第三話 買い物デート
「らっしゃいらっしゃい! いい武器取り揃えてるよー!」
「新鮮な果物一つ銅貨一枚、買ってかないかーい!」
「傷や毒の回復ならポーションを!」
フランさんに引っ張られながら連れてこられたのは俺が墜落したところとは違う場所。
まるで祭りの屋台のようにお店がひしめき合っており人々で賑わっていた。
勿論防具や武器、それからポーションといった如何にも異世界っぽいものや普通の食料も売ってある。
「うわぁー……凄い……!」
「そう珍しがることじゃないだろ」
「十分珍しいんですよ、俺からしたら」
「そういうもんか」
初めて見るこういう街並みと言うか活気と言うか、ともかく俺は静かに興奮していた。
フランさんはしばしキョロキョロと辺りを見渡すと歩き始めた。
俺もそれに続いて斜め後ろを歩く。
「おっさん!」
「らっしゃい、ってフランの嬢ちゃんか。どうした?」
「こいつに似合うやつ見繕ってくれよ」
「そこの兄ちゃんか?」
「ど、どうも……!」
「彼氏か?」
「違う違う。ちょっと成り行きでな」
フランさんが向かったのは武器屋防具を取り揃えている武具店。
その店のおじさんはまぁなんといえばいいのか、下手したら元の世界にもいそうな普通の人だった。
おじさんは俺のことをまじまじと見た後に「変わった服装だな」と最もな言葉を漏らした。
「兄ちゃんは冒険者か?」
「あ、はい。そうです」
「戦い方は? 魔法? それとも近接?」
「近接です」
「武器は何使える?」
「………何も」
何も使ったことがありません!!
だって元々普通の高校生だったし!?
どちらかと言えばいじめられる立場でしたし!?
本当になんで俺がこんな剣と魔法の異世界に来たのか皆目見当もつきません本当にどうもありがとうございました!!
飛鳥先生の次回作にご期待ください!」
「するってーと何か、素手か?」
「こいつさっき飛び蹴りしてゴブリンの首蹴飛ばしてナイフ奪ってたな」
「な、なんじゃそりゃ………うーん」
おじさんは「ちょっと待ってろ」と言って店の奥に消えてしまった。
少ししてまたおじさんが戻ってくると手には何やら木箱が握られていた。
しかも大きめの物で、仮に剣だとしたら短刀のカテゴリには入るんじゃないだろうか。
おじさんは店のカウンターの上にそれを置いた。
「ガントレットだ!」
「ガントレット……って、あの篭手みたいな……?」
「どっちも意味は同じだ、ほら」
そう言っておじさんが木箱の蓋を開けて俺に見せたものはシンプルなデザインのガントレットだった。
黒い金属の上に装飾として赤い茨が巻き付いているようなデザインで、手の甲に当たる部分には赤い宝石らしきものが埋め込まれていた。
男の子としての性でテンションが上がっている俺よりも、フランさんの方がまじまじと見ていた。
「おっさん、これ、結構いい奴じゃねえのか?」
「分かるんですかフランさん」
「まぁ鑑定魔法あるし多少はな」
「鑑定魔法?」
また聞きなれない単語が出てきたがどんな効果なのかは多少予想がつく。
俺はフランさんの顔をちらりと見た。
フランさんの目の色が文字通り変わっていた、緑色に。厳密には右目の周りに俺が魔法を使った時と同じように緑色のオーラがあった。
「フランさん、目が赤く……!」
「ん、ああ、そういや知らないもんな」
「えっと?」
「自分の能力を上げるものは緑に、味方全体なら赤に、下げられたりした時は青
に」
「なんだぁ兄ちゃん、そんなことも知らねぇのか?」
「あはは……ほんの少し前に冒険者になったばかりなもので………」
なるほど、つまり単体バフは緑・味方全体のバフなら赤・デバフなら青色にオーラが分けられているということか、分かりやすくていい。
ということは今フランさんは自分にだけかけることのできる鑑定魔法のバフをかけているから目の周りにオーラが集まっているということか。
「鑑定魔法っていうのは?」
「その名前のまんま。見ている武器とか防具とかのレアリティとか効果が分かる
ものだ、結構重宝するぞ?」
「へぇ~。それで、このガントレットっていい武器なんですか?」
「型は旧式だけど、その分威力とか耐久力が高い。近接メインに立ち回るなら長
く使えるんじゃないかこれ」
「流石はフランだな、その通り。このガントレットはうちの店一番の掘り出しも
んなんだが、なっかなか買い手が現れなくてな!」
「まぁ最近はこんなもの使う方が珍しいからな」
素人目で見ても、このガントレットは結構新しそうだが………。
確かに、周りの人たちを見ても剣とか槍とか盾とか弓とか、そういう武器は持ってるけどこういうタイプの武器を持っている人は居ないな。
アンティーク物って言ってたから、時代の移り変わりみたいなものがあるのか?
「もし兄ちゃんがここで買ってくれるなら、格安で譲ってやる」
「え、本当ですか?」
「あったり前だ!」
「いいじゃねぇか。買えよ」
「でもお金が……」
「タダで譲ってやるよ!」
「タダ!?」
おいおいおいおいおい!
マジかよ、武器一個タダって、それ良いのか!?
でもお金がないのも事実だから金がかからないのは嬉しい………。
となれば答えは一つだろ!
「ください!」
「はいー、お買い上げ毎度!!」
買ってしまった。というか貰ってしまった。
おじさんとフランさんに促されて、俺は早速このガントレットを着けてみることにした。
両手にいい具合に重さが加わり、俺は手をぐーぱーぐーぱー開いては閉じて開いては閉じてを繰り返して自分の手に馴染んでいることを感じた。
「似合ってんじゃん」
「そう、ですか?」
「うんうん。その調子で次は防具だな、おっさん!」
「任せろ! 兄ちゃん、ちょっとこっち来い!」
俺はおじさんに手招きされて店の奥へと入っていき外から見えないところでおじさんから防具を手渡された。
それは一般的に鎧と言われるものではなかったがおじさんは自信満々といった顔をしていた。
俺はおじさんから防具を受け取って、制服を脱ぎ、それに着替えた。
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「フラン! どんな感じか見てやってくれ!」
「はいよ」
「ほら兄ちゃん、恥ずかしがんなって。大丈夫だ似合ってる」
防具に着替えて、おじさんに急かされて、俺は店の奥から姿を現した。
フランさんは俺の格好を見て「おおお!」と驚いた顔をしていた。
おじさんから渡されたのは黒を基調とした動きやすい白い紐のロングブーツ。
それから白と灰色の中間の色をしたズボン、そして軽量化された胴体を守るためのプレートをシャツの上に着る。
その上から内側の生地が白く外側の生地が黒いフードの付いたローブを着て完成である。
まぁパッと見格闘家とかってよりは暗殺者に近い格好だと思う、ガントレットの一部がローブの袖で隠れているし。
「いいじゃんいいんじゃん! すげぇかっこいいよ、アスカ!」
「あ、ありがとうございます……!」
「何照れてんだよ」
俺はフランさんに褒められて凄く嬉しくなり、それと同時に照れてしまった。
おじさんはそんな俺を軽く小突き、にかっと笑った。
俺はそれでさらにフランさんのことを意識してしまい思わずフードで赤くなった顔を隠した。
まるで思春期の中学生だ。
「お買い上げだな。おっさん、いくらだ?」
「今日はいらねぇ、もってけ泥棒!!」
「いいんですか? 武器までタダにしてもらったのに」
「おっさん、潰れるぞ?」
「いいんだよ。それにフランが連れてきた男だ、きっとそれなりの奴なんだ
ろ?」
武器屋のおじさんは両手を組んで俺の門出を祝福してくれた。
何ていい人なんだろうか、思わず涙が出そうになる。
俺とフランさんはおじさんに感謝をして店から離れ、他の店へと向かった。
「良かったな!」
「はい、本当に。フランさんのおかげです」
「武器と防具は揃ったけど普段着がないからな、今度はそれ買いに行くぞ」
「はい!」
その日は一日買い物に費やし、とりあえず五着ほど俺は普段着をフランさんに買ってもらった。
その後食料品とかポーションなどの回復薬類を買ってフランさんの家に帰った。
今日フランさんに使わせてしまったお金は明日からの依頼をこなして返していこうと俺は強く誓った。
新しい武器と防具も貰ったことだしな。
「たっだいま~!」
「ただいまです」
俺は隣にいるこの人に出会えてよかったと、心から思い、感謝した。