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異世界メイドとお嬢様



 朝、サラお嬢様のお部屋の前にて、服装に乱れがないことを確認した後、いつもの様にゆっくりとノックをいたします。お声が掛かるのをお待ちしてから、そっとドアを開けると、私の天使が、今日も美しく佇んでいらっしゃいました。


「おはようございます、お嬢様」


「リナ、おはよう」


 満面の笑みを浮かべてご言葉を返して下さるお嬢様のお元気なご様子に、私は今日も活力を(みなぎ)らせつつ、お嬢様のお召し替えのお世話に取り掛かりました。


 私はリナ。エトリア王国、リードル伯爵家の下級メイドです。今年で十三歳となります。


 未だ勤続六年目の下級メイドながら、今年で六歳になられる伯爵家三女サラ様の、専属のお世話係として勤務させて頂いております。


 サラ様の御兄弟の例からして、通常は複数のお世話係が常駐することが自然ではございますが、サラ様の場合には、お食事、お掃除、そしてお風呂から排せつ等に至るまで、日常生活のすべてを私一人でお世話させて頂いております。


 伯爵家のご令嬢でいらっしゃるサラ様ですが、二歳のお誕生日を迎えられて以降、ご家族と離れ、四年間ずっと、一日の全てをこの別宅にて過ごされています。


 といいますのも、サラ様は、無自覚に周囲の生物や魔道具の魔力を吸収し、自らの体を通して魔力を発散させてしまうという特異体質でいらっしゃるのです。


 サラ様の特殊体質についてご説明するに当たり、先に、魔力と魔法、そして魔術師について少しお話したいと思います。


 魔力というのは、この世界の生きとし生けるものが必ず内在させているという「生命力」と同義の力であり、この魔力を用いて物理現象を発生させる行為、またその手法のことを、魔法と呼びます。魔法は人々の生活水準を飛躍的に向上させた為、魔法の扱いに長けた者は魔術師と呼ばれて人々の尊敬を集めております。


 一方で魔法の使用には危険が伴い、使い方を誤れば、魔力切れという病気を引き起こします。通常、魔力は生命活動によって徐々に回復していくものですが、魔力切れの症状に陥ると、内在する生命力の極端な減少により、魔力の回復量がおいつかず、衰弱して死に至るというのです。


 さて、サラお嬢様の特異体質は、周囲の者に強制的に魔力切れを起こさせてしまうという恐ろしいご病気なのです。通常の人間がお嬢様に近づくと、一時間もしないうちに魔力切れの症状が表れ始め、二時間程で意識を失ってしまいます。実際に計ったことはございませんが、三時間もたてば、命が失われてしまうのではないかと思われます。効果範囲はおよそ五メートルから十メートル程かと。


 通常、この病気は胎児の頃から発症し、母体の生命力を吸収し過ぎて、母子ともども亡くなってしまうという形で現れるのですが、お嬢様の場合には、お生まれになられてから二年後に発症するという珍しいケースでございました。お嬢様のお世話をさせて頂いていたメイド達が、急に過労で寝込んでしまうという事態から、お医者様の診断を受けて発覚したものです。


 では何故私がこうしてサラ様のお側にお仕えできるのか。それは、私自身の特殊な事情が絡んで参ります。私のような一介の下級メイドが自分語りをするのは憚られるところでございますが、簡潔に申し上げますと、私が魔力を持たない体質であることが、その要因でございます。


 先に、魔力とは「()()()()()生きとし生けるものが必ず内在させている」ものと申しましたが、私はこの世界の人間ではございません。いわゆる異世界人なのです。


 詳細は省きますが、とにかく私はサラ様の魔力吸収によっても魔力切れを起こすことのない唯一の(少なくともこのお屋敷においては(ただ)一人の)人間なのです。そういうわけで、この私がサラ様のお世話係を拝命いたしました次第です。



*****



 夜になりました。サラお嬢様がお休みになられると、私はいつものように、サラ様の寝室にて寝ずの番をいたします。何故寝ずの番が必要なのか、それはサラ様の可愛らしい寝顔を眺める為であるとか、稀に夜中に目を覚まされたサラ様のお呼びになるお声に即座にお答えする為、というだけではなく、これもまた私の体質によるものなのです。


 この世界の人間は、各々が「スキル」と呼ばれる能力を一つ所持しています。これは生まれつき備わっている才能のようなもので、「裁縫」「料理」といった家庭的なものから、「剣術」「槍術」といった勇ましいものまで、多種多様なものが存在いたします。この世界の親たちは子供が五歳になると、その子のスキルを「スキル鑑定士」に鑑定させるのが通例となっているそうです。


 七年前、私がこの世界に召喚される際にもスキルが一つ与えられたのですが、それは「壮健」という名前のスキルでございました。


 壮健といえば、「気力が充実し、健康である様」というような意味だったかと思いますが、どうにもお年を召された方に使う言葉であるような印象がございましたので、スキル名を見た時には、長生きできるのかな、といった感想を持った覚えがございます。スキルを教えてくれた鑑定士の方も、「病気をしないで元気に暮らせそうだね」としかおっしゃらなかった為、まあ、その程度の能力なのだろうと思っておりました。


 しかし、なんとこのスキル、いわゆる「状態異常無効」と同義のスキルであり、しかも無効化される状態異常の範囲が無駄に広く、「眠気」すらも無効となってしまうことがわかりました。


 つまりこの世界の私は、一切の睡眠を必要としない体となっていたのです。


 せっかく眠らずに済むのならば、こうしてお嬢様の身をお守りするのが、メイドの務め。そういう訳で、私は今夜もお嬢様の寝室にて、こうして寝ずの番を務めているのです。


 さて、いつの間にやら窓の外が薄明るくなって参りました。そろそろお嬢様の朝食の準備を始めなければ。


 私は音を立てないように細心の注意を払いながら扉に手をかけ、お嬢様のお部屋を後にいたしました。




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