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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
3章
18/70

(10 夢の跡の束の間の休息)

金色の毛をなびかせて、大きな猿が真上から落ちてくる。動きを止めようと何人かの戦士が挑む。髪長い男は、腹部から赤い血を流しながら蹲る。少女は、何かを話しかける。聴こえていないのか、その少女をも木々のようになぎ倒して猿は動いた。それは、急に止まった、きれいな…


眩しい光が目に当たり、その光をよけるように顔を左側へと倒す。いつもの調子で目を開けることなく、とりあえずスマホを探す。手に当たるのはふかふかな布団だけだった。手を動かすごとに、クシャ…クシャと音を立てる。


「姫様? どうしたんですか? ダンスですか?」


顔の正面に、急にルーキの頭だけが現れた。

今思えば、ベッドの上に顔だけのせていたのだと分かるが、急にみるとうまい具合に隠れすぎて、生首が浮いているようにしか見えなかった。

そのため、低い音を立てて、自分でも驚く速さで飛び起きるしかなかった。それを見たルーキと奥に座っているヨハネは笑っている。


「ちょっと夢みてて…それで…」


慌てすぎて、恥ずかしくて言葉が思うように出てこなかった。


「夢ですか…。どんな夢だったんですか?」


笑うのをやめたルーキは真面目な顔で聴いてきた。


「うーん…それがさっきので、すっかり忘れちゃったみたいです…。」


本当は忘れてなどいなかった。昨日の話からなんとなく想像してしまった自分の妄想だったはずだから、恥ずかしくて口にしたくないだけだった。そんな自分の考えに反するように、ルーキはその言葉を聞いて大きく溜息をついた。


「残念です。きっと、導きの夢を見られたのだと思ったのに…」


「ああ、姫様が問題が生じた時にご覧になる夢のことね。」


ルーキの後に続いて、ヨハネまでも同じように残念がった。聞いてみると、導きの夢というのは、予知夢のことのようだ。ただ、姫が好きな時に見られ訳ではなく、何か国に問題が起きた時だけ見ることのできるものらしい。


だとすると…あれはもしかして…


自分の中での考えを巡らせる。ただあの夢も最後まで観れたわけではないから、むしろ危険なことだけしか伝えられない。対策がないことを伝えて不安を与えるよりは黙っておくべきだと自分の中で考えを終わらせた。


私が考えている間、2人は何かを話していた。ただこちらまでは聴こえない声だった。2人の距離は従姉妹にしては、少し不思議な距離に感じた。こちらの視線をルーキが察知したのか、話を中断し、3人で一階に降りることにした。


一階では、シャルが朝食の準備をしていた。

薄いパンのようなものを熱く熱しられた石の鉄板で焼いている。香ばしい匂いが立ち込めていた。

薄いパンの間には切れ込みが入っており、その間に赤や黄色の食材を挟んでいく。


あまりの手際の良さに驚いて、見とれてしまっていた。熱い視線にシャルが気づいた頃には朝食が出来上がっていた。


「姫、恥ずかしいので、そんなに見ないでください。さあ、朝食としましょう。」


お腹が空いていたわけではなかったが、シャルの言葉に自分のお腹が答えた。思わずお腹を抑えて、苦笑いをした。周りはみんな優しく笑った。


「私もお腹すいたー!久々のインタルポールだ!」


ルーキは私の恥ずかしさを消すための演技なのかわからないが、ヨダレを垂らしながらシャルが作ったものが乗った大きな葉2つを持って、背の低い机に運んだ。ルーキを追うようにして、みんなで机を囲んだ。


『恵みを与えてくれた天とキンナラ様に感謝、生き物と植物に感謝。全ての理を忘れることはありません。いただきます。』


いただきますをする時のように合掌をしながら、みんなが一斉に唱えた。

分からないながらに、目を瞑り、それに倣った。


言葉が途切れると、それぞれが思い思いに食べ物に手を出した。インタルポールと横にチーズなようなものが大きな葉にのっていた。そして、飲み物は薄い赤茶色で、小さな赤い木の実が入っていた。ルーキはインタルポールから。ヨハネは飲み物から手を出していた。


熱々のインタルポールを手に取った。思った以上にズシっと手に重さがかかった。口に運ぶと、表面がサクッという歯触りのいい音を立てた。香ばしい香りとほんのり甘い香りがして、サクサクしているのにもちっとした食感が美味しかった。ジャガイモのようなものとトマトのようなものが甘辛く味付けされていて、挟み込まれている。それがまた美味しかった。


「シャルさん、すっごく美味しいです。」


自分の思いのままを口に出した。誰かの作ってくれたものをこんな風に食べるなんていつぶりだろうという嬉しさもあったかもしれない。


「お褒め頂き、ありがとうございます。」


シャルは嬉しそうな表情をして、やっと食事に手を出した。束の間の間、昨日の恐ろしいキンナラ様のことなんて忘れていた。ただ、そんなに長くは続かなかった。あっという間に食べ終わり、当主の家に出発する準備へと移った。


1日もいなかった家を後にした。とても寂しい気持ちだった。この扉を潜るともう平穏な日々には戻れない。その思いがあったからだろう。ただそんな私の感情とは裏腹に、雲1つない青空が広がり、太陽が照りつけていた。


シャルの実家を目指し、歩いた。ヨハネ曰く、キンナラ様は昼間は現れないということだった。照りつける太陽で、視界がぼやけてきた。まるで真夏だった。少し歩いただけで汗が吹き出て、息を吸っても熱風しか入ってこなくて、息が辛い。


「こんな天気滅多にないのにね…」


ルーキが項垂れながら、言葉をこぼす。


「ああ、ずっと寒くはないけど、こんな暑いことなんて無かったよな。」


シャルも同じ考えだったようだ。


「キンナラ様が、天気をコロコロ変えるから…」


ヨハネが息を荒げながら、説明をした。キンナラ様は、天気を操ることができるが、最近は街の民のためではなく、勝手な気候にしてしまうらしい。話しながら気を紛らわせて、大きな門のある家の前へとやってきた。着いた頃には、同じ街だというのに、日が西の方に傾いていた。


シャルが門の真ん中についている金色の丸い金属を、棒で鳴らす。厳かな音が辺りを包んだ。門の扉が開き、中から綺麗な金髪の女性が現れた。


「シャル、お帰りなさい。ハイネから手紙で聞いていましたよ。」


「ただいま戻りました。母上。」




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