第七話 ランクアップ
「今日は別々に行くぞ!」
「どうしたんですか急に」
「いや、昨日クルツに会って改めて思ったんだよ、鍛えなきゃってな」
「それでいつもより張り切っていると?」
「そーゆーこと!」
仲がいいのか悪いのかはさておいて級友に直接あんなことを言われて結構気にしているのだろうこの人は。
でもいい機会だ、俺もフランさん無しでどこまでやれるか気になっていたところだし。
それにいずれは一人でやっていけるようにならないとダメだからな、男としても異世界に来たというイレギュラーなこの人生に対しても、何よりフランさんに対しても示しがつかん。
「俺は良いですよ、自分の能力も把握しておきたいですし」
「よし、決まりだな」
「そうなれば早速依頼選びですね」
「どうせなんだ、どっちが多く稼げるか勝負しないか?」
「……負けませんよ?」
「おっし!」
いつになく張り切っているフランさんと一緒に、お互いの依頼内容が分からないようにそれぞれ依頼書を掲示板から取って別々の受付に持っていく。
出口で俺たちはアイコンタクトで負けないという意識を示して別々の目的地に向かった。
今日俺が受けたのはウルフリア十体の討伐という依頼で、簡単に言えば狼狩り。
「えっと場所はハース高原で……素早い動きに注意されたし、群れで動くため各個撃破が得策、か」
俺は依頼書に書かれている内容をぶつぶつと声に出して確認した。
そして俺は依頼書を服のポケットにしまって意気揚々と――――
「あのすみません、ハース高原って何処か分かりますか?」
――――意気揚々と適当な人に場所を聞いた。
仕方ないよね、俺異世界人だし。
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そして俺はまだウルズ街の中をウロウロとしていた。
いや別に迷ったわけじゃない、ちょっと色々とこの機会に見せとかを見ておきたいのだ。
大抵こういう場所っていうのは色々と便利なアイテムが売っているはずだ、ゲーム的に考えれば。
それに、準備を整えておくに越したことはないからな。
「そこのお兄さん、ちょっと寄ってかない?」
「俺ですか?」
「そうそうお兄さん、冒険者でしょ?」
そんなところへ狙ったかのようにある店の眼鏡をかけたお姉さんが俺に声をかけてきた。
パッと見たところ店の感じ的にポーションとかそういう回復アイテムとかを売っているところだろうか?
とりあえず俺はその店に寄ってみることにした。
「何売ってるんですか?」
「何でもありますよー、ポーションに魔術書に便利なアイテムポーチまで!」
「じゃあ折角なんで色々見させてもらいます」
「いいよー。ジャンジャン迷ってくれたまえー!」
俺はひとまずざっと商品を見て気になったものがどんなものなのか説明してもらいながら買い物をした。
それに折角依頼報酬をそんなに使ってもいないからな、装備品を整えるくらいは背伸びしてもいいだろう。
うーん……どれにしよう、アイテムポーチ気になるな……。
「おっ、お兄さんお目が高いね」
「へ?」
「そのアイテムポーチ、この前仕入れたばかりの新作でね。小型なのに空間魔術の応用術式が組み込まれているからざっとそうだね……普通に使ってればまず容量が一杯になることはないだろうね」
「そんなに入るんですか?」
「入るとも入るとも、そのガントレットの三倍の大きさも難なく入るよ」
「……じゃあこれ下さい」
「毎度あり! もう三つ……いや二つくらい商品を買ってくれれば二割引きしてあげるよ?」
「じゃあポーションと包帯のセットと、武器用グリスを」
「お兄さん太っ腹ー、毎度ありー!!」
俺は買った商品の代金を支払ってその店を後にした。
買ったアイテムポーチを腰に付けてローブで隠す。
そして同じく買ったセットの商品と武器用のグリスをアイテムポーチの中に入れて手を離す。
「ポーチの手入れとかはうちでやってるからね」
「ご丁寧にどうも」
「いえいえ、今後ともご贔屓に!」
店のお姉さんは営業スマイルと普通の笑顔の中間点の笑顔を俺に向けた。
俺はガントレットを装備してロングブーツのひもがほどけていないのを確認して、跳躍した。
その瞬間色んなところから視線が集まった気がしたがきっと気のせいだろう、ちょっと力をいつもより入れてしまったため道のタイルが割れて凹む感覚があったのもきっと気のせいだろう。
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そんなこんなで俺は道行く人に尋ねながら無事にハース高原に辿りついた。
聞くところによれば馬車も出ていたようだが、ちゃんと場所を覚えた方が後から楽かと思ってあえて使用しなかった。
決して乗り方がよく分からないとかそんなのではない、断じて、多分。
「おっ、見ない顔だな、あんた」
「どうも。最近冒険者になったばかりでして」
「にしては良い装備だな、頑張れよ」
名もなき初対面の冒険者の男性は俺の肩をポンと叩いてどこかへと行ってしまった。
こういうのは結構あるあるなのかな、この世界からすれば。
とにもかくにも俺は目的のウルフリアとやらを探して行動を開始した。
十分ほど歩くと遠目にそれらしき魔物が群れで固まっているところを見つけた。
距離にして大体百メートルと少しといったくらいだろうか。
俺はローブのポケットから依頼書を取り出して見比べてみる、多分間違いないだろう。
「よし……行くかっ!!」
俺はクラウチングスタートのように姿勢を低くして一気に加速、制御できるトップギアまで持っていった。
ぐんぐんウルフリアたちのとの距離は縮まり俺は徐々に小回りが利くくらいにまで速度を調整しながら群れの真後ろに回り込んだ。
群れの中の一匹が視界に入った謎の疾走する存在に気が付き後ろを振り返るも時すでに遅く、目の前には俺のガントレットが顔を捉える直前だった。
「――――ゥ」
「――――っ!」
ウルフリアは仲間に危険を知らせる為にきっと声を上げようとしたのだろう、だが微かに声を上げたか上げていないかの瀬戸際の声量を出したところで顔がはじけ飛んだ。
一瞬にして仲間の頭部が弾けとんだことと、死ぬ間際の声が聞こえたのか他のウルフリアたちが一斉にこちらを見た。
「ほっ……!」
俺はそれを視界の端で確認しながら地面に足がつくのと同時に再び地面を蹴って短距離を疑似的にワープした。
勿論ただの比喩だがウルフリアたちを欺くのは容易過ぎる。
俺は動かれて厄介になる前に一匹ずつ確実に攻撃を当てていった。
戦法はただのヒットアンドアウェイ戦法、ただしその速度・威力共に常識外の物ではある。
依頼書にはスピードがなんだとか各個撃破がお勧めだとか書いていたが要はこういうことだ。
相手が動く前に相手より速いスピードでまとめて潰してしまえばいい、ただそれだけの事だ。
「……ふぅ!」
俺は地面を「ズザザザザ………」と滑りながら止まって立ち上がって自分の虐殺具合を実感していた。
我ながらやってしまったかんは否めない、というかグロい。
というかあんまり体力を使っていない気がする、まだまだ動けるようだ。
「体力面も底上げされるのか……凄いなこれ」
だが今ので制御できる速度や小回りの利かせ方、旋回性能に攻撃・離脱のタイミングなど色々と掴めた気がする。
俺は魔石を確保してから再び地面を蹴って高く飛びあがり、ギルドへと帰っていった。
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「よぉ琳、賭けの結果は上々そうか?」
「さぁ、どうでしょう」
「鑑定終わりましたよー!」
あの依頼の後俺はいくつかの依頼を請けて全て達成したが結果としては俺が一歩及ばず、勝負はフランさんの勝ちになった。
だがその代わりに色々と得られたものは多い、アイテムや能力の制御できる感覚などなど。
「アスカ・ミナセさんはいらっしゃいますかー?」
「あ、はい!」
そろそろ帰ろうかと思っていたところへ受付嬢さんが俺を呼んだため俺はそちらへと行った。
分からないことがあったら困るため念のためフランさんにもついてきてもらった。
「何でしょうか」
「はい、あなたへランクアップ依頼が届きましたのでそのお知らせをと」
「ランクアップ依頼?」
「おっ、やったじゃんアスカ!」
「……?」
ランクアップ依頼………まぁ名前のまんまだろう。
俺はちらりと受付嬢さんの手元に依頼書があるのを確認してそう思った。
「ランクが上がる依頼、と、考えればいいですか?」
「その通りです、こちらがその依頼書になります」
そう言って受付嬢さんが渡してくれた依頼書にはゴブリン十体の討伐と書いてあった。
その瞬間のやるせなさはもう物凄かった。
だって……簡単すぎる……。
「あー……今行って来れば? そこの平原だし」
「……そうします」
「では行ってらっしゃいませ、頑張ってくださいね」
受付嬢さんは依頼書を受理して俺にエールを送ってくれた。
それから俺がギルドを出発して戻ってくるのに五分もかからなかった。
受付嬢さんは魔石を受け取りながら酷く困惑していた様子だった、そりゃそうだ、目的の場所まで徒歩だけでも五分はかかる。
「えっと……少々お待ちください」
「………悪いことしましたかね」
「しゃーない、Eランクのやつだからな」
「にしても簡単すぎじゃないですか?」
「駆け出しの冒険者はみんなそれくらいなんだよ、お前がおかしいの」
程なくして受付嬢さんは鑑定を終わらせて無事に俺はランクアップすることが出来た。
その後、次のランクアップ条件も満たしているとのことで俺は次の依頼を確認してすぐさま場所へと向かった。
依頼内容はウルフリア三体の討伐だった、デジャヴだ。
「えっと、次のランクアップ条件も満たしておりますが……」
「やります」
「ゴーレム……」
「やります」
「は、はい」
その依頼も難なくこなして、俺はこの日の内に、というかこの一時間以内にEランクから一気にフランさんと同じCランクにまでランクアップした。
その次の日、たった一時間でEからCへとランクアップした謎の新米冒険者として俺がちょっとだけ有名人になったのはまた別の話である。