第十三話 いざ、アカデミーへ
アカデミーに通うという約束を交わしてから二日後。
俺は数週間ぶりに、この世界に落ちてきた時に着ていた学生服に袖を通した。
制服のボタンを留めて、下を履き、ネクタイを締める。
「おはようアスカ」
「おはようございますフランさん」
「……お前のその姿見るの久しぶりだな、なんか」
「しばらく着てませんでしたからね」
フランさんは俺の学生服姿を見ながら「ふーん……」とニヤニヤしている。
俺はそれが気になりどうしたのかと尋ねると初めて会った時のことを思い出していたとかなんとか。
最近ようやく分かってきたことだが、フランさんは結構思い出を大事にする人のようだ。
「にしてもどうしたんだ急に。アカデミーは服装自由だぞ?」
「学校に行くときは、この格好じゃないと落ち着かなくて」
「元いた世界の服だよな?」
「はい。学校に通う時の制服です」
「あぁ、なるほど」
そんなやりとりを朝から交わして、俺とフランさんは朝食を食べ朝の支度をした。
アカデミーの場所は昨日の内にフランさんに教えてもらったので自力でいけるし、能力を使えばたとえ道に迷ったとしてもカバーが出来る。
この世界の時間の概念は元いた世界と同じなためその辺りで苦労することもない。
登校時間まではまだ時間に余裕があるものの、今日から俺は転入生という名目でアカデミーに通うため初日はちょっとだけ早くいかなければならない、具体的には一時間ほど早く。
「それじゃ、行ってきます」
「あぁ、頑張って来いよ!」
そして俺は、アカデミーへと歩を進めた。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
「はよーエレイン」
「あらレーゼ。今日はお早いのですね」
「なーんか早くに目ぇ覚めちゃってさー、やることないから来た」
「たまにいいと思いますわよ」
エレインはまだ人の少ない教室でレーゼという生徒と話をしていた。
まだ登校時間よりも早い時間、それからして続々と生徒たちが教室にやって来て教室は騒がしくなってくる。
そしてホームルームのチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってくるとそれまで騒がしかった生徒も途端に静かになった。
「えー……今日は皆さんに一つお知らせがあります。今日から皆さんの仲間が増えます」
教室中がその言葉にざわつき、一体どんな奴が来るんだろうかと皆思い思いに想像を膨らませていた。
ただそんな中で唯一エレインだけは誰が来るか確信に近い予想が出来ていた、十中八九あの人だろうと。
しかしそんなエレインでも予想できていないことが一つだけあった、それは――――
「あ、やばい、なんか腹痛くなってきた。やばいやばい、あぁこれなんかダメっぽい、自己紹介とかいまさら何言えばいいっていうのこれ………あの天使こういうときに助けてはくれないものか………」
――――飛鳥が教室の前でゲロ吐きそうなほど緊張していることに。
△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△
「んじゃ入ってこい」
俺はその言葉に従い、覚悟を決めて教室のドアを開けて中に入った。
教室に入ると三十人くらいの生徒たちが一斉に俺の方を見て注目している、その中にはエレインさんも含まれており俺を見るとばれないように小さく手を振ってくれた。
「それじゃあ自己紹介お願い」
「は、はい。あ、アスカ・ミナセ、十八です。よろしくお願いします!」
「はいよろしく。えーっと………じゃあエレイン、しばらく面倒見てやれ」
「分かりました」
それから俺の席は一番後ろの窓際という中々良い席になって、授業が始まったのだがその日は一日見学ということになった。
少し授業をやってみたかったという気持ちもあったが授業の内容を見て、これはすぐには無理だと分かった。
授業が終わると昼食を挟んで今度は午後の授業という前の世界の学校と同じ構成、そして放課後になると俺はエレインさんに連れられて学校のことを色々と案内してもらうことになった。
「どうでしたか? 今日一日見てみて」
「何というか……凄いなと」
「まぁ最高学年ですから多少ハードなものも含まれますね。そう言えば結構話しかけられていたみたいですけど」
「あはは……なんででしょうね」
「学校祭でわたくしを秒殺したことはみんな知っていますから、興味本位ですよきっと」
エレインさんと会話をしながらひとしきり学校内を回ると、その日はそれで解散することになった。
あまり初日から色々と説明しても頭が一杯になってしまうだろうというだろうという配慮からのこと。
俺はエレインさんと別れて、フラン宅へと帰った。
「ただいま帰りました」
「おう、おかえり。どうだった?」
「まだよく分かりません、でもまぁ楽しいんじゃないかと、思います」
「そっか、良かったよかった!」
「ちょ、なんで頭撫でるんですか」
「いいじゃねぇか別によー!」
帰ってきて分かった、多分学校に居るよりフランさんの相手する方が疲れるかもしれない!
フランさんはいつになく上機嫌で出迎えてくれてその上頭を撫でられたが、全くもって嫌ではないのでこれはこれで良しとすることにした。
俺は制服から部屋着に着替えて自室で休息を取っているといつの間にか眠ってしまい、目が覚めるともう夕食時になっていたようでエプロン姿のフランさんが部屋まで来ていた。
「疲れたか?」
「………そうみたいです」
「飯出来てるから、早く来いよ」
俺は寝ぼけ眼を擦って欠伸をしながらリビングへと移動し、フランさんと一緒に夕食を食べた。
料理はフランさんがやってくれるから俺は食べ終わった後に食器を洗っている。
それからはまぁ普通に、風呂に入ったり自由時間だったり、そんな時間をゆっくり過ごした。
そして疲れからかいつもより早くに睡魔が襲ってきたため早めに寝ることにした。
「おやすみなさい」
「おやすみアスカ」
そう言って俺は自室に戻り、ベッドに体を預け、朝が来るのを待った。