第八話 魔法
「おらおらおらぁ!!」
「グウウウウウウウウゥゥゥ………!」
今日も今日とて、俺とフランさんは依頼を請けてはこなしてを繰り返して資金稼ぎをしていた。
俺がランクアップしてフランさんと同じランクになった途端、フランさんはいつも以上に精を出すようになった。
どうでもいいけど、女性に対して「精を出す」って言葉なんか卑猥だよね。
「ん? なんか言ったかアスカ?」
「いえ何も言ってませんよ」
「そっか、なんか変な予感がしたんだけど」
「気のせいです」
「なんで食い気味なんだよ……」
ふぅ、とフランさんは息を吐いて額を伝う汗を拭った。
フランさんの装備はいつも軽装備だ。
胸を守る軽量プレートに、後ろが少しだけ長めのスカートの形状をした防具を身につけて腰に革のベルトを巻き、足には俺よりも長いロングブーツを履いている、膝から脛にかけてのところにプロテクターが貼ってあり機動面と防御面も高まっている。
だがそれよりも上だ。
軽量プレートの下には黒いインナーに近いシャツを着ておりそれによってへそなどが絶妙にエロくなっているのだ。
しかもシャツと言っても形状はタンクトップに近く、シースルーのように薄かった。
腕はどうかと言えば、インナーと同じ素材の物を手袋のように付けて肘より上の腕の部分でキュッと結んでいる。
「なんだよ、そんなにジロジロ見て。なんかついてるか?」
「あ、いや別に」
「……変な奴だな」
それでいて赤い髪にフランさんの快活な性格、そして伝う汗に蒸れている身体。
控えめにいってどエロイ。
下手に露出するよりもある程度隠しているからこそ余計にやばい、童貞には刺激が強すぎる。
勿論フランさん本人がそんなことを気にしている様子もないため気づくはずもなく――――。
「そう言えばフランさん」
「どした?」
ひとまず俺はこの思春期的思考をどこかへと葬り去るべく話題を作った。
フランさんは汗を拭いながら俺の方を見て返事をした。
「すっごい初歩的なこと聞くんですけど――――」
「言ってみ言ってみ、なんでもこたえちゃる」
「―――魔法ってどんなのがあるんですか?」
「………あー、うーん……」
俺の質問を聞いて何故か空を仰ぎ始めたフランさん。
まぁ、そうなる理由は薄々分かってはいたんだけど。
あれだ。科学ってどういうのことを言うのですか、と聞かれているようなものだ。
「そうだな、よし、んじゃ帰ったらちょっと教えてやるか」
「魔法をですか?」
「基礎知識程度だけどな」
そんなわけで、俺とフランさんは帰宅して昼食を食べた後、部屋着に着替え俺はフランさんから魔法についての講義を受けることとなった。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
「第一回、フラン・キャメロットの魔法学教室!」
「わー!」
「うーん……棒読み」
案外フランさんはこういうのが好きなんだなと、俺は思った。
ただまぁテンションの変わり具合が思っていたよりも凄かったので棒読みになってしまったのが悔やまれる。
フランさんは俺に一冊の本を渡した。
「アスカ、それなんだか分かるか」
「……本?」
「そうじゃなくて、具体的に」
俺は受け取った本をパラパラとめくって中身を見た。
言語自体は分かったが書いてある理論やらはよく分からない。
それでも魔法名や発動方法などが乗ってあったためどんな本なのかはあらかた予想がついた。
「魔術書、ですか?」
「正解。ちなみにそれはアカデミーで一番最初に全員に配られるもので、いわゆる入門書みたいなものかな」
「色々書いてますね」
「まぁ基礎が出来なきゃいけないからな、多少分厚いけど中身自体はそうたいしたことじゃない」
フランさんは淡々と説明をしていき、とりあえずこんなことが分かった。
魔法には段階があり、初級・中級・上級・超級・聖級・神級の六種類ある。
一般的に人が使えるのは上級までが普通で、超級は天才・聖級は一握りの人外レベルだとか。
そして神級は実際に仕えるのかどうかも分からないような、それこそ本当に神の領域だという。
「本当に簡単な奴だとそうだな」
例えばな、そう言ってフランは手を開いて少し力を入れた。
すると手の平から炎がボッと突然発火した。
「例えばこんなのだな、手の平に魔力を集めて放出、単純だろ?」
「いやいやいやいや!?」
「そ、そうか?」
「ていうか、そもそも魔力ってどんなのですか?」
「うーん…………説明しずらいな。生命の源………って言えばいいのか?」
フランさんは「うーんうーん」と唸りながら俺に魔力というものをどう説明すればいいのか頭を悩ませていた。
そしてフランさんは昔の漫画みたいに頭の上に電球が出たようなリアクションをした。
どうやら何か思いついたみたいだ。
「そだ、折角だから神殿行くか」
「すいません話の脈絡が」
「あぁすまんすまん、飛んだな」
フランさんが言うには、神殿という場所に居る人たちは人の魔力量を図ってくれたりどんな魔法がその人に適しているのかを教えてくれるのだという。
早速俺とフランさんは部屋着から外出用の服に着替えて、俺はガントレットをアイテムポーチの中に収納した。
「おっ、アスカお前それいつの間に買ったんだ?」
「この前の勝負の時、依頼に行く前に」
「へー、結構長持ちするやつだぞそれ。大事に使えよ」
「はい」
「じゃ、行くか」
俺とフランさんは、神殿へと足を進めた。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
加速してものの数分で俺とフランさんは神殿に辿りついた。
神殿を見て俺が最初に思った印象は「美しい」の一言だった。
澄み渡る青空、真白で荘厳とした神殿のシンプルながら威厳のある造り、ここにいるだけで悩みがすべてちっぽけに思えて吹き飛ぶような、そんな場所だと思った。
「凄いですねここ!」
「分っかりやすくテンション上がってるなぁアスカ」
「あはは……つい」
「おや、フランじゃないか」
とそこへ一人の修道女の方がフランさんの名前を呼びながらこちらへとやって来た。
フランさんはその人を見て「おお!」とハイタッチをした。
見たところ仲は良いらしい。
「珍しいな、お前がここに来るなんて」
「ああ、ちょっと用があってな」
「……その隣のは? 彼氏か?」
「違う違う。今のパーティーメンバー」
「パーティーメンバー……お前が!?」
急に大声を上げて驚く修道女の人。
驚きはしなかったものの、なんだぁと疑問には思った。
修道女の人はそんな顔をする俺に方を見てはにかみながら「すまないな」と謝罪した。
「すまない、ちょっと意外だったものでな」
「意外とは?」
「あーやめろやめろ、思い出したくない」
「実はこいつな、アカデミーの頃一匹狼気取ってたんだ。慣れあうくらいなら強くなるための訓練だって言いながら一人でな」
「やーめーろーよー! あれあたし最大の黒歴史なんだからさぁ!!」
「あれずっと語り継いでやるからな」
なるほど、フランさんはそういうキャラだったのか。
うーん……一匹狼でツンツン高圧的なフランさんか………。
悪くないな!!
「おいアスカ、今お前物凄く失礼なこと考えてないか?」
「気のせいですよ、ちょっとそんなフランさんも見てみたいななんて思ってませんから」
「はははっ、君良いね。気に入った」
「お前らなぁ……!」
「まぁそんなおふざけは置いておいて、何の用だ?」
「……こいつの魔力量を見てもらいたい」
「んん? アカデミーの生徒じゃないのか?」
この人の今の言い方だと、恐らくアカデミーの生徒たちは事前に魔力量を測ってたりアカデミーで測ってたりするのだろうな。
それに神殿に来ることもあまりないのかも知れない、測るくらいならアカデミーとやらでも出来そうだし。
きっと、保健室で身長を測るくらいのものなんだろう。
「実はこいつ、異世界人なんだよ」
「ちょっ……!」
「………まぁよく分からんがいいか。来い」
俺たちは修道女の人に連れられて、神殿の中へと足を踏み入れていった。