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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
5章
40/70

(言葉に隠れた真実)

「やっぱり。思った通りだったー」と嬉しそうなルーキ。ルーキの描いた絵にジァンとタイランが気付き、目を輝かせながら非常に大きい体をより小さく折り曲げて絵を食い入るように見ていた。


「ラレ! ラレ!」とはしゃぐ二人の姿は、まるで小さい子供を見ているかのようだった。


「そうそう、ランレイさんだよー。じゃあ、こっちはわかる?」と隣に書いた、筋肉隆々の二人の絵を指さした。

「オデ……アイ」と自分の胸に手を置いた。それを見て嬉しそうにルーキは頷く。


「あと、残りの3人は王様とテンだよ」とそれぞれ指さした先には、太陽の紋章の入った王冠を被る男の姿と、先ほどの嫌な笑顔を浮かべた2人のテンの似顔絵があった。それを見たジァンとタイランは何とも言えない表情を浮かべた。

普通に考えれば、偉い人……目上の相手ならばこの街では、頭を下げそうなものなのに……と少し不思議に思ったが、その答えはルーキと2人との会話にあった。


「じゃあ、それぞれの関係性を教えてね。まずは、ランレイさんとあなたたち……好き?」

すると2人は顔を見合わせて、きょとんとした。伝わっていないようだ。改めてルーキは別の言葉とジェスチャーを盛り込んで質問した。


「あなたたちは」2人を指さす。

「ランレイさんと」ランレイの似顔絵に指を向ける

「仲良し?」自分の両手を組んで、笑顔を浮かべた。


伝わったのか彼らが頷き、雷のマークが胸に刻まれたジァンと呼ばれていたほうが答えた。

「ラレ……ナアヨイ」笑顔を浮かべた。ランレイさんのことがとても好きなんだろう。

「でも、それならなんで言葉が話せることを隠すんだろう……」とポツリと言葉が漏れた。

「私もそれ、気になってました。聞いてみましょう」

次は、逆に指を動かしながら聞いた。

「ランレイさんはあなたたちと仲良し?」

ルーキの言葉を聞いて、2人は同時に首を振った。

「ラレ……オエアイ……バカ……」と炎のマークが胸に刻まれるタイランが口にした。その表情はどこか切なそうに見えた。


「馬鹿……? ランレイさんがそういったの? 2人とも話しできるのに‥‥…」

「ラレ……イパイ……オイエテクレタ……オデ……ワスエル」

「そうだったんだ……でも、ちゃんと話できてるよ! もっと教えて!」とルーキは明るい笑顔を2人に向けた。


そこからは同じようにそれぞれの関係性を聞いていった。言葉がしっかりとわからない以上、表情から読み取るほかない場面もあったが、疑問の答えが出た。

「オウ……ダイジ……ラレ……ダイジ……デモ オウア テン……ナカヨイ」

タイランが順番に指をさしながら、王様とランレイさんの絵のところで深々と頭を下げた。そして、王様とテンを順番に指さして、両手を手の前に組んだ。「仲良し」を意味しているらしい。


「つまり、テンの奴らは王様と深く交流があるってことね……でも、それならテンとランレイさんも仲いいんだし、問題ないんじゃ……?」とジェスチャー交じりに言うルーキに2人は首を振った。ただ、言葉が思いつかないのか右斜め上に目線を動かしながら、少しの間唸った。そして、ジァンが先に口を開いた。


「テン……ラレ……コオス」

出てきた言葉に理解ができない。ルーキも同じく止まってしまっている。ジァンは困ったように考えながら立ち上がり、腰に携えている剣に手をやって、タイランに向かって抜いた。剣先をタイランに向けて「ラレ」といい、自分の胸に手を当てて「テン」といった。そして、タイランの首に剣を大きく振りかぶった。


「だめえええええ!」というルーキの悲鳴が牢屋の中にこだました。首から数センチのところで剣先は止まった。


「急にどうしちゃったの?」と不安そうに聞くルーキをよそに、私は彼らの言いたいことが分かった。


「たぶん、テンの2人はランレイさんを殺そうとしているんじゃないでしょうか?……王様と共謀して」

「なるほど……確かにそれなら最初の2人の反応も理解できますね」とシャルも小さくうなずきながら反応した。


「え、じゃあ、ランレイは今すごい危ない状況なんじゃ……」とメルローが漏らす。

確かに‥‥…彼女は、今すぐに殺されてもおかしくない。ただ、それならばこの2人がここまで理解していて止めないはずはない。つまり、この2人はもっと詳細まで聞いている可能性がある……

「もしかして、いつ殺されるか聞いてませんか?」と問いかけてみる。が、言葉を理解できないようで、きょとんとしているままだった。言葉がないとこんなにももどかしいものだったとは……いつも営業で面倒だと思っていた会話だが、今なら喜びを見いだせそうだ。


そのあとも別の言葉にしたり、ジェスチャーを混ぜてみたりしたが、伝わらなかった。この間にもランレイさんが殺されているかもしれないという不安がよぎる。唯一言葉の通じる彼女を今ここで失えば自分たちの命もないということもあったが、彼女のことをなぜか好きになってしまっている自分がいた。だから、どちらの意味でも不安を抱いていた。


押し問答が続いている中、扉が開いて砂埃とともにランレイさんが入ってきた。一気に向けられた視線に彼女は驚きが隠せないようで、目を丸くして「ちょっと……何……? 怖いんだけど……」と口を開いた。


ジァンとタイランの2人は一生懸命話そうとしていた先ほどまでの様子とは打って変わって、最初に出会った時のように沈黙のまま立ち上がり、檻の前に仁王立ちした。


「何やってたの? この馬鹿たちと」とランレイが衣服にまとわりついた砂埃を払いながら、牢屋のほうへ近づいてくる。

「2人に言葉を教えてたんですよー。暇だったので」とルーキ。

「ふうん」と言いながら、絵を覗き込むランレイさん。別に悪いことをしていたわけではないが何から口にすればいいかもわからず、私たちは固まってしまった。

「これ……もしかして私? もう少しよく書いてよね‥‥…」と笑いながら言い、「ま、どうせこの馬鹿たちは何にもわかってないでしょうけどね」と離れていって、デスクについた。そのあと、デスクの上にたまっている書類に手をかけて作業を始めた。

なぜか牢屋の中のみんなが安堵の息を吐いた。そして、夜が更けて会話も減り、あたりが暗くなるにつれて重い瞼が目に覆いかぶさっていく。床の石がひんやりと冷たくて、気持ちがいい。


「ねえ……ハイネ……まだ起きてる‥‥…?」という声が耳元で聞こえて、閉じかかった瞼を懸命に開けるとそこにはランレイさんの姿があった。


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