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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
4章
31/70

(記憶)

リクターは息を飲む私を他所に続けた。私がサクラ姫だと分かっているということ。そして、姫がこの国の中を出歩いていることも一部の者は理解していることを。キンナラの問題を解決したことも。


「まあ、だから姫様をどうしようなんて思ってないのですよ?私は……ね。ただ……テンの言う通りに動くことだけはやめてくださいね?」


ただ受け入れるしかなかった言葉の波がこちらに押し寄せ、溺れてしまいそうだと思っていたところに、バトンを渡され、最後の言葉を繰り返す他なかった。


「テン……?」


「そう、テンです。あなた様もご存知でしょう?街の一つ、嫌味の街……」


「なるほど……そのテンの言うことを聞くな……と」


私の口から言葉が溢れると、リクターは目を丸く見開いた。


「あらまあ、ゲンダツバの夢見の通りだったようねえ」


「姫様、あなた、記憶がないのね?」しゅるりと紐のような舌がリクターの口元をひとなめした。視線から全く逃げることができない。


「まあ、言えないわよねえ。でも、わかってるわ」


「いや、あの……!」


「大丈夫よ。他のものに言うことも無いし、知っているのは、私とゲンダツバの長だけよ」


リクターが息を大きく吸い、話始めようとした時、「お待たせー」という声が後ろから聞こえた。メルローが低い茂みから身軽な動きで駆け戻ってきた。手には木の筒を持っている。


「ほら、飲み物!」


明るい笑顔を持った彼は、私の目の前に筒を突き出した。「あり……がとう……」受け取った筒は、ひんやりとした冷たさを持っていた。


「はあ、タイミング悪過ぎよね、うちの子」

ジロリとメルローに目をやりながら、リクターはため息混じりに呟いた。


「え? 俺なんかした? 早い方がいいと思って急いできたんだけど……」


「まあ、いいけど」


「だろ? さ、ハイネ! 飲んで、飲んで!」


その言葉に動かされるまま、木の筒の上にある栓を抜いた。筒の小さな穴から、爽やかな柑橘系の匂いが漂った。急に喉の渇きが強くなり、我慢できず、そのまま口に運んだ。喉を通る甘酸っぱい風味、桃の果実のようにトロッとした口当たりがした。


「おいしい……」自然に出た言葉であった。「そうか、そうか! よかった」とリクターの隣で彼は笑った。


沼のかび臭さに負けない、柑橘系の飲み物は身体に元気をくれた。


「そういえば、2人は何の話してたんだ?」


「なんでもないわよ。あんたは知らなくていいこと」


「えー……そう言われると気になるんだけどー」


「バカな面をしている子には教えないわよ。それより、このままここにいるのは危ないわ。場所を変えましょう」


歯の隙間から息が漏れるような音を出して、リクターは奥にある洞窟へと動き始めた。ゆっくりとした動きだが、どんどん引き離されていく。


「ちょっと長老! 待ってくれよ!」


その言葉を無視して、進む。「あーもう! いくぞ!」そう言った彼は、私の腕を掴み、かけ始めた。

飲みかけの木の筒を落として、私は合わせるように走った。


頭の隅にまた映像が流れ込む。

「何ウジウジしてんだよ! 泣いてたって始まらないだろ? ほら、立てよ」と目の前にいる彼と同じようにくしゃりと笑う男の子の姿があった。

そして、今と同じように腕を掴まれ、校舎の中を走る。夕陽の差し込む校舎を2つの足音を大きくさせながら、駆けていく。

鼓動を高まらせながら、足音を合わせる。世界がまた砂嵐に覆われるように消えていった。


リクターの元にいつの間にやら追いついていた。目の前で2人が何やら話をしている。

「な? ハイネ?」


「う、うん」何かも分からぬままに返答してしまった。


「あら、そうなのね。今日は泊まるのね、分かったわ」


リクターは私のことを理解してか、知らずか分からないが、言葉を繰り返してくれた。どうやら、私が今晩泊まることが決まったようだ。


進むほどにぬかるむ道から、岩道へと変わってきていた。遠くの方に水音がする。枯れた木々もなくなり、低い草へと変わってきた。


「さあ、着いたわ。ここが私たちマゴラガの住居」


目の前には、岩の洞窟が広がっていた。ただの洞窟ではない。洞窟の壁一面に、無数の穴が開いており、そこからそれぞれ2つの輝く光が見える。蛇の巣だった。


---------------


「くそ、姫様は一体どこにいるんだ……!」


その頃、シャルは取り乱した様子で長い金色の髪を掻きむしり、落ち着きのない様子で部屋にいた。バツ印のついた、キンナラの地図がしわくちゃになりながら、足元に落ちていた。部屋を照らすロウソクは、背を低くし、消えかけていた。


その時、扉がガラリと開いた。そこには、ルーキと困り果てた様子のカルラ族の男が立っていた。


「シャル、分かったよ! 姫の居場所! 」



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