第二十一話 増援
ネット小説大賞様から感想頂きました!
「無事かい?」
「アダム……いいとこに来てくれた」
「フラン先輩! お怪我はありませんか!」
「あぁ、無事だ」
「援軍か………小癪な」
アイリは増援に来たアダムとエレインさんを見て顔をしかめた。
周りの異邦人たちはアダムたちの動向を伺いながら常に殺気を放っている。
「エトランゼ……実際に見るのは初めてですわね……」
「あーれーれー? 増えたー! ってことはいぃっぱい殺せるね……!」
「おっかないな。アスカ君、いけそうか?」
「あぁ」
俺たちが結託したのが分かったのだろう、異邦人の内の数人が一斉に、かつそれぞれ狙いを俺たち一人ひとりずらして襲い掛かってきた。
だがアダムとエレインさんは驚くこともなく冷静にぶつぶつと魔法の詠唱を始め、防御と攻撃を素早く切り替えたり同時に発動させたりして一切のダメージを追うことなくそして接近を許すことなく簡単に制圧してしまった。
こう見えても二人はアカデミーの中でもかなり上位の方に位置する戦闘能力を誇る二人である、仮に相手が得体のしれないやつらが相手でもそうそう負けはしない。
「………中々にやる。カルナ、行くぞ」
「あいさー!」
「フランさん、側を離れないでください」
「あぁ、すまん」
廃屋の上からいよいよ本命のアイリとカルナが降りてきた。
アイリは黒々とした生物のような太刀を持っており、カルナは明らかに拳銃の形をした武器を持っていた。
俺は無性に嫌な予感がしてフランさんを自分の側に置いていつでも守れるようにした。
「固まっている厄介だな……」
アイリはぼそりと呟いて地面に手をついて何やらブツブツと詠唱を始めた。
すると次の瞬間、地面が揺れてちょうど俺たちを二組に分断するように地面が壁のように盛り上がった。
俺はフランさんをぐいっと抱き寄せて回避運動を行った、そして顔を上げるとそこには数発の火炎弾があった。
「っ!」
俺は咄嗟にフランさんから手を離して火炎弾を弾いた。
前を見るとそこには左腕を前に出して手の平に魔方陣を展開させているアイリの姿だった。
アイリはまるで家畜を見るような冷ややかな目で俺とフランさんを見ていた。
「魔法を弾くか。面白い」
「……容赦ないな」
「アスカ、魔法の対処はあたしがやる。お前に魔法相手は不利だ」
「では、お願いします」
「作戦は決まったか? ならばさっさと片づけさせてもらう」
「……その前に、目的は何なんだ。こんなことをして何になるって――――」
俺がそこまで言ったところでアイリは「フッ………」と俺を嘲笑った。
左腕を下げ、刀をクルクルと回しながらアイリは答えた。
「お前………別の世界から来ただろ?」
「………! なんでそれを!」
「くはは………そうか、そうかそうかそうか!! これは面白い! これならば我らが主様もお喜びになられるっ!!」
「アスカ、逃げろ」
「えっ?」
「いいから早く!!」
「―――――――――!!!!」
俺がフランさんの言葉の意味を理解する前に、あり得ない速度でアイリが俺の眼前に迫っていた。
俺は頭が状況を理解するより早く本能的に逃げた。
心臓がバクバクと躍動し、もうすぐで口から出てしまうのではないかと思うほどに俺は焦っていた。
「いい動きをする……ますます興味が沸いた。そこな女」
「……あたしか?」
「お前は特別に見逃してやる! その代わりあいつとの戦いに割って入るな」
「ふざけるな……あたしはあいつのパートナーだ! 見捨てて一人で逃げるなんて出来るわけがない!」
「良いのか? お前もあいつも死ぬ可能性が高まるぞ?」
「どういうことだ……?」
「言わねばわからぬか? お前ではあいつの足手まといになるだろうということだ!」
俺の方までアイリの気高い声は聞こえていた。
そして俺はそれに腹が立ってしょうがなかった。
フランさんが俺の足手まとい………? 舐めたことを言ってんじゃねぇぞ。
俺はあまりに腹が立って思わず速攻を仕掛けた。
それが結果的に火に油を注ぐことになってしまい、俺とアイリは常人ではまず捕らえられないであろう速度での白兵戦を繰り広げた。
アイリの刀と俺のガントレットがぶつかり合うたびに火花が飛び散り、同時に金属音が耳を劈くように鳴り渡った。
やがて拮抗状態になり、刀が俺の頬を掠った。
いつ何が起こるか油断のならないこの状況下で俺は何を思ったのかアイリに同じことをもう一度尋ねた、何が目的なのだと。
アイリはそれを聞いて愉快そうに笑った。
「教えてやる。私たちの目的は、主様の復活だ」
「主様………?」
「そうだ! かつて二つの世界を支配した偉大なる我らが母の復活、そのためにはかつて母を裏切って長き眠りの淵に閉じ込めた裏切者である父の世界の贄が必要なのだ」
「その主様やら父やらのことはよく分からんが、とりあえずイカレてるってことだけは分かった。もう一つ問う、なぜ俺が異世界人だと気づいた?」
「目だ」
「……は?」
アイリの力が強まり、俺はアイリの手を振りほどいて距離を取った。
なおもアイリは律儀に俺の出した質問の答えを言ってくれた。
「私の目は魔力の流れを見る。お前には魔力が根本から存在しない、魔力とはすなわち生命そのもの、それがない状態で生きているお前はこの世界の住人ではない」
「なるほど……」
「答えも明かしたのだ……さぁ、再び刃と拳を交わえようではないか――――――」
アイリの殺気と迫力が今までで最高に達した時、空が暗くなった。
戦闘中によそ見をするべきではない……だが俺は感じ取ってしまったのだ。
空中から降り注ぐ威圧を。
「なっ……………なんだ…………」
「……時間か」
空は竜に乗ったおびただしい数の異邦人に埋め尽くされていた。
俺は上を向いたまま口を開けて呆然と立ち尽くしていた。
数秒後に気付いたが、その時俺の足は震えていた。
そのうちの一匹と一人がこちらへと迷いなく向かってきてアイリの後ろで竜は羽を羽ばたかせて一定の高度を保っていた。
アイリはその竜の背に高く跳躍して飛び乗った。
「お前とはもう少し戦いたかったがそれは次回に持ち越すことにしよう! また会おう、異世界人!」
その後、アイリとカルナを含めた異邦人の残党を回収した後に謎の増援は巨大な空間の狭間を通って始めからそこにいなかったかのように消え去った。
異邦人たちが消えた後には静寂と廃墟と化した街の凄惨な光景が残った。




