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鏡の中のもう一人  作者: クレヨン
私と『麻衣』
11/13

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 1



 ランチは野菜料理とあった。

 捻りがない。

 しかしこういったのは、好きだ。

 私は真っ直ぐなんだろうか。

 違う融通が効かないたけ。

 


 五回にわけて、小出しで料理が出てくる。

 一日一食限定とのこと。

 手間がかかるから、それが理由。

 あまり需要もない、高いから。

 


 「ここのマスターは、元々はフレンチのシェフだったんだ。若い頃は、よく食べに行った」



 会長がそう言いながら、オードブルの野菜の蒸し焼きを食べる。

 頷いている。  

 美味しいのだろう。

 私は淡々と口に運ぶ。

 美味しい、しかしどこか美味しくない。

 理由はわかっいる。

 会長と居たくないから。

 スポンサーでありながら、貰うものを貰いながら……私は最低だと思う。



 「この冬は冷える。雪は降りそうだ」



 そう言いつつ、ワインを飲む。

 ノンアルコールのワインらしい。

 つまりはグレープジュース、因みに私もそれを飲んでいた。

 普段はかなりいけるらしい。

 しかし私に気を使っている。



 「違うぞ。後で女房と、夕食をする。今酔うわけにいかない。今日は外食の一日だ」



 なるほど。

 外食続き、なんだか良い生活ね。

 お金持ちが、羨ましい。

 ただ私はお金持ちに寄生している。

 一番羨ましいのは、私だろう。

 だって楽して、大金を貰っている。

 その上に就職もエスカレーターで階を上がるように、スムーズに行った。

 


 「違うぞ、麻衣子の能力だ」



 会長が私の目を見る。

 真顔で少し険しい表情に、嘘はないと言いたげである。

 私は嬉しいと、頭を下げた。

 会長の顔から険しさがなくなり、いつもの雰囲気に戻る。

 気を使っている。

 疲れる。



 2



 

 野菜料理はメインに入っている。

 さっき五回とあったが、これが四回目だった。

 一応細かく説明すると、前菜、スープ、魚系、肉系、デザートつまりコースのこと。

 パンの代わりに、ご飯がありその付け合わせの漬け物もある。

 今は冬野菜中心、ロールキャベツの昆布だし煮込みを食べている。

 箸で切れるほど柔らかく、大きさ、量、味、申し分ない。

 美味しい、そして美味しくない。

 この反比例は、セットになっている。

 


 「いい食べっぷりだ。昔から変わらない。お母さんもそんな感じだった」


 

 会長が笑う。

 力のない笑い顔は、どこか遠くをみているようだ。

 みている先に、母がいるのは間違いない。

 好きだったんだな。

 少しだけ、センチになった。

 


 「好きだったよ。愛していると、バカな言葉を贈るくらいにな。大笑いされた。重いと言われた」



 会長が言う。

 当たり前よね。

 愛なんて、恥ずかしい言葉。

 私なら笑うかも知れない。



 「笑えるか、だけどね、他人から大笑いされるくらいに、激しく愛し合ったのは間違いない。お母さんが演じていたのかもしれない。それでも演じてくれたことが、嬉しかった」



 会長が涙まじりになった。

 今でも、好きなんだと実感する。

 


 「さっ、どんどん食べなさい」



 会長が勧める。

 私は無言で頷いて、食べている。

 

 

 

 3



 今、私はクルマにいる。

 解放された。

 ようやく、私の時間が始まる。

 私の時間とは言っても、やることはない。

 少し寄り道して、帰るくらいね。



 クルマを近くの駐車場に停める。

 そしてバックミラーを覗く。

 するとそこに写る私が、笑い出した。



 「お金持ち! やったね!」



 『麻衣』がはしゃいでいる。

 私はため息を吐く。

 


 「お金持ちでしょ? 麻衣子は恵まれてるよ。確かに家族とか、父親とかには飢えてる。けど、お金みたいな実感はないでしょ?」



 確かにね。

 家族とか、絆とか、私はほしてない。

 あったって、面倒な……急に私の心に、キミが現れる。

 キミの笑顔に、唇を噛む。



 「麻衣子、あなたは好きな男の人がいる。その男の人に、近くならいずれは麻衣子を知らせないといけない。それが好きから恋になる。そして……重たい言葉の『愛』に……なったらいいね」



 『麻衣』は清々しく、凛とした表情をしている。

 その表情のまま、消えていった。

 バックミラーに、私が冴えない顔をしてる。

 


 恋……そして、愛か。

 私は少しやるせない。

 キミは悪い男だ。

 重い世界に、導かれる。

 


 おかしな話ね。

 だって私、まだキミとろくに話したことない。

 それを……さて、少し買い物をしよう。

 近くの大通りで、明日は良い日を思いながら。

 

 


 

 

 


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