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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
6章
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(夢の中にとらわれた3人)

チョウヒの背中を追うようにして、街の中を駆け始めた。背丈も大きく違うからかかなりスピードが速く感じる。短距離走並みにスピードを上げないとついていくことができない。メルローはもともとの身体能力なのか、息も上げずに走っている。しかもまだ話す余裕もあるようだ。

「意識が戻らねえってさっき言ってたけどさ、意識戻るのは個人差がるって言ってたじゃんか。そんなに焦る必要あんのか?」

 一方のチョウヒは興奮しているのか息が荒い。

「確かにそうはいったけどなあ、普通じゃないんだ。こっちがちぃと刺激すれば、少しは反応がある。刺激を追うようにして目が覚めていくんだが、それがねえ。だあれも反応しねえんだ」

「そ、れ……って」

 声を出そうとしたが、すでに息が上がっているからか声が途切れ、裏返ってしまった。するとチョウヒが慌てたように振り返り、右足で急ブレーキをかけた。右に重心がかかり倒れそうになったところで止まり、辺りに砂煙が舞った。


「すまねえ。おめえさんのことを何も考えていなかった! さあ、背中に乗れ!」

メルローも「気づかなくてごめんなあ」と謝った。私も謝りたかったのだけれど、言葉の代わりにふひゅうという変な空気が漏れた。


「状況はどうだ!?チョウウン!」

 自分の家の入口をくぐると同時くらいに大きな声を上げた。返事がないからか、部屋へ向かいながらも何度も何度もチョウヒは声を掛ける。部屋の入口で言葉を発しようとしたとき、中からやっと回答があった。

「うるさい。何度も言われなくても聞こえている」

 冷静な声が辺りに水を打ったようだった。チョウヒは、顔の前ですまんというように手を構えた。チョウウンはふうと大きなため息をついて、シャルやルーキ、ランレイたちに向き直った。

「変化はない……いや、むしろ悪い方に変化があるといった方が正しいかもしれない」

 その言葉を聞きながら、3人の姿が見えないから顔をひょこひょこと動かしていると、それに気づいたチョウヒが背中から降ろしてくれた。


「なんか……体の周りに……色……ついてない?」

 メルローが目を丸くして、3人を眺めているのが横目で見えた。「あれ? 俺の目がおかしい?」と言いながら、目をこすっている。その視線を追うように、3人の姿を見る。確かにシャルとルーキは黄色、ランレイは赤色に包まれているように見えた。


「いや……私にもそう見えます」

 どこかで見た色だった。しかも、つい最近のこと。海の音が聞こえ、記憶が結びついた。

「そう、はじまりの海から現れる光の玉に似ている色!」

 はっとして思わず声を荒げてしまった。恥ずかしくなって俯くと、後ろから静かな声が聞こえてきた。


「そうだ。なぜかは分からねえが、生まれる前の状態から戻ってこなくなっちまった」

「どう……して?」と言いながら顔を上げて、チョウヒの方へ向く。


「そうさなあ。おめえらみたいに力が強えものは別だが、普通は記憶から現実に戻る海でバテちまって、戻ってくるのに時間が掛かっちまう。だから、こっちが現実だって教えるために刺激を感覚を開けて与えるんだ」


 そう言いながらチョウヒは3人の方へ近づき、跪くように座る。そして、頬を軽くたたいたり、手を握ったりしてみる。3人の表情は何も変化がなかった。眉毛を動かしたり、口に力が入ったり、瞼が動いたり、そんな小さなことさえも起きなかった。


「このような現象は初めて見る」

「ああ、俺も初めてだ」


 その時だった。何かが壁にぶつかったような大きな音のすぐ後に大きな地震がやってきた。天井の岩が少し崩れて、パラパラと小さな石と砂埃が雨のように落ちてくる。

「なんだ!? 敵か!?」とメルローは頭を守りながら、構える。少しテンポが遅れて、チョウヒが豪快に笑い、チョウウンが大きなため息をつきながら「いや……たぶん」と言った。


 地震が落ち着くとともに、誰かが廊下を走る音が聞こえた。やってきたのは、少しヨレヨレな姿になったリュウビだった。

「すまん、チョウヒ。竜王様が入口に引っかかってしまった。その者たちを外に連れてはこれまいか?」

「そんなことだと思っておりましたぜ」

 チョウヒは笑いながらも、チョウウンとともに3人を優しく抱き上げた。メルローと私は3人が眠っていた時に使っていた布団のようなものを丸めてついていった。廊下は真っ暗になっていた。その奥から声が聞こえてきた。


「すまんのう。引っかかってしもうたわい……しかし……このすっぽりはまる感覚……ちといいのう」

 竜王だった。大事が起こっていると聞かされたばかりなのに、この声と緩さですべてが帳消しになったように感じてしまう。


「竜王! そんなことを言っている場合では!」とリュウビが一喝をする。

「そうじゃったなあ。すまんが、外に押し出してはもらえんか? 後ろ脚も引っかかってしもうて、うまいこと力が入ら……」

 竜王の言葉が全て言いきられる前に、チョウウンはシャルを廊下の壁に立てかけ、「押しますよ?」と竜王を押し始めた。

 それに続くようにチョウヒとリュウビも続く。こんなに大きく、屈強な人たちが3人がかりとは……竜王の大きさが今一度感じられた。地響きのような低い音ともに、廊下に外の赤い光が差し込んでくる。

「お? お? おお、もう大丈夫そうじゃ。よし……よし……とすまんかったなあ」


 竜王が言葉を口に出し始めてから時間がかかりすぎた結果、全員が押すのをやめるのに30秒以上かかっていた。大きなため息を3人が吐いているのを全く気にも留めない様子で竜王は喜んでいた。


「して、旅人の様子はどうかのう?」

 竜王は外から3人を見ようと顔だけ動かした。壁にもたれかかっている3人を見回す様に見ると首を外に引っ込めて、考え込むように言った。


「ううむ……これは……悪い予想が的中してもうた。広いところで対処した方がいいじゃろうなあ」


 赤い光と深い青い光が交じり合うように水面で揺れている。光の下に彼らを並べて寝かせた。光に呼応するように、彼らを包む光も強くなっているように感じる。


「竜王、どう……なんですかい?」とチョウヒが途中ゴクリと唾を飲みこみながら、竜王の顔を見つめる。竜王は3人を改めて見つめた後、呟くように「500年前と同じか……」と言ったように聞こえた。


「この者たちの記憶の中に、はじまりの海に潜む何かが入り込んでおる」

 先ほどまでの緩さをすべて打ち消すような威厳のある、深い声がしんとした空気をより張り詰めさせた。

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