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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
6章
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(はじまりの海への旅立ち)

「この者たちの魂が記憶をもって、その何かの中に引きずり込まれたといった方が正しいのかもしれん。通常、どんな旅人でもリュウが語り掛けることで異なる道から正しい道へと誘うことができる。リュウの力が強いものほどなおさらその誘導はうまくいく。ただ、この者たちの魂はその問いかけに一切反応をしない」


 竜王の話し方に慣れ始めているのか、このスピードが逆にありがたく感じている自分がいた。

考えながら話を聞くことができる。早口の相手よりも数段いい。


「どう……したら……彼らは助かるのでしょうか?」


「残念ながら、リュウ族のものでは何もできん」


「そんな……じゃあ、どうしたらいいんだよ!」とメルローが口を開く。


「そう焦るな。……いや、少し焦るべきか。ふむ。まあ、よい。お主ら二人がこの者たちの魂の中に入り、彼らを直接誘うのだ」


「そんなことが……」


「できる。力の強いリュウ族ではない者たちならば。現に500年前、ハル様は成し遂げ」


 竜王の言葉を遮るようにルーキが大きなうめき声をあげた。初めて聞くような身を引きされるような悲しみに溢れた声だった。言葉にならない彼女の声が痛いほど苦しさを伝えてくる。彼女は足を抱え込むように身体を丸くした。シャルとランレイも見ないうちに全身に汗をかき、瞼を強く瞑っていたり、拳に力が入って掌が切れたのか血が流れていたリ、それぞれ何かと戦っているように見えた。

 竜王がもう一度言葉を紡ごうと息を吸った音が聞こえたとき、ソウソウの冷たい声がそれに重なった。


「竜王、恐れ入りますが……状態はかなり深刻なようです。某から説明しても?」


「そうか。すまんのう。よろしく頼む」

 竜王は大きな右手を挙げてポリポリと器用に小指で頭を掻きながら残念そうな顔をした。「ありがとうございます。では僭越ながら」とソウソウは竜王にお辞儀をすると、笑みを浮かべたように見えた。


「僭越ながらなんて毛ほども思ってないくせに……」とリュウビの方から声が聞こえた。リュウビの方を見ると顔を合わせないようにか、ソウソウとは別の方向を向いている。

「何か?」とソウソウはリュウビの方に冷たい視線を向ける。何も反応がないのを確認すると、こほんと咳払いして「では気を取り直しまして」と話を始めた。


「先ほど竜王様がおっしゃったとおり、この国ができた500年前、初代女王のハル様が同じ場面に遭遇されました。その際にこの鏡を使って巣くう魔物から民を救い、魔物を封印されたのです」


 そういうと、手に持っていた丸い何かを差し出した。それは、ソウソウの片手にちょうど収まるほどの大きさで、辺りの色をそのまま取り込んでいるように見えた。


「魔物を封印したこの鏡は、リュウ族の力で竜王様の御殿に封印をしておりました。ただ、ある日、何者かによってこの鏡の封印が解かれ、魔物が飛び出してしまったのです」

 身振りをつけながら、眉間に皺をよせて眉を下げる。ソウソウは悔しそうに見えた。しかし、なんとも嘘っぽく見えてしまう。


「強い力で破壊されたこの鏡を修復するのには時間を要してしまっていた。そして、それが完遂されようというときにあの魔物が我々の前に姿を現し始めたのです」


「そんな鏡なんかで倒せんのか?」とメルローが疑いの眼差しを鏡に向ける。


 ソウソウは「なんと無礼な!」とでも言いたげの表情を浮かべたが、ごくりとそれを飲み込んだようだった。そんな彼を見かねてか次はリュウビが話し始める。


「確かに、おっしゃることはよくわかる。私たちリュウ族はこの鏡を扱うことができないので、はっきりと使い方は分かりません」

 彼が話をすると事件が起きているということを忘れるほどに、緊張感が解けていく。人柄なのだろうか? 正直、かなり羨ましい。


「ただ、これだけは言えることがあります。あの魔物は、物理的な攻撃をしません。どちらかと言えば、相手の心に攻撃を仕掛けるのです」


「心……ですか?」


「ええ。負の感情……例えば、憎しみや悲しみ、怒りのような感情にあれは影響をして、夢を見せるようです。現実と同じもしくは現実のような夢を。私たちリュウ族は見ることがありませんけれど……。その夢に打ち勝つことこそ、奴を倒す手段だと言い伝えられております」


 人柄の良さそうな顔を一気にリュウビが引き締める。そして、私とメルローの顔を10秒ずつ眺めてからもう一度口を開いた。


「私たちはこんな簡単な情報しか届けることができない身。そんな私たちがこんな無謀な依頼をすることしかできないことは、心底恥ずかしい限りです。しかし、生まれてくる命を助けたいのです。ですから……なにとぞ……何卒よろしくお願い申し上げます」


 リュウビが深く頭を下げる。それに呼応するようにソウソウも「某からもお願い奉りまする」と声が聞こえ、深く頭を下げている姿がそこにあった。こんなに屈強そうな人たちが手も足も出ない相手に本当に私たちでどうにかできるのだろうか。自分の小説だからとはいえ、そんなうまい話が続くわけがない。小説にはバッドエンドだって存在する。そんな考えがぐるぐると頭を巡る。


「おめえらなら大丈夫だ。ぜったい。俺が保証する」


 大きな明るい声が聞こえた方を振り向くと、チョウヒが豪快な笑い声をあげていた。ぐるぐると頭を巡っていた黒い雲が一気に吹き飛ばされたような感覚がした。


「チョウヒ!何をそんな勝手なことを……しかも、一体何を根拠に……」とチョウウンが一歩遅れてチョウヒにかみつく。そんなことを一切気にしてない様子でチョウヒは続ける。


「俺の願望だ! わりいか?」


「頭が痛くなってきた……」

 チョウウンが左手で自分の頭を抱える。それをチョウヒは不思議そうな顔を浮かべて眺めていた。


「でもよう、相手は心にぶつかってくんだろ? そしたら、俺たちが2人を支えてやればいいじゃねえか」


「俺たちは夢に立ち入ることはできないと言っていただろうが……はあ」


「そんなもん関係ねえ。信じる気持ちが大事だ!なあ」


「ははっ……あははは! チョウヒ。お前、さすがだな。お前には負けるよ、本当に」

 リュウビは先ほど引き締めた顔を一気に緩ませてお腹を抱えていた。少し瞳が緩んでいるように見える。


「確かに、俺たちは何もすることができない。チョウウンの言うとおりだ。でも、チョウヒの言うように、信じることはできるな」


「そうだろぉ?リュウビ殿!」


 2人のおかげでメルローの士気も一気に上がったようで、先ほどまで引きつっていた顔に笑みがこぼれている。


「ハイ……じゃなかった。サクラ。やってみようぜ。このままみんなが苦しむ姿見るだけなんて嫌だしよ」

「そう……ですね! やれることをやってみましょう!」

 自分の体に一気に活力がみなぎってきた。心臓が拍動を大きく、早くして緊張しているときのようだったけど、どこか違っていた。不思議とやらないとじゃなく、やってみようという思いが溢れてきた。


「でもよお、あの海に入るんだろ? どうやって入るんだ?」

メルローはいたって冷静のようだった。


「それは竜王様の力で……」

 リュウビが顔を上げ、竜王の方へ顔を向け「竜王様」と声を掛ける。「うむ」という言葉が言い終わる前に私たち二人の前に竜王は歩み寄ってきた。そして、心臓の前に屈みながら手をかざした。

 すると、頭がぼーっとしてきて、不思議な気分がやってきた。頭の信号が体に届かないようなそんな感覚だった。自分の胸がまばゆい光を放ち始めている。そんな中で遠くからリュウビの声が聞こえた。


「変なご気分かと思いますが、生まれる前の状態に魂の形を変えていっています。そして、そのまま海へとお送りいたします。そ……に……の……が……」


 最後の方はほぼ水の中で誰かに外から声を掛けられているときのようだった。でも最後の「2人も大丈夫だ。何かあったら俺らがついちょる」というチョウヒの声がはっきりと聞こえてきた気がした。


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