第十六話 悪魔の裏と怒りの拳
(・・・やばい)
エマにはかっこつけて、『すぐ追いつくから』と言ってみたものの、前の男は相当強かった。
「どうした? 最初の勢いは~‼」
「・・・あぁ‼」
私は両手にナイフを持って、男のもとに駆けて行った。
「・・・よいしょ‼」
バンッ‼
そんな銃声が急に聞こえたかと思ったら、銃弾が横腹に当たっていた。
「・・・くっ‼」
私は横腹抑え、後ろに跳び、一度退いた。そして、男の手にはさっきまで筆が握られていたはずなのに、拳銃が握られていた。
「・・・あなた、SCはなんですか?」
「さぁ、俺、ライ・トールスのSCはなんでしょうか‼」
そう言って、拳銃を放り投げると、後ろポケットから筆を出し、パレットに押し付けた。そして、空中に素早く何かを書いたかと思うと、
「・・・なっ‼」
投げナイフが私の所に急に飛んできたため、ナイフで叩き落とした。
「ほら、次々来るぞ‼」
そう言って、銃弾や投げナイフがどんどん私の方へ向かって飛んできた。
「おら、そんなんじゃ守れねぇぞ。・・・・そうだな、次はあの俺らの方のギルドへ向かった女を倒しに行くか」
「・・・それだけは・・・させません‼」
私は、ライ・トールスと名乗った男のもとへナイフを持って駆けて行った。
「そうそう、そうこなきゃ‼」
そう言って、筆をパレットに押し付けたかと思うと、また空中に素早く書き出し、どこからともなくライフルを出し、連射して撃って来た。私はそれをナイフで防御したり、かわしたりして近づいて行った。
そして、
「・・・・これで、どうだ‼」
「・・・っ‼」
と懐に潜り込み、ナイフで胴体を切り裂いた。
「・・・やるじゃねぇか」
そう言って、男はライフルを放り投げ、片手でバク転をして後ろに退き、ニヤリと笑った。そして、筆を出し、また空中に書き出した。そして、どこからともなく大鎌を出した。
(いったい、こいつのSCはなんなんだ? 絶対この一連の動作が関係しているはず)
そう考えていると、
「どうした? 来ないなら、俺が行くぞ‼」
そう言って、大鎌を持った男は私に向かって、水平切り。
「・・・・くっ‼」
私は両手ナイフで受け止めるが、やはりその大鎌の攻撃に耐えきれず、吹き飛ばされ、家の壁に激突した。
(・・・もうこれしかない)
そう思い立ち上って、目を瞑った。
「お? なんだ? 抵抗してこないのか?」
そう言って、
バンッ‼ シュッ‼ ソンッ‼ バンッ‼
そんな音が鳴り響き、私の身体に当たる。きっと、銃弾やら、ナイフだろう。
(・・・まだ・・・)
頬、膝、横腹に次々と当たっていき、かすり傷が出来ていき、やっと、
シュ~
私の感情系SC哀しみの力。『哀しみの霧』が発動した。
「なんだ? 何が起こった?」
という声が聞えた。前に説明した通り、この霧の中、私だけははっきり見ることができる。だから、
「・・・これで、終わりだ‼」
そう言って、男のいる方に駆けて行き、男を切り裂いた、はずだった。
すっ
「・・・‼」
男がそんな音を出して消えたのだった。
「何か、あるとは思ったが・・・」
そう言って、背後を振りむくと、男が立っていた。
「・・・まさか、俺にこの技を使わせるとはなぁ」
そう言って、拳を振り上げた。それに反応してガードをしようとしたが、間に合わずお腹に拳が当たった。
「・・・ここは・・・」
「来たな」
そう声がして前を見ると、もう一人の私がそこにいた。
「そっか、私気絶して・・・」
「全く、無茶をして。俺に早く変わってくれたらいいのに」
「・・・言われたのよ」
「・・・?」
私は私を見て、
「『そんなんじゃ守れねぇぞ』って。私悔しくて‼ 私負けたくなくて‼ エマを守りたくて‼」
私は心の底から叫んだ。すると、
「・・・そっか」
そう言ってもう一人の私はしゃがんで、頭に手を置き、そして、
「お疲れさん。頑張ったな」
「・・・私、もっと強くなりたい」
そう言うと、もう一人の私は振り返って、
「あぁ、俺もだ」
と言い残し、立ち上がって、歩いて行った。
「・・・・」
俺は目を開けると、褐色肌の少女が膝枕をしていた。
(・・・確か・・・アカネとか言ったか?)
そんなことを考えていると、俺が目覚めたことに気が付いたのか、
「もう、気が付いたの⁉」
と驚かれた。
「悪いか、アカネ」
「アカネ?」
俺は目を見開いてさらに驚いている少女に、
「あれ? アカネだよな?」
と聞くと、
「アカネだけど・・・呼び捨てだったけ?」
(・・・あぁ、そっか、表の方の俺は『さん付け』で呼ぶんだっけ)
と思いつつ、俺は起き上がった。
「あぁ、まだ起き上がっちゃだめや」
と言われた。たしかに、身体が痛い。よく見れば、身体のいたるところから血が出ていた。
(・・・だけど)
俺は立ち上がった。そして、
「あいつは?」
と聞いた。すると。アカネは、
「アカンって‼ そんな身体で‼」
と言って止めるが、俺は再び、
「・・・あいつはどこ行った?」
と聞いた。そう聞くと、アカネも立ち上がり、
「・・・行くんやな。どうしても」
と聞かれ、俺は頷いた。すると、アカネはため息をつき、
「うちらのギルドの方に行った。たぶん、うちら以外のギルメンの奴を倒しに行ったんやと思う」
「そうか、ありがと」
そう言って、俺はギルドの方へ歩いて行った。
「・・・・まさか、もう起き上がるとはな」
俺は、こいつのSCはわかった。俺は表の俺が活動している時も、少しだけ意識はあり、状況を確認することができる。表の俺がピンチの時、すぐ切り替わることができるように準備をするためである。
「お前のSCは、空中に絵を描き、具現化するSCだろ?」
俺がそう聞くと、男は驚いた表情を浮かべ、
「・・・お前は誰だ?」
と異変に気が付いたのかそう聞いてきた。俺は、その質問を無視し、
「どうなんだよ? ライ・トールス」
と聞くと、ニヤリと笑って、
「そうだよ。その通りだよ。俺のSCは『絵心』っていう感情系SCだ。絵が下手だった俺が、うまくなりたいという気持ちからできたSCだ」
そう言いつつ、鼻で笑って、
「だから、どうした? そんな事わかっても、今更意味が・・・‼」
ズドン‼
俺は思いっきり、男の腹に拳をぶち当てた。男は吹き飛ばされ、家の壁にぶち当たった。
「良かった、当たって。違ったら、また推測から始めないといけなくなるからな」
「・・・なんなんだよ、お前は‼」
男は筆を通りだし、パレットに押し当てた。
「・・・書かせるわけないだろ?」
「・・・っ‼」
と俺は顔を蹴り飛ばした。
「・・・この‼」
そう言って、なんとかバランスを保ちながら、銃を撃ってくる。が、
「・・・・残像だ」
「な‼」
そう言って、顔面をぶん殴った。
「お前は、俺を久しぶりに怒らせちまったもんな?」
そう言って、また筆を持った男に、
「・・・書かせないって」
と横腹を蹴り飛ばす。
「お前は泣かせちまった。あいつを泣かせちまった。その罪は重いぞ」
「あいつって誰だよ‼」
「うるせぇ、心に手でもそえて考えろ‼」
そう言って、残像で取り囲み、
「くらえ‼ 迅狼・突風拳‼」
そう叫んで、たくさんの俺に戸惑う男の腹に手を押し当て、俺のSC『迅速ダッシュ』を使って、全力で走り、壁にぶち当てた。
俺は拳を放すと、男は舌を出して気絶していた。




