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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
5章
39/70

(言葉を隠す二人の言葉)

テン……たしか八季の国に存在する街の1つと言っていたはず。

それにランレイが口にした『来月の訪問を予定していた』ということから推測すると、定期的な訪問があったということのように思う……。

ということは前々から交友関係にあるということのはずだけど、……特別仲がいいようには思えない。むしろ表向きでは温和な雰囲気を出しているが、腹の底を探り合うように話を進めている。こういう推理に営業で鍛えた人を見る目が役立つとは……。


「我々もこちらに来る予定ではなかったのですがね、どうしてもアシュラの国王様に伝えなければいけないことができまして」

身体の前で組んだ手を無意味に握り直しながら、胡散臭い営業のようにテンの1人が口を開いた。


「そうでしたか。はるばる遠いところからお疲れ様です。お2人が直接伺われないとならないほどの重要な事項なのですね。それでは、早く国王の下に参らねばなりませんね」


「ええ、それであなたを探してこちらに伺ったという訳なのです。おや?」と何かに気づいたように言葉を切り、こちらを覗き込むように左右に体を伸ばした。小さいと思っていたランレイの身体はテンの2人と比較して見ると、細身だが身長が高く、テンの2人が小さく見える。


「そちらの……牢の中の者たちはどうされたのです?」笑顔を浮かべた細い目の奥に鋭い嫌な光を感じた。


「……ああ、その者たちは先ほど、ジァンとタイランの2人が砂漠で見つけ、保護したのです」落ち着いた口調でランレイが言葉を返す。


「ほう、見たところ……キンナラとマゴラガ……のようですねえ。……なんとも、見慣れない組み合わせだ」もう1人のテンも同様に覗き込んでくる。


「ええ、本当に。それで私も国王にこのことを報告せねばと思い、扉を出ようとしたところだったのですよ」ランレイは、後ろに組んでいた両手をほどき、左右に小さく手を動かした。すると、ジァンとタイランが牢屋の前に立ち、私たちの体を2人の視線から隠した。ランレイが後ろを向いているため、どのような表情をしているかはわからないが、私たちを守ろうとしてくれているように感じた。


「さあ、このような者たちは放っておいて、宮殿に参りましょう。暑かったでしょう。テンはとても寒い地方とお聞きします。早いうちに涼まれた方が良いと思いますよ」とテン2人のの後ろに回り、扉を開いた。


「それもそう……ですねえ。……ではお言葉に甘えて」とテンの1人が口にした。ただし、その顔は一瞬のうちにさっと変わった。笑顔の仮面が剥がれ落ち、恐ろしい目つきがこちらに向けられた。今にも人を殺しそうな目に見えた。怒りの感情が顔のすべてに現れている……そんな風に思えた。その2人は再度笑顔を付け直し、ランレイの方を振り返りランレイを追うようにして扉から出ていった。


扉が閉まると数分の会話だったにもかかわらず、どっと疲れが体を襲った。足に力が入らなくなり、その場で座り込んでしまった。


「なんで、テンがいるんだあ?アシュラは独立国じゃないのかよ……」

ため息をつくように、メルローが口にした。


「テンが他の民族と手を結んでるっていうのも、びっくりだよね」とルーキも座り込みながら口にした。


「それもそうだな。テンの奴らは、他の街のことを毛嫌いしていると聞いたことがある。そんな奴らが、特に……言葉を話せない街と協力関係にあるとは、にわかに信じられないな」


「テンってどういう街なんですか?」


「ひめ……」と言いかけて、間違いを正すようにルーキが咳ばらいをした。「ハイネ様は、記憶がないんですもんね」そう言うと、説明を続けた。


 テンは城から見ると、北東あたりに存在している寒い寒い街。その全体が雪で覆われている。

住んでいるのはお城の姫に似た見た目をしている者たちで、体に大きな特徴がなく、きちんとした身なりをしている。星砂の原産地であり、どの街の者よりも頭がよくてずる賢いと言われている。そんな彼らは昔、すべての街に配布される『姫の涙』を独占しようと城に攻撃を仕掛けたり、周りの街を占拠しようとしたりすることがあったらしい。それが表に出たタイミングで、城とテンがつながる道を森で塞ぎ、往来できないように宝石の中に閉じ込めた。それからは、郵便を運ぶカルラ族と城の番の者以外は往来できないようになったということだった。


「それならばなぜ……彼らのように……自由に往来ができるようになったのでしょうか?」


「分からないけど、奴らは頭いいから特別な力を見破った可能性はあるんじゃない?」とメルロー。


「……今思い出しましたが、だいぶ前にテンの天候が荒れ、食べ物が育たず飢饉が起きたということがありました。そして城で会議が開かれ、隣のカルラ族との間に道を作ることは可決されたということは聞いたことがあります。このことがきっかけかと。」


「そんなことがあったんだ! 」


「だが、それにしてもアシュラとは……」とシャルが言いかけたときに、メルローのお腹が盛大な音を立てた。メルローは恥ずかしそうに笑いながらお腹を押さえ、「緊張感がなさすぎる」とそれを見たシャルはため息をついた。私はというと思いがけない音に、自然と笑いが込み上げてしまった。


「アウアウエ」と後ろから野太い声が聞こえ、現実に引き戻された。ジァンとタイランと呼ばれた二人がひざを曲げて、しゃがみこんだ形でこちらに声をかけている。状況が分からず、ただ見つめていると片方がもう一度「アウアウエ」と言ってきた。次は彼自身のお腹をさすりながら、もう一度口にした。


「もしかして……お腹が鳴ったから、お腹すいたか?ってこと……とか?」とルーキが不思議そうに言うと、牢の外にいる2人は大きく頷いた。


「お腹すきました」と答えてみると、彼らは大きな図体を奥の部屋へと運び、少し経った頃には腕の中いっぱいに何かを抱えて戻ってきた。


「アウアウ」と言いながら、彼らは牢の格子から最も近くにいた私に隙間から手渡ししてきた。受け取ると、ブドウに似た房状になっている赤い木の実と硬いパンのようなものだった。人数分以上に渡してくれる。

「ありがとうございます」というと、彼らは鋭い目を緩ませた。


「ねえ、これって食べても大丈夫かなあ?」と近づいてきたメルローがこそっと耳元で聞いていた。


「たしかにな。敵か味方かも判断がつかないものから渡されたものは不安が残る」とシャル。

目の前に、かさついて張り付きそうなほどの喉の渇きを癒してくれそうな木の実があるのに……と思いながらも、私も判断できずにいた。


「私は大丈夫だと思うけどなあ」とルーキが言った。そして、そのまま、木の実に手を伸ばして口にした。「馬鹿!」と止めに入るシャルの言葉よりも先にごくりと音を立てて飲み込み終わった。言葉を失ったルーキは俯いて、肩を震わせた。苦しんでいるように見え近寄ろうとすると、彼女は立ち上がり叫んだ。


「おいっしいいい!」


唖然とする3人に、ルーキはきょとんとしながら「早く食べた方が良いよ?私食べちゃうよ?」といった。メルローがそれを見て笑いながら、「よし、じゃあ俺も!」と続き、私もそれに続いた。シャルは最後まで頑なに食べないような雰囲気を出していたが、最後は自分の欲に負けておいしそうに食べていた。


食べ終わったルーキが外の2人に話しかける。

「すっごいおいしかったよ。ありがとうね!」


その言葉を聞いてか、2人は頷いた。


「やはり、この2人……言葉が分からないというのは嘘なのではないんでしょうか?」


「やっぱり、ハイネ様も思う? 私もキンナラ様と同じで言葉が分かってるような気がするんだよね」


キンナラ様……確かに彼は言葉が分かっていた。ただ、私にもその言葉ははっきりと分かった。だけど、この2人は心の声が聞こえない。何が違うんだろう。


そう頭の中で考えていると、ルーキが地面に近くにあった石で何かを書き始めた。

「何かいてるんだあ?」


「うんとね、私があんまりキンナラ様の言葉が分からないときにやってたこと、やってみようと思って」と言いながら、懸命に何かを書き足していく。どうやら絵を描いているようだ。書きあがった絵は、私たちと外の2人、テンの2人、そして、ランレイだった。


「ねえねえ、あなたたちのこと教えて? 話わかるでしょ?」と2人を手で呼んで、話しかけた。すると、彼らはルーキの顔を見るために屈んで、口を開いた。


「ウア……ス…ア…シ。スコシ」


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