(5 八季の国の歴史)
いつから出よう
何を準備していくべきか
他のものにどうやって伝えていくか
多くの会話がされている。自分の目の前で進んでいく話。おそらく自分が関わっているであろう話なのだが、全くわからないないままに進む。新卒で初めて営業として先輩に同行したことを思い出した。
なんともわかるようで、わからない話の中で、自分なりに答えを出して話さなければ駄目だったあの商談を。
「あ、の…ちょっと待ってもらえませんか? 私の儀式って何? それに、この国で一体何が起こっているんですか?」
不安で喉の潤いがなくなり、所々カサついた音が出た。みんなの声に比べたら小さく出てしまった声だったが、視線を集めることに成功した。
「申し訳ありません、サクラ姫。姫は、記憶を失っていらっしゃったのでしたね。私どもだけで話を進めてしまっておりました。」
シャルが言葉を発した後、深々と頭を下げた。
改めて向き合い、話が再開した。
「さて…どこから話せばいいか…」
シャルは言葉を選びながら、私への説明を考えるべく少し言葉をきった。
その時、腕組みをし、足の爪先を私に向けずハイネのいる右に向けた。営業を3年間やってきた私としては、この行動が少し気になった。何か隠したいことがあるのではないだろうか?と。
言葉を切るシャルを見かねたのか、ハイネが動いた。ハイネはシャルの赤い石を取った後、私の立っている机の前まで歩いてきた。そして、机の棚に入っている茶色の背表紙の本を取り出した。
「姫様、これを。」
その本を私に渡した。本は、背表紙は綺麗に見えたが、ページの黄ばみと黒色の汚れがいくつも斑点のようについていた。
表紙には、『八季の国の歴史』と書いてあった。始めのページを開く。昔の本の特有のパリパリという紙の音と、インクの香りそして、鼻の奥にやってくる懐かしい香りが一気にやってきた。
「この本は、姫様の祖先がこの国を生み出した約500年前から綴っている歴史書です。姫様にも書いていただいている日々の生活を纏めたものになります。
そして、姫様の祖先にあたるハル姫には、不思議な力が備わっていました。本の2章を開いてください。」
本をめくり、ページを進めて2章を開いた。『2章 姫の力と赤き石』というページに至った。そのページに入ると、ハイネは言葉を続けた。
これが、姫の持つ力でした。
赤き石は、姫様がある儀式を行うことで生み出されます。この赤き石は、『姫の涙』と言われ、姫の力の一部がこの石を使うことで得られるというものです。
姫様は、この国で一番の力を持って生まれて来られます。その力の恩恵をそれぞれの国の当主は得る代わりに、八季の国を守るべく、姫様に従事するという契約が結ばれました。この儀式は、25年間に一度行われて参りました。
その儀式と契約のおかげで、この475年は、豊かな国として反映して参りました。
しかし、10年前に突如として黒い魔法使いが現れました。黒い魔法使いは、持っている力を使い、この国全土に問題を生み出しました。しかも、まだ儀式を行うには、サクラ姫は幼いということもあり、皆、持っている姫の涙をうまく使うしかありませんでした。
「けれど…」
ハイネは、言葉を切り、右手に持っていた姫の涙を私に渡してきた。姫の涙と呼ばれる石は、直径1cmほどしかないのに500mlのペッドボトルを渡されたほど重みを感じた。
「直径8cmあって、それぞれの八部衆に10個ずつ配給されていましたが、これで最後の1つです。」
ハイネは、不安さを感じさせないような凛とした声で言いきった。
「これがなくなると…どうなるんですか…?」
「おそらく、この地のバランスが崩れ、国が滅びます。」
もう決まり切ったことのような物言いだった。
「だからこそ、姫様には、少し早いですが儀式を実施して貰いたいのです。しかし、このまま儀式を進めては、この国の混乱は残り、いずれにしても反乱が起き兼ねません。そのため、まず、姫様には旅に出ていただきたいのです。」
ハイネの顔の気迫に押されて、これ以外の答えは出せない…そう思った。
「わかりました。」
昔の自分が書いたであろう物語の重く、険しい道のりを恨んだのは初めてだった。




