(2 八季の国とサクラ姫)
「ね、ねえ…ここはどこなの?」
全く見覚えのない景色と急に現れた4人のエルフに戸惑いながらも、エルフに問いかけてみた。
少し離れたところで言い合いをしていた彼らの動きがピタリと止まった。と思ったのも束の間、2つ結びの少女と坊主の少年のエルフがすごい速さで顔を寄せてきた。
「ひ、姫様!? 頭も怪我してしまっているのですか? 記憶喪失ですか? 私のことも忘れてしまったですか?」
「大変だ! 姫は、どこまで覚えているんだろ? それとも何も知らないの? ということは姫じゃない? でも、それは姫のドレスだよな?」
驚くほどに相手も状況が掴めないのか、狼狽えた。急な質問攻めにあい、こちらも何から答えていいのか分からず、フリーズした。
「ルーキ!オル!いい加減にしなさい!」
ゴン!という鈍い音がして2回聞こえたかと思うと、2人のエルフがその場にうずくまった。どうやら、花飾りをつけたエルフが2人の頭を強打したらしい。
「すみません。姫様。この子達はまだ若く、17歳なので、まだまだ知能が低いのです。姫様がなんらかの衝撃で記憶喪失になられたことは理解できました。」
喉が渇いているのか、エルフの綺麗な声は後半になるにつれ、カサついた。咳払いをし、続けた。
「サクラ姫、ここは、あなたが治めておられます、八季の国でございます。」
「やっきの…国…?」
「そうです。この地には、多くの種族の国民が暮らしております。その種族によって、住処としている町が違います。あの塀があるお城はご覧になれますか?」
エルフたちに話しかける前に目に入った城を指差した。
「あれが、サクラ姫のお住まいにございます。そして、城には多くの種族が入り乱れて生活をしております。我々キンナラ族や、テン族、アシュラ族、カルラ族、リュウ族、ヤシャ族、ゲンダツバ族、マコラガ族も生活しております。」
ちんぷんかんぷんすぎる。聞いたことのない種族の名前すぎて、全く頭に入ってこない…。
「キン…ナラ…?」
「はい。私たちの町の名であり、種族の名前です。キンナラの者たちは、金髪と白い肌、長い耳が特徴です。」
どうやら、エルフではないことは確かなようだ。シャルが口を挟んできた。
「姫様が記憶喪失ならば、そこまで詳しくお伝えしてもすぐに把握するのは難しいだろう。しかも、いつ黒い魔法使いが来てもおかしくはない。とりあえず城まで戻ろう。」
「それもそうね。姫様…ごめんなさい。」
女のキンナラが申し訳なさそうに眉間に皺を寄せながら笑った。
「あの…あ…あなたのせいではない…」
名前が分からず、口籠ってしまった。
「私は、ハイネ。こっちの2つ結びがルーキ、坊主がオルで、この仏頂面がシャルです。」
ハイネは、名前が分からないことを察知して、教えてくれた。仏頂面と言われたシャルは、少し恥ずかしそうにしているように見える。
「さあ、ここは危険です。姫、立てますか?」
シャルが右手を差し出してきた。綺麗な白い手にいくつもの切り傷の跡が残っている。その手に自分の手をのせて、引っ張りあげてもらう。細身の体のどこにこんな力があるのだろうと思うほどに、力強かった。
お伽話のお姫様みたいな黄色のドレスをきていることにようやく気づいた。履いている白いヒールが高すぎて、立った時にふらついた。
「城まで戻りましょう。」
シャル、ハイネ、ルーキ、オルとともに花畑の中を高い高い塀に囲まれた城を目指して、歩み始めた。