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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
2章
13/70

のーととすぎさったげんじつ(7 出発の抜け道)

どれ程の時間が立ったのだろうか…。


部屋を照らす蝋燭が半分よりも短い長さになっている。しかし、沈黙は未だに続いていた。


考え込んでしまっているシャルと精神的に良好とは言えないハイネだからこそ、仕方ない。

けれど、このままでは、話が進まない。

何か方法はないのだろうか。


分からないことだらけの状況だが、考えられる要素、問題、実情を踏まえて必死に頭を巡らせた。


私さえ見つからなければいいのだ…

この城にあると信じてもらえれば…


その時、本棚にある歴史書と黄緑色の本に目が移った。


そうか…もしかすると…


思いついた考えを言葉に移してみた。


「あの…ちゃんとまだ理解できていないからこそ、また皆さんを不快にさせてしまうかもしれません…。ただ、こんな方法はいかがでしょうか?」


頭を抱えていたシャルと、地図に赤黒い血を流しながら項垂れていたハイネが顔を上げた。


「外に出て国に着くまでの間、とりあえず、シャルさんとルーキさんだけで動くのです。その間、私は本の中に隠れておきます。」


言い切った後、2人の顔を見るとキョトンとした顔をしていた。もう少しだけ説明のための言葉を紡ぐ。


「私は、実はこの本の中に隠れることができるんです。しかも、ある条件さえ、守ればまた時間を超えて戻ってくることができます。まず、キンナラの国に行き、仲間を1人連れ帰り、ハイネさんの代わりを務めてもらう…それはできませんか?」


自分ができることと、種族の壁は厚いということ、そして、人が少なくなったとバレてはいけないということを加味して、思いついた方法だった。

ただ、思っていた以上に2人から反応がない。


やはり、また間違えたのだろうか…?


また沈黙が訪れようとした時、それを破ったのはシャルだった。


「姫様…そんなことが可能なのですか? もしも、本の中に隠れて下されば、確かに…。あとは、その1人がこの城に戻ってくる方法ですね…。」


「それなら、大丈夫。キンナラと城は結ばれた秘密の道があるわ。」


ハイネがやっと口を開いた。


「え… 秘密の道…? ハイネ、なんなんだ…それは。」


シャルの言葉に驚いた。


ハイネが口にした、キンナラと城を結ぶ秘密の道というのは、てっきりキンナラ内部の伝承なのだと思っていた。

しかし、シャルはそれを知らなかった。

このシャルの様子から見るに、恐らくハイネ以外の他の2人も知らないに違いない。


「シャル、ごめんなさい。別に秘密にしていたつもりはなかったの。私、話に出なかったから、すっかり忘れていたのよ。あなた達3人が来る前のキンナラの城番の人たちから聞いたの。」


キンナラの城番になるものは、30年ごとに変わる。

しかし、死んだしまった場合、次のものが補充される。

そのため、キンナラのものは皆が一緒に城番になることはなかった。


ハイネは今年で19年目だった。


シャルは12年目、ルーキとオルは2年目だ。


シャルが来る以前のキンナラの人が姫を連れて逃げる道を教えてくれたらしい。

地図にも載らず、魔法でも感知することができず、それでいてキンナラに続く安全な道。


それが、「嘆きの道」だそうだ。


嘆きの道を通れば、1日かかるキンナラへの道が1時間で戻れるらしい。


全てを聞いて、シャルが口を開いた。


「なるほど…それならば…。ハイネは、とりあえず姫の代わりをするのだ。1日はかかってしまうが、とりあえず部屋の中に入れば、そこまで気づかれることもないだろう。そして、我々は、姫様に本に入って頂き、2人で正規の道から出かけて、キンナラを目指す。これでどうだろう?」


「いいと思うわ。それならば、なんとか気づかれないし、キンナラで仲間を1人加えたということにすればそれ以降3人で歩いていても違和感ないものね。」


ハイネの目に光が再び宿った。


すくっと立ち上がり、机の上にあったハサミを取ると、自らのお尻付近まで届く、長く美しい金色の髪の毛を私と同じ肩のところで切り落とした。


「え!! ハイネさん!? 何を!?」


ハイネは気がつくと、顔を緩ませた。

「問題ありません。姫の代わりをするのですから。それに、キンナラの髪の毛はすぐに見分けられるほどの不思議な力を持っています。どこまでバレないかわからないですが、姫にはこの髪で作ったウィッグを被って頂きます。」


そう言って、自ら切り落とした髪の毛を集め、丁寧にツバのない帽子のようなものに縫い付け始めた。


「さあ、姫様、このウィッグが完成すればすぐに出発です。姫様は、狭いことと思いますが、本の中でお待ちください…。」


シャルが黄緑色の本を手渡してくれた。前と同じようにページを開く。光が溢れて、また身体を引っ張られていった。


その時にハイネの顔がチラッと見えた。


その口元は、「いってらっしゃいませ」と動いたような気がした。


目の前に光が未だ溢れている。

眩しくて光を遮るために、顔の前に手を掲げる。


薄く目を開けると、目の前にいる車がどうやらハイビームのまま駐車しているようだった。真っ暗な森の生い茂る公園の駐車場では一際眩しかった。


「本当に戻ってる…」


自分で本の中に入れるとはいったものの、正直、今までのは、まぐれだったかもしれないと心の中では思っていた。

そのため、少し安堵感があった。


ただ、何か忘れている気がする。


「今、何時!?」


慌てすぎて、全てを口にする。

手元のスマホの画面を見ると、19時39分だった。


意外と時間が経っていないという感覚だった。

けれど、部長に怒られたのがずっと昔のことに感じた。


向こうの世界で過ごした時間は、前の時よりも短かったようだが、時間の経過は前と同じくらいだった。

現実と向こうの時間の進み方は、場合によるのかもしれない。


過ぎ去った現実をもう一度歩いている気持ちになりながらも、エンジンを掛ける。

FMラジオから、大好きな音楽が流れていく。


音楽を楽しむ余裕なんて今までなかったのに。

みんなが準備して、キンナラに着いたら、早く戻りたいなという気持ちさえ、芽生え始めていた。

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