(マゴラガの青年と謎)
蛇のような縦長の瞳孔が大きくなったり、小さくなったりしている。
慌てながらも、こちらの姿を捉えようとしているようだ。
蛇に睨まれたという言葉の如く、赤い瞳に捕まってしまったように動きが取れなかった。
生暖かい風が後頭部ににかかる。
自分の頭上で金色の糸がキラキラと光っている。
ハイネさんの髪だ……。
取らずに、本の中に入ったから……。
「わ、私はキンナラのハイネです」
自らの口から、嘘の言葉が吐き出された。
「キンナラ……。では、なぜその本の中から……?」
赤い目はさらに周りの皺が足されて、よりきつくなった。褐色の2本の腕は、彼の身を包むように固く締めている。
当然の疑問だろう。
咄嗟についてしまった嘘だから、先のことまで考えていなかった。
ただ、姫であることを告げるべきではないということだけは分かっていた。
「私にも……分かりません。気がついたら、この本の中にいて、出られたと思ったら、キンナラではない土地に出てきていました」
半分は嘘だが、半分は本当だ。
「そうだったのか……」
男は、依然として疑う様子を崩さなかったが、少し眉間の皺が薄まった気がした。
静かな空気が流れ、パチパチと火の粉が弾ける音が後ろから聞こえ、目を向ける。
私の背の高さほどの火が轟々と燃え盛っていた。
「あの……それにしても、なぜここに本があって、あなたはその本を燃やしたんですか?」
とりあえず、話をずらさなければと疑問を投げかけてみる。
男の目が泳いだ。
あの本が何なのかも知っているに違いない……。
「ここで、俺が本を燃やしたのは、すべてを無に返す方法だと長老から言われたからだ」
長老……無に返す方法……
一体……
「この本の中には、姫がいるはずだった。本がなくなれば、姫は逃げられない。これ以上テンの好きにはさせない。そう聞いたんだ」
男は目を伏せ、悲しみを口にした。
これも本心のようだ。テンというのは、街の1つの名前で聞いたことがある。
それにしても、サクラ姫が逃げない……とは?
「そういう……ことだったのですか……。それにしても誰から……」
足の甲に冷たい物がゆっくりと擦り付けられているような気がした。
驚いて、言葉を切って自分の足元を向く。
蛇が足の甲の上を這っていた。「ひっ……!」という風船から空気を抜いたときのような音が自分から出た。
蛇は何かを訴えるようにこちらを向いて、私を見つめてくる。
「大丈夫だから、落ち着け」
褐色の男が落ち着いた声を投げかけてきた。
どこかで聞き覚えのある声だった。
頭に記憶の映像が流れてきた。
そう。何かのダブルスゲームをしていたとき……私たちは負けていて……
「もう大丈夫だ」
男の声で、現実に引き戻された。
褐色の手が私の足元から蛇を引き上げた。
「驚かせてすまなかったな。こいつは、マイヤー。俺の父親だ。何か伝えようときたみたいで……」
褐色の腕の中には、太陽の光で輝く銀色の蛇がうねうねと動いている。
「ただ蛇になった今、理解はできない。理解してやれるのは長老だけだ」
寂しそうに父親マイヤーの方を見つめる。
「そうなんですか……」
男のことは何も知らないが、こちらも悲しい気持ちになってしまった。
「そういえば、名前を名乗っていなかったな。俺は、メルロー。マゴラガのメルローだ」
「メルローさん。どうして、あなたのお父さんは……その……蛇に……?」
思いがけず聞いてしまった。
メルローは、また眉間に皺を深く刻み、不信感を露わにした。
「キンナラなのに聞いたことないのか? 元々俺たちは年老いると蛇になるんだ。普通なら話言葉を失うことはないんだがな……」
それ以外も何かあるようだが言葉を選んでいるようだった。
「なるほど……。私、キンナラの外に出たことがなくて……」
納得はしてもらえないだろうが、これ以上突っ込まれることもないだろう。
「そういうことだったか。たしかに、キンナラのものは年齢によって形を変えることはないもんな」
「そうなんです。でも、蛇になって言葉も失ってしまうようになったというのは不思議ですね」
「そうなんだ。ここ10年の間に徐々におかしくなってきた。ここにいて、まだ人の身体のままなのは、俺だけなんだ。」
1つの考えが、ふと、頭に浮かんだ。
「ちなみに、その10年前に、黒い魔女ってきていないですよね?」
「な……なんで分かったんだ……。その通りだ……」
また、黒い魔女。




