凍らせて殴るとか、足を凍らせて蹴るとか、身体を凍らせて鎧を作るとか、そんなことは不可能である。もしそれをしたら、俺は寒さに耐えきれなくなり、低温やけど、最悪の場合、凍死する恐れもある。
ただ、武器に付与することは可能である。剣を凍らせ、固い氷の剣を作るとか、石を凍らせ弾を作るとかそんなことは可能である。
(だが・・・・)
俺は前を見るとそいつは俺を見て拍手をしていた。
「来やがったな。神聖剣野郎」
「おぉ、存じておりましたか。それは光栄です」
神聖剣。この剣はギルドのクラスがSG以上くらいでないと刃がたたないだろう。話によれば、この剣は神に選ばれた十二人の聖剣使いが扱う剣で、そう簡単に壊すことはできないらしい。
つまり劣勢の状況を作り出しているのはこいつの持っている剣だった。
「あなたは『凍える目』のラット・カルムさんですよね? お初にお目にかかります。私、ソル・・・・」
「・・・・自己紹介はいらん」
俺は神聖剣の男を真っすぐ見た。
「いったい、何しに来た」
そう聞くと、鼻で笑い、
「やだなぁ、私はただ命令されたんですよ。あんたら島民を殺せと。貴族の方々からね。だから、殺しに来た。それだけです」
俺も鼻で笑い言う。
「ずいぶん威勢がいいな。まさか、俺もやろうと? なら、やめとけ。こうなるのがオチだ」
そう言って、俺は凍らせた王国兵たちを指さす。
すると、声色が変わり、
「・・・・そんな奴ら凍らせたくらいで・・・・調子に乗るなよ・・・・ド三流が」
と言われた。だが、俺は、
「ならお前はその下だな」
とさらに煽る。すると神聖剣を構え、こっちに全速力で走って来た。
(下半身を凍らせて確保しよう。直接争って勝てる相手じゃない)
そう思い、下半身を睨みつけた。しかし、
グシャッ
俺は吹き飛ばされて壁に当たって倒れる。
「・・・・ガハッ」
血を吐いた。胸には大きい傷が出来ていた。
「・・・・なんでだ・・・・」
俺は目の前を見ると、男は大笑いをして言った。
「破壊神シヴァの恩恵。この神は東洋の神で、俺は修業のため世界を旅し、その神から恩恵を授かった。よって、この剣の前ではすべてが破壊されるのさ」
そして、剣を振り上げる。
「さぁ、もう死ね」
俺は徐々(じょじょ)に気がもうろうとしていった。
(やべぇ、油断した。死ぬ・・・)
そう気絶しかけた時だった。
「いい加減にしろ‼」
そんな叫びが町中に響き渡った。そして、その声の主はすぐ近くにいた。
だから、その場にいた全員の視線が、その叫んだ声の主を見ていた。しかし、俺はこの声を聞いたことがあった。単なる他人の空似だと思った。声くらいなら、似てる奴くらいたくさんいるだろうと、そう思った。そんなSCだってあるしとそう思った。
しかし、
「もう、やめろよ」
俺はそう言って、前に出てきた奴をただ唖然と見ていた。気がもうろうとしていた俺の頭は一気に覚醒した。
まさかとは思ったが、本当にそのまさかだった。叫んだのはエマだった。どっかのギルドの誰かじゃない。単なる一般島民の少女。しかもこの島では珍しい戦力外の無能力者の少女だった。
「・・・・にげ・・・・ろ・・・・」
俺は必死に叫んだ。しかし、声が出なかった。息をするのが精一杯だった。
「その人を逃がして」
俺を指さしてそう言った。
「誰?」
「あれ、エマちゃんじゃないか?」
「エマってあの無能力者か?」
「それって・・・・」
「あなたが逃げなさい」
そう囁かれながらも、退くことはなく、一歩、また一歩と俺の方に向かって歩いて来た。
(・・・・何考えてやがる・・・・早く逃げろ・・・)
そう声を必死に出したが、エマに届くことはなかった。男は笑って言った。
「はははっ、良かったなぁ、ラット・カルム‼ お前、少しは心配されているみたいだぜ‼」
「・・・・うる・・・・せぇ・・・・」
「・・・・」
男はエマを睨み付ける。
「お前なんか、そいつの足元にも及ばねぇ。剣に頼ってばかりの雑魚が‼」
「・・・ほぉ言うじゃねぇか・・・」
そして男はニヤリと笑い言う。
「だが、言葉に気を付けとけ。そうだなぁ。ここにいる一般庶民共もよく聞け‼ 人類、生きる者、みな平等? 戦争を無くせば平和になる? なんだ? それは単なるクソ共の理想論でしかねぇんだよ‼ いいか⁉ この世は弱肉強食‼ 実力がものを言う‼ 才能がある奴が生き残る‼ この剣も才能があったから握れたんだ‼ 強さこそがこの世のすべてなんだよ‼」
「違う‼」
「あ?」
男は否定したエマ睨みつける。
「何が違う? 事実だろ? ここで俺がお前をぶった切れば終わりだろうが!」
「終わらない。僕がここで死んでもきっと別の奴が君を倒して、同じことを言う‼」
「そうか、ならこの俺を倒して見ろ‼」
そう言って、エマを蹴り飛ばした。エマは吹っ飛ぶ。
「ほらな」
と男は笑うが、エマは立ち上がった。そして、
「たしかに・・・・君の言う通りさ。僕は無能力者だ。戦力外だ。幸せな人だっている傍ら、同じ数だけ不幸な奴もそりゃいるさ」
「そうだな、お前みたいに・・・・」
「それは違う」
「・・・・⁉」
エマは真っすぐ男見て言った。
「僕は不幸なんかじゃない。だって、こんな僕でもたくさんの周りの人に支えて貰って、温かいご飯も食べれて、おかげで生きる意味も、夢もできた。これほど幸運なことはないよ。だから、僕は力なんていらないし、不幸なんかじゃない」
エマがそう言い終わると、男は鼻で笑って、
「・・・・あっそ。まぁ、そんなの一瞬で潰せるんだがな・・・」
そう言ってさっきまで俺の目の前で剣を構えていた男は横にいたエマに剣を構え直した。
「殺してやるよ。お前のその幸運ごとな」
エマはため息をついて言った。
「・・・・わかってもらえなくて、残念だよ。ほんと君こそ力しか見えていない、不幸で哀れな男だな」
と鼻で笑う。男は怒り、
「うるせぇ‼」
と剣を振り下ろす。その瞬間、地面を揺らすほどの突風が起き、そのままエマに直撃した。
エマは家の壁に当たり、気絶した。
「・・・エマ・・・・チクショー・・・・」
俺は自分を恨んだ。この場でただ見ている事しかできなかった自分を恨んだ。少女一人守ることもできない自分が情けなくて仕方なかった。
「・・・さて」
そう言って、神聖剣使いは俺に向き直る。
「最後に言い残すことはあるか?」
神聖剣使いはそう言い、にやりと嘲笑う。俺は、
「・・・・ねぇよ。下衆が・・・・」
と精一杯の声量で返す。すると、
「そうか。じゃ、あばよ‼」
そう言われ、本当に今度は死んだと思った。しかし、
「諦めるのはまだ早いぞ、小僧・・・・」
目の前にいきなり、突然、雪みたいな白い肌で白い着物を着た、白銀の髪をした女の人が現れ、素手で剣を受け止めていた。
「・・・・・あなたは・・・」
そう言いかけ、まさかと思い、エマの気絶していた所を見る。
そこにエマの姿はなかった。その着物を着た女は俺の方を見て言った。
「そうだな・・・『雪女』とでも名乗っておくかの~」
そう言って、剣をはじいた。
「・・・・どこから湧いてきた⁉」
「さぁな。気づけばいたのだ。私にもわからん」
殺気に満ちている男を煽るように鼻で笑ってそう言った。
「クソが‼ なめやがって‼」
そう言って、男は剣を振り上げる。そして、
「死ね‼」
そう言って再び地面に叩きつけると、地面を通じて斬撃が飛び、同時に地響きも起こり、地面が割れ、雪女に当たった。しかし、
「・・・・どこを狙っておるか、小僧」
「⁉」
いつの間にか雪女は男の背後に回り込んでいた。
「いったい、お前は何者なんだよ⁉」
男はさっきのような攻撃を繰り返す。しかし、
「だから、『雪女』と言っておろうが・・・・」
呆れるようにため息をつきながら繰り出される攻撃を連続で華麗に回避していた。そして、
「・・・もういい・・・・疲れたわ・・・・」
あくびをして、冷たく言い放したかと思うと、息を吹き吹雪で街中を覆う。そして、
「・・・馬鹿が‼」
と男は剣を両手で持ち、グルッと一周した。すると、鈍い音が鳴り、安心したのか、
「・・・ははっ、自分の強さに油断したな‼ まさに油断大敵ってやつだ‼」
そう言って高笑いをした。やがて吹雪はやみ、男の周りが見えるようになった。しかし、
「なっ‼」
男の目の前には雪だるまが転がっていた。そして、唖然と目の前の雪だるまを見ていた男の背後に、
「・・・その言葉、そのまま返すぞ、小僧・・・・」
そう言って、雪女は突然、男の背後に現れた。そして、男の首に顔を近づけ、
「北風の吐息」
と息を吹きかけた。その瞬間、男の顔はだんだん青ざめていき、数秒後、ばたりと倒れた。
そして、倒れていた俺に向かって来た。俺はただ茫然と
(・・・こいつ・・・・エマ・・・なのか・・・)
だが、どちらにせよ、この女を俺は知っていた。
意識が再び失いかけていた俺は、走馬燈なのか、昔、母親が読み聞かせをしてくれた東洋の国の童話の話が突然、頭の中で思い浮かんだ。
「・・・・小僧は私の正体が誰なのか知っているな・・・・まぁ、よい。だが・・・・」
その話は雪山で遭難した猟師の親子の話だった。その親子の内、親はその雪女に殺され、子どもにはこう言い放つのだった。
「・・・決して、この事は誰にも言ってはならないぞ」
と。
俺は目を覚ますと、目の前ではエマが椅子に座って寝ていた。
次に自分のいる場所を確認すると、そこはどうやらギルドの医務室のようだった。
(・・・・俺は・・・・たしか・・・・)
どうやら雪女が去った後、気を失ったらしい。これは後から聞いた話だが、残りの敵兵は通りすがりの黒いローブを羽織った奴が一人残らず能力を使って消したらしい。跡形もなく。その男は、
『安心しろ。敵兵は残らず国に送り返した』
と島民に言って、その男も姿を消したらしい。
一体何者なのか気になるところもあったが、俺はとりあえずあの雪女が気になった。
昔、この目のせいでいじめられて、泣いていた時に、母親が読んでくれた話だ。覚えている。
それは昔、山に狩りに行った親子の話で、たしか、その日はなぜか、獲物が一匹も獲れなかった。しかし、諦めず、獲物を探し、どんどん山奥へ行く親子だったが、日も暮れてきて、やがて雪もちらついてきて、時が経ち、やがてそのちらついていた雪は激しくなり、吹雪へと変わったんだよな。
それで親子二人は慌てて周りを見渡すと、偶然、小屋があったから、親子はその小屋に入り、一晩過ごすことにした。
けど、親がいびきをかき寝ている中、子供の方は吹雪の音でなかなか寝付けなかった。そんな中、小屋の扉が急に開いて、驚いた子どもは目を開けるとそこには美しい女の人が立っていて、突然の事で声も出せず、身動きもできなかった子供は、とりあえずその女の様子を伺っていると、その女は親に白い息を吹きかけた。すると、親はどんどん顔が青ざめていき、さっきまでうるさいほど聞えたいびきもぴたりと止まった。
そして、目を開け、ふと横を見るとその女と目が合った。子供はその場から離れようとするが身体はやはり動かない。そんな子供に女は近づき、
『今見たことは誰にも言ってはいけませんよ。もし言ったら、あなたも殺します』
と冷たく言い放ち姿を消したとか、そんな話だった。
けど、まさかこいつが雪女なわけがないし、SC関連かもしれないが、雪女になる能力なんて聞いたことがない。
(いったい・・・・なんなんだ・・・・)
俺はそう考えていると、
「・・・あ、目が覚めたんだ。ラット・・・」
「っ‼」
いきなり声をかけられて俺は少し驚いた。
「どうしたの?」
「いや、少し考え事をしていてな・・・・」
「考え事?」
「いや、なんでもない・・・・・ところで、お前、なんでここにいるんだ?」
今更の話かもしれないが、ここというよりは、ほとんどのギルドに共通で関係者以外、基本入ってはいけない。情報保護のためである。
「ん? あぁ、僕このギルドに入ったんだ。よろしく」
「・・・・へ~・・・・え?」
いきなり言われて俺はさらに驚いた。すぐ入れるほどこのギルドも簡単じゃない。面接やら、試験やらをクリアしてやっと入ることができる。
「お前、無能力者じゃねぇか。試験どうやってクリアしたんだよ」
「あぁ、なんか気が付いたら終わってた」
「・・・・」
俺はその解答に頭が混乱して何が何だかわかんなくなった。すると、それを察したのかエマが頭を掻き、
「なんか、僕の友達でカレンっていうんだけど、その子と一緒に受けたんだよ。けど、二人してなかなか苦戦してな。そのカレンって友達は感情系の能力で、たしか喜んで人を癒す能力だったはず。あと、運の向上か。あと、『喜怒哀楽』の『哀』と『怒』がわからない。でも、どのみち戦闘には向かないんだよ。『平均レベルだ』って言ってたし。知っての通り、僕も無能力者。苦戦に苦戦して、いろいろ奮闘したけど、結局、最初に僕が、その次にカレンが気絶したんだよ。そして、目が覚めた頃には終わっていて、落ちたと思ったら、なぜか合格してたわけだ。ちなみにカレンも」
それは、きっとエマの能力のおかげだろう。そのカレンとかいう友達に関しては知らんが。
しかし、発動条件はなんだ? 俺の時と今回の試験の時の共通点は、エマが気絶したこと。あと、知っている奴が気絶したこと。そして・・・
(・・・・まさかな・・・・)
俺はその仮説を思考の中から消した。
「まぁ、とりあえずおめでとう」
「ありがとう」
彼女は笑ってそう言った。
「けど、なんでギルドに?」
「ん? あぁ、そうだな。今回の事ではっきりしたんだ」
「なにがだ?」
そう聞くと彼女は真面目な顔で言う。
「今回の戦いでたくさんの人が死んだ。けど思うんだ。王国についてはわからないけど、少なからず、この島の皆の望みは王国との戦争ではないはずだ。まぁ、これは僕の思い込みかもしれないけど、きっと、差別とか無くして、王国の人達と仲良くなりたいんじゃないかな。この島のみんなも。絶対って言える自信はないけどな。でも、たとえそうでも、それは、その望みは単なる夢でしかない。夢って思ってるだけでは、形にはできない。そんな叶えたいけど、形に出来ない『望み』と『夢』。それを僕は形にしたいし、叶えたい。だから、僕はギルドに入ったんだ」
彼女はそう言って、俺の顔を見た。
「そっか・・・まぁ、頑張って・・・」
「けどさ・・・」
俺は応援しようとした途中、言葉を遮られた。
「やっぱり、試験受けてわかった。そんなの僕一人の力じゃ無理だ。だからさ、ラット・・・・」
彼女は手を差し伸べて言った。
「協力してくれないかな?」
「丁重にお断りします」
「な⁉」
彼女はすごく驚いていた。
「そこは普通、感動して協力してくれるとこじゃ・・・」
「だって、お前、どう考えたって無理だろ。この王国と島が手を結ぶ? やめておけ。やるだけ無駄だ」
「そんなことない‼」
「あるよ」
「ない‼」
「・・・・んじゃ、命かけれるか?」
「・・・え?」
俺はエマをじっと見て言う。
「俺にだって目標くらいある。それに向かって頑張ってる。命をかけてな。だから聞くけど、お前はその望みやら、夢やらに命かけれんのか?」
「それは・・・・」
「・・・・そんな覚悟でこの世の中変えることができると思うな」
俺は彼女を睨みつけた。すると、
「・・・・」
彼女は黙ってどこかへ行ってしまった。
俺はため息をつき、
「そこにいるんだろ? タクト」
「全くひどいねぇ、ラット」
出入口の隅で隠れて聞き耳を立てていたタクトがそう言って現れた。
「お前も似たような夢だろ?」
「違う。俺は思ってないし、理想じゃない。そうするんだ。その覚悟があいつには見えなかった」
そう俺は心に誓っている。冷静沈着で、表情があまり変化しない俺でも、いつか笑い合って暮らしていける世界を作るのだと。そう誓っている。




