最終話 明日への飛翔
なんだかんだ、この異世界に来てからかなりの時間が経った。
すっかりこちらでの生活にも慣れ、今では生まれ落ちたのがこの世界なのではないかと思い始めた始末である。
もしかしたら生まれ落ちる世界を俺は間違えたのではないか、そう思ったが前の世界でのあの苦い思い出があるからこそ今の俺がいるわけで、そんな俺がいなきゃフランさんとも出会えなかったわけで。
何が言いたいのかっていうとようは終わり良ければ総て良し、ということだ。
フランさんと結婚してからも別に何か大幅に変わったというわけでもない、いつも通り俺はアカデミーに行ってエレインさんやレーゼたちと共に勉学に励み、家に帰ればアイリもいる。
「フランさん」
「んー?」
「たまに思うんですよ俺」
「何をだ?」
「これが実はとてつもなく長い夢で、目が覚めたら俺は病院のベッドで寝ているんじゃないかなって」
「なんじゃそりゃ。だとしたら凄い夢だな」
フランさんはやや茶化しながら俺の子の下らない独白に付き合ってくれた。
我ながら休日の朝からこんなことを言うのはどうかと思うが、フランさんは割と真剣に付き合ってくれていた。
「でもまぁ、夢だったら夢だったらで悪夢じゃないだけいいんじゃねぇのか? 夢だったら、また眠れば見れるだろ?」
「……そうですね」
「それによ、そんなことはまずないだろ? なんなら今すぐにでも頬をつねってやろうか?」
「いいですね、じゃあお願いします」
「おっ、いいぜ。動くなよ~……」
そしてフランさんは俺の頬を両方から思いっきりつねった。
だが、痛くはなかった。
俺がそのことに違和感を覚えて不気味な動機を覚えると、途端に目の前が真っ暗になった。
「えっ、なに、これ」
辺りをキョロキョロと見渡しても闇が広がっているばかりで俺は自分の体すら見えていなかった。
もしかして、本当に夢……?
そうだ、そうに決まってる、第一、死んだら異世界に転生するなんて話、あるはずがない。
俺は暗闇の中で笑った。
時間が永遠だと思うほどに。
段々と自分の声も聞こえなくなってきた、資格も聴覚も失われ、最後に俺が感じたのは水滴のような何かが頬を伝う感覚だった。
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「―――――てな夢を今日見まして」
「夢かよ!!」
「なんですかおっきな声出して」
「いやいきなり話真面目な顔して話し始めたから何かと思ったら………夢って、しかもタチ悪いタイプの」
「朝起きてフランさん見て泣きそうになりましたからね」
「だからお前起きて早々に痛めつけてくださいなんて言ってたのか……」
『正直何かと思ったぞ。とうとうこじらせたかと』
「こじらせったってお前な……」
以上、全部俺の夢。
うん、だって、ねぇ……?
んなことあってたまるかよ!!
「ったく……にしても随分と急にそんな夢を見るもんだな」
「びっくりですよ。この世界に慣れたところだったのにそんなゲームオーバーしてたまりますか」
『あー……急に話を変えるようですまないが、二人とも準備は出来ているのか?』
「まぁ、ある程度は」
「あたしも」
準備、そう準備。
今、俺は神殿の中の教会の中にある客間でこれから始まるイベントの準備をしていた。
――――結婚式だ。
思えば俺から告白して承諾してもらったはいいものの、自分でも驚くくらいの突発的な行為だったためこういったことは全然考えていなかった。
そのことをフランさんに話すと、フランさんはフランさんで「別にしなくていいんじゃねぇの?」とあっさりとしていたためやや心が揺れたが流石にやらないわけにはいかないだろうと俺はキアラさんに頼んでこの教会を式場として使わせてもらえないだろうかと懇願してみた。
すると快く承諾してくれ、それから俺は大急ぎで結婚式の準備を始めた。
招待状を書き、食事の手配や段取りなど思いつくことをあらかたやっていたら気づいたら一カ月経ってしまっていた。
そしてようやくまともに死期を執り行える状態になり、今日この日がやって来たというわけだ。
「んじゃ、あたしは着替えてくるから」
『同行する。じゃあまた後で』
「ああ」
それからいくらか時間が経ち、教会が知り合いで一杯になる頃、ようやく結婚式が始まった。
結婚式といってもそんなに派手なやつじゃないし、流れもかなり簡略されている。
それに俺はフランさんのウェディングドレス姿は二回目だ、今度はゆっくり見てやるとするさ。
式はつつがなく進み、新郎新婦入場。
俺が先に入場してフランさんを待ち、フランさんは父親ではなくアイリと一緒に入ってきた。
神父、ではなくシスターのキアラさんが誓約の問いかけをし、指輪の交換へと移った。
日の光に薄く照らされたフランさんの指は華奢で、儚く崩れ去ってしまいそうな印象だった。
そうして指輪の交換も終わり、俺たちは招待した知り合いたちの前でこれからの行く末を必ず幸せなものにしてみせると誓い、祝福され、結婚式は終わった。
今思えばもう少し凝った演出とかがあった方が良かったのかもしれないが、これくらいの方が俺たちらしくていいだろうと思う。
派手な式をすれば幸せ、なんてこともないのだから。
式が終わってからも俺とフランさんはしばらく動けなかった。
エレインさんやレーゼ、アダムにクルツさん、他のクラスの皆や知り合いの冒険者たち、それから王族関係者たちまでに質問攻めにあい、口の中がカラカラになるまで喋り、全てが終わる頃には二人揃って倒れそうなくらいに疲れ切っていた。
「あー……疲れたなアスカ」
「えぇ……疲れましたねフランさん」
『お疲れ様。良い結婚式だったぞ。思わず泣いてしまった』
最後まで片付けやらなにやらを手伝ってくれたアイリ。
なんだかんだ言って、根はやっぱりいい奴なのだ。
それから幾日が経って、アイリは突然姿を消した。
書置きが残されており、そこには直筆でこう書かれていた。
『世話になった。色々とまだ語って居たいこともあるし一緒にいたかったが、これ以上夫婦の時間を邪魔するわけにはいかない。私は元の世界に帰ることにする、帰るだけの片道ならばちょっと無理をすれば出来るからな、私は私で幸せになってくるよ。じゃあな二人とも、今までありがとう。幸せに』
その日の朝は、なんだか悲しかった。
それから、この家で二人で暮らして、とうとう俺とフランさんとの間に子供が出来た。
これからは父親の責任も持たなければならなくなった。
初めての事ばかりだろうから、せめて心の準備はしておこう。
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と、まぁ早足で語ってしまったが、ここまでが俺の物語だ。
別になって事のないいたって普通の一個人の半生だ、面白くもなんともないだろう。
だが俺はこの人生を胸を張って「幸せな人生」だと宣言できる。
これから生まれてくる子のためにも、より一層頑張らなければならない。
「フランさん」
「なんだ、アスカ」
「……俺と出会ってくれてありがとうございます」
「……どういたしまして。あたしもお前と出会えてよかったよ、ありがとな」
今日も俺は異世界を歩む。
ファンタジー小説みたいに大層な目標があるわけでも世界の命運を握っているわけでもないが、俺は俺で必死に生きている。
さて、今日はどんな一日になるだろうか。
きっと、幸せな一日だろう。
初めまして、羽良糸ユウリと申します。
この度はこの拙作を読んでいただき誠にありがとうございました。
かなり駆け足になってしまいましたが、本作はこの話で終了とさせていただきます。
もともと見切り発車だったため具体的なプランもなかったこの作品、だらだらと続けていてもだれるだけなので急ですがここらへんが頃合いかと思った次第です。
いかがだったでしょうか、この本作は。
正直、文法も滅茶苦茶だし設定もそこまで凝っていない作品なので読みづらかったとは思います。
それでも何とか続けてこられたのはひとえに皆様のおかげです、ありがとうございました。
「脳筋戦法で異世界蹂躙!」は終わりますが、私はまだまだ書き続けます。
もしよろしければ他の作品の方も覗いてみてください、お待ちしております。
長くなってしまいましたがこの辺で締めることにいたします。
皆さま、本当にありがとうございました。




