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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
7章
63/70

(示される運命)

足元の木々の根が少なくなり、木の間に辛うじてある隙間を進んでいた私たちの前に道が開けていった。前を歩く蹄の音が軽い音に変わり、辺りに響いていく。それに追いつくように森の隙間から淡い月の光が私たちの身体を照らす。俯いたまま、苦しそうな表情を浮かべていたメルローも顔を空へと向けた。月明かりに照らされたメルローの身体は鱗が反射してキラキラと輝いているようだった。

石畳が一本の線のように連なって、前方にあるひと際大きいレンガ造りの家への道を示す。私たちはどうやら、あの家に向かっているらしい。

頑丈そうだけど、少し歪な鉄製の扉が家のくぼみにはまっている。扉を両側から照らすように2つのランプがつられている。冷たい風に少し煽られて、光が表情をかえている。

誰も声を発しない。列も崩さない。怖くなるほどに綺麗だった。2列に隊を成していたゲンダツバたちが家の前で左右に分かれ、中心に1つの道を残して整然と並んでいく。私たちの正面にいるフラッドとユングを除いて。

驚いてシャルやメルローの方を見ても、2人はそれどころではないようだった。目も合わせようとしない。導かれるままに鉄の扉の先に私たちは入っていった。

室内はキャンプ場のロッジのような空間で、木の温かみを感じさせる。その大きな空間には私たちからすると大きすぎる家具が配置され、正面には轟々と燃え盛る暖炉があった。ただ、4足歩行だからこそ座る習慣がないからか、どこにも椅子が見当たらない。大きなビーズクッションが床にいくつも並んでいる。あれに座っているのだろうか?と見つめていると、フラッドが両腕で木の椅子を引いて私たちの正面に運んできた。

「これにおかけください」

 腰を掛けると、斜め左側にある暖炉からの熱が程よく辺り、手足の先から温まっていくのが分かる。ぱちぱちっと木が爆ぜる音が心地よく、体の緊張もほぐれていく。ぼうっとしていく頭で何気なく、暖炉を見つめた。

 太い薪の中心が黄色く、外にいくにつれ赤く光っている。その上に赤のグラデーションのカーテンみたいな炎が揺らめきながら包んでいる。

炎の奥に人影が見える。私が知っている人。――――そうだ。ランレイさんのお母さん。泣いている。嫌だ。もう、これは思い出したくない。脳裏に焼き付いた声がまた頭の中で再生される。

怖くなって、炎から目を背けた。自分の息が音を立てているのが聞こえる。心臓の鼓動がうるさい。肩が上下に動いている。ただ、炎を見ただけなのに。


「あなた様でその反応なのです。あのアシュラの子や眠りにつくキンナラの子がここで目を覚ませば気がくるってしまう。置いてきて正解だったでしょう」


声の方向に顔を向けると、クッションにゆったりと座ったユングがお見通しと言わんばかりにこちらを見つめていた。


「ここは神聖な場。炎は神聖な場を保つ大事な役割を担っている」


 それに答えるように炎の中でまた木が爆ぜた。

 椅子を運び終えたフラッドがユングに何かを手渡した。彼の大きな手の中では小さく見える封筒から親指と人差し指で器用に紙を引き出すと、手の中で広げた。


「さあ、時間も惜しい。星の運命は私たちを待つことはないのです話を始めようではないか。まずは、マゴラガの跡取り……あなたからだ。あの老いぼれが手紙をよこしてきた」


塞ぎこむように俯いていたメルローが顔を上げ、「ばあちゃんが?」と小さく呟いた。


「そうだ。聞いていないのか?お使いを頼んだと記載があったのだが。あなたに直接渡してほしいとな」

 そう言いながらユングは封筒に手紙をしまうと、長細く折られたん2通の紙を懐から取り出した。


「黄色の文字で示されているのがメルロー……あなたの運命だ。もう一つの赤い文字がリクターのものだ。どちらも、あなたに渡す様にと頼まれている」


ユングが顎で合図をするとフラッドが彼の手から紙を受け取り、メルローの下へと運んだ。少し粗く、硬い造りの紙が縦に4つに折られており、メルローが恐る恐る手元で広げると短い文章が線に沿うように4つ並んでいた。


「何だこれ……」

紙を見つめていたメルローは顔を上げて、ユングに向き直した。


「もうすでにここに至るまでの運命は示していた。だから、今お渡ししたものは、これからの運命を示したもの」


ユングが言葉を切り、私の目を見つめた。鋭く尖った刃物を喉元に突きつけられた気分だった。


「姫様はすでに前回の内容を知っておいでのはずですがね?」


そういわれて初めて、少ししゃがれたリクターの声で読まれた歌のような文章が頭の中に響きだした。

『鳥かごに乗ってくる尋ね人は大切な子の新たな門出

1つの花を守るため2つの影が相まみえる

光の珠に気が付くとき新たな道が開くだろう

水が清くなったとき空が笑う』


 そうか――――そういうことだったのか――――

頭に響いた文章に今までの出来事が合致した。最初の2文は私たちが出会った時のこと、そして、残りの2文はリュウでの出来事。時系列に沿って、示されていた。


メルローの手元の文字を盗み見る。

『黒き世界から1人が消える

 逃れた旅人は風を頼りに探すだけ

 運命は血塗られた歯車

 虚像と実像は交わり光が満ちる』


 とても綺麗な字でそう書かれている。見た目はアラビア文字のようにしか思えないのに。

 

「一体どういう意味なんだよ、これ」

メルローは少し不機嫌そうな表情を浮かべているもののいつもの調子に戻りつつあった。そんな彼に冷たいフラッドの声が返ってくる。


「我々ゲンダツバは運命を司るもの。我々は運命に自ら関わることができない。つまり、意味は伝えられないということだ」


「だったら、なんの意味もないじゃん」


「それは違う。知らぬものと知っているものでは雲泥の差。活かし方を知れば、自ずと運命は開かれる」

ユングが面倒くさそうな表情を浮かべながらも悠然とした声で答えた。


「でも」というメルローの声が一瞬聞こえたが、その言葉が全て言い終わる前にユングがかき消した。


「それでは、そろそろメルロー、シャル、あなた方にはお引き取りいただきましょう」


「え!? ここに泊めてくれるんじゃないのか?」


「そんなわけないだろう。ユング様の屋敷に他の民族を宿泊させるなど……宇宙の声が乱れてしまう」


そのフラッドの言葉に、メルローは手に持った占いの紙を握り潰しながら立ち上がった。


「なんだその、訳の分からない理由は!」


 今すぐにでも殴り込みにいきそうなメルローの下にフラッドが近づき、メルローとシャルの身体を入口に向かって引いていこうとする。


「大切な理由だ。これだから、野蛮人と話したくないのだ」


「どっちがだよ! 俺何もしてねえじゃん」


「申し訳ないが、我々は姫様に大事な話があるのです。邪魔はしないでいただきたい」


それまで一言も発していなかったシャルがやっと口を開いた。


「この場に泊めていただこうというのは図々しかったと反省している。しかし、この場に姫様だけを置いていくなど……あなた方を信用しきれない」

「無礼な。我々が何か良からぬことを考えているとでも言うのか」


 フラッドが声を少し荒げる。


「そうではない。私は姫様をお守りする立場だ。もしものことがあってからでは遅いのだ」


「あなたの言い分もわかりますが、我々の司る運命は当事者だけにしか知らせられないものもあるのです。……仕方ありません。石畳の始まり。つまり、街の入口でお待ちいただくのであればいいでしょう。あの者たちもそこまでならば問題がない」


「感謝する」


そう言って、ユングに対してシャルは深く礼をした。頭を上げると、メルローの腕を引っ張って私1人を残して、鉄の扉の向こう側へと消えてしまった。

何も変わっていないはずなのに、一気に部屋の空気が冷たくなったような気がした。


「そこを清めなさい」


 恐ろしいほどに冷たい声がした。声の方へ顔を動かすと、眉間に深い皺を刻み、目の奥が暗くなっているユングの姿があった。

 ユングの言葉に従うようにフラッドともう一人の従者が椅子を暖炉へと投げ込み、部屋中にムスクのような甘い香りの香水を吹き付ける。


「この部屋へ入ることが運命で決まっていたとはいえ、穢れがこの場にいたとは本当に嘆かわしいばかりだ。リクターには皮の他に牙も対価として受けていたが……不愉快極まりない」


暖炉の火が揺らぎながら、2人の座っていた椅子を焼いていく。黒く焼けていくその椅子になぜか私は2人が焼かれている映像を重ねてしまった。


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