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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
5章
38/70

(牢から見える現実と黒い訪問者)

「な……んで」と小さな声が自分の口から零れ落ちた。その言葉で周りの3人も目隠しをしたままの状態で辺りの状況を確認しようと声を上げたり、手を大きく広げて辺りを確認しようとしている。後ろを振り返ると、そんな私たちに外から冷たい視線を浴びせているランレイがいた。ゆらゆらと前後に揺れる椅子に座っている。


「はあ、そんな喚かないでよ。安全なところに連れてきてやったのに」


「とはいっても……こんなところ……」

 辺りを見回してみても、格子付きの小さな窓があるだけで、硬い石で作られた壁に覆われている。唯一外に出る手段は、鍵で閉ざされた正面の格子だけのようだ。騙されたという不安と状況を飲み込めない気持ちとが渦巻いた。自分の安易な回答で、みんなを危険に晒してしまったかもしれない。処刑されてしまうかもしれない。そう考えると、手足の先から冷たくなる感覚が体に広がった。加えて、じっとりとした汗が手や額からどんどん溢れ出し始める。息を吸っているはずなのに、うまく吸えずに息が浅く、回数が増えていく。次第に肩が上がって、息が吐けなくなってきた。苦しい……。


また、急に頭の中に映像が流れ込んできた。

『大丈夫。まずは落ち着いて。周りの世界を遮って自分の世界に入るの。深く息を吸って、大きく吐いて。深い深い海の中に沈み込むイメージで。ゆっくり……ゆっくり……』

温かい手が私の手を包み込んだ。包み込む手の熱が私の冷たくなった手を温めていく。

『大丈夫。安心して。目を開けたら、あなたは絶対に大丈夫』


頭の中で響く声に従うように、目を閉じて深く息を吸い、また大きく吐いてを数回繰り返す。早く鼓動を刻もうとする心臓が落ち着いてきた。目を開くと、変わらない状況だが見えていなかった様子が目に移ってきた。彼女は私の目隠しを取り、私に短剣を渡してきた。その短剣は今私の足元にある。足元にある赤い柄に青い宝石が埋め込まれた短剣を屈んで拾い上げる。そして、シャルさんが身に着けている武器も取り上げられていない。本当に彼女は言葉通り、安全なところに連れてきてくれただけなのかもしれない。大きく息を吐いて、いつもと変わらない笑顔を作った。


「皆さん、すみません。急なことだったので、驚いてしまいました。落ち着いて聞いてください」

声が少し震えたような気もするが、3人の行動が声の方向を探そうと行動をやめた。


「今、私たちはランレイさんたちによって、牢屋のような場所に連れてきていただいています。ただ、これからお話を聞くにあたり、彼女から目隠しを取っていいと許可を得たので、お一人ずつもらった短剣で目隠しを切ります」


3人とも牢屋という言葉にざわついたが、必死に平静を保とうとしている。これ以上不安にさせないように、ゆっくりと近くにいたルーキに近づいた。右肩に軽く触れると、一瞬彼女の体がびくっと跳ねた。「ルーキさん、切りますね」と言いながら、目隠しを軽く後ろに引いて、短剣で切り取る。切れ味が非常にいいものだったからか、音を立てることなく目隠しは床に落ちた。シャル、メルローも同様に外す。全員驚いて、不安を示している。


「やっと終わった? 誤解しないように改めて言っておきたいんだけど、私はあなたたちの安全のために目隠しをしたままここに連れてきたってことは変わらないから」

ため息交じりに冷たく言い放つ彼女の言葉に、落ち着こうと努力していたシャルだったが嚙みついた。


「ここが安全だと? 単に我々を捕まえただけじゃないか。今すぐ出せ」


「馬鹿言わないで。死にに行くものよ」


「ここにいた方が殺されるに決まっている」というシャルの言葉には、私も小さくうなずいてしまった。それが見えたのかランレイはため息をついて、椅子から立ち上がった。そして、目の前にある扉に手をかけて、扉を押した。砂埃が風と共に部屋に吹き込み、景色が一瞬消えた。生臭く、気持ち悪くなる匂いが鼻に入り、むせ返った。いろんな方向から金属のぶつかり合う音や歓声や悲鳴が聞こえてくる。砂埃が落ち着いてくると、地上で何組もの褐色の者たちが戦っている姿とそれを取り囲むやじ馬たちの姿があった。


「この状況を見てもそう言える?」

私たちは何も声を上げられなかった。一瞬は私たちの方を見たランレイだったが、野太い雄叫びがこだますると、もう一度外に目を向け直した。


「見ていなさい。あの一番近くで戦っている奴らの片方がもうすぐ死ぬわ。そして、もう一人残るやつにまた新たな敵が現れるわよ」

言われた近くの組に目をやる。長髪の女性と髪のない男性が戦っている。女性が槍を使い、男性はそれを二本の短剣でかわしながら攻撃を仕掛けている。が、女性に比べると、男性の方が動きが遅く見える。槍が下からすくい上げるように動いたかと思うと、短剣が宙に浮かび、槍はそのまま男性の目を突き刺した。悲鳴と雄叫び、歓声が不協和音を生み出した。男性はその場で倒れ、小刻みに震えている。ただ、誰もその負けたものを助けることがないばかりか、近づく者すらいない。彼らの目には勝った女性しか目に入っていないようだ。女性の目の前に新たな挑戦者が立ち上がった。


「ね。こんな場所なの。近づいたら最後、戦いを挑まれて殺し合うまで戦い続ける。そして、負けた奴らは、死んだら最後骨になっても片付けてさえもらえない」ランレイは牢屋に向き直して、眉毛を下げながら笑った。牢屋の外に白いものが積まれていると思っていたが、よくよく見ると骨だった。


「こんな危険な場所だなんて……私たち大丈夫かなあ、ハイネ様」とルーキが困り顔を向けた。


「彼女が約束してくれたんです。彼女の言うことを聞いたら、助けてくれると。信じましょう」

信頼しきっているはずはないまでも、自分に言い聞かせる意味も込めてそれ以外の言葉は言えなかった。


「そ。まあ、安心してよ。これから国王のところにいって、あなたたちが動きやすくなるようにするからさ。それまでの辛抱だと思って」


「そんな言葉こんなところで信じられるか」


「まあ、いいよ。信じなくても。出れたら逃げてもいいからさ」と笑いながらランレイは言った。「ただ、逃げたら初めにこいつらが相手になっちゃうけど」と屈強な二人の戦士を指さした。


「緊張していたって状況は変わらないんだし、落ち着いて待っていた方が良いと思うわよ。何かあったら、その二人にジェスチャーで伝えればわかると思うわ」


「わかりました。あなたを信じます」

そう言うしかない。小さな彼女の背が扉をくぐるのをじっと見つめて、送り出すしかなかった。


「じゃあ、行って……」と彼女の言葉が切れたと思ったら、二人の黒い訪問者が彼女にぶつかるように入ってきた。


「おやおや、ランレイ殿。お出かけですかな?」

「おや? よく見ると牢に誰か入っているではありませんか」

よく似た顔の二人の男は、作られた仮面のような笑顔をつけてランレイに話しかけていた。彼らは、この地に似合わないようなきちんとした格好をしており、スーツによく似た服装をしていた。白い肌で、黒い髪。現実世界の人々を彷彿とさせる。


「……これはこれは、テンのコウ様、ジュン様ではありませんか。来月の訪問と思っていましたが、いかがされたのですか?」

ランレイが笑顔を作り直し、二人に問いかけた。まるで、私たちに説明するように言葉を付け加えててだ。

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