第十五話 叫びと忍
「ハックション‼」
「オラァァァ‼」
ドンッ‼
二つの衝撃がぶつかり合い、地面は穴だらけになっていた。
「・・・いい加減・・・諦めてくれないかな?」
鼻をすすりながら、男はそう言った。
「お前こそ、いい加減諦めろよ。喉が痛いんだよ」
こいつのSCはきっと、『くしゃみの強化』みたいな感じのやつだろう。能力の内容は俺とたぶん同じだろう。
「あぁ、また・・・ぁぁぁ・・・カウション‼」
「うはぁ‼」
ズドン‼
これでは埒が明かないため、俺は背中に背負っていた鎖鎌を出した。
「おぉ? んだ? 物理戦か?」
「いんや、いい考えを思いついたんだ。いい加減喉が痛くて仕方ない」
そう言って、俺はその時を待った。
☆
キンッ‼ カンッ‼ コンッ‼
「はっ‼」
「おっ‼」
うちの刀と男のナイフがぶつかり合った。うちは、一歩引いて、
「あんさん、何なん‼ さっきから、うちの背後まで回ってざくざく・・・」
「これも戦略のうちですよ」
「やかましいはボケナス‼」
うちはそう叫ぶとまた急に消え、背後に現れた。うちは何となく気配を感じ、
「もうよめとるんよ‼」
と回し蹴りをした。
「おっと、危ないですねぇ」
「ナイフ握って、背後から攻撃してくるアホよりはましや」
そう言って男を睨みつけた。
「まったく、きりがありあませんね、これでは。仕方ない。少し本気を出します」
そう言って、また消えた。
(どうせ、背後に・・・)
シュッ‼
そんな音が聞えたかとおもたら、うちの横腹から血が出ていた。
「・・・なんなんや・・・」
幸いかすり傷だったものの、いきなりの出来事に驚いて屈んで横腹を抑えつつ、周りを見た。しかし、あの男はおらへんかった。
(・・・いったい・・・)
うちは立ち上がり刀をまた構えた。しかし、
シュッ‼
今度は顔に掠り傷がついた。そして、腕、ふくらはぎ、ももに次々とかすり傷が付いていった。
こういう時、いつも使っている『身代わりの術』だが、実はその術は身代わりとなる物に札を貼らないとできへん技で、その札も今日持っていた分はもう切れてしまった。
うつ手を思いつかへんかったうちは、手を膝につけ、俯いた。
(こいつのSCはいったい・・・・)
と考えていたうちが、この男のSCに気が付いたのは本当に偶然やったんやろう。うちは立ち上がり、男に宣言した。
「見きったで、あんさんの能力‼」
▼
「・・・・くっ」
そのタイミングはまだ来なかった。
俺が鎖鎌を持ったのに警戒したのか、男は剣を抜き、振り回し始めた。
しかも、意外と剣の使い方がうまく、中距離戦専門の武器である鎖鎌と近距離戦専門の武器である剣との相性が悪かったせいもあって、防戦一方だった。
(こうなったら・・・)
俺は側転をして、少し距離を取った。そして、
「これでも、くらえ‼」
と地面に思いっきり、叫んだ。そして、
ブワッ‼
砂埃を起こした。そして、
「やばい、鼻がムズムズ・・・・して・・・」
(きた‼)
俺は鎖鎌を構えた。そして、
「ハクション‼」
ついに待っていたその時がきた。
これは似ているSCを持っているからわかる事だが、実は反動がすごい。それは大きい声を出せば出す程、反動も大きくなっていく。そして、さっきも言ったが、この男のSCは『くしゃみの強化』だろう。よって反動も凄まじいはず。
しかも、ついているのかは知らないが、男は俺とは全く違う方向にくしゃみをした。そして、隙ができた。
それにより、余裕ができた俺は、当初は鎖鎌で男を縛って、身動きを取れなくした後、『強声』でのKОをしようと考えていたが、そうする必要がなくなったのだった。
俺は大きく息を吸い込み、そして、
「目覚まし咆哮‼」
「・・・・・え?」
そう言って叫び、それに男が気付いた頃にはもう遅く、男は吹き飛ばされ、ギルドの壁に当たって気絶した。
☆
「私のSCがわかった? 本当ですか?」
そんなどこからともなく聞こえた声にうちは、
「あぁ、あんたのSCどうやってるのか知らんけど、『影に潜り込む』SCやろ?」
「根拠は?」
「さっき俯いたとき、うちの影が動いたんよ。少しだけ」
「・・・なっ」
そう言う男の声が、地面から聞こえた。
「陰気なSCやな。あんたのSC」
うちはそう言うと、
「黙りなさい! 私の感情系SC『影守り』は、影ながらでもいいから、ギルドを守りたい、みんなの力になりたい。そんな思いからできた力なのです」
「はいはい、立派やね、立派や」
うちはそう言って、片方の手で刀を構え、もう片方の手はズボンのポケットに突っ込んで言った。
「でも、あんたのギルドはうちの仲間を傷つけた。それじゃ、守ろうと思っても、守れんよ。あんたの守りたい物」
「・・・なら、壊してみてくださ・・・」
「そうするよ」
ボンッ‼
「・・・・ごほごほっ。なんですか? 煙幕?」
「なぁなぁ、あんさん。忍術って知っとるか?」
「・・・・なっ‼」
『火遁の術』。本来この術は黒い煙球を床に叩きつけ、逃走するために使う術やけど、今回のように目くらましに使うこともできる。
うちは賭けをした。周りが急に暗くなったことにより、焦って影から出てくるのではないかとおもたからや。勿論、煙幕の煙が晴れるまで出てこないという可能性もあった。二分の一。故に賭け。そして、
「・・・そういや、うち。SCはまだ使っておらんへんな」
そう言って、頭に手を触れる。わたしは、振り向いて笑って言った。
「これで、おしまいや」
「・・・・えっ、あっ、やめ、やめて・・・・」
ぎゃぁーーー‼ という叫びを後ろで聞きながら、うちは近くで戦うカレンの様子を見に言ったのだが・・・
「・・・・え」
うちは目を疑った。その場にカレンが血だらけで倒れていたのだから。




