第十六話 トーナメントバトル
その日アカデミーは、学校祭と争うくらいに熱気と殺気が入り混じり盛り上がっていた。
アカデミートーナメントバトル、現在コロシアムにはその参加者たちが集い、客席にはその戦いを見届けるために集まった生徒たちや一般人たちが歓声を上げていた。
俺とレーゼとエレインさんは参加者として現在コロシアムの中でチームごとに固まって並び、トーナメントの組を決めるための順番待ちで若干暇をしていた。
そんな時、一人の男子生徒が見るからに力も気も弱そうな男子生徒を三人ほど連れて俺たちのところへやって来た。
「やぁ。アスカ・ミナセ君だよね?」
「そうだけど………えっと、誰?」
「あぁそう言えばついこの間来たばっかりだもんね。自己紹介が遅れた、僕の名前はアダム・クラレリアだ、よろしく」
アダムと名乗ったイケメンフェイスの男子生徒は俺に手を差し出して握手を求めた、俺は戸惑いながらも右手を差し出して握手を交わした。
「ねぇ見て! やっぱりアダム様よ!」
「本当だ!! 握手してるのってぇ、最近転校してきた人でしょ!?」
「初対面の人にも優しくするアダム様…………素敵!!!」
俺とアダムが握手を交わした途端、周りの参加者たちや観客から、正確にはそのうちの女子生徒たちが黄色い声を上げ始めたのだ。
なんだなんだと困惑する俺をよそにナレーターが気合の入ったアナウンスを始めた。
『おおっとやっぱりこの男も参戦しているのかぁ!! アカデミーきっての天才、もはや敵無し、アダム・クラレリアがいるぞぉぉ!!』
その瞬間コロシアム中から雄叫びに近い歓声が沸き上がり俺は思わず耳を塞いでしまった。
エレインさんはちょいちょいと俺を手招きして耳元でコソコソと情報を教えてくれた。
どうやらアダムは所謂天才肌らしくとてつもない強さを誇っているこのアカデミーきっての戦士らしいのだ。
「おまけにイケメンだから女子人気もある……と」
「そんなところですわ。任期はともかくとして、彼の強さは本物です」
「……当たることになったら、覚悟はしないといけないね」
俺よりはるかに長くこのアカデミーにいるレーゼとエレインさんの二人に言わせれば勝利像をあまりイメージできないらしい。
俺はふーんと相槌を打ってアダムをちらりと見るともうどこかへ行ってしまい、その周りの男子生徒たちはとても居心地悪そうにしていた。
きっと彼らはアダムの引き立て役なのだろう、単騎でも十分な強さならわざわざチームを組む必要もあんな弱そうな人たちを侍らせる理由もないのだから。
「アスカ・ミナセさん、レーゼ・ミドラーシュさん、エレイン・フェネルケアさーん! どこにおられますかー?」
と、そんな時トーナメントの順番を決めるためにやって来たスタッフの生徒が俺たちの名前を呼び、俺たちはその生徒の元へ行って順番を決めた。
順番を決めたと言ってもくじ引きのように数字を決めるだけで、後でそれを全員分集計し本部の方でランダムにどこに配置するかを決めてトーナメントにするため、この番号自体に特に意味はない。
全チームが順番を決め終わると、スタッフは一度姿を消し、数分後再び全チームの前に戻りそれからアナウンスが掛かった。
『さぁ……いよいよ順番が決まったぞぉ!! トーナメントは………これだぁ!!!』
その合図でスタッフは魔法か何かで、空中にトーナメント表を作り出した。
それを見て観客や参加者たちは一喜一憂し、コロシアムがより一層ざわめいた。
ふと隣を見ると、レーゼとエレインさんは何処か難しい顔をしていた。
「どうしたの二人とも……」
「いやだって……初手……」
「初手……?」
俺はトーナメント表を荒めて確認した。
すると、俺たちのチームの隣に先ほど話しかけてきたアダムのチーム名があったのだ。
「……あー」
「分かりました……?」
「しかも初戦からアダムと当たるとか……」
「……まぁ、何とかなるんじゃないですか?」
「楽観的ですわぇ!?」
隣でやんややんやと騒ぎ立てるエレインさんの気持ちも分からなくはない。
でもなんだか、今の状態なら倒せない相手ではないような気がしている。
それからコロシアムではルール説明がされた。
チームの中からそれぞれ三人選出して戦い、先に二勝した方が勝ちというシンプルなルール。
俺たちの出番は四チームが戦った後のため、控室で作戦を練って順番を決めていた。
「どうします」
「問題は誰があのアダムと当たるかだな……」
「………じゃあ、行っていいですか?」
俺がそう言うと二人は目を丸くして俺の方を見て、それからお互いに見つめ合うと無言で首を縦に振った。
その一連の行動は何なのかと俺が問うと二人は「いや? なんでも?」とどこか感情と抑揚が失せた感じで言っていた。
「参考までにアダムがどんな戦い方をするのか教えてほしいんですけど……」
「そうですわね……基本的には魔法主体の戦い方ですわ」
「中距離から近距離だったかな? 普通に剣も使ってきたはず」
「なるほど」
それから小一時間ほど経った頃、ようやく俺たちの出番が来たようで俺たちは再びコロシアムの中へと足を踏み入れていった。