のーとをこえるちから
ツーツーツー
終話の音がまだ響く。私の頭には再度あの女の子の声が宿った。ノートに別の物語を書けず、彼女は私のことをどこかで見ているかのようにこちらを把握した上で、私を『ジブン』だと言った。
昼間と同じ状況だった。昼間は、声が聞こえた後、投げやりになって、この黄緑色のノートに物語の続きを書き込んだ。
もしかしたら、この後に私が物語を書いたら、また…
そんな想いを馳せて、ノートをめくり、最初のページへと戻る。私が前回書いたのは、たった一文。ノートにはまだ二文しか残っていない…はずだった。
自分の目に映ったページに驚きが隠せない。
なぜか、話の続きが記されている。
『サクラ姫がおさめる国の周りには、8つの街がありました。8つの街には、それぞれの種族が住んでいます。テン、リュウ、ヤシャ、ゲンダツバ、アシュラ、カルラ、キンナラ、マゴラガの8つの種族は、交わることなく、常に住処を分けていました。
交わることがあるとすれば、城の中だけ。サクラ姫の元にそれぞれの種族の代表が集い、生活を共にし、幸せに暮らしていました。
しかし、そんなある日、黒い魔法使いが悪い報せを持って、サクラ姫の元にやってきました。ただ、サクラ姫は相手にしませんでした。すると、黒い魔法使いは、サクラ姫を攫っていってしまったのです。
サクラ姫の状況にいち早く気づいた、キンナラのシャルが持っていた赤き石を用い、空の彼方へ飛び立った黒い魔法使いを撃ち落としたのでした。キンナラの4人衆は撃ち落とした場所へと姫を探しに行きました。
姫は右手を怪我していたものの、花畑で倒れていました。キンナラのシャルとハイネ、オル、ルーキは、赤き石をまた使って、姫を救いました。
姫を連れて帰りながら、ルーキが姫に動植物を紹介します。鈴の音を鳴らす『スズナ』や、四足歩行の鳥の『リース』、自分の意思で動く木の『アルル』に出会いました。星砂の道を辿り、やっとの事で城へとたどり着きました。
けれど、城には、乗っ取りを計った黒い魔法使いが戻っており、魔法で姫は隠されてしまったのでした。』
手に持っていた黄緑色のノートがいつの間にか手を離れ、車のアクセルとブレーキの間に落ちていた。
なんで…?
まるで、私が体験したことがそのまま書かれてるみたい…。
まさか、こんなことを知らぬ間に私が書いていたの?
そうなのだとしたら、少しは憶えていない…?
今までのことを総合的に考えると、1つの考えに至った。あり得ないが、これしか考えられない。そう感じた。
このノートに物語の続きを書くと向こうの世界に行くことができて、向こうの世界で過ごした内容がこのノートに記される。そして、私は、向こうの世界では、主人公の『サクラ姫』の代わり。
つまり、ここに…このノートに続きを書くと、向こうに行ける。
好奇心しかなかった。先程までのモヤついていた気持ちがどこかにいってしまったかのように、ノートに惹きつけられていた。どうなるのか、自分の論理が正しいのか試してみたくなった。ボールペンをカチリと押して、続きを記す。
『姫はなんと本の中に隠されていました。自らの持つ不思議なペンの力で、本の中から城の自分の部屋へと戻りました。』
ボールペンの頭をノックし、ペン先を引っ込める。すると再度ノートが光り、本の世界に頭から引き込まれた。




