第二十三話 一撃必殺
「ふんふんふーん」
「機嫌良いじゃん、どうかしたの?」
「え、あぁうん、ちょっとね」
「ふーん?」
フランさんとの信頼関係が一層深まってからというもの俺は自分でも自覚できるくらいに上機嫌だった。
知り合いに会えば必ずその機嫌の良さを問われた。
しかし、同居している異性の冒険者との仲が深まったから機嫌がいいなんてこと恥ずかしくて言えるはずもなく俺はその理由を濁していた。
「おはようございます二人とも」
「おはようエレインさん」
「おーっす。聞いてよエレイン、今日のアスカなんか機嫌良いさ」
「あらあら? フラン先輩と何かあったんですか?」
「………言いたくないな」
俺は若干恥ずかしがってそう言った、そうしたらレーゼとエレインさんはにやにやと笑い始めた。
そしてそれを救済してくれるかのように先生が教室に入ってきて席に着くようにクラスメイトたちに言った。
「おらー席につけー。今日は一日課外授業だ、全員冒険者ギルドへ行くぞー!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!?」」」」
「えっ、なに!?」
先生が言ったその一声で俺以外のクラスメイトたちのテンションが急に上昇して俺は驚きを隠せなかった。
よく状況が飲み込めないままこちらもテンションが若干高めの先生がクラスメイトたちを引き連れて教室を出て行ってしまったため俺もとりあえずついて行った。
俺たちは学校から出てグラウンドに一度集合すると先生は俺を呼んでみんなの前に立たせた。
「あー……知ってるかもしれないがこの前、ミナセはAランクに昇格した。まずはおめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「つーわけで、ミナセはこんなかの奴らとパーティー組むの禁止な!」
「…………はぁ」
なんだ、何を言われるのかといえばその程度のことか、それなら別に支障はない。
先生も俺の反応が薄かったのを見て「あれ?」と言っていたがすぐさま「まぁいいや」と言ってそのまんまにしてしまった。
「そんじゃぁ気を取り直して各自出発。死ぬなよー」
それだけ言うと後はきっと俺たち任せなのだろう、クラスメイトたちやレーゼにエレインさんは冒険者ギルドへと一目散に向かっていった。
「どしたミナセ。早く行け」
「あ、はい」
「……ぁあ、そうか知らねぇもんなお前。アカデミーじゃたまにこういうことあんのよ、時間はいつもの授業一杯、昼飯とかは各自でやってくれ」
「……なる、ほど。分かりました」
俺はなんとなくこの課外授業のやり方を理解して能力を発動させてクラスメイトたちの後に続いて冒険者ギルドへと向かった。
途中、クラスメイトたちを何回かごぼう抜きにしてしまったがそこはご愛嬌ということで一つ。
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「さてさて……どれにしようかなーっと」
俺は依頼書を見てどれにしようか選んでいた。
やっぱり俺が一番乗りだったようでアカデミーの生徒たちは他には見えない。
そう言えば、と思い俺は受付の人にとあることを確認しに行った。
「あのすみません」
「はい。何か御用でしょうか!」
「特別任務っていうのはどうやって受けるんでしょうか? 先日ランクアップしたのであまり分かっていなくて」
「それでしたら、あちらの担当窓口の方でご案内いたしますのであちらの方にお聞きください」
「分かりました、ありがとうございます」
案内された方の受付に行き、特別任務の説明を俺は受けた。
緊急事態や指名の入った任務が該当するようで、今は俺が受けることのできる特別任務は何もなかった。
仕方なく俺は掲示板に張られている通常任務の方を眺めていると後ろから俺の名前を呼ぶこの異世界で一番聞き慣れた声が聞こえた。
「やっぱアスカだ」
「やっぱりフランさんでしたか。声で分かるものですね」
「だな! 課外授業か?」
「なんでわかったんですか………って、卒業生ですもんね」
「エレインとかはいないのか? それとも一人で早く来ちまったパターンか?」
「当たりです。それにAランクになったのでクラスメイトたちとは組めなくて。まぁ、それはそれでいいんですが」
「おっ、じゃあさ、あたしとやろうぜ! いいだろ?」
俺としては大歓迎だ。
でも残念ながら今日はパスをせざるを得ない。
何でかって? それはフランさんの後ろにいる人物を見てしまったからだ。
「俺としては大歓迎ですが、今回は別な人と組んであげてください」
「他の奴?」
「後ろに」
「後ろ?」
フランさんが後ろを向くよりも早く、フランさんの後ろにいた人物は両手でフランさんの目を覆った。
そして「わたくしは誰でしょうか!」と元気よく言い、その言葉でフランさんは「あぁ……なるほど」と何かを察したようだった。
「エレイーン、はやーい」
「だってフラン先輩を見つけたんですもの! 動きが早まらないわけないじゃないですかレーゼ!」
「はいはい。つーかアスカ早すぎ、気づいたら見えなくなってたんだけど」
「ごめんごめん。でも二人も結構早かったね」
「エレインに急かされちゃってさ………って、あぁこの人が件のフラン先輩ですか。初めまして、レーゼ・ミドラーシュです」
「あぁまぁ学校じゃ他学年とはあまり会わないからな。フラン・キャメロットだ、アスカとパーティー組んでる」
レーゼとフランさんの挨拶がを終わったところでエレインさんは自分たちとパーティーを組もうと申し出た。
フランさんは俺に気を使ってくれているのか言葉を渋りながらちらちらと俺の方を見てきた。
俺は「組んであげてください」とフランさんとエレインさんたちがパーティーを組むことを優先させた。
「悪いね、エレインが」
「気にしなくていいよ。俺も今日は羽目を外させてもらうからさ………」
「あっは……悪い顔してるねー」
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「……で、なんで場所同じにしたわけ?」
「個人的にアスカの戦闘見てみたくて、ほら、アダムとやったとこ見たけど魔物相手はあんまし見てないからさ」
「別にいいけど……」
俺は手に持っている依頼書の内容を確認しながら返事をした。
今回は「ワイバーン」と呼ばれる黒色の中型のドラゴンの討伐で、常に数匹程度の群れで行動しているらしい。
ドラゴンということもあって半ばテンションの上がっている俺だが、一度冷静になってガントレットでは火力がいささか心もとないのではないかと考えた。
そこで武器屋に行って色々と探していると、かつてダンジョンで見つけられて売りに出されてはいたものの買い手が見つからなかった武器があった。
その武器は一言でいえばパイルバンカー、大きさは俺の体の半分くらいはあるだろう。
値段もかなり安かったので即決購入してしまった、店主曰く「売れ残りだから」らしい。
「随分ごっついもの持ってると思ったら……」
「ほら、一撃で沈ませた方が良いじゃないですか。本当は範囲攻撃かなんかでやりたいんですけど……爆薬とかあるかな……」
「戦闘狂め。おら、目的のが来たぞ」
フランさんは半ば呆れながら俺の討伐対象であるワイバーンを見つけた。
俺は三人に一言「行ってきます」と言って天高くジャンプをした。
だが一回のジャンプでは流石にワイバーンたちのいる高度まで到達できなかったので俺は空中でもう一回ジャンプをした。
突如として現れた俺にワイバーンたちは驚いていた、そんな気がした。
生身の人間がたった二回の跳躍で来れる高さではないし、そもそもパイルバンカーのような重量級の代物を片手で持てるような人間もそうそういないだろう。
俺だって人間の動きをしていないことは分かっている。
でももう自分でもそんなこと気にしていたら仕方ないのだ、だってそもそものことを言ってしまえば異世界に転生される時点で人間卒業の合図に他ならないからだ。
「そぉらぁ!!」
だが俺もワイバーンもそんなつまらないことを考えている場合じゃない。
俺はワイバーンの正面へと位置取りしてパイルバンカーを構えた。
ワイバーンは口を大きく開けて魔法なのか何かは分からないが火球を吐き出した。
俺はそれを空中ジャンプで避けて彼我の距離を詰めた。
ワイバーンは俺が眼前に迫った時に火球を放った、俺はわざと能力を解除して急降下して火球を避け、ワイバーンの喉元にパイルバンカーを突きつけて射出した。
パイルバンカーからはとてつもない勢いで巨大な杭を撃ちだしてワイバーンの喉を貫いた。
ワイバーンはその一撃で絶命し、ぐらりと体勢を崩して空中から地に落ちた。
「よ………っと。うん、これいいな」
「……………えぇー」
「ん? なにレーゼ」
「規格外にもほどあるでしょ!!? 人間の動き一回もしてなかったよ!」
「そんなに驚くことじゃないだろ?」
「まぁアスカならな」
「アスカ君ならそうですわね」
「あぁ分かった!! この中で常識人私だけだ! みんな麻痺してる!!!」
一体何をそんなに叫んでいるのだろうかレーゼは。
いや………うん、言いたいことは分かるし仮に俺がレーゼの立場だったら同じようなことを叫んでいたことだろうと容易に想像できる。
でももうなんか……色々と手遅れな気がしているのだ。
「さて……では残りもやってきます」
「行ってらっしゃーい」
「………私頭痛くなってきた」
俺は先ほどと同じように二段ジャンプを駆使して空中を自由に移動して群れの残りのワイバーンたちをパイルバンカーで抉った。
たった数十分の出来事ではあったが数時間の間、俺はレーゼから何故か恐怖の目で見られたのは流石に落ち込む出来事だった。




