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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
2章
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のーととひとやすみ(8 キンナラに蔓延る悪の気配)

書類やパソコンでパンパンになった鞄の前ポケットに入った鍵を取り出す。

キーケースに入れることなく、自宅と実家の鍵に直接フックをつけ、鞄のチャックの引き手につけているため、ジャラジャラと音が鳴る。

静けさのある23時半のマンション内で鈴のように響いた。


申し訳ない程度に付いているオートロックを開けて、205号室の自室へと向かう。

疲れはあるものの、好奇心が勝ち、すぐにでもノートを見たいという気持ちでどんどん足早になっていく。


ガチャリと音を立てて、扉を開けると温かい空気が出迎えてくれる。

電気をつけると久しぶりに我が家に帰ってきた気分だった。


今日一日の出来事というのが全く信じられない。


ただ、キッチンのシンクには、今日食べた朝ごはんのお茶碗と汁椀などが置いてあった。

そのシンクはとりあえず通り過ぎ、もう一枚扉をくぐってリビングへと向かう。


重い鞄を床に置き、灰色のジャケットを脱ぎ、所定のハンガーにかける。

ベルトを外し、少し汗ばんだズボンも別のハンガーへとシワを伸ばしながらかける上下のスーツ目掛けて、消臭スプレーを吹きかける。

スーツ全面にかけ終わると、やっと何も履いていない生足に高校の時に着ていた紺のジャージを纏う。

長年履いていて愛着はあるが、膝のあたりのほつれが最近穴を大きくしている。


パソコンデスクの上に置いてあるメイクを落とす拭き取りシートで顔を拭き取りながら、鞄の中からノートを取り出し、ベッドの上に腰をかけた。

ノートをパラパラと開くと、3ページ目まで進んでいた。


『姫はなんと本の中に隠されていました。

自らの持つ不思議なペンの力で、本の中から城の自分の部屋へと戻りました。

部屋にはキンナラのシャル、ハイネ、オル、ルーキがいました。

彼らは、死んでしまった・いなくなってしまったと思っていたサクラ姫が急に目の前に現れて、目を丸くしました。


サクラ姫が生きていた安堵感でルーキは泣いてしまいました。

シャルやハイネは驚きながらもたびに出ることを提案し、サクラ姫に八季の国の歴史と姫の涙の存在を伝えました。

姫はその提案を承諾し、ルーキとシャルとともに旅へ出かけることとしました。

ただ、サクラ姫がお城にいないとバレてはいけません。

ハイネがサクラ姫の代わりをして、キンナラに着くまでサクラ姫はノートの中で隠れてていることになりました。


シャル、ルーキはハイネとオルの準備してくれたものを持って、キンナラへと向かいました。

旅に出たと分からせるために、嘆きの道は使わずに、正面から出かけていきます。』


ちゃんと進んでいた。


やはり、このノートは起こったことがそのまま書き足されていくようだ。

ただ、それにしても妙なのが、その字体がまるで小学生の時の自分のものと類似しすぎている点だ。


絶対にこんな文章や漢字が書けるはずもなかったのに。


それがどうしてなのかわからなかった。

ただ、深くは考えなかった。

だって、このノート自体がおかしいのだから。


このノートにかけるペンをカバンから取り出して、続きを書き足す。


『朝に出かけると、夜になる前にキンナラが見えてきました。

1番星が輝く頃、シャルの持つ本からサクラ姫が現れ、2人と再会したのでした。』


ペンをノートから離して、ノックする。

光に包み込まれて、世界が白くなった。



ふんわりとした花の香りが鼻をくすぐった。目を開けると、驚いた2人の顔が目の前にあった。


「うわっ…びっくりした…。」


思わず声が出てしまった。

シャルが自分が近づきすぎていたのだと気づき、すぐに離れてコホンと咳払いをした。


「何度見ても驚く! 姫様すごいですね! どうやってこんな小さいところに入ってるんですか?」


近づいたままのルーキは私の左手近くに落ちていた本を拾いながら話をした。

その間もまだ起き上がれずにいた。

夜の少し肌寒い空気が優しく頰を撫でた。


草花のそよそよと風に揺れる音、そして、身体を包み込む優しい柔らかさを感じて、ずっと横たわっていたかった。

左側に立っていた、ルーキが手を差し出した。


「さ、姫様、キンナラはすぐそこですよ!さっさと行きましょう!」


一日歩いてきたとは信じられないほどに元気だった。その手を借りて起き上がる。

起き上がった先に、木々の隙間から光の灯る家がいくつも並んでいるのが見えた。


「あの木の隙間から見える集落がキンナラなんですよ。」


あと数百メートルというところだった。

キンナラに近づくとルーキもシャルも、顔が緩んでいるように見えた。


「すごく、嬉しそうですね?」


シャルとルーキに話しかける。

ルーキは満面の笑顔を向けてきたが、シャルは右手で口元を押さえ、申し訳なさそうな顔をした。


「申し訳ありません…。久しぶりに故郷に帰ってきたものですから、嬉しくてつい…。」


いつもの冷静な顔に戻ってしまった。

対照的なルーキが話を続ける。


「仕方ないよね! シャルは10年以上も姫様の護衛で帰ってないもんね!」


「そんなに帰っていなかったのですか!?」


思わず、声が大きくなってしまった。


「え、ええ、まあ。姫様を守ることが私たちの使命ですから。」


困った顔をしながら笑った。それがまた心を締め付けた。


「早く行きましょう! それでみんなに会ってください。」


サクラ姫と交代してから、全く時間としては過ぎておらず、過ごしてきたのはほんの少しの時間だ。

ただ、自分のせいで彼らは帰ることすらできなかったのだと思うと、とても嫌な気分だった。

早く進みたいそう思っていたが、急にそれを打ち砕かれた。


「あ、そうだ。進む前に、姫様これを被って下さい。」


ルーキがカバンの中から、金色のウィッグと2人が着ている白い衣装を取り出した。


「そうですね。人のいない今のうちに着替えておきましょう。姫がいるとバレては元も子もありませんから。」


ルーキに習って、ドレスの上から、白い衣装を着た。

白い衣装は広がるとただの布であったが、巻きつけ方1つで服に早変わりした。

そして、ハイネの作った金髪のウィッグを頭に被せた。

とりあえず被せたということがあり髪が乱れ、どこかの髪が目にかかる。

ただ、目にかかる髪が月明かりでキラキラと光り、とても綺麗だった。

髪の毛の乱れを直し、着替えはあっという間に終わった。


「わー! 姫様キンナラにしかみえませんよ!」


自分では何も分からなかったが、楽しくなってきている自分がいた。

そこからはたわいも無い話を続けながら、足早に灯りを目指して歩いていった。


黄色の大きな門のようなものが現れた。

木造りのようだが、上から黄色に塗装されているようで、木目が見える。

そして、長年建っているからか、動物の爪痕なのか、大きな何かで引っ掻いたような痕がいくつもあった。2人にこれはなんなのかを聞こうと、青ざめた顔が並んでいた。


「姫様、少々走ります。」


そういうと、門から少し小走りとなり、街まで走りきった。

息がだんだんときつくなっていき、肺のあたりが締め付けられるようにキリキリと痛んできた。

その痛みにすこし慣れてきた頃、森を抜け、街へとついた。

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