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私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
2章
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(4 八季の国の問題)

天井がぶつかりそうな距離に見えた。身体が浮き上がっているようで、どんどん天井に近づいていく。思わず自分の小さな細い目をぎゅっと閉じた。

痛みはない。どうやら、天井にギリギリ触れずにすんだようだ。


が、次は身体にジェットコースターで降りる時の浮遊感が襲ってきた。

急なことに対応できず、声すら出ない。


それなのに、不思議とあたりの状況がゆっくり見える。

窓ガラスが割れ、壁には大きな鉤爪で引っ掻かれたような跡があり、最初にハイネに通されたサクラ姫の部屋からは大きく印象が変わっていた。


そんな部屋の真ん中で、泣いている金髪の女の子とそれを慰めるように、頭を撫でる金髪美女がいる。

窓際にも2人の金髪の男性がいるのが確認できた。


そして、身体にはどんどん重力がかかっていき、落ちるスピードが速くなっている。


死んだ。

走馬灯は見なかったにせよ、身体が危険だとこうやって世界の時間という概念は、通常と比べられないほどにゆっくりと時間を刻むのか…

などと思いを巡らせていた。


ドシン。


お尻から着地し、寂しい雰囲気の部屋の中に、けたたましい音が響いた。椅子に座るかの如く、綺麗に机の上に座っている。


あれだけのひどい音がしたのに、あんまり痛くない。

何かがクッションになってくれたようだ。


お尻の下を確認すると、開きっぱなしの見たことのない分厚さの本が置いてあった。本のおかげで私の身体は助かったようだ。


「よっこいしょ」


ヒールに気をつけながら、机から飛び降りる。

床まで30cmほどしかないとは分かっていたが、自分に勢いをつけないと降りられず、いつものおっさんくさい『よっこいしょ』が出てしまった。


机から降りて立ってみると、お尻からヒリヒリとした痛みが頭にぐんとやってきた。お尻をさすって、痛みを和らげてみる。


「ひめ…さま…?」


カタコトの声が聞こえ、顔を声のあった方へ向ける。先程一瞬のうちに把握した金髪の男女の姿が、形を変えることなく、固まっていた。

目を丸くするとはこの事だと思うほどに、全員が目をグッと開いていて、宝石のようにキラキラ輝く目がポロッと落ちそうだった。


「どういうこと? え、姫、え?」


状況が判断できないのか、口をパクパク開けながら、話している。


「よかっだですー! 生ぎでらっしゃったんですねー!」


先程、驚きすぎたのか、一瞬泣き止んだルーキが、再度ボロボロと大粒の涙と盛大な鼻水を出し始めた。

鼻声すぎて聞き取りにくい。


ハイネは、「あらあら…」とルーキの鼻水と涙が混ざったものを持っていたスカーフで拭いている。


「姫様、ご無事で何よりでございます。本の中に隠れていらっしゃったとは…。こんな部屋の状況でしたので、てっきりまた黒い魔法使いが来て、姫様を…」


最後まで言い切れずにシャルが後ろを向き、目を拭う動作をした。


「心配かけてしまってごめんなさい! 黒い魔法使い?って奴が来たのは本当だけど、私もよく分からないままに本の中に引き込まれてしまってて!」


自分が心配をかけた覚えもあまりない中、ここまで泣いてくれる人には申し訳なく、スラスラと言葉が出てきた。そして、シャルとハイネに質問されながら、お互いに状況把握に努めた。


ハイネに本のことを教えてもらってすぐに、本を開いたら本に引き込まれてしまい、その瞬間に黒い魔法使いを見た。

一方でみんなは、ガラスが割れる音がして、駆けつけるとこの部屋の有様になっており、いなくなっていることに気づいた。

あまり大ごとにしすぎるのもまずいと判断し、出来る限りの探索をしていたところに私が現れた。ということらしい。


「よかったですが、このままではまた狙われないとは限りません。それに、もうすぐ儀式もある中、それぞれの街で問題が起こっているのも事実…」


ハイネが神妙に語る。


「姫様を連れて、旅に出ましょう。儀式の準備も含めて。」


凛とした声が大きい部屋に響き渡った。一瞬、反応しきれなかったシャルが、声を荒げた。


「ハイネ!何を言っているんだ…姫様を連れて行くなんて!」


「でも、またこんな事が起こるかもしれない。それに、次は殺されない保証はない。」


ハイネは至って冷静だった。


「たしかに…しかし、他のものにはどう伝えるのだ?もし、この城に姫様がいないとわかってしまったら、それこそこの国の終わり…。」


「だから、身代わりを作るのよ。私がやる。」

まゆ一本すら動かない。


「そんな…。でも、それなら…。しかし…」


「シャル! あなたがこの城では、キンナラの代表なのよ。しっかりして。ちゃんと考えて。私は、あなたとルーキが行くべきだと思う。」


「え!あたし?」


突然呼ばれたルーキが鼻声に加えて、裏返った声を出した。


「オレは? 言っちゃダメなの?」


オルも不思議だったようで、質問を投げかける。


「ダメよ。私が魔法で姫様になったとして、急にお世話係のキンナラが全員いないなんて、あり得ないでしょう?だから、オルの出番なの。」


「しかし、ハイネ。私は出てもいいのか? あの契約が…」


シャルは何か引っかかだているようだ。契約…?


ハイネはルーキをなだめる手を止めて、窓際のシャルの方へと歩く。掌をシャルの顔の高さまで上げ、大きく振りかぶって、いい音をさせながら、平手打ちをかました。


「ごめん、シャル痛かったね。でも…」


シャルの顔に手を当て、平手打ちをした箇所を撫でた。そして、その手をシャルの首の後ろに回し、抱きついた。

シャル耳元でハイネの唇が微かに動いた。その言葉の続きは聞こえなかった。


ただ、その言葉でシャルの顔つきが変わった。


「オル、お前は私の弟だ。だからこそ、ちゃんとハイネを守り切りなさい。ルーキは私と共に、姫様と旅に出るのだ。」


シャルの大きな声とともに壊れた窓から強い風が吹き込んだ。ピリッと冷たい空気が身体を包んだ気がした。

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