第二十話 狩人
異邦人と呼ばれた存在との遭遇から早一カ月が過ぎた。
俺とフランさんは今日も二人で魔物討伐に精を出して、俺の顔もそれなりに他の冒険者の人たちに覚えられるようになってきた。
そんな時、俺はついに赤色のドッグタグ、つまりAランクの冒険者へとランクアップすることが出来た。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「A以上の冒険者の方には街から要請される特別任務への参加権利が与えられますので、是非参加してください」
「はい、頭に入れておきます」
俺は周りの冒険者の人たちにも拍手で祝福されながら赤色のドッグタグを首にかけられた。
フランさんは俺をきつく抱きしめて誰よりも祝ってくれていた。
祝ってくれていたのは嬉しいのだが、いかんせん観衆に見られていると考えると恥ずかしいものがある。
「早速ですが、現在街が要請している任務はこちらになります。ご覧になられますか?」
「あ、では折角なので――――」
と、冒険者ギルドの中が平和ムードの時にそれは起こった。
どこからともなく爆発音に近い轟音が聞こえ、耳を澄ませると悲鳴のようなものも聞こえた。
するとギルドの受付嬢さんの一人が奥から慌てて走ってきた。
「た、大変です! 異邦人たちが襲撃してきました!」
「そんなっ! いくらなんでも周期が早すぎる!!」
周期………?
一体何のことかさっぱりわからなかった、しかし隣のフランさんの苦虫を噛み潰したような表情を見ればよほどのことだと伺えた。
周りの冒険者の人たちもみんな武器を持って覚悟決めてるし、この中で唯一状況把握が出来ていないのは確実に俺だけだろう。
「フランさん、これは一体?」
「前に会った、異邦人いただろ。あいつらが攻めてきた」
「何者なんですか、そいつらは」
「……誰も正体を知らねぇ」
「は?」
「どこからかゲートを通してやってくるんだ。ゲートっつーのは、まぁあれだ、空間同士を繋げる大魔法だ」
「目的は――――」
「そんなもんあいつらに聞かねぇと分かんない。あたしたちも行くぞ」
「は、はい!」
フランさんと共に俺はギルドの外へと出た。
逃げ惑う人が大勢いたがどうやらここまではまだ被害が出てないらしく荒れた痕跡などは全くない。
しかしここから数kmのところを見ると煙が黙々と上がり家屋が燃え上がっていた。
「フランさん、飛ばしますので掴まっててください!」
「任せた!」
俺はフランさんを背中に乗せて「ノーネーム」を起動させて一気にその地点へと急いだ。
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「なんだ、これ………」
「こりゃまた、酷いな」
現場の凄惨さに俺とフランさんは固まった。
街はほとんど原形をとどめておらず、かろうじて残っている建物からは焼け焦げた人型の何かが赤黒い液体を垂らしていた。
道端にも大量の血痕が飛び散っており、集団で殺されたのであろう肉塊がそこら中にあり、そのどれもが狂気を体現しているかのようなグロテスクなものだった。
体の中から食堂を通って口からはいずり出ようとする吐き気を何とか堪えて地獄絵図と化したその場所を辺りを警戒しながら俺とフランさんは進んでいった。
まだ悲鳴が聞こえる、ということはまだ数人の生き残りがいるということなのだがすぐに断末魔へと切り替わってしまっていた。
そんな時、背後に寒気を感じ、咄嗟に振り返ると褐色肌の男性が血液がびっしりついた槍を持って目を見開いてこちらへと突っ込んできていた。
「ヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「っ……!」
俺は少しだけ奇声を上げる男に向かって加速し、急ブレーキをかけて方向転換して背後に回り込み男の後頭部を力いっぱい殴った。
男の頭は潰れたトマトのように脳髄を撒き散らしながらはじけ飛んだ、が俺はその前に後方へと離脱していたためどこにもかからなかった。
気づいてから僅か一秒程度の出来事にフランさんは当たりをキョロキョロとみて何が起こったのか分からない様子だったが転がっている頭のない褐色の死体を見て事の経緯を把握した。
「………フランさん、一つ俺の考えを言っていいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「多分俺の考え、というか勘が合っていれば――――――」
俺にはずっと気がかりだったことがあった。
この戦場に入ってから、常にどこかからの視線を感じ取ってはいたものの何の手出しもしてこなかった。
それが先ほどの男が殺されてからというものその視線の数が増え、別のものも浴びるようになった。
辺りを見ると、廃屋の上には褐色肌の狩人たちが十数人、いや、それ以上立っていて俺とフランさんを取り囲むようにして見ていた。
「――――――どうやら、俺たちは狩場に迷い込んでしまったみたいです」
「みたいだな………どうする、これ」
「あれあれれー! あの人たち見たことあるー!」
「……!」
どこかで聞いた甲高くて子供っぽい声のする方向へ目線をずらすと一か月前、森であったあの背の低い異邦人の人が立っていた。
顔には返り血を拭ったような跡があり、前に一度見た時よりも狂気じみていた。
そしてその傍にはあの時一緒にいた長身の方もいた。
恐らく、仮にここから逃げられたとしても二人に顔を覚えられてしまっている俺とフランさんはまた別の機会に真っ先に狙われるだろう。
だが逃げるっつってもフランさんを庇いながらだと反撃がしずらい……何かいいもの案はないものか。
「久しいな。人の子」
「………いつぞやの」
「私はアイリ、こっちはカルナ」
「……あたしはフラン、こいつはアスカ。どうだ? こっからあたしたちを見逃してはくれねぇか?」
「残念だがそれは無理だ。私たちは狩人、一度見つけた獲物は死ぬまで逃がさない」
「………だそうだ、どうするアスカ」
「そうですねぇこの数ですし…………………逃げますよフランさん!」
「よし来た!」
俺はフランさんの手を強引に引っ張ってこの場からすぐさま逃げ去ろうとした。
だが逃げる先々に異邦人がおり、どこへ行っても回り込まれてしまっていた。
ただ回り込まれるだけならまだしも矢を放ってくるため強引に強行突破するにもダメージを食らってしまう。
「無駄無駄~!! どこへ行っても無駄じゃーん!!」
「……んの野郎腹立つなぁ」
俺がカルナの特徴的な話し方にいらだっている内に、異邦人たちはじわじわと距離を詰めていく。
もう観念して戦うしかないのか……せめてフランさんだけでも逃がさないと……。
俺がそう思った時、彼方から大量の魔法が俺たちと異邦人とを別つように降り注いだ。
「くっ………何者だ!」
アイリがそう言うと俺とフランさんの後ろから異邦人を蹴散らして二人の人物が現れた。
そのうちの一人は銀髪に碧眼の少女、もう一人は黒髪に赤い目のイケメン。
見覚えしかないその二人は異邦人たちに向かってこう言った。
「通りすがりの」
「援軍、ですわ!」
エレインさんとアダムが援軍に来てくれた。




