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脳筋戦法で異世界蹂躙!  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:アカデミーにて
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第十七話 ボディーランゲージ

 トーナメントバトル一回戦。

 その初戦から会場は沸いていた。

 魔法を繰り出しそれを防ぎ、ありとあらゆる作戦を駆使してタイマンバトルをするというシンプルながら奥深いこのバトルに、誰もが釘付けになっていた。



 四回戦までが終わり、いよいよ出番の回ってきた俺たちは衆人環視の中コロシアムに立っていた。

 目の前にはこのアカデミーで無敵と言われるアダムとその仲間の男子が二人左右に立っていた。



 「まさか当たるとは思っていなかったけど、これも何かの運命かもねアスカ君」

 「……かもね」

 


 俺とアダムが軽く話したところで、スタッフが改めて試合の流れを確認した。

 各チームから三人を選出するが、実際に戦うのは一人ずつ。

 先に二勝した方が勝ちというものだ。



 「では、両者順番を決めてください。制限時間は一分です」



 俺たち三人は顔を示し合って、最初は誰が行くのかを考えた。

 やはり重要となってくるのはアダムの順番がいつになるか。

 俺たちは各々何番で出てくるかと予想したが、それを掻き消すようにアダムがこちらへ叫んだ。



 「アスカ君! 俺は初戦から出るぞ!」

 「……」



 正直、信じていいのかは分からなかった。

 だがここは、三人ともアダムの言葉に乗っかることにした。

 仮にアダムが本当に初戦から出るのなら、次は誰が戦うのか。



 「アスカだな」

 「アスカ君以外あり得ませんわね」

 「まぁ、さっき自分からそう言ったしな」

 「んじゃ次は私行く」

 「では最後はわたくしですわね、了解しましたわ!」



 両チーム順番が決まり、いよいよ試合が始まろうとしていた。

 俺とアダムが前に出て、他のメンバーが後ろに下がると会場の熱気がさらに高まった。

 アナウンスからは『もうアダムが出るのかぁ!』とか、『果たして無銘の転校生アスカ・ミナセは――――』みたいな文章が流れていた。



 「では、両者見合って、力を抜いてください」



 俺たちは適度に距離を取り、全身をリラックスさせた。

 そして時間にして五秒ほど、体感にして一分ほどの時間が流れた後に、開始の合図が告げられた。



 「始め!!」

 「アイシクルバレット!」

 「っ!」



 刹那、アダムの前面にいくつかの魔方陣が展開して、そこから先の尖ったサッカーボールほどの大きさの氷の礫が俺目がけて発射された。

 幸いにも避けられない速度ではなく、俺は「ノーネーム」を発動させて回避しガントレットをはめた両手に力を込めた。



 「はぁ!」



 俺はアダム目がけて走り、一秒も立たずに眼前に立った。

 そして一発拳を振りぬいたが直前で障壁に阻まれた。

 見たことがある……確かそう、あれだ、防御魔法とか言うやつだ。



 「……っと! あっぶな!」

 「やっぱり早いね、躱されたか」



 俺の攻撃が防がれたのと同時にアダムが魔法を放って俺を攻撃したが間一髪躱し、いなすことが出来た。

 俺は一度、アダムとの間合いを取ろうと思ったがどうやらそうさせてくれないようで、アダムは魔法で炎を纏った剣を作成して襲い掛かってきた。



 速い攻撃、しかも魔法を放ったり防御魔法を展開しながらの攻撃。

 なるほど、一個対処しようと思えば他の魔法にやられる……ということか。

 だったら話は早いな。


 どうするかって?

 そりゃ決まっているだろう。



 「つまり全部よけりゃいいってことだなぁ!」

 「……何……だと」



 アダムが驚きの声を漏らした。

 そりゃそうだ、まさか防御魔法すら使わないで全部躱されるんだもんな。

 誰だって驚く、俺だって驚く。

 そしてさっきの防御魔法の感触……破れないほどじゃない。



 俺はアダムの背後を取り、拳を握った。



 「そこっ!!」



 アダムは背後の気配に気づいたようで雷の弾をバチバチと唸らせながら数発放った。

 だがそこに俺はいない。

 俺はそれを見越して、さらに先回りした。

 後ろの正面だーれだ、というやつだ。



 「ぅらあああ!!!」

 「ごっ……!!」



 俺は全身全霊のボディーブローをアダム目がけてかました。

 勿論防御魔法に阻まれたが、残念なことに防御魔法の障壁はガラスのように砕け散り、アダムの腹部に拳が入る感触を俺は確かに感じた。

 


 アダムは綺麗に整った顔をこれでもかと苦痛で歪めて、一直線に壁まで飛んでいき激突した。

 沈黙が流れ、俺が審判の人に判定を促すと審判は俺の名を勝者として宣言した。



 「お………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 その瞬間会場から割れんばかりの歓声が響き渡り、俺は思わず耳を塞いだ。

 そしてエレインさんとレーゼが後ろから抱き着いてきて、俺は思わず情けない声を出してしまった。



 「アスカ!」

 「アスカ君!」

 「うわわっ!」

 「お前よくやったな!」

 「流石ですわ!」

 「あ、ありがと……」



 うわ、なんか二人とも女の子の匂いがする……じゃなくって!!

 とりあえず、一勝出来てよかった。

 俺は後ろに下がって体を休め、次のレーゼの試合を見守った。



 結果から言うと見守る必要もなく圧勝してくれて次のエレインさんが出る間もなく俺たちの勝利が決定した。

 実際のところ、俺が負けたとしてもきっと二人が勝ってくれただろうが、試合が早く終わるのに越したことはない。

 俺たちは慣性の熱気が冷めやらぬ状況のままコロシアムを後にして次の順番まで暇を持て余した。



 その間に、俺は色々な生徒に話しかけられ質問攻めにあったりしたがレーゼとエレインさんが助け舟を出してくれて事なきを得た。

 それから俺たち三人は次々に相手チームを倒していき、決勝戦まで勝ち上がった。

 だが惜しくも二対一で相手チームの勝利となり俺たちのチームは準優勝という結果となったが、精一杯やったのだから後悔は別にない。



△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△



 『えー、では選手の皆さんは準備が出来たところから移動していってくださーい!』



 トーナメントバトル終了後、学校の行事ごとの打ち上げよろしく「お疲れ様会」みたいなものが開かれるということで選手たちは学校内に設けられているパーティー会場へと次々に移動していった。

 俺自身、あまりこういう打ち上げ的なものは苦手なため遠慮しておこうかと思ったがレーゼとエレインさんの二人に促されて気づけばパーティー会場にいた。



 「しかしまぁ………なんというか、学校にこんなシャンデリアのある場所があるってどうなんだ?」

 「アカデミーだからな」

 「なにそれすっごい適当」

 「実際どこもこんな感じですわよ」

 「へえ~……」



 俺は学校内に設けられているとは思えない立派なつくりのパーティー会場に目を奪われていた。

 そうしているうちに次々に生徒たちに飲み物の入ったグラスが手渡されてきた。

 飲み物が全員に配られると司会のような人が壇上に上がってパーティー開始の合図をし、それからみんな飲み物を飲んだり食事をしたりしていた。



 「アスカ君」

 「……アダム」

 


 俺も場の雰囲気にあやかって食事を楽しんでいるとアダムが話しかけてきた。

 今度は男ではなく数人の女子と一緒だった。



 「お疲れ様、惜しかったね優勝」

 「ありがとう。そう言えば殴ったところ大丈夫か?」

 「あぁ、今はもう大丈夫。直後は呼吸できなかったけど」

 「それはその……すまない」

 「いやいいんだ。気にしないでくれ」



 笑いながらそう言うアダムは辺りをキョロキョロ見た後、ちょっと話をしないかとアダムは俺をバルコニーに誘った。

 会場の騒がしさから離れ、涼しい風に吹かれて俺は少し心地よかった。

 アダムはグラスの飲み物を一口飲むと話を始めた。



 「……君があの時僕を倒したあれはアビリティの類かい?」

 「そうだけど……あ、もしかして使ったらダメだった!?」

 「そういうわけじゃないよ、大丈夫だ。そうか………アビリティか。君の噂は聞いてたよ、何でも捕らえられないスピードで縦横無尽に駆け回り、素手で魔法を打ち落とす奴だってね」



 そんなふうに言われてたのか俺は。

 いやまぁ実際やってることはその通りなのだが、なんというか尾ひれがつきそうで怖い。

 あと素手で魔法を打ち落とすってよくよく聞くと中々に頭悪いことしてるな俺……。



 「その包帯を見るにかなり無茶してるんじゃないのかい?」

 「別に、そうでもないよ」

 「………アスカ君、一つ聞いてもいい?」

 「なに?」

 「君は何のためにそうまでして戦うんだ?」



 何のため……何のためと言われると案外難しい。

 でも答えるとしたらこうだろうか。



 「これしか俺の価値がないから、かな」

 「価値?」

 「自分でも何て言ったら分からないけどね」

 「そう……。あ、そうだ、冒険者家業もやってるんだって? しかもパーティーも組んで同棲してるとか」

 「どっから聞いたの、それ」

 「エレインから」

 「あぁ、なるほど」



 あんにゃろう勝手に喋りおって。

 俺はそんなことを考えながら飲み物を一口飲んだ。

 炭酸のシュワシュワ感が口の中に広がり喉を潤した。



 「羨ましいね。しかも女性だってね、おめでとう」

 「なんだよおめでとうって。でも今はその人の家に居候状態だから迷惑かけっぱなしなんだけど」

 「……? でもアスカ君もパーティー組んでる人も現役なんだろ? 居候って言ったってアスカ君もそれなりに稼いでるんじゃないのか?」

 「それなりにね。生活費とか食費とかも自分の分とかは十分……」

 「ならそれは居候じゃないんじゃないのかい? 本当にただの同居じゃあ……?」

 「それは……」



 それは、まぁ、そうかもしれない。

 でもあの人にはお金で返せないくらいに迷惑をかけているんだと俺は思う。

 あぁそうだ、そろそろ家も探さないと。

 いつまでもフランさんの家に厄介になるわけにもいかないしな。



 「まぁそれはいいさ、僕がどうこういうような話じゃない」

 「……じゃあ、何か本題があるのか?」

 「あるとも」

 「なに?」



 アダムは俺の方を真剣な顔つきで見てきた。

 俺は何を話されるんだろうと内心ドキドキしていた。

 そしてアダムはこう言った。



 「アスカ君、その戦い方だと近いうちに死ぬぞ」と。

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