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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
3章
19/70

(11 弱きものの決意)

シャルの母親によって、家の中へと迎え入れられた。夕日の光によって、家の装飾として散りばめられた金属の飾りが光を浴びて輝いていた。


門を入ってすぐの正面に家と門を繋ぐ橋が架かっている。間には細い川が流れており、家の右側から左側へと、外から外へ流れていた。川辺には、ふんわりと光を放つ紫色の小さな花が色を添えていた。


目の前に広がる幻想的な雰囲気に飲み込まれ、まとわりつくような暑ささえ感じなくなっていた。


「サクラ姫様でいらっしゃいますね? 私、シャルの母親のナナミにございます。」


シャルの母親のナナミによって、現実に引き戻された。

私達を先導する彼女の髪は、夕日の色を吸って、綺麗なオレンジ色になっている。どうやら、他のみんなに比べて髪が白っぽいようだ。その白く輝く髪を綺麗に編まれ、お団子のように耳後ろでまとめている。


シャルのような息子がいるということは、それなりの歳だとは思うが、それを感じさせないほど美しかった。

衣もハイネやルーキ、ヨハネとは異なり、襟のところの白い衣に紫色の線が縦に入っていた。

右耳に光る青色の石が揺れるピアスも雰囲気によく似合っている。


あまりの美しさに見惚れてしまい、ルーキに『姫様!』と耳元で急かされての反応となった。


「…あ、こちらこそ、よろしくお願いします。ナナミさん。」


ナナミさんは、にっこりと微笑み、再度家に向かうため回れ右をして歩を進めた。その間も、『旅はいかがでしたか?』や『いつからこちらに?』など話が続いた。


話している間に幻想的な雰囲気に少しは慣れてきた。初めは分からなかったが、この家が寺のようなことに気づいた。


木造りの門をくぐった先には、右横に大きな釣鐘があり、目の前の橋を渡った先にある建物は、まるでお堂のようだ。


そのお堂には、どこか懐かしい雰囲気を感じた。


「ここ…なんか知ってる…。」


ポツリと言葉が溢れ出した。その言葉にいち早く反応したのは、ナナミだった。


「あら! サクラ姫様、覚えていらっしゃるのですか? 昔に来てくださったことがあるのですよ。」


嬉しそうな声を上げながら、ナナミが振り返った。


サクラ姫が来たことあるという姫側の記憶だったのか。記憶が共有されている可能性は否定できない。


「なんとなく、記憶がある程度ですよ!」


慌てて、言葉を付け加えた。


「ああ…そうでしょうね。姫様がこちらに来られた時は、小さい頃でしたので。」


ナナミの目の奥が陰ったような気がした。ナナミは元のように前を向き直し、さらに進む。少しの間、無音の時間が流れた。


突き当たりに、大きな部屋が現れた。廊下の隅から隅まで障子で区切られている。奥の方まで障子があることはわかるが、奥すぎてとても小さく見える。そこでナナミの足が止まった。


「さあ、長らく歩かせてしまい、申し訳ありませんでした。こちらに主人がおります。お入りください。」


ナナミは、先程の無音がまるでなかったように、初めて会った瞬間と変わらない美しい笑顔で私たちを誘導した。


何か少し恐怖を感じた。


誘導された通りに、シャル、ルーキ、ヨハネ、私の順で部屋へと入る。


木造りで、床を畳のような絨毯が覆っている。懐かしく、温かさを感じるはずなのに、重々しさも同じくらいに感じた。


正面に金色に光る猿の像と男性がいる。おそらく、あれがキンナラで、男性がシャルの父親なのだろう。


前を行く3人は目に入ると、頭を下げ、一礼してから前に進んだ。よく分からないながらも、3人に倣い、一礼をして進む。


親指ほどしか見えていなかった男性がやっと通常の大きさに見えてきた頃、男性も立ち上がり、声を上げた。


「サクラ姫様よく、おいで下さいました。シャル、ルーキ、よく帰ったな。」


「はい、父上、ありがとうございます。」


シャルは胸の前で合掌し、また頭を下げた。父親に対してここまで礼儀を重んじるのは意外だった。


「まあまあ、堅苦しいのは無しにして、姫様、汚いところですがどうぞおかけください。」


シャルの父親が手で示した先には、植物の草で編まれたと思われる、座布団のようなものが置いてあった。

その上にそれぞれ腰を落ち着けた。


「さて、改めまして、シャルの父親であり、このキンナラを治めております、リルと申します。こんな、何もないところで申し訳ありません。」


父親も、シャル負けず劣らずの美形だった。金髪は、母親同様に白っぽかったが、切れ長の目と刻まれたシワで全てを見透かされるのではないかと思うほどの目力があった。顎には白く長い、髭をたくわえている。白い衣には二本の紫色の線がはいっている。治めているものの証なのかもしれない。左耳に青色の宝石がキラリと光っている。



「父上、あまり時間がありません。他の国への旅路もありますし、この街の朽ち果て方もすぐに取り組まねば…。」


「シャル、その通りだ。緑も奪われ、農作物もできず、できてもキンナラ様に食いつぶされてしまう。人々は皆、この街の外で暫しの間、逃げ隠れておる。」


リルの眉間に深いシワが入る。


「まずは、今一度、この街の状況を教えてくださいませんか?」


シャルの言葉に深くうなづき、髭を軽く撫で、話を始めた。


全てが狂い始めたのは、5年前から。


昔は1年に1度キンナラ様と食事を一緒に取ることがあった。しかし、5年前にキンナラ様の体調が優れず、執り行わなかった頃から、一切実施していない。


その頃から、街には雨が降らなくなった。民は、そのことで農作物が育たないと、私の元へとやってきた。そして、キンナラ様にも話をつけに向かった。しかし、キンナラ様は、聞き入れて下さらなかった。


そして、天候の不振はより酷くなった。大地をキンナラ様が叩き、地割れを起こし、田畑の水は枯れ、残る水はこの街の外から流れる水だけとなった。


人々は、私への不信感と命を繋ぐため、この街の外に出て、どうにか生き延びている。この街に今残っているのは、私たちとヨハネの家のみだ。



話を終えると、リルは深いため息を吐き、口元の髭を撫でた。


「そう…でしたか…。」


シャルが言葉を途切れ、途切れに口にした。彼に目をやると、顔を下げて、肩を小刻みに震わせていた。恐怖と不安が彼を襲っているのだろうか、彼の顔が歪んでいる。



『キンナラ様…なんで。』という言葉が右側から聞こえた。ルーキかヨハネの声だが、分からない。声だけに注目したことはなかったが、2人はそっくりだった。


ルーキもヨハネも顔を青ざめさせ、ルーキの右手とヨハネの左手を結んでいた。


「他の街に悟られないよう、どうにか我らは残っていたが、キンナラ様には勝てぬ…。この他を明け渡すしか…」


リルの口から弱音が溢れた。


その奥にいたシャルが膝に置いていた手で、自分の顔を強く叩いた。バシンという音が、リルの言葉をかき消した。


「父上、キンナラ様を討伐しませんか?」


シャルが、重い口を開いた。


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