のーと と はじまり
1回目
【場所】
青梅市内コンビニ駐車場 車内
【向こうの世界での経過時間】
昼から日が暮れるまで(約5時間)
【こちらでの経過時間】
昼休憩時間(1.5時間程度)
【備考】
女の子の声がした後、ノートにボールペンで物語を
記載。本の内部から手が伸び、引き込まれた。
2回目
【場所】
青梅市内 公園駐車場 車内
【向こうの世界での経過時間】
8時間程度
【こちらでの経過時間】
2時間程度
【備考】
女の子から電話がかかってきた後、物語の続きをボールペンで記載。光に包まれて向こうの世界へ。
3回目
【場所】
自宅
【向こうの世界での経過時間】
約1.5日(約36時間)
【こちらでの経過時間】
12時間程度
【備考】
自分から記載し、本の世界に。
ノート部分に書き示した今までのまとめを見ても、法則を見出すことはできなかった。
ただ、現実世界の3倍から4倍程度の速さで時間が過ぎていると予測することはできた。
世界の時差のように明確な数字ではない。
何か意味があるのだろうか。
それとも意味もなく株価変動のようにその時々の状況に合わせて変化するのだろうか?
向こうの世界で存在する際の街によって決まっているのだろうか。
様々な推測を頭の中で考える。
スマホを握りしめている左手の掌にじんわりと汗が染み出した。
しかし、かんがえをめぐらせても、何も明確な答えはない。
全て憶測に過ぎない。
とりあえず、3回目の内容の1番下に、
『次の日が休みの時だけあちらの世界に向かう』
と言葉を加えた。
そして、スマホの画面を閉じ、左手にスマホを所持したまま、背中からベッドに身を投げた。ベッドに着地すると、着地の反動でスマホは自然に左手から滑り落ちた。
「忘れよう。これ以上は、仕事に支障を来す」
ため息混じりに、自分に言い聞かせるための言葉が出てきた。
そして、そのまま腕を耳の横に持ち上げ、身体をぐっと引き伸ばした。変な姿勢で凝り固まった身体により血液が循環し始めた。
小さなため息とともに、ベッドの上を滑らせるように腕を下ろした。
パサッ
軽いものが手に当たり、床に落ちたようだ。
ゆっくりと身体を起こし、床をチェックする。
畳んだ洗濯物、仕事の資料などが散乱しており、改めてひどい状況だった。
加えて、あのノートが目の前に開かれた状態で落ちていた。
不自然なまでに、キンナラという章の題名のページが開かれ、向きも読みやすいようにこちらを向いている。
思わず怖くなり、ページを閉じて、裏向きで机の上に置き直した。
怖くなり、目をノートから離した。
次の瞬間、ノートからページをめくる紙のカサカサとした音が聞こえた。
ノートに目を戻すと、また同じページが開かれていた。
しかも、光る文字が追加されている。
「何、これ…。呪いのノート…?」
背筋に寒気が走った。
叫び声を上げながら、手を伸ばし、ノートを机から叩き落とした。
ノートは何もなかったかのように洗濯物の上で、再度同じページになる。
『諦めて、確認してみなさいな』
またあの子の声が聞こえた。
ベッドに落ちたスマホに目を向けると、画面が通話中を示している。
「なんなのよ、なんなの? 私には仕事があるの!
あっちの世界のことばかり考えている余裕はないの!」
スマホに向かって、叫んだ。
『やだやだ。怖いわね。ただ、ノートを読むとそんな気持ちも変わるんじゃないかしら』
プツッ
ツーツーツー
電話は音を立てて、聞こえなくなった。
スマホに枕を力一杯投げつけた。
が、事態が変わるはずはなかった。
ノートは読めと言わんように自分の太ももの上へと移動していた。
楽しんでいた自分を反省した。
まるでゲームをやるように、他の世界で別の人間になることを楽しんでいた。
私は、とてつもなく危険なものに手を出してしまっていた。
もう途中で放り出すことはできないようだ。
太ももに乗っているノートがそれを指し示している。
ただ、あっちの世界に行きたいという気持ちは消えていなかった。
例え、こちらの世界で居場所が無くなろうが、どうでもよかった。
部長にいびられ、信頼する人もおらず、ただただ仕事だけをするこの環境はどうでもいい。
むしろ、消えて欲しい。
これがノートの魔力や女の子による影響だとしても、悔いはない。そう強く感じた。
両手をぐっと握りしめ、ノートに目を向けた。
いつも通り、前回のまとめが書いてあり、物語は進んでいた。
しかし、今までの流れとは異なる文章が光る文字で追加されていた。
『キンナラ様との戦いは終わり、ナナミとキンナラの涙で全ての幕が引いた。
しかし、戦いのあと、1週間の月日が経ってもサクラ姫は帰ってこなかった。
戦いから2日後、帰ってこない姫に不安を覚え、シャルは本を保管していた、実家の客間を訪ねた。
客間の前で交代で夜も警備していたにも関わらず、姫が入ったままの本は消えていた。
加えて、窓ガラスには魔法で切ったような丸い穴が残っていた。
それから1週間経っても、本は行方不明で、姫も戻ってきてはいなかった。』




