(噛み合い始めた歯車①)
メルロー、ランレイ、シャルそして眠りについたままのルーキの一行はゲンダツバの街から南西に位置する城の周りをぐるりと囲む針葉樹の森に辿り着いていた。
人や動物が通ることを許さないというようにびっしりと並んでいる。そして、天高く伸びた幹は優に1000mを超えており、見上げても先が全く見えない。ただ、木同士がぶつかり合うことを自然に避けているのか、幹から伸びた葉は重なり合うことがないように少しの隙間を作り出している。
この木が守っている以上、カルラ族も上空を飛ぶことはできないし、テンの人々も通ることができない。この木はテンの周りにも存在しており、唯一木が存在せず人々が行き来できるのは、国が管理している検問所だけだった。
草木の上に雪が少し被っている。雪を初めて見たランレイは歯をガタつかせながら、滑らないようにそっと足を運んでいる。
「ねえ。これやたら滑るわよ」
そう言った束の間、ランレイの前でメルローが盛大に転んだ。受け身もとることなく。
「いってえ」と言いながら起き上がる彼の頭に雪が付いている。メルローはそれさえも分からないのか、ぼんやりとした顔で辺りを見回して何が起きたのか考えている。
「ちょっと、何やってんのよ」
「寒すぎて……眠い」
ぼんやりとギリギリ開いていた瞼が徐々に落ちていく。1mmくらいしか隙間がない。ランレイは間髪入れずにメルローの頬を叩いた。
「こんなところで寝るな!」
「……ったく」と舌打ちをしながら、ランレイは後ろを歩くシャルの様子をチラリと見た。城が一瞬見えてからシャルの様子がおかしい。いや、少し前もおかしかったけど。言葉数がかなり減った。そう考えていた。
どいつもこいつも……というようにため息をついた後、背負っている荷物の中から寝るときに使っている布を取り出し、メルローに手渡す。
「これでも体に巻いて、少しはあったまりなさい」
「お前、いいやつだな」
にかっと笑うメルローの顔をまたランレイの掌が襲った。さっきよりも少しだけ威力が減っていた。照れた顔を隠す様にランレイは辺りを見回した。
「今、どのへんかしら」
「まだ城のバカ高い木はなくなってないし、カルラが住む山がみ……」
「しっ」とランレイが2人に鋭い目を向けて動きを制止するよう合図を出した。一行はゆっくりと身をかがめ、右横に並んでいる岩陰に身体を隠した。
声がだんだんと近づいてくる。男が1人と女が2人。こんなところを普通の人が歩いているわけがない。彼らの顔に緊張が走る。
「……と城以外に行くの初めてだ! わくわくする!」
「え? そうなの? 色々な街を見るのはとっても楽しいわよ」
「あら、あなたはカルラ以外にも言ったことがあるの?」
「はい。お父様の関係で」
ランレイが岩陰からさっと顔を出し、近づいてくる相手のシルエットが見た。一行が歩いてきた方向からやはり3人。背の高い1人が前を歩く2人についていくようにして歩いている。
「そう。それは素晴らしいことね。幼いうちから知見を広げられることはとてもいいことだわ」
「ええ。本当に」
「なあ、あとどれくらいでカルラなんだ?」
カルラという言葉にメルローとランレイは顔を見合わせた。シャルはルーキを抱いたまま無表情を貫いている。
「お城からここに出てきたの初めてだから、そんなに自信はないんだけど……あともう少し歩いたらカルラの山が見えるはず。その麓にキカイはあるわ」
「おお! 教えてくれたやつだな!」
「うん!」
楽しげな会話をしている。ここまでは警戒する要素がないかとランレイは心を落ち着かせ、もう一度顔を覗かせる。メルローも同じように覗く。
「あれってさあ……キンナラなんじゃねえか? なあ、シャル」
振り返って話しかけるもブツブツと何かを言っており、シャルは聞こえてないようだった。
「ダメね。聞こえてない」
「おい」とシャルの身体を揺らそうとメルローは体を動かすと、雪に足を取られてまた盛大に転んだ。
「うわあ!」
冷たい空気の中にメルローの叫び声が遠くまで伝わっていく。
「何者!?」
後ろを歩いていた女が2人を守るように前に出て腰につけていた剣を抜き出し、ランレイたちの方へとじりじりと近づいていく。
メルローはランレイに引っ張り上げられて、立ち上がった。
「ごめん! 見つかった!」
「いいから! 走るわよ!」
慣れない雪道を駆けれるようにさっと靴を脱いで荷物に押し込んだランレイはシャルを振り向く。
「シャル! いい加減にして! そんな場合じゃないのよ!」




