第二十七話 公開処刑
パーティーから帰還した日の夜、アイリはある人物について主に裏社会の人たちに聞いて回っていた。
そしてアイリは収穫を俺に伝えると俺はその人物のいる場所へと向けて移動を開始した。
「やぁどうも」
「おや、いつぞやの! ポーチは大丈夫ですか?」
「ええおかげ様で。ちょっと聞きたいことがあるんですけど時間良いですか?」
「少しならいいですよ、店ももう今日は終わりましたし」
「あぁそれは良かったです………情報屋さん?」
「………何を」
俺たち三人がやって来たのは、いつぞや俺がアイテムポーチを買ったあの店。
その店主である女性に俺は詰め寄っていた。
なんせこの人がキーマンになるかもしれないからだ。
「知っていますよ、あなたがこの街でも指折りの情報通であることや、主に王族のスキャンダルに関してを取り扱っていることも」
「………何が目的ですか」
「シャルル・キャメロットとクラル王国王子ブラッド・クラルについてのスキャンダルを洗いざらいすべて教えてほしい。もちろん報酬は支払います」
「もしや………昨晩のパーティーで無法者として扱われました?」
「流石情報屋ですね、耳が早い」
「ならなおのこと首を突っ込みたくないですね。これでも自分の身は守りたいんで」
アイテム屋の店主は後ろに一歩下がろうとしたが俺は先回りして店主の後ろに回り込んで腰の辺りに抜き手の形を作って指を当てた。
そして脅した、具体的に何を脅したかは今となっては覚えていない、あの時はそのことで頭が一杯だった。
結果、店主はしぶしぶ俺たちに協力してくれることになり、俺はもし何かあっても決して店主のことを公言しないことを約束した。
「アイリとクルツさんは情報を頼みました」
「どこに行く気かしら?」
「城の下見と弱体化に」
俺はぐっと踏み込んで城目がけて走り出した。
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「さてさて………兵隊の数は………」
俺はノーネームをフル起動させながら城の周りを飛び回っていた。
そうして分かったのは兵隊の数が思いのほか少なかったということだ。
人目につきやすい場所には五人以上の兵はいるがあまり人目につかなかったり気が生い茂って手入れのされていない庭のいくつかにはなんと兵が一人もいなかったのだ。
もしかしたらトラップが仕掛けられているのではないかと思い、俺は一度その場所に勢いをつけて降り立ち再び飛び上がって避難したが何も起こらなかった。
このことを考えるとどうやら地雷系のトラップはないと考えていいようだ。
そして肝心の室内だが、これほどザル警備の城だ、カーテンも碌に占めておらず容易に仲を確認することが出来た。
そして見つけた、フランさんが捕らわれている部屋を。
俺は真っ先にそちらへと駆け寄って窓ガラスを割りフランさんを連れ去ろうと考えたが早く気持ちを抑え、今はフランさんが無事でいることだけを確認して城を後にした。
アイテム屋に戻るとアイリとクルツさんが情報を聞きだしてくれていた。
二人に聞くと、シャルルには権力を振りかざした使用人への強姦事案や未遂、ブラッドには国の税金を私利私欲のために使い己が欲望を満たすための肥やしにしていると言う。
そして何よりも重要だったのはシャルルとブラッドが裏で個人的なコネクションを持っており、シャルルにいたっては関係を良好に保つために国の支出金の一部をクラル王国へ横流ししているというのだ。
まぁ正直言って、ブラッドを陥れる必要があるわけではない、シャルルが自分に悪影響を及ぼすと思ったらきっと尻尾を切るだろう。
そして強姦事案となれば………あぁでも決定打が足りないな。
何か言い手は……。
「情報屋さん、血縁関係を調べる魔法とかに心当たりはありますか?」
「……それくらいなら神殿いけばやってくれますよ」
「それは……もし仮に、仮に、赤ん坊と血縁関係があるかどうかを調べることも可能ですか?」
「可能なはずですよ。でもそんな一般常識を何故?」
なるほどなるほど、ようはそう言うことか。
あぁ分かった、これで手筈は整った、あとは本番にかけるだけだ。
いや……待て、まだダメだ。
「情報屋さん」
「なんですかー次から次にー」
「強姦された使用人たちの個人情報を全て教えてください」
「そこまで詳細なのは持ってませんよ!」
「いえ、名前と顔だけでいいんです。教えてください」
「はぁ………分かりました、ちょっと待っててください」
少しして情報屋さんは個人情報が書かれた書類を持ってきてその中から被害に会った使用人たちのものを渡してくれた。
曰く、一々聞かれても面倒くさいから一時的に譲渡してくれるという。
ならば会いに行かねばなるまいて。
俺は二人に言って場を去ろうとした時、後ろからクルツさんが語りかけてくれた。
婚礼の儀は今日の夜、昨晩のパーティーが行われた時間と同時刻に執り行われるらしい。
俺はクルツさんに感謝を告げてその被害者たちに会いに行った。
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コンコン……ガチャ……
「……何しに来たんだよ、兄貴」
「何をそんなに落ち込むことがある。別に悪い相手ではないだろう」
「言っても分かんねぇよ………くそが」
「………あの少年とは、どんな関係だ?」
「アスカの事か? 別に……なんもねぇよ、なんも……」
城の一室、フランとシャルルは互いに目を合わせることなく会話をしていた。
そしてアスカのことを問われてフランは一層悲しげな顔をした、この時のフランの心情は自分自身でもよく分かっていない。
シャルルは夜に儀を行うから忘れるなと告げて早々に部屋から立ち去った。
「………アスカ」
時は流れて、夜の城にて。
王女と他国の王子との結婚式と会って大勢の貴族たちが押し寄せていた。
それに伴って兵士の数も増加し、城の警備は昼間よりも高まっていた。
「それではこれより、我が妹フラン・キャメロットとクラル王国の王子ブラッド・クラル様との婚礼の儀を執り行いたいと思います。それではフラン、前へ」
フランは大衆に見られながら階段を上った先に待っているブラッドの元へとゆっくりと歩き出した。
階段を上がり、あと数段上がればブラッドの元へと到着してしまう。
そう思うと自ずと足がすくみ、フランは立ち止まった。
ざわざわとどよめく会場、じっと佇むシャルルとブラッド。
フランは俯き、涙を流しながら呟いた。
「助けて………………アスカ…………………」
その時、「バァン!」とけたたましい音が鳴って会場と廊下を隔てていたドアが吹き飛んで兵士が数人会場に放り込まれた。
兵士たちは全員気を失っており、その後ろから一人の少年と腹部の膨らんだ十人ほどの女性たちが会場へと足を踏み入れた。
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「おーおー……随分と集まってることで」
俺は、煌びやかな会場に負けず劣らず煌びやかで目に悪い貴族たちの趣味の悪いドレス姿を一瞥しながら視線の先にいる三人に目をやった。
「アスカ………」
「や、フランさん。こんばんは」
「……貴様、何をしているのか分かっているのかこの無礼者が!!」
如実に怒りの感情をあらわにしているシャルルに俺は嗤った。
何がおかしいのかと言われたから言ってやった、何もかもだと。
俺の大切な人を泣かしてくれやがって……たとえ兄といえども許されることではないぞ。
「シャルル・キャメロット、汝に問う。私の後ろにいるこの女性たちに見覚えはあるか?」
「あるわけないだろう、そんな無法者共の集まりなど―――――」
「覚えていらっしゃらないと申すか!! あなたが自ら強姦し、心の奥底に傷を刻み込ませたこの女性たちのことを!!!」
俺のその一言で会場中が騒然とした。
ひそひそと貴族たちの疑念に満ちた声が聞こえてきた。
俺は後ろにいる女性たちに前に出て欲しいと頼み、女性たちは前に出て横に並んだ。
「この人たちはあなたがかつて犯し、凌辱し、トラウマを抱えた、元使用人の被害女性たちです。そして……彼女らの姿を見て気づくことはありませんか?」
「………まさか、その……腹は」
「全てあなたの子です」
それで会場のどよめきはピークに達した。
シャルルの顔は見る見るうちに青ざめていき、こちらまではどよめきに掻き消されて聞こえないがなにやらブラッドと言い争っているようにも見えた。
仕掛けるならばこのタイミングしかないだろう、今シャルルは冷静さを失いかけている。
「そんなはず………そんなはずは――――」
「ならば調べてみましょうか? 神殿に行けば調べられるのでしょう、出産祝いに身の潔白の証明でもプレゼントしますか?」
「それは………み、皆の者惑わされるな! この無法者の言うことに耳を傾けてはならん!!」
「本当にそうしていいのか貴族たちよ!! 自らの使用人を強姦して孕ませ、さらにはそれを認知しようともしない子の人間の風上にすら置けない男をまだ信用するか!!?」
さて……いい反応だ、貴族たちはみんな黙りこくってしまった。
しかし、そんな静寂の中でシャルルは高らかに笑った。
とうとう正気を失ってしまったようで、シャルルはとんでもないことを口走り始めた。
「ははっ……ははははははははははははははははははは!!!!! そんなものどうだっていいんだよ!! 俺は王子だぞ、そんなもの……いくらでもなかったことに出来るに決まってるだろうがクソガキがあああああああああ!!!!」
頃合いか………
「シャルル・キャメロット、良いのかそんなに喋りすぎて」
「だから言っただろう、俺が無かったことと言えば無かったことになるんだってなぁ!!」
「なら……外を見てみるがいい」
「ぁ?」
シャルルが見たもの、それは大勢の民衆たちの姿だった。
民衆たちは城を囲むようにして信じられない物を見るような目でシャルルを見ていた。
それはまるで心の底からの嫌悪感を体現したような、そんな視線だった。
「この城には緊急事態があった時のために市民へ連絡するための装置があり、街には音声を流すスピーカーのようなものがある」
「ま、さか…………昨日の仲間がいないと思ったら………お前ぇ!」
「ちょいとばかしいじらせてもらいまして、この場の会話全てを一般の人たちに聞かせました。勿論、今も流れてますよ」
そう、これこそが俺が狙っていた結末、シャルルの根本からの信頼関係や人望を覆す徹底的な暴力。
ブラッドは事を理解してため息を一つ吐くとシャルルにこの儀は全て最初からなかったことにすると言い、シャルルは懇願してどうにかして続けさせてほしいと言ったが聞く耳を持たれなかった。
シャルルは死なば諸共と思ったのか自分とブラッドとの個人的な癒着や横流しの件を大声で叫び始めたがブラッドは冷静に「そんな妄言に誰が付き合うか!」とこのことも最初からなかったかのように一喝した。
「フラン・キャメロット」
「あ、あぁ?」
「すまなかった、あの少年と幸せに」
「へ………? あ、お、は、はい」
俺は元使用人たちの女性を連れて会場を一旦後にして街に音声を流す装置のある所謂放送室的な場所へと向かった。
そこにはアイリとクルツさんがサムズアップして待っていてくれて、俺はホッと安堵した。
「すみません皆さんありがとうございました。もう、大丈夫ですよ」
俺は女性たちにそう言うと女性たちは「はーい」と返事して服の下でもぞもぞと何かを外すような動作をすると本当に出産するかのように服の下から大きな半月型の石をゴトゴトと床に落とした。
「はぁ……肩凝った」
「こちら皆さんの報酬になります、すでに人数分に分けてあるんで受け取ったら帰ってくれて構いません」
「あんがと、じゃあこれで契約終了ね。なかなか刺激的な依頼だったわ、次があったらまた会いましょ」
「えぇ、お疲れ様です」
この人たち、実は元使用人でも何でもないただの一般人なのだ。
正確には「人間関係代行屋」というようはお金を払えばその料金に従って友人や恋人などのシチュエーションや依頼主の趣味嗜好に合わせて演技をしてくれる一時的な人間関係を築いてくれるという職業だ。
本物の被害女性の元へと向かったがやはり案の定断られてしまい、困り果てていた時にたまたまこの店を見つけて一度に十人に依頼して今の今まで演技をしてもらっていたというわけだ。
そしてアイリの変装術を使ってこの人たちが後々何か言われないようにもした、自分で言っては何だが、アフターケアはしっかりしている方だと思う。
「じゃあ俺はフランさんを迎えに行ってきます、二人は先に戻っててください」
『ん。了解した』
「無茶はしないようにね」
二人と一旦別れ、俺は再びあの場所へと向かった。




