表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がわたしを描く世界   作者: 宇槻 叶
序章
1/70

くらいせかいにおちたのーと

初めて投稿致します。

楽しく活動が出来ればと思っています。

社会人になって3年が終わり新しい春が勢いよく過ぎている。4年目だと思った矢先だったはずが、4月も終わりに差し掛かっていた。

かつての学生時代に社会人になった先輩たちが口々に言っていた言葉の意味がわかった。


『本当に社会人になったら、あっという間だよ。』


『学生って幸せだから満喫しておきなー。』


『まとめて休める今のうちに色々やっておいた方がいいよ。』


聞き飽きた…。

それに、言いたいだけでしょ?

自分が大変アピールなわけ?

こっちだって研究室の研究とか授業とかバイトとかで忙しいし、時間もなければお金もないよ。

その先人の言葉たちを、私はただ単に、大人になった自分を魅せるための『かっこつけ』と処理していた。


今になってみれば、あの人たちが言っていたこと…いや、教えてくれていたことは紛れもない事実だった。


そんな思いを朝から巡らせるべきではなかった。


「次は天気予報です。はるかちゃーん…」


テレビからいつもの声が聞こえた。慌てて画面を見る。6時34分。


「やば…」


先ほどまで頭をグルグルと回っていた思考が抜け落ちたように消え、いつもの身支度へと頭が切り替わった。

家から会社まで、ドアtoドアで、30分間。

残る身支度は、コンタクトレンズを入れる、寝癖直し、化粧、服を着替える…この3つだけ。つまり10分あればいい。ギリギリ間に合う…。

ぴょんと跳ねているこの短い髪の寝癖さえうまく処理できれば、7分まで短縮できる。


別に寝坊をしたわけではない。5時30分には起きていた。ただ、顧客情報整理や今日の準備をしてしまったばかりに…しかも、昔の思い出にを浸ってしまっていたばかりに、時間が過ぎてしまっていた。


今日の商談は東京都青梅市で9時から。一度、会社に車を取りに行ってから行くため、確実に7時半には会社を出発する必要がある。


こんな予定を頭に描きつつも、体はその予定を遂行するべく流れるように準備を進め、最終的に、10分もかからずに家を出た。会社までの出勤時間が一番、魔の時間だった。


『仕事…やめたい…』


その想いが胸の中で大きくなる。叫び出しそうなくらいだった。

営業という仕事が、自分には重みでしかなかった。


「商品を勧めて、買ってもらう」。そして、「お金を集めてくる」。これが私の仕事。


やりがいはある。やりがいしかない。

ただ重くのしかかる1億5千万の目標金額。

そこに関わる色んな人たちの声とストレス。


何をやったって変わらないと言われてしまえば、そうかもしれないが、キツかった。

しかも、目標達成をしないことも恐怖だったこともあり、必死に毎年目標達成してしまっていたせいで、毎年目標金額はうなぎ登り。

昨年度の105%の金額を常に望まれる。


しかも、お客様の信用を勝ち取り、その信用を利用して、買ってもらうしかない。

商品が弱いからこそ、それを利用するほかない。

この状況もまた、心を脅かしてきた。


このストレスで身体が異常を来し始めていた。


食事をとっても、味がしない。

話をしている時に、自分が何を言っているのかわからなくなる。

急に息が苦しくなる。

涙が溢れでてくる。

電車の線路に吸い込まれそうになる。


マイナスの感情と15分ほど戦った末、駅に着いた。ホームへの階段を降りると、人の多く並んでいる5両目の最後尾に立った。


線路に吸い込まれないようにするために。

他の人が前にいさえすれば、飛び降りることはない。


なんとか気持ちをやり過ごして、電車に揺られて会社に向かう。駅から会社へと向かう道、いつも変わらないこの道を、いつもと変わらない感情のまま歩く。


家から出て、30分の道のりが遥かに長い時間を過ごしたように、朝からどっと疲れがやってきた。


「おはよーございまーす。」


まだ誰もいない虛に気怠げな挨拶する。つけたばかりの空調の音が返事をしてくれる。これもいつも通りだ。

静けさの中、自分のハイヒールのコツコツという音を響かせながら、自分の資料山積みのデスクに向かった。


「ふー…やるか…。」


大きなため息を吐き、時計を見る。

7時11分。


少し作業できる時間がある。

商談の準備をするため、ノートパソコンを取り出そうとカバンに手を伸ばした。

手の感触にパソコンがなぜか分厚く感じる。

カバンから抜き出すとノートパソコンから、何かが音を立てて床に落ちた。


黄緑色のノートだった。

しかも、黄ばんでいて、ところどころ表紙も破けていた。

ひどく年季が入っている。

全く身に覚えのないノートだ。


「…なんだろ? このノート。」


拾い上げて、裏面も見てみる。裏面には、名前と題名があった。


『わたしのせかい 安原 さくら 』


「え…わ、たし? 」


驚きが隠せず、ノートを持っていた手の力が抜けて、ノートが再度、床を鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ネガティブな感情とそれに付随する思い、例えば電車に吸い込まれそう等が上手く描写されていると思います。 [気になる点] もうすこし、謎であったり、主人公の内面は上手くでているのでそれ以外の物…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ