第二十四話 訪問者
それは突然のことだった。
俺は今、急須から出てくるお茶が永遠に出てくるのではないかと思えるほど慎重に入れていた。
リビングから漂う殺気、俺はそれをひしひしと感じながら二人分のお茶をもってリビングへと戻った。
「……どうぞ」
「おう……」
『ありがとうございます』
フランさんと客人は俺の淹れたお茶を飲んだ。
そしてフランさんはほっと一息ついてくれるかと思いきや余計に目つきが悪くなって人相が極悪人のそれになってしまっていた。
こんなフランさんは初めてだ、でもまぁこれはこれで…………なんて言っている場合じゃなかった!
「えーっと………その………リビングは戦場ではありませんよフランさん」
「わーってるよ! あたしだって自分の家でこんなに殺気出すとは思わなかったわ……」
『私はそこまで殺気立ってはいませんが、いざとなれば』
「そもそもの原因はてめぇだからな!」
フランさんはがたっと立ち上がって目の前の客人にそう言った。
しかし目の前の客人は「それはすまなかった」と冷静に対処してお茶を飲んだ。
『私だって好きで来たわけではないし本意ではない。それにそっちが怒る理由も重々承知している』
「まぁフランさん。話を聞くくらいなら……」
「でもなぁ………」
「それに、もし何かあったら今度は確実に叩き潰します。えぇ、慈悲無く」
『怖いな。私も揉め事を起こしたくはない、だからこうして玄関からやってきたのではないか』
依然としてことの進展しないまま数分が過ぎ、ようやくフランさんは「よし!」と言って客人の話を聞くことを決めた。
目の前の客人――――――異邦人のアイリは「感謝する」と言った。
なぜこんなことになってしまったのか。
ことの発端は数十分前に遡る。
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アイテムポーチのメンテナンスをお願いしに、俺はかつてこのアイテムポーチを購入したお店にやって来ていた。
「結構状態いですねー! これならちょこっとやるだけで終わりそうです」
「そうですか」
「あ、そうだ。お客さん知ってますか、最近エトランゼがこの近くにいるっていう噂」
「あの襲撃の後に、ですか?」
「そうなんですよ。でも襲いに来てるわけじゃないんですって、変な話ですよねー!」
確かに変な話だ。
ほんの数日前は襲撃しに来たのに今度は襲いもせずにただただ来ているという……偵察でもしに来たのだろうか。
俺はメンテナンスの終わったアイテムポーチを受け取って、帰り道に色々と考えながら家路に着いた。
「ただいま帰りましたー……ん?」
そこで俺は玄関に見慣れない靴が一足あることに気が付いた。
そしてリビングから漂ってくる異様な雰囲気、これは何かあったに違いないだろう。
俺は恐る恐るリビングを覗くように入っていった。
「あ、あの~フランさ~ん……お客さんですかぁってあぁぁぁぁあ!!!?」
「アスカ! いいとこに!」
『お邪魔してます』
一体何がどうしてこうなったのだろうか。
俺の目がおかしくなっていなければ、今俺の視界にいるのはフランさんとエトランゼであるアイリの二人があった。
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「なーにがどうしてこうなったんだか……とりあえず、何しに来たんだ?」
『……ここに空き部屋はいくつある?』
「空き部屋? そう、だな……大体三部屋くらいはあるのか? どれくらいでしたっけフランさん」
「五部屋だ! 全然使ってなかったからな!」
「多いな……んまぁそれくらいだ」
『一部屋でいい、使わせてくれ』
「………なんとなぁくこれからの展開は分かったけど、一応聞く。なんで?」
『ここに住まわしてくれないか?』
フランさん! 驚くのは分かりますがその顔はヒロインの顔じゃないです!
あ、ダメだ、完全に硬直してる。
俺はため息を吐いてフランさんの事は諦め、色々と思うところはありながらもアイリの方へと向き直った。
「いきなりそんなこと言われてもな。どういう風の吹き回しだ?」
『それを説明するには私たちの事について色々と知ってもらわなければならないが、それでもいいか?』
「……分かった。どうせフランさんは再起動するまで時間かかるだろうし。まぁ、エトランゼにもいろいろな派閥やら人種がいるんだ、みたいなベタなオチじゃないことを祈るよ」
『凄いな、なぜわかったんだ? 今からそう言おうとしていたのに』
うん、だって俺そういう展開のラノベとか読んだことあるもん、漫画とか読んだもん。
アイリはお茶を飲みながら「まぁそういうことだ」ともはや説明をすることなく省略してしまった、でもその一言で大体のことが解決してしまっているのだから仕方がない。
依然としてフランさんは再起動せず、俺が体をゆすったところでようやくスリープモードから解除された。
「すまんアスカ! どこまで話進んだ!」
「エトランゼにも色々人種やら派閥はいます」
「お、おう?」
「襲ってきたからと言って俺たちに恨みがあったりするわけじゃありませんし、言うなれば傭兵みたいなもんです。襲ったのは仕事の一環みたいなものだと思ってください」
「……おう」
「要はそういうことです」
「どういうこと!?」
「考えるんじゃなくて察してください、この先の展開に付いていけませんよ」
「え? え?」
うん、混乱するだろうな、そりゃそうだよ何一つ具体的なこと言ってないんだもの。
フランさんはとうとう考えることを放棄してしまい、立ち上がったと思ったら明後日の方向を向いて「もう好きにしろ……」と嘆くように言った。
そんなわけで誰も何も具体的で分かりやすく説明らしい説明をすることもなく条件付きでということでアイリはフラン宅に住まうこととなった。
その条件とは、まず一つ目に自分の生活費は自分で稼ぐこと・決して危害を加えないこと・揉め事を起こさないこと・そして異邦人についての情報を提供すること。
アイリはその全ての条件を快諾し、空き部屋を自室として使うことにした。
こうして俺とフランさんの他にアイリが住まうこととなった。
ただしばらくはフランさんがアイリとすれ違うたびに不穏な空気が流れてちょっとだけギスギスしてしまうことになったのだが、それはまた別の話。




