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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
3章
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(13 音の結界)

扉を開くなり、2人の金髪の男女のうち、鼻から頬にかけてソバカスがある、少し日に焼けた女の方が駆け寄ってきた。


ヨハネの元に来ると、膝を落として彼女を力強く抱き寄せた。


「ヨハネ! あんた、何してたの? 心配してたのよ! 昨日、キンナラ様がいつも以上に暴れている音がして…、あなたは家に帰ってこなくて…、今日だって…。」


潤んだ薄い緑色の目から、透き通るような白い肌に静かに涙が頬をつたった。女は、震える声を詰まらせた。


「ヨル、ごめんなさい…。」


ヨハネの顔はヨルによって見えないが、少しだけ鼻にかかった声で答えた。


「ヨル、ただいま。」


ヨハネの隣に座るルーキが声をかけた。ヨルがヨハネの肩に置いていた顔を持ち上げて、ルーキを向いた。


ああ、久しぶりの親子の再開…か。

私は何年の間、家族に会っていないのだろう…


そんな考えがふと頭を過ぎった。

考えを振り払うように、2人の再開へと目を向け直した。


「お、かえり…? ル、ルーキ…? な、んで、ここに?」


久しぶりに我が子に会ったはずなのに、ルーキと会う方が、ヨハネの安否よりも感動が少ないように見えた。


城に入ってから2年間、キンナラには戻っていないのではないのか?


ヨルの顔が見えていないから、本当のところはわからない。


もしかすると、突然のことで頭がついていっていないとか、むしろ衝撃が大きすぎて声にならないのかもしれない…


ただ、その考えは、ルーキの表情で間違いだと気がついた。

柔らかい表情をしているが、ヨルの反応に対して、何も気にしていないように思えた。


「昨日帰ってきたんだ。シャルもサクラ姫も一緒に。」


ヨルの視線が、顔を少し上げシャルを通り過ぎた後、振り返って、私へと向けられた。


「さ、サクラ姫…?」


薄い緑色の目から落ちる涙は、顔にうっすら跡だけ残して止まっていた。その目は、こぼれ落ちてしまうのではないかと思うほどに、丸く開かれた。


「ハイネ…ハイネは…? オル…は?なんでみんな一緒じゃないの? もしかして、何かあったの?」


ヨルの口から次々と不安が溢れてくる。


「しかも、姫のその髪…ハイネの…」


順序立てて答えなければと、考えれば考えるほどに言葉が口から出てこない。


「もしかして、城で何かあって、2人を捨てて、逃げてきたっていうの!?」


ヨルに詰め寄られ、冷たく感じる憎悪の目が向けられる。空気が一気に凍る。


息が詰まってくる。

高田部長の電話と同じ、全てを否定される空気に感じた。


そう思えば思うほどに、うまく考えはまとまらず、声を出さなくなっていった。


うまく息ができない。目の前の声が遠く聞こえてくる。まだ、ヨルは何かを訴えている。


「落ち着いて、ヨル!」


ヨハネがヨルを後ろから抱きしめた。

冷たく光っていた憎悪の目に温かさが戻っていく。


私自身に向けられる視線が緩み、どうにか心の奥底にあった、高田の呪縛から逃れられた。

額から顔の輪郭を撫でるように汗がつたった。気づくと手も顔も汗ばんでいた。


「大丈夫だから、ね。これから、全て説明するから。それに姫様にそんな口の聞き方したら、だめだよ。」


ヨハネの後ろに座るルーキが優しく言い聞かせるように声をかけた。


まだ入り口のところでナナミと立ったままだったコルダがヨルの元へと歩み寄ってきた。

途中、コルダの柔らかい青色の目が私に向けられ、申し訳なさそうに頭を下げた。


思わず、こちらもそれに応えるように頭を下げた。


ヨルの隣にルーキの父コルダが座り、ヨルの肩を抱き寄せながら、ルーキの言葉に耳を傾けた。


城での話し合いのこと、国内部の問題のこと、キンナラ様の討伐のことをゆっくりと話した。


ルーキのは、明るく、元気な女の子という印象だった。しかし、今のルーキは違う。


人を落ち着かせるように、説得する方法を持っている。


そう、ハイネにそっくりだった。


「そういう…こと…。」


ヨルがポツリと零した。そして、ヨルが自らの肩にのるコルダの腕をはずし、私の方へ向き直した。


「姫様…申し訳ありませんでした。突然のことで、私は自分を失ってしまっておりました。無礼な口を聞き、お許し頂けるはずもございませんが、謝罪をさせて下さい。」


深々とその場で頭を下げた。


先ほどの姉妹や同胞に激昂していた時には気がつかなかったが、やはり妹だからこそ、目元や表情がハイネにそっくりだ。


「いいんです! むしろ、私も何も言えずに、すみませんでした!」


「そんな! サクラ姫が謝るなんて、やめてください!」


ヨルが下げた頭を急激に上げ、声を荒げた。


「あ、じゃあ…どっちも悪かったって事にしてください。」


うまく笑えただろうか。

眉がうまく動いていない気もする。


「お優しいんですね、ありがとうございます。」


ヨルは、眉を下げたまま困ったように笑った。


空気を叩き壊すように手が叩かれた。その方向に目を向けると、長であるリルの隣に座るナナミの姿があった。


「では、話がついたようですし、話を戻しましょうか。」


にっこりと微笑むナナミがいた。ヨルはその音と声でハッとしたように、言葉を切り出した。


「そうだ、先ほど聞いた内容では…姫様が危険すぎませんか?」


ヨルは、不安そうに、しかしハッキリとした物言いをした。

ナナミは、笑顔を絶やさずにその言葉を受け入れた。


「しかし、それ以外にどんな方法が…」


シャルは、居ても立っても居られずに、言葉を発した。


「いいたいことはわかる。ただ、この国の姫が死んでしまったら、それこそ一大事でしょう? いくら姫様に力があるからといって前線に立たせすぎよ。」


「だが、ヨル…」


コルダも口を挟みかけたが、すぐにそれをやめて、「あ…そうか…」と声を漏らした。


その言葉を隣で聞いたヨルは、小さく頷き、さらに話始めた。


「これだけの人数のキンナラがいれば、街を包むくらいの"音の結界"は作れるはずよ。」


白い衣の胸元に首の方から手を入れ、笛のようなものがついた紐を引き出した。


「そうか…その手があった。すっかり忘れていた…」とシャルが美しく束ねている髪をかきむしった。


状況がつかめていなかったのは、私だけで皆理解を示し、次々に自分の身につけている楽器を手元に出した。


太鼓、オカリナ、立て笛、三味線、木琴のようなものが床に並んだ。


私の上に浮かぶクエスチョンマークが目に見えたのか、ルーキが言葉にした。


「私たち、キンナラは音楽の民族と言われています。私たちの演奏は、不思議な力を持つのです。時に味方を強くしたり、時に相手を囲ったり、音色によってそれは変わっていくのです。」


「そして…」そう言いながら、立ち上がり言葉を続けた。


「キンナラ様にも効果はあるのです。キンナラ様は耳がいい。良い効果も悪い効果も特に効果が出やすいんです!」


「そう。だからこそ、音楽の結界で包み込んで、徐々にその結界を狭めていき、最後にシャルが姫の涙で討伐する…この流れでいけるはずなんです。」


ヨルがルーキの後に続いた。


「では、皆さん、日も暮れます。キンナラ様が降りてくる前に、参りましょう。」


ナナミも言葉を紡ぎ、方法は定まった。


皆で外に向かった。玄関を出ると、入る前は沈み始めていた夕日が、西の空にほとんど体をすっぽりと埋めて、頭だけが小さく覗いていた。


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